《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》895 ワールドイベント事
隠ぺいが意図的だったかどうかはともかく、ボクたちが『神々の塔』部に潛んでいた二匹の魔を倒したことは間違いない。
そしてこちらはまだ斷定できないものの、仮にあの二がガーディアン的な存在であったならば『天空都市』の勢力が配備していた可能が高い。そんな魔をやっつけられたというのは、ボクたちにとっては大いに自信につながるとも言える。
まあ、先述した通りこちらの損害も大きなものになってしまっていたのだけれどね……。いくら自信がついても裝備や狀態が悪ければ力を発揮することなんてできない。はてさて、『異次元都市メイション』でどの程度の修復ができることやら……。
階層間の移裝置のある周辺は安全地帯になっているようで、さっそくログアウトしてメイションへと向かう。
正直に言うと『神々の塔』の頂上がどうなっているのかとてもとても興味があったのだけれど、到著と同時に強制的にイベントが進行して……、という展開も十二分に考えられた。そのため後ろ髪をぐいぐい引かれながらも、泣く泣く我慢したのでした。
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そんな経緯を経てやって來たのですが、
「……ダメだな。修復可能限界が本來の七割で固定されてるぞ」
「あー、やっぱり完全修復は無理ですか……」
結果はご覧の通り芳(かんば)しくないものだった。彼、スミスさんはボクの持つグロウアームズの片割れである牙龍槌杖の制作者の一人でもある。そんなプレイヤーさんですら制限がかけられているのだから、どこに持って行ったところでこれ以上の結果はめないだろう。
「……『テイマーちゃん』、もしかしてイベントの真っ最中なのか?」
「大當たりです。しかもまだ誰もクリアできていないみたいで、詳しい容も話せないです」
「まじかー。そうなるとこっちからもアドバイスのしようがないな」
「そういう仕様だし仕方ないですよ。ボクだけが迷をこうむっている訳でもないですし」
スミスさんがあっさりと答えを引き當てたことからも分かるように、このイベント中の制限というのは結構多くのプレイヤーがけたことがある、割とメジャーどころのものだったりする。
さすがに報規制までるのは稀(まれ)なものになるけれどね。
「容がってことは例のワールドイベントか?」
「な、なんでバレたし……。って、それもそうか。スミスさんとはフレンドになってるからボクの名前も知ってますもんね」
ボクの指摘にコクリと頷く彼。で、以前ボクは初のワールドイベントを開放したために名前付きで全インフォメーションが流れてしまったことがあるのだ。
「大陸中をき回っていると思ったが、ワールドイベント関連でだったのか」
「まあ、おおむねそんなじです」
スミスさんが勝手に察してくれる分には構わないけれど、こちらから喋る訳にはいかないからね。はにかむような微笑みを浮かべて誤魔化しますですよ。『冒険日記』の方でもこの辺りのことは運営がうやむやにしていたくらいだ。
「ワールドイベントのプレイ狀況ってどうなんだろ?」
「エリアを開放させるイベントをクリアする流れで発生しやすくなってるから、とりあえず発生させているプレイヤーは多いぜ。ただ、その後の進行狀況はよく分からん。今の『テイマーちゃん』みたいに報規制で話せないのか、それともややこしかったり面倒だったりで進んでいないのか……」
どちらもあり得そうな話だなあ。ボクの場合、なんだかんだで四つのエリアの全てを回ることになったものねえ。それでもまだまだ行っていない場所の方が多いのだけれどさ。
例えば、『風卿エリア』でいえば南部の山岳地帯には足を延ばせていない。『土卿エリア』は首都のある中央から西側が未踏だし、『火卿エリア』に至ってはスホシ村とその周辺しか探索できていない。この一件が終わったら、風の向くまま気の向くままに旅してまわるのも楽しそうだ。
おっと、すっかり思考がそれてしまった。ともかくワールドイベントという名前の通り、大陸全土が舞臺になっていることが多そうなので、スミスさんの言ったように面倒にじて放置している人もなからずいるだろうと思う。
「ところで裝備の修復はどうするんだ?」
「あ、そうだった。できるところまででいいのでお願いします。この後はメイションに來ることすらできなくなるかもしれないので」
「そいつは『OAW』にしてはなかなかにハードだな。回復薬とか消耗品の類は大丈夫なのか?」
「どれだけ準備しても不安に思えちゃって、いくらでも買い込んじゃいそうで……」
スラットさんをアドバイザーにした作戦會議である程度の攻略手順は思い描けたものの、後は現地で臨機応変當たって砕けろな作戦なのよねえ。そのため、アイテムはいくらあっても問題なし!の狀態なのだった。
「まあ、購制限に引っかかってどれだけも買えないのが実際のところなんですけど」
「所持限界より先に購制限がくるのか」
「どっちもどっちですね。今アイテムボックスの半分くらいは食材とか料理系が占めちゃってるので」
「おいおい、いくらなんでも半分は多過ぎじゃないか?」
「テイムモンスターたちも含めて、ボク以外のパーティー全員がカレーにはまっちゃってるんですよ……」
「納得した。NPCのパーティーメンバーがカレーにはまるのは定番になりつつあるからな……」
わーお。食品メーカーの協賛があるとはいえ、まさかそんなことになっているだなんて。運営にカレー大好き、いやスパイス系の素材が十事実している上に自由に配合できるようになっていたあたり、カレーマニアな人がいるのではないかしらん?
「これで完だぞ」
「ありがとうございます」
雑談をしながらも耐久値の修復作業を進めてくれていたスミスさんにお禮を言って裝備品類をアイテムボックスにしまっていく。
「ここは、「うわあ、新品みたい!」とか言った方がいいですか?」
「やめてくれ。さっきも言ったように七割までしか修復できていないんだ。到底褒められるような仕事容じゃない」
それはこちらの都合というかシステム的な制限だからスミスさんの責任ではないのだけれど。そうはいっても納得しきれないのが職人気質というものなのかもしれない。
こだわりを持つことは悪いことではないし、ゲームとして楽しめる範囲に折り合いをつけることができさえすれば問題はないのかもね。
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