《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第83話 リリィ、つかまえる

鬱蒼とした森の中。スライム発見隊隊長のリリィは、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。折角発見したブルースライムは、リリィを見るなり森の奧に逃げてしまったのだ。

「ぽよぽよ~、でておいで~?」

必死に呼びかけながら森の中を進むも果はない。それもそのはずで、スライムは基本的に友好的な魔ではないのだ。いくらリリィに敵意がなくても、食連鎖の最下層に位置するスライムにとってリリィは危険な相手に他ならない。事実、リリィはスライムを家に連れて帰ろうとしていた。

「でてこない……あ!」

リリィは切り株に腰を降ろし、ポケットをガサゴソと漁り始める。ポケットから出てきたのはカラフルなお菓子の包み。おやつに食べようと持ってきていたが(校則違反)、名案を思い付いたのだ。

「えっと、これをこーして…………」

リリィはそこかしこから落ち葉を集めると、その上にお菓子を置いた。そして、自らは木を隠す。名付けて「お菓子でおびき寄せ作戦」。

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(ぽよぽよ、おかしたべるかな? くまたんはたべるけど……)

ワクワクしながらお菓子を見つめるリリィ。ぽよぽよに出てきてしいし、出てきてしくない気もした。出てこなかったらお菓子を自分で食べられるから。ちょっとだけ待って出てこなかったら、拾って食べるつもりだった。ヴァイスが見たら慌てて止めそうだが、流石の過保護ヴァイスもここにはいない。

「…………あっ」

聲を出しそうになって、慌てて口を抑えるリリィ。リリィの視線の先では、ブルースライムがぴょこぴょことお菓子の近くを歩いていた。お菓子に気が付いて近付いている様子だった。

(わくわく……)

リリィは木のからひょこっと顔だけを出しながら、手足に力をこめる。ぽよぽよがお菓子に食いついた瞬間に飛び掛かるつもりだった。お菓子に夢中になっている時なら捕まえられるだろう、というのがリリィの思いついた作戦である。

(…………?)

スライムは初めて見るお菓子が気になるようで、ぴょこぴょこと周囲を跳ね歩く。ここでしばかりの警戒心があれば良かったのだが、生憎スライムは頭が悪すぎてペットにすら向かない悲しい魔。焼き菓子特有の濃厚なバターの匂いに釣られ、勢いよくお菓子にダイブした。

────その瞬間。

「とーっ!!!」

「!?」

突撃する青い稲妻。またの名をスライム発見隊隊長リリィ・フレンベルグ。スライムに倒れ込む形になったリリィのはぽよんと跳ね、スライムを巻き込みながら草原に転がった。

「つかまえたー!」

リリィの両手にはがっしりとスライムが抱えられていた。何が起きたか分からないスライムは驚きの表を浮かべている。

「あっ!」

リリィは地面に視線をやったかと思えば、さっと手をばす。そこにはスライムが食べ殘したお菓子が転がっていた。何の躊躇もなく拾い上げ、口に運ぶ。

「もぐもぐ…………」

お菓子を食べるリリィは満面の笑み。スライムを捕まえ、お菓子も食べられた。まさに二兎を得た形に大満足のリリィは、急いでエスメラルダの元に踵を返すのだった。

「せんせ〜! ぽよぽよつかまえた〜!」

リリィはエスメラルダの元に戻ってくると、腕の中のブルースライムを見せびらかすように差し出した。作戦がピタリと嵌って捕まえられたのでリリィはとってもいい気分だった。

「おお、凄いじゃないか」

言いながら、エスメラルダはスライムよりリリィがにまとっているローブが気になっていた。リリィのローブは何故か草まみれだったのだ。恐らく地面を転がったことが予想される。ちょっとやそっとで綻ぶように作った覚えはないが、それでも自作のローブの出來が気になる所だった。

(…………見た所大丈夫そうだね。流石にクリスタル・ドラゴンの素材を使ってるだけはある)

エスメラルダがホッと一息ついていると、周りには子供達が集まっていた。森の奧に行くのを怖がって先生の周りで遊んでいた生徒たちが、初めて見るスライムに吸い寄せられるようにリリィを取り囲んでいた。

「リリィちゃん、それなぁに?」

「ぽよぽよだよ!」

「ぽよぽよ?」

「ブルースライムさね。立派な魔だよ」

「まものっ!?」

エスメラルダの言葉にさっ、と距離を取る子供達。リリィは「なんで?」と言わんばかりに首を傾げる。

「人間より遙かに弱い魔だから大丈夫さね。っても問題ないよ。リリィちゃん、ちょっと貸してくれるかい」

エスメラルダはリリィからスライムをけ取ると、膝の上で優しくでる。すると、自分より遙かに大きな生に囲まれ涙目で怯えていたスライムは、途端に穏やかな表を浮かべ目を閉じた。しのことしか覚えられないスライムはこの一瞬で恐怖を忘れたのだ。

「りりーもなでるー!」

そっとスライムをでるリリィ。くまたんとよく遊んでいるので優しいり方は得意だった。スライムは気持ちよさそうにふにゃ、とらかくした。

「わ、わたしもなでてみよっかな……」

「おれもさわる!」

害がなさそうなスライムの様子に、おっかなびっくり近付く子供たち。小さな手がそっと青いれ、しだけに沈む。

「ひんやりしてるね」

「きもちいーかも」

「なんかかわいく見えてきたなー」

初めて魔れ合って思い思いの想を口にする子供たちに、エスメラルダは満足げに目を細めた。下級生の擔當になるなら、魔法を教えるだけではなくこういう経験をさせたかったのだ。

「リリィちゃん、ありがとねえ」

「?」

どうしてお禮を言われたのか分からないリリィは首を傾げる。先生の周りで遊んでいた組とリリィは暫くの間、まったりとした時間を過ごしたのだった。

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