《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》閨庭

初由テルヒコ。彼の人生について、ここでは綴る。

2001年11月5日、神奈川県橫浜市にて、テルヒコは産聲を上げた。

彼の輝かしい未來を願い、両親は「輝彥てるひこ」と、名前をつけた。

特別裕福でもなく、かと言って貧しくもない。

よくある家庭に生をけた。

父は一流大を卒業したエリートサラリーマン。母は専業主婦。

そして、二つ下の弟、真彥まさひこがいた。

父は溫厚で優しい格だったが、母は厳しかった。

特に、勉學に於いて、厳しく教え込まれた。

稚園頃から學習塾に通い、小學校、中學校と、私立験により學。勉學に重きを置いた人生を歩んでいた。

しかし、高校験に失敗。一流私立高校を逃し、近所の公立高校に通っていた。

「テル。コレ、なに?」

不機嫌そうな口調の母が、テストの答案用紙をテルヒコへと突きつけた。

ほぼ全てに丸がつけられた答案用紙だが、そこに記された點數は91點。惜しくも満點には及ばなかったが、十分と言える績である。だが。

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「ごめんなさい…」

「『ごめんなさい』じゃなくて。説明して。何でこんな點數なの?」

険悪な空気が漂う。しかしそれは、テルヒコにとってはいつもの事である。

常に百點満點を求める母の、重すぎる期待に応えることができず、叱責をける。

テルヒコにとって、これが日常。

窓の外では、眩しい夕焼けがゆっくりと沈んでいる。

あの夕焼けを追って、どこか遠くへ消えてしまいたいと願うことなど、テルヒコはとうにやめていた。その願は、葉わないと知ったから。

「そ、その…。今回はテストも難しかったし…最高點も93點だったか────」

ダンッ!

母が機を叩く音が、リビングに響いた。

「こんなので満點取れなくてどうするの!?大學験はもっと難しいのよ!?公立のテストで満點取れなかったら良い大學になんて行けないわよ!」

甲高い聲で母がび散らし、手にしていた答案用紙を、くしゃくしゃと丸めてテルヒコへと投げつけた。

「……ご、ごめんなさい……」

「……はぁ……。マサはまだ中學生なのにちゃんと満點取って帰ってくるのよ?お兄ちゃんなのに恥ずかしくないの?それじゃあパパみたいになれないわよ……?」

マサとは、弟真彥のことである。

「………ごめんなさい……………」

「はぁ………。もういい。部屋に戻って勉強しなさい。」

母は冷たくそう吐き捨てると、依然として不機嫌そうな足取りで臺所へと向かった。

テルヒコは、重たい足取りで階段を登り、自室へと向かう。

テルヒコとて、決して努力していないわけではなかった。

部活もせず、アルバイトもせず、友人たちと談笑もせず、ただ只管ひたすらに勉學に勤しんでいた。

『努力は必ず報われる。報われないのなら、それはまだ努力とは呼べない』

そんな、薄っぺらい結果論の世迷言めいげんが脳裏を過った。

これほどまでに心り減らしているにも関わらず、それを努力と呼べないのなら、一何が努力だろうか。

畢竟ひっきょう、結果を殘せた者が、過去を振り返ったときにある心當たり。それが努力の正だ。

カチャ…。と、重たいドアを開く。

「……………」

弟はまだ帰ってきていないらしい。

真彥は文武両道で、勉學、スポーツ共に秀でた績を修めていた。それに伴い母親からの扱いも優遇されており、門限や小遣いの上限は無かった。

対してテルヒコは、18時までの門限と、二千円までの小遣いだけが許されていた。

そのあまりにも骨すぎる差別が、テルヒコの自尊心を殺し、劣等だけを育んでいった。

部屋のドアを閉め、ベッドにを投げる。

白い天井に、明日の自分の姿を映し出した。

そこには、テストの績で母親にため息を吐かれる自分の姿があった。

そんな自分に、自分自でため息をひとつ吐いた。

日は沈む。夕立が唄った。

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