《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》88 16歳のハーラルト 1

「フェリクス様?」

20歳にもなっていないであろう、目の前の年若い青年を見上げると、私は思わずそう呼びかけた。

けれど、そんなはずはない、とすぐに前言を打ち消す。

なぜなら私が10年間眠っていたため、フェリクス様は10歳年を取り、28歳になっていたからだ。

そして、年齢を重ね、より魅力的になったフェリクス様と何度も接したけれど、その姿は目の前の青年とは明らかに異なっていたからだ。

だから、その青年がフェリクス様であるはずはないのだけれど、なぜだか私は彼をフェリクス様だと誤認してしまったのだ。

それは、10年前の私が眠りにつく寸前に目にしたフェリクス様と、目の前の青年が同じ姿をしていたからだろう。

何が起こっているのか分からずに、ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、彼は澄んだ聲を出した。

「やあ、僕のお姫様」

その聲は、12年前の結婚式で耳にしたフェリクス様の聲そっくりだった。

そのため、やっぱり目の前の青年はフェリクス様なのではないかという気持ちが、再び込み上げてくる。

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狀況を理解できず、無言で彼を見上げていると―――彼の微笑みに違和を覚えた。

……違うわ。

フェリクス様はこんな風に笑わない。

フェリクス様はいつだって、楽しそうにしていてもどこかに悲しみを含んでいるのだから。

はっとして、改めて目の前の青年を見つめてみると、たくさんの違いが目にった。

まず髪が違う。

の虹髪であることは同じだけれど、フェリクス様は艶やかな藍の髪に、青と紫のメッシュが一筋ずつじっているのだ。

一方、目の前の青年は同じように藍ベースの髪ではあるけれど、メッシュのは緑と青だ。

それから、フェリクス様と違って目じりがし下がっている。

えっ、ということは……。

「もしかしてハーラルトなの?」

私は思い當たる名前を口にした。

私が知っているハーラルトは、舌足らずな口調で話をする6歳の可らしい子どもだった。

けれど、最後に會ってから10年が経過しているので、クリスタ同様に彼も長しているはずだ。

そして、目の前の青年は、ハーラルトが長したらこうなったであろうと思われる姿をしていた。

本當にハーラルトなのかしらと青年を凝視していると、果たして彼はにこりと微笑み、私の質問を肯定する。

「そうだよ、ルピアお義姉様。あなたのハーだよ」

ハーラルトが笑った瞬間、その場にぱっと溫かなが満ちたような覚を覚えた。

彼は笑みを浮かべたまま屈みこんできて、私をぎゅっと抱きしめる。

すると、彼と接近したことで、ハーラルトがまとっている甘い花のようなパルファンの香りがふわりと漂ってきた。

その香りを嗅いだことで、突然、私を抱きしめているのはちっちゃなハーラルトではないことを理解する。

い頃の彼はいつだって、太の匂いがしていたのに、今は甘やかなパルファンの香りがするのだから。

突然のことに戸っていると、カツカツと高い足音が聞こえてきて、誰かが私をハーラルトから引き離した。

「ハーラルト、久しぶりの姉弟再會の場面だとしても抱擁は不要だ!」

に抱きしめられて戸ったけれど、聞き慣れた聲が上から降ってきたため、誰の腕の中にいるのかを理解する。

驚いて見上げるのと、ハーラルトが呆れたようにため息をつくのが一緒だった。

「兄上は狹量だな。僕とルピアは家族なんだよ。抱きしめるくらいいいじゃないか」

「……名前ではなく、姉上とお呼びしなさい」

フェリクス様は目を眇めると、質な聲を出した。

ハーラルトはもう一度ため息をつくと、こてりと首を傾げ、甘えるように私を見つめてくる。

「僕はあなたを『お義姉様』と呼んだ方がいいのかな? あなたは僕に、小さいハーラルトのままでいてほしいの?」

ハーラルトは底意なく無邪気に尋ねているようだけれど、フェリクス様は彼の一言一言にピリピリしているようで、眉間の皺がどんどん深くなっていった。

何が原因かは分からないけれど、これ以上兄弟で爭ってほしくはなかったため、私はフェリクス様に同意するような答えを返す。

「もちろん、ハーラルトは大きくなったのだから、小さい子どもの役を求めようとは思わないわ。でも、私のことを姉と呼んでくれるのは、この世で2人しかいないから、そう呼んでもらえると嬉しいわ」

口にしたことは事実だった。

私のことを姉と呼んでくれるのは、世界中を探しても、クリスタとハーラルトしかいないのだ。

「……そうか、そうだよね。お義姉様と僕をつなぐ特別な絆を表しているから、お義姉様と呼ぶのが正解だね。何たって、『お姉様』ではなく、『義理のお姉様』だからね」

そう言うと、ハーラルトはにこりと笑った。

その笑顔は無邪気なものだったため、10年前の彼を彷彿とさせる。

嬉しくなった私は、親しみを込めてハーラルトに笑いかけた。

「ハーラルト、10年の間に驚くほど大きくなったのね。お義姉様と呼んでほしいと要したけれど、あなたの方が頭一つ分大きいのだから、実際に呼ばれるとくすぐったい思いだわ」

ハーラルトはフェリクス様と比べると、頭半分ほど背が低いけれど、私にとっては見上げるほどの背の高さだった。

私の言葉を聞いたハーラルトは、楽しそうな笑みを浮かべる。

「ルピアお義姉様、気付いている? 僕は16歳になったんだよ。フェリクス兄上があなたと結婚した時と同じ年齢だ」

「えっ、まあ、その通りだわ」

言われてみれば、ハーラルトの言う通りだった。

改めて長い年月が経過したことを実し、驚いて目を見張る。

そんな私に、ハーラルトは楽しそうに続けた。

「あなたは結婚した時と同じで、まだ17歳のままだよね。だから、……今の僕たちの年齢は、初めて出會った時の兄上とお義姉様の年齢と同じだね」

いつも読んでいただきありがとうございます!

また、想をたくさんありがとうございます。

読んでいて「なるほど」と思うものは、隨時修正させていただいています。ありがとうございます!

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よかったら覗いてみてください。

〇出版社H.P.「いルピアと過保護な家族」

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