《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》898 ただ突き進むのみ
移しようと半壊した建から飛び出した瞬間、目の前に落ちてきたものは死霊だった。呆れた顔で「何言ってんだお前?」と言われてしまいそうだが、これが現実――ゲームだけど――なのだから仕方がない。
なお、個人的には「あなた疲れているのよ……」と優しくされる方がダメージが大きいように思う。異論は認める。
いや、そんな呑気なことを考えている場合じゃないと我に返り、慌てて元いた建の側へと避難する。
出て行った直後に舞い戻ってきたボクに驚くミルファたちを、に人差し指を當てるゼスチャーで靜かにさせる。鬼気迫った雰囲気にただ事ではないと察した二人は、素直に従ってくれた。
そして幸か不幸か落ちてきた死霊はボクに対して背を向けるような恰好であったために、この一連のきに気付かれることはなく、何事もなかったかのように立ち去って行ったのだった。
「うへえ……。助かったあ……」
「はあ……」
「ふう……」
突然の不意打ちに大きく神を削られ、へたり込みそうになりながら息を吐き出すボクたち。
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あ、危なかった……。やつらの五が低下していなければアウトだったね。さらに言えば、もしも「んっきゃーーーー!?」と悲鳴を上げていても同じことになっていたはずだ。ゾンビ系ホラーパニック映畫の途中退場者よろしく、バッドエンドどころかデッドエンド直行便となっていただろう。
割と間一髪でギリギリの展開だったのではないかしらん。いくら敵の本拠地とはいえ、このトラップはえげつなさ過ぎやしませんかねえ?
それにしても、まさか上からくるとは思わなかった。これは後から分かったことなのだけれど、死霊化したことで『天空都市』の住人たちは五と同じかそれ以上にお頭(つむ)の中が退化してしまっているらしく、基本的には真っ直ぐ進むことしかできなくなっていた。
さすがに壁に向かって延々その場で足踏みしているようなものはいなかったけれど、壁面をゴリゴリとこするようにしてく個はいくつも目にすることになった。
ここからが本題。前に進むことが最優先されるアルゴリズムに突きかされるように、死霊たちは障害を乗り越えることもあった。つまり、半壊した建をよじ登ることもできたりしてしまったのだ。
ボクたちが隠れていた場所は奧の方が崩れて階段狀になっていた反面、殘った屋でしっかりと上部が覆われていたため、運悪く外に出た瞬間に落下してきた死霊と鉢合わせしてしまったのだった。
百五十センチほどの高さが、よじ登るか迂回するかのボーダーになっているみたいです。
ちなみに重はゼロという扱いなのか、死霊が乗ったことで建が倒壊したり、元建が崩壊したりするようなことはないみたい。死霊が徘徊することで理的に廃墟になった都市だなんて、笑い話にもならないからねえ。
と、仕掛けさえ分かれば何というものでもなかったのだが、いかんせんいきなりのことだったので焦ってしまいプチパニックを引き起こしそうになってしまったのだった。
その後、何度か移を繰り返して比較的頑丈そうな建跡にを隠し、ようやく一息を突くことができた。
「これからは上にも気を配らないといけないね」
通路を移中は、建から離れた位置で報にも注意することで不意を突かれるようなことはなくなると思う。が、問題は先ほどのような建への出りの際と潛んでいる時だね。
屋にが開いていたら、最悪の場合隠れているすぐそばにボトッと死霊が落ちてくるかもしれないのだ。
「言うのは簡単ですが、気配もなく足音すらしないとなると屋の上のことなど探りようがないのではありませんか?」
ネイトが五問を投げかけてくる。あ、ミルファにはり口で見張りをしてもらっています。
重ゼロの設定からも分かるように足はあってなきようなもので、まさに飾りみたいなものなのだ。なお、當時の偉い人も死霊化しているもよう。
「うーん、思いつく対策方法としては二つかなあ。一つは隠れる先を壊れていない建に限定すること。これなら突然落ちてくることもないし、そもそも屋に上がれないだろうからね」
一見するとこれ以上ないくらいにベストな方法のように思えるかもしれないが、これにも欠點というか問題はある。それが何かというと、きちんと形が殘っている建がないということだ。
そうなると一回に移する距離も増えてしまい、死霊と出くわしたり気付かれたりする危険が高くなってしまう。
「あとは中が見えないのもマイナスかな」
隠れようとった途端、死霊の一団とご対面!という展開がないとは言い切れない。まあ、る前に中を覗くなりしてしっかりと確認をすればいいだけのことではあるのだけれど。
「向かう先にそうした建があれば優先的に利用できるようにく、くらいに考えておく方が良さそうですね」
「そうだね。で、二つ目の対策だけど、これはもう頻繁に上を見て用心するしかないかな」
「普通と言っては申し訳ないですが、當たり前のことですよね」
冒険者としての探索の基本といってもいいだろう。だけど基本に忠実に行することで、意外と何とかなったりするものなのだ。基礎基本が大切なのは、なにも勉強やスポーツに限ったことではないのです。
「なるほど。一理ありますか。それでは今後の方針としては警戒注視する方向に上を加え、しっかりと形が殘った建を優先して隠れる、ということですね」
確認の言葉にコクリを頷く。現狀すぐにできることとなるとこのくらいなものだろう。
「どう、ミルファ?おかしなきはなさそう?」
「きも何も、ここから見える範囲に死霊はおりませんわよ」
連中が彷徨(さまよ)っているルートから外れたのかな?それならそれで好都合だ。ボクたちが目指している場所はまだまだ遠いため、楽に移できる箇所があるならそれに越したことはない。
巨大な都市が一個分だからねえ。端から中樞の向かうだけでも一苦労だわ。
「次の移先はあの隅のところとかどうかな?」
屋どころか壁のほとんども崩れていたが、しゃがみこめばちょうど上手い合に隠れられそう。
「その手前にしっかりとした建がありますよ?」
「あそこはほら、金屬製なのか扉も殘っているでしょ。覗けそうな高さの窓もないし、中の様子を確認するのが難しそうかなと思って」
重厚なたたずまいのそれは、崩壊がすすむ街の中で一種の異様な圧迫を醸し出していた。
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