《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》24
「擔がれること自……ですか?」
「そう。たとえば、クレイトスで何か調べたいとかですね。擔がれるということは、利用価値がある間はクレイトスでの安全なり権力なりが保障されます。私が擔がれた時點で、開戦も決まります。々起こるでしょう。混の最中であれば、きも隠せますし、あぶり出しもできる」
あ、とひらめいたことは、そのまま言葉になった。
「……ナターリエ殿下の事件を調べに……?」
一度目の人生で、ナターリエの生死はわからないまま終わった。クレイトスもラーヴェも互いに責任を押しつけ合うばかりだった。それに憤っていたのだとしたら――
「――ナターリエが、なんですって?」
「あっいえなんでもないです!」
ぶんぶん首を橫に振って、湯気があがらなくなった薬湯を飲む。マイナードはこちらを見ていたが、何も言わず別のカップに水筒から薬湯を注いで口をつけた。
(あぶないあぶない。でもこのひと、ナターリエ殿下のことお禮に言いにきたの、噓じゃなさそうだし……ひょっとして妹思いのいいお兄ちゃんなのか。うーん……だからって手段を選ばないのはどうかと……ライカだってめちゃくちゃになりかけたわけで……)
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「竜妃殿下は、未來でも視えるんですか?」
焦ってカップを落としかけた。
「そ、そそそんなことあるわけないでしょう!?」
「本気で言ってるわけではないですが……でも、不思議な方だ。いったい、どこまで何を気づかれているやら」
ふふ、と聲を立てる含み笑いは、いかにも何かたくらんでいる。でも、決して自分を信じるな疑え――と忠告されている気もする。
「余計なことまでしゃべってしまいそうです。話しやすいんでしょうね。アルノルトのこともそうです」
「……わたし、知らないですけど」
「だからですよ。お前が死ねばよかったのに、と私に考えもしないでしょう」
ぎょっとした。だがマイナードは涼しい顔だ。言われ慣れているのだろう。
「竜の花冠祭、初めてでらっしゃるんですよね。でも後ろ盾のないあなたは後宮に協力を仰げない。どうせ第一皇妃あたりが絶妙に邪魔をしてきてるんでしょう」
「なんでわかるんですか……」
「私は後宮生まれの後宮育ちですよ。どうですか、協力しませんか。後宮にうごめく謀を一緒に暴きましょう」
「それ、利用したいの言い換えですよね」
「ああ、どうして私はこう誤解されてしまうのか……」
大袈裟に天を仰いで嘆いてみせるからだ。
「じゃあ聞きますけど、なんで前皇帝の居場所を知りたいんですか?」
「久々に親子の語らいをしたくて……拳を握らないでください、冗談です」
「冗談じゃなくて噓ですよね、ただの。まさか前皇帝はクレイトスと、まだ何かつながりがあるんですか」
目を丸くしたあと、マイナードは心したようにつぶやいた。
「竜妃殿下は思ったより考えていらっしゃる……」
「馬鹿にしてますよね、完全に、わたしを! クレイトスの親善大使がクレイトスよりだった前皇帝に會いたいって、もう見るからにあやしいじゃないですか!」
「殘念、因果関係が逆です。前皇帝に會いたいから、親善大使を引きけたんですよ。クレイトスは前皇帝の存在など忘れていますよ。ですので、理由は個人的なことです。母との手紙のやり取りで、気になるところがあってね」
「手紙? やり取りがあったんですか。帝城を出たあとも?」
夜逃げしたと聞いていたから、ナターリエ含めてっきり沒渉だと思っていた。
「――ああ、おしゃべりはここまでです。きましたよ」
はっとジルは視線をローのほうに戻した。ローは既に絵本に飽きたのか、周囲の花を摘んで集めていた。その背後、ひゅっと消えたり出てきたりする妙な塊がある。匍匐前進で近づいてきているらしい。花畑に溶け込むよう、裝はもちろん髪ののを染めてきたようだった。
「そ、そこまでして近くで見たいものなんですか、ローが……」
「金目黒竜ですから。さて、準備はいいですか竜妃殿下。騎士様たちに合図を送りますよ」
「もちろん。あなたは?」
「愚問です」
白い手袋を付け直し、マイナードが笑う。
名も知らぬ老人が、籠の中に花をれたローの背中目がけて飛びかかった。まずはカミラが石つぶてでそのきを止め、すかさず飛び出したジークが、もう勢をととのえている老人に向かって小瓶を投げた。む、と老人が眉をひそめる。
「いったいなんの真似――」
小瓶が地面に落ちる直前、老人の脇をすり抜け、ジルはローを抱いてその場から離れた。
「うっきゅううう!」
待ってましたとばかりにローが抱きつく。嬉しそうだ。
老人は自分をつかまえず離れたジルたちを怪訝そうに見ていたが、そのときにはもう小瓶が地面に落ちて、音を立ててわれた。
ぶあっとその場に広がった匂いに、老人が顔を変える。
「しまっ……催涙……っ!」
外なので一瞬でその匂いは霧散するが、もろにあびればしばらくは目がつかえない。よろめいた老人のふきらはぎに、細い針が刺さった。がくり、と老人の膝から力が抜ける。
「薬は魔力とは違って気配がないですからね。竜妃殿下の魔力を警戒すると、こういう単純な手に引っかかりやすくなる……とあなたに説明するのは、野暮ですね」
「……っ、お前、ひょっとして、毒草小僧か……っ」
「おや、私を覚えていてくださったとは」
ジークが老人を起こして針を抜き、カミラが持ってきた荒縄でぐるぐる巻きに縛る。
「おい、丁寧に扱わんか! こっちはか弱い老人じゃぞ!」
「何がか弱い老人だ、一服盛られてんのにぴんぴんしてんじゃねえか!」
「魔力で毒を分解してるんですよ。そんなに強い薬でもないですしね。暴れるようでしたら追加で嗅がせてください」
マイナードから小瓶とハンカチをジークがけ取る。老人が舌打ちした。
「これだから最近の若モンは! 敬意がたらん! 嘆かわしい!」
「はいはいおじいちゃん、ここに座りましょうね。お話があるのよ」
後ろ手にがっちり縛られた老人を、先ほどまでローがピクニックしていたシートの上に座らせる。くそ、と老人が毒づいた。
「罠だとわかっとったのに……! つい、本の金目の黒竜かどうか気になって!」
「本ですよ」
ローを抱いたまま、ジルもその場に戻る。ジルの腕に抱かれたもこもこのローを見て、老人は一瞬目を輝かせたが、すぐにそっぽを向いた。
「そんなちゃらちゃらした格好のちっこい竜が金目黒竜などと、信じられるか! 信じてほしければそいつをこっちによこせ、さあ!」
「別に信じてもらわなくていいです」
「なんだと! 金目の黒竜だぞ! 記録では三百年ぶりじゃぞ! どれだけ貴重なのかわかっとらんのか、そんな奴の手に渡せんさあ今すぐ見せろそら見せろ!」
ああ言えばこう言う。
「本だってわかってるじゃないですか……あなたのお名前は?」
「そんなもん忘れた!」
そのくせ、肝心な応答はしない。
「名前くらい教えてくれてもいいじゃないですか。あなたに聞きたいことがあるんです」
「儂には何にもないわ、このぺったんこ」
「ジルちゃん! ジルちゃん、落ち著いて! 殺すのは報吐かせてからよ!」
「先帝の居場所を教えてください。あなたならご存じでしょう」
そっぽを向いていた老人が、マイナードの質問にしだけ視線をこちらに戻した。
「なんだ、お前。父親を暗殺しに戻ってきたのか」
剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】
※書籍版全五巻発売中(完結しました) シリーズ累計15萬部ありがとうございます! ※コミカライズの原作はMノベルス様から発売されている書籍版となっております。WEB版とは展開が違いますのでお間違えないように。 ※コミカライズ、マンガがうがう様、がうがうモンスター様、ニコニコ靜畫で配信開始いたしました。 ※コミカライズ第3巻モンスターコミックス様より発売中です。 ※本編・外伝完結しました。 ※WEB版と書籍版はけっこう內容が違いますのでよろしくお願いします。 同じ年で一緒に育って、一緒に冒険者になった、戀人で幼馴染であるアルフィーネからのパワハラがつらい。 絶世の美女であり、剣聖の稱號を持つ彼女は剣の女神と言われるほどの有名人であり、その功績が認められ王國から騎士として認められ貴族になったできる女であった。 一方、俺はそのできる女アルフィーネの付屬物として扱われ、彼女から浴びせられる罵詈雑言、パワハラ発言の數々で冒険者として、男として、人としての尊厳を失い、戀人とは名ばかりの世話係の地位に甘んじて日々を過ごしていた。 けれど、そんな日々も変化が訪れる。 王國の騎士として忙しくなったアルフィーネが冒険に出られなくなることが多くなり、俺は一人で依頼を受けることが増え、失っていた尊厳を取り戻していったのだ。 それでやっと自分の置かれている狀況が異常であると自覚できた。 そして、俺は自分を取り戻すため、パワハラを繰り返す彼女を捨てる決意をした。 それまでにもらった裝備一式のほか、冒険者になった時にお互いに贈った剣を彼女に突き返すと別れを告げ、足早にその場を立ち去った 俺の人生これからは辺境で名も容姿も変え自由気ままに生きよう。 そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の人々から賞賛を浴びて、辺境一の大冒険者になっていた。 しかも、辺境伯の令嬢で冒険者をしていた女の人からの求婚もされる始末。 ※カクヨム様、ハーメルン様にも転載してます。 ※舊題 剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で出直すことにした。
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