《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》899 の吐息

えー、そんなつもりはなくてもフラグというものは勝手に立ってしまうものらしい。移している最中、突如として死霊がボトッと通路の進行先へと落ちてきました。

その距離およそ五メートル。全力疾走ではなかったことと橫から落ちてきたことでこちらに視界が向いていなかったことが幸いして、知範囲にる前に無事に立ち止まることができた。まあ、ギリギリの一歩か二歩手前くらいでしたけれどね。

問題だったのはそいつが落下してきた位置だ。崩れた建の殘骸などで道幅が狹められている上に、逸れるための橫道や路地裏などもないときている。こちらへと視線が向いた時點でアウトだ。

ふと、すぐそばに頑丈そうな扉があるのが見えた。移前にネイトが気にしていたしっかりと殘存している建、そのり口だった。

タイミング的に導されている、もしくは罠にはめられそうになっているをひしひしとじてしまうのですが……。

それというのも完全な建――こう書くと何か全くの別のように思える……――だけあって隙間がないし、さらに明り取りや換気に用途を限定しているのか覗き込めそうな位置に窓がないため、中の様子がさっぱり分からないからだ。

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つまり、目前の死霊(てき)から逃げたつもりが、死霊(てき)の巣窟へ突していた、なんてことになるかもしれないのだ。

とはいえ別の選択肢があるかと言われれば、ない。なくともボクには思いつかなかった。

例え今すぐ回れ右して駆け出したとしても、こちらを向いた死霊の視界の外にまでは逃げきれないだろう。むしろその音で発見されてしまうかもしれない。

「運営の思う壺な流れになっていそうで気に食わないけど、みんなこっち!」

鍵が締まっているなんて絶的な狀況だけは勘弁してよ!と念じながらドアノブを摑んで捻る。すると、重そうな外見からは想像できないくらいするりと側へと開いていく。

まるでボクたちを招きれるかのように……。

本來ならば扉が呆気なく開いたことや、薄暗い部の様子に躊躇したり困したりするところなのだと思う。が、先述の通りこちらにそんな余裕はなく。るだけの隙間ができるや否や、すぐにその建の中へと押しっていったのだった。

「すぐに扉を閉めて!」

しかし中にっただけでは安全を確保できたとは言い切れない。扉を閉めることで理的な隔離が必要なのだ。……あ、とっても今さらですが、ここの死霊たちは壁や扉をすり抜けることはできません。まあ、だからこそ瓦礫(がれき)をよじ登って、建の屋に上がるような変態的な挙が可能となっている訳なのだけれど。

小聲でぶという我ながら小用に最後尾のミルファに指示を出す。もっとも、彼もそれは織り込み済みだったようで、振り返った時には扉へと手をかけているところだった。

しばかりの間をおいて、外界との繋がりは斷ち切られた。時間をかけたのは音によって察知されるのを警戒したためだ。繰り返しになるが、聴力は著しく退化しているとはいっても消失してはいないので。

そうして隔離されたその場所は、薄暗いどころか目を凝らすことでようやく端まで見通せる程度の量しか存在しない気味の悪い空間だった。運良くなのか、死霊たちがたむろしているようなこともない。

「逃げ延びられた、かな……」

「恐らくは……」

小聲でささやき合ってからホッと息を吐く。

さて、ったからには中の調査もしておくべきだろう。どうせ表にいる死霊が移するまで外には出られないのだから、時間を無駄にするのはもったいないというものだ。

本音?何か面白いものだとか有用なものがあればいいな、と思ってます!

落ち著いて見回してみれば、十メートル四方の広さに対して天井の高さはせいぜいが三メートルといったところか。外から見た通り窓がないので暗いのも道理というものだろう。明かりの源になっているのは、空間のおおよそ真ん中近辺の天井に據え付けられた丸い玉のようなものが。電球みたいな照明だと思っておけば當たらずしも遠からずかしら。

また、ちゃんと形が殘っている外枠に対して、家や調度品などは朽ちてしまっているのかそれらしきものは見當たらなかった。てっきり建丸ごと全てを保存なりしているものだと思っていたから、これはちょっと予想外な景だったね。

もしかするとギリギリな量と合わせて、消費魔力を最低限に抑えているのかもしれない。それとも、死霊になればそれらのものは必要ないと考えられていたのかも。

ふと、クンビーラの冒険者協會、その一階にあるホールの様子を思い出してしまった。あんな風にここもカウンターやパーテーションで仕切りながら使用されていたのかもしれない。

「まだ絶対に安全だとは言い切れないけど、一息はつけそうだね」

「こんな気な場所でよく落ちついていられますわね……」

呆れたようにミルファが言うけれど、気を張りっぱなしでは疲れてしまう。時には不安に思う気持ちを抑え込んででも、張を緩める機會と時間を作る必要があるのだ。

「はいはい。いつまでもそんな難しい顔をしていないで深呼吸して。吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。吸ってー、もっと吸って―、一気に吐いて―」

すーはー、すーはー、すーすーはーと深呼吸の音だけが小さく響く。ミルファもネイトもが素直だから、有無を言わさずに指示を出せば大抵のことはしたがってくれるのよね。

いやはや、たちの吐息が充満していくにつれて薄暗い空間が華やかになっていくような気がしますなあ。

「いやいや、本當に明るくなってる!?」

の呼吸にこんな効果があるだなんて!……まあ、人センサー的なものが蔵されていたということなのだろう。何はともあれ、天井の玉から発せられるは明らかに強くなっていた。目を凝らさなければ見えなかった向かいの壁まで見通すことができるよ。

「下手にき回らなくても、大まかなところが見て取れるのはありがたいですね」

再びをあらわにしながらも、どこか落ち著いた雰囲気でミルファが口を開く。さっそく深呼吸の効果が出ているようで何よりであります。

そして彼が言うようにき回らないでいいのは大きな利點だ。どこにどんな罠が仕掛けられているのか分かったものじゃないからねえ。

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