アシッドウーズを倒したボクたちも、冷たい炎を下したミルファたちの側も、展開だけ見れば敵にまともに攻撃をさせることもなく完封したかのようだが、こちらの被害も決して軽いものではなかった。

まずボクたちの方だけれど、ＨＰもさることながら武や防の耐久値も想定以上に減していた。欠片が飛び散った際に発生していた煙、あれは単なる？毒ガスではなく酸の特も持った腐食のあるヤバい気だったらしい。

「これから『天空都市』に乗り込まなくちゃいけないのに、幸先悪過ぎだよ……」

これが普通のダンジョンアタックなら諦めて撤退して、再度計畫を練り直さなくちゃいけないレベルです。

一方の冷たい炎討伐メンバーも、ボクたち程ではないけれど疲弊(ひへい)と損耗(そんもう)していた。特に接近戦を挑むことになったミルファとリーヴは、見失ってから居場所を特定するまでの間にちまちまとした攻撃をけていたために防の被害が大きくなっていた。

「すぐさまダメになるようなことはありませんけれど、死霊どもと戦うことを考えますと正直言って心許ない狀況ですわ……」

頼みの綱の『異次元都市メイション』も、イベントの真っ最中ということで、移こそできるが品の購や裝備品の手れは一時的に止となっていた。

しかもネタバレ防止のためと稱して、これまた一時的に運営のＡＩによる監視付きになってしまうという念のれようだ。アウラロウラさんいわく、

「実はリュカリュカさんの『天空の島へ至る道』だけでなく、ワールドイベントは未だにクリアしたプレイヤーがいない狀態なのですが、ここはあえて報を規制して自力でクリアを目指してもらおうという方針となりました」

とのこと。逆に「流を盛んにして多くのプレイヤーがクリアしやすい環境にするべきではないか？」という意見もあったらしいのだけれど、最終的には高難易度推進派に押し切られてしまったのだとか。まあ、何でもかんでも答えが分かってしまうのも興ざめだしね。

……あれ？これ、ボクが聞かされていい容ではないような？もしかして半ば認定されていないかしら……？

「と、とにかく『メイション』で修復をしてもらえるか尋ねてみるよ」

危険な想像を振り払うように、みんなにそう告げる。

テストプレイヤーみたいというか広告塔みたいになっていたり、サービスを優先的にけられたりしているけれど、個人的には一介のプレイヤーだと思っているので！

ズブズブな関係？……き、気のせいですから！

……そういえば優先的なサービスで思い出したけれど、ＡＲ技を用いたテイムモンスター等のリアル召喚の件はどうなったのだろう？

昨年夏の『笑顔』との合同イベントの後に、開発が難航しているような話は聞いていたけれど、それ以降は音沙汰なしのままとなっている。アレルギー持ちのボクとしては、リアルでもうちの子たちやもふもふと戯れられるチャンスなので、ぜひとも頑張って開発してもらいたいところだわね。

「ただ、どこまでやってもらえるかは何とも言えないところだから、過度な期待はしないでね」

などと思わず予防線を張ってしまう気の弱いボクなのでした。

「今よりしでも狀態が良くなるのであれば、十分にの字というものですわ」

「ミルファの言う通りですね。リュカリュカも無理をしたり気負ったりする必要はありませんからね」

仲間想いのいい子たちだよねえ。そんな言葉を聞かされては、思わず頑張りたくなってしまうではありませんか！

……まあ、どれだけ気合をれようともシステム的にダメなものはダメなのだけれどね。アウラロウラさん経由で運営に直訴すれば多の便宜は図ってくれるかもしれないが、そんなことはしたくないというのが本音だ。一介のプレイヤーという立場をこちらから変えるつもりは頭ないですから。

「話がまとまったところで安全な場所に移しませんか。このまま居座っていては、またいつ魔に襲われてもおかしくないですから」

「ホントだよ！のんびりお喋りしている場合じゃなかったよ！？」

「いえ、狀態の確認と共有は必須でしたよ」

それは確かにネイトの言う通りなんですけども！

何はともあれ移を開始するボクたち。冷たい炎のように発見しづらい魔や、天井から忍び寄ってきたアシッドウーズのように死角から襲ってくる魔が他に居ないとも限らないため、〔警戒〕技能をフルに員しながらの移となった。

そんな用心が功を奏したのか、それとも守護者や試練的な調子でこの場にはあの二しか存在していなかったのか、それからは魔に出會うことなく階層間を移するための裝置のある所にまでたどり著いたのだった。

「うーん……。これは後者が正解のような気がする」

「確かに、あの二だけしか生息していないというのは違和があります」

むしろ違和しかないよね。それというのも、ボクたちが転移させられたのは學校の教室ほどの広さと高さの空間だった。薄暗くて目視では分かりづらかったが、〔警戒〕によって探知範囲が広がったことでミニマップに表示されるようになったのだ。

そして、この階層自がそうした空間がいくつも繋がって構されていた。

で、その繋がりというのがまた単調なもので、魔に気付かれていないと考えるのは楽観が過ぎると思えるものだったのです。

「転移してすぐに襲ってきたし、ガーディアン的なものだったんじゃないかな？と考えるのが妥當に思えるのだけど」

「その呼び方をするには抵抗のある外見と能力の持ち主でしたわね……」

そんな想をこぼすミルファの気持ちも理解できる。どちらかと言えば侵者を排除する闇の存在と言う方がしっくりくるよね。

「襲われないための合言葉でもあったのかもね」

「ですが、それならスラットさんはどうしてそのことをにしていたのでしょうか？」

「わたくしたちを騙しましたの？それともわたくしたちの実力を試そうとしたのかしら？」

どちらもないとは言えない。だけどボクはあえてもう一つ別の可能を示唆(しさ)してみたいところだ。

「単純に忘れていたんじゃないかな」

「そんなことあり得ますの？」

「だってあの人、『大陸統一國家』が滅亡した時からあそこに一人でいたんだよ。いくら不老不死でも忘れの一つや二つくらいしてもおかしくないと思わない？」

「言われてみれば……」

「その通りかもしれないですわね……」

そうでしょう、そうでしょうとも。