《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》893 オーバーロードの使い方

エッ君が上手くヘイトを集めてくれている間に、準備した魔法にMPを過剰積み込み(オーバーロード)させていく。

一方、圧倒していたように見えたミルファたちだったけれど、実はそう簡単な話ではなかったらしい。冷たい炎は保護というか姿を隠す能力に全振りしているためか、しでも気を抜くとすぐにどこにいるのかが分からなくなってしまっていたのだとか。

そのたびに攻撃を大振りにして居場所をつきとめることから始めなくてはいけなくなるため、どうしても倒すまでに時間と手間が必要になっていたのだった。あふれるものながら、絵面としてはとっても地味よねえ……。

ああ、それといくら他の能力が搾りかすの激弱だといっても、こんな所に登場するだけのことはあるからね。街道沿いに出沒するブレードラビットやロンリーコヨーテとは比較にならないほどの強さなので。雑魚とは違うのだよザコとは。

つまり、油斷していると手痛いダメージをけることになるということだね。

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まあ、それも踏まえてネイトにはミルファとリーヴのフォローをお願いしていたという訳です。ある意味あちらを鉄壁の布陣にしてしまったことで、こちらの手が足りなくなってしまったのは誤算だったよ。

それと、これは後から思い至ったことなのだけれど、〔気配察知〕の技能持ちであるボクがあちらを擔當する方が適當であったかもしれんない。それこそ壁役のリーヴとの二人だけでも対処できたかもしれない。

で、ミルファとネイトにアシッドスライムを擔當してもらえれば、二人分の遠距離からの魔法攻撃で安全に戦うことができたかもしれないのだ。

これからも複數の魔と同時に接敵するなんてことは當たり前のようにあるだろうし、このあたりの適切でちょうどいい人員の割り振りの仕方も今後の課題だね。

さて、そろそろ強酸なスライムとの戦いに戻りましょうか。いいじにMPも詰め込めているようだしね。

「エッ君、離れて!【ウィンドボール】いっけえ!」

コミカル調にトテテと離れたのを確認してから過剰積み込み(オーバーロード)させた魔法を放つ。意図的に拳大の大きさに練り込んだそれは、狙い通りに獲へと著弾すると同時にボシュッ!と弾けてアシッドウーズのを大きく抉り飛ばしていた。

「うわあ!?ばっちぃ、じゃなかった。危ない!」

飛散した範囲が広くて危うくボクたちがいる場所にまで屆きそうになったのは想定外でした……。酸の含まれた粘が飛び散り付著した床からシューシューと煙が上がる――実際に溶けてはおらず、演出でした――中、積の半分近くを奪われたアシッドウーズは痙攣(けいれん)するように震えていた。

「うーん……。核がむき出しになるかと思ったんだけど、そう上手くはいかなかったかあ」

アシッドウーズは濁ったような不明だったので外から核を見つけ出すことはできなかった。そのため思いついたのが、著弾した瞬間に弾けて周囲にまでダメージを與える質を持つボール系魔法での攻撃だった訳なのだけれど……。なかなか目論見通りとはいかないようだ。

「いっそこのまま魔法をぶつけ続けて、HPを全損させる方が早いかしらん?」

そう思ったのも束の間、半分ほどにまで激減していたはずのHPゲージが六割方にまで回復していた。

「なんで!?」

慌てて目を凝らしてみれば、すぐそばに飛散していたた欠片がうぞうぞと本に合していた。どうやら飛び散った部分もまだ「生きている」と判定されているようだ。

幸いにも合できるのは本から近いものだけであるらしく、HP自回復のようなえげつない仕様ではないみたいだ。

それでも厄介な能力であることに違いはない。しかも積が減って軽になったのか、最初に比べると隨分とくスピードが増している。的としてのサイズも小さくなっているし、先ほどと同じように過剰積み込み(オーバーロード)させた魔法をクリーンヒットさせるのは難しいと思われた。

こちらにとって不利な點はまだある。あちこちから煙が上がっていることで視界が悪い上に、よろしくない分が含まれているのかじんわりとHPが減していたのだ。

長期戦になると危険だね……。魔法でちょっとずつでも――理的に積を――削りながら、核か酸袋を出させるしかないかしら。

「エッ君は引き続きき回ってあいつをかくして。足元の欠片には十分注意してね。それと、ヘイトを稼ぐために【裂空衝】の使用を許可します」

と伝えるや否や、待っていましたとばかりに攻撃を始めるエッ君!?

「ちょっ!?MPの殘りには注意してよ!?」

思わずんでしまったのは仕方がないと思う。もっとも、あの子の判斷も間違ったものではなかったのだけれどね。

先の攻撃でドッカンとあちらのHPを削ってしまったため、アシッドウーズのヘイトはボクへと向けられていた。敵を翻弄するためには、エッ君も(・)脅威であると思い知らさなければいけなかったのだ。

ちなみにこれは最低ラインね。それというのも魔法は制に失敗すると暴走する危険があるからだ。過剰積み込み(オーバーロード)に挑戦するでもなければ能的に発生させる機會はなく、発生しても大した被害がないのでほとんど知られていないのだけれどね。

ただし、魔法を準備中にタイミング悪く敵からの攻撃をけることでも、同様のことが起きてしまう可能はある。確実に魔法を発させるためには、敵のヘイトが完全にエッ君に移る必要がある、という訳です。

まあ、魔法をぶつけるたびにボクへのヘイトは加算されていくため、そこまできっちりとした管理はできないだろうけれど。でも、あっちこっちに気を取られていれば攻撃の的を絞り切れなくなるので、それくらいで丁度いいのかもしれないね。ポジティブにいこう。

時折移しては立ち位置を変えつつ【ウィンドボール】をぶつけていく。一度【アクアボール】も使ってみたのだけれど、こちらは大失敗だった。HPが回復することこそなかったものの、魔法を取り込むようにして積が増えてしまったのだ。しばらくすると元に戻ったけれどね。

ちまちまとした削り作業が続き、そろそろMPの殘量に不安をじ始めた時、ようやく待の瞬間が訪れた。

「ん?何か見えた!?」

び終わった時にはそこに矢が突き立っていて、支えるものをなくしたようにアシッドウーズはその場にデロリとけていったのだった。

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