《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第110話 怒った顔Ⅱ
「う、いてない? 近づいて來てるよ?」
最初に気づいたのは桃山さんだった。ライフルのスコープで敵を監視してくれてたんだ。
僕のにつかまっている依の手が、一瞬こわばった。
依は、僕とDMTの隔壁縦席(ヒステリコス)にいる。病院での戦闘からずっと一緒だ。今、陣地に戻って、ラポルト無雙と子さんの種明かし解説を聞き終わったところだった。
「麻妃は? KRMは?」
窪みから周囲をうかがうと、陣地の塹壕の中にちゃっかり著地してた。――けどかない。
「通信切れちゃってるね」
「もともと被弾してたっス」
「麻妃ちゃんずっと応答ないよ」
ラポルトが西の海や上空に行ってしまったら、艦から遠隔作してるKRMはさすがに電波が屆かない。
「ど、どうしよ」
浜さんが揺してる。いや、全員か。敵は大軍だ。それだけにゆっくりとしか進まないけど、確実に近づいてきている。自分の基地がやられてるのに、なんで攻めてくるんだ?
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「やっぱりもう兵力の小出しはしてくれないね。大丈夫。カタフニアに全員運ばせるから。いざとなったらさ」
そうは言ってみたものの、心理的にはかなりキツイ。塹壕にってる僕らは、「大軍」ってだけで、敵の全容が全然わからない。確かコンギラト東方10國に、歐圏のあのステルスDMTの2國も來てるんだろう。
あ、そうだ。子さんが「歐圏の急進派の國が來てる」って言ってた。――って事はその2國+αか。
*****
「つまり隕石(メテオリティス)か」
「いえ。あれは揚陸艦での衛星軌道からの降下突撃じゃないですか。違うんです。もっと前れなく、ふっ と現れるんです」
「じゃあやっぱり隕石(メテオリティス)じゃないか」
「いえいえ。それだったらもの凄い音するし地表面で減速するし、レーダーですぐわかるじゃないですか。違うんです。もっと理法則を無視したきを‥‥」
言いあう上と下士。ここはタイラレディ國の後方基地だ。この國はDMTの參戦こそないが、ガンジス島への輸送やドローンの參加などで合従軍に貢獻していた。
そこへ唐突に現れる全長550mの悪魔。
「‥‥來た! あれです! 各國の後段組織を潰してるのは‥‥!」
「なんだ!? 突然現れたぞ! どういう事だ!?」
「今説明してたんですけど!」
そこに放たれるラポルトのビーム砲。
「ぎゃああああ! わが軍の輸送艦が沈む! 一どうなってんだアレ!?」
「だからもう理解しろって~!」
*****
「何とか敵の足を止めたいな」
縦桿を握りしめながらそう呟く。桃山さんがスコープからの報をくれる。
「前進はすごいゆっくりだよ。やっぱり各國の混軍だからかな」
「もう一回大出力で一撃れれば、バリア回復に時間かかるんじゃ無いかな。――ね? 依。もし今DMTのエンジン止めたらマジカルカレント後癥になるよね? 僕は」
「うん。そうだけど」
背中に、微かに揺する気配をじる。
「そしたら、依に秒で治してもらうと。で、僕は無敵時間『回春(アナネアゼイン)』、にる」
「――暖斗くん。それはさっきの1回目までのお話。回復してその後あの『重力攻撃』をした今は、暖斗くんのにどれだけ負荷がかかってるかわからないの。ちゃんと醫療設備のある所。できればまほろ市民病院で降りてほしいの」
「あ、『重力攻撃』、まだネーミングして無かったな。はは。『回春(アナネアゼイン)』みたいにカッコいいの考えようね」
「誤魔化さないで。昨日の急癥狀回避薬もないし。そもそも『回春(アナネアゼイン)』初めて使って検査してないでしょ? だから予後も心配。まほろ市民病院があって小児科長(せんせい)たちも當てにしてるから思い切ったんだよ? ああしないと病院が占拠されてたし」
「でも依。そんな悠長な事言ってられないよ? もう‥‥」
「だめよ。英雄さん戦で暖斗くんは一回意識喪失してる。今回も未知のレベルでマジカルカレント発したんだから、ちゃんと醫療的なケアをさせて」
「でもこのままじゃ‥‥」
「撤退‥‥する?」
僕らの會話に初島さんが割り込む。それに乗って桃山さん達も。
「早ければ早いほど、逃げれる確率高いよね? このままだと敵に捕まるでしょ?」
「‥‥ツヌに捕まった経験から言えば、一回敵にを預けることになるから‥‥怖いよ。わたしはぎりぎり無事だったから言えるけど、‥‥‥‥それは結果論」
「で、でも、撤退したら病院占領されるし」
「そうよね。今まで戦ったのが無駄になるわ」
「でもいくらなんでもあの大軍と戦うのは‥‥!」
「う~ん。子さん渚さんがいないと、決めかねるのよね。やっぱり」
「でも決めるなら今っス。敵が來てからじゃ遅いっス」
確かに。來宮さんの言う通りだ。カタフニアで出するにしても大軍に迫られてからでは、あの巨大なカタフニアはかえって絶好の標的になるだろうな。――でも、このままだと病院が占領されてしまう。それから守るために、僕ら戦ってたんじゃないのか?
「やっぱり! 僕が戦うしかないよ。もう一度『回春(アナネアゼイン)』を!」
僕がそう言った時だった。
「うえぇぇ~~ん」
依が、泣き出した。左目の隅で背中を見ると、大粒の涙をぽろぽろ流している。
その涙で理解した。今の僕がどれだけ無理をしてしまっているかを。依だからこそ、その危険を予見してしまっている事を。
「暖斗くん‥‥いつも無理して‥‥。だめよぅ。さっきだって一か八かだったのに‥‥‥‥」
またしても人生初。の子に背で泣かれた。
依のがじわじわ熱くなる。決して広くない隔壁縦席(ヒステリコス)に、鳴き聲がこだまする。
英雄さんとめた時。英雄さんに勝って縦席を出る時。
多賀さんと話した後の醫務室。僕は何回か依の涙を見てきた。
そして、今日。狀況は2回目に似ていて‥‥‥‥今は、悲しい。‥‥依の悲しい気持ちが、僕にもどんどん流れてくるじだ。‥‥でもなあ。
僕達を信じて、病院でオリシャさんの治療にあたってくれた人達がいる。今さら撤退なんてできないよ。
――――あ、そうか。病院の人の避難が出來なくなってる。あのステルスDMTの襲撃のせいで。――そういう効果もあったのか。
全員、黙ってしまった。すすり泣く依の聲だけが、陣地に響いていた。
「あのう~」
しばらくして。沈黙を破ったのは桃山さんだった。
「私前から考えてたの。どうかな? あるんだけど。暖斗くんがそういう無茶せずに、極大出力を得る方法が」
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