《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》308.方舟の起
308.方舟の起
「汝、星と共にあれかし。分からないのか、レメゲトン。既に偽神ニクス・タルタロスは俺たち賢者パーティーが討伐した。當面の脅威は既に俺が葬った。今更魔大陸でこの星を離れる必要はないのではないか?」
その言葉に、レメゲトンは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「何を言いだすかと思えば! そのような事はとうに知っている! 神がこの魔大陸を認識せず、最後の切り札として星出艇として創造した経緯も全てな!」
「そこまで理解しとるのに何で出て行こうとしとるんじゃ!」
コレットがもっともな言葉を放つが、レメゲトンはやはり嗤い続ける。
「そこのパウリナと違って、俺は魔大陸が生み出されるのと同時に生まれ常に共にあった。ポッとでのアリアケ、貴様などとは年季が違う。神がいまだにこの魔大陸の機能を停止せずにいるのは、星出することを推奨しているからだということがなぜわからない。それに、パウリナから聞いた話によれば、お前たちは休養中の神と邂逅している。その際にパウリナとエリス王、貴様らは認識されなかった。それはすなわち、神がこの魔大陸を依然として、星出用の切り札として認識している証拠だ」
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ならば、とレメゲトンは続けた。
「神の意思に反しているのは。星の意思に反しているのは、この魔大陸を神の意思に従い起しようとする俺を邪魔する貴様らだということになる。僭帝アリアケ、貴様こそが神に逆らう大逆罪を犯した大犯罪者に他ならない。そして、他の者たちも同罪であることは明白である‼」
奴は嘲笑う様にして言う。
「反論があるか? あるならば聞いてやろう。大逆罪を犯す星の敵どもよ」
なるほど、さすがかつて魔大帝をしていただけあって、威厳らしきものが醸し出されている。
だが、
「やれやれ、レメゲトン。お前は馬鹿だな」
俺は肩をすくめて、呆れた聲を上げた。
「はっ! 何を言うかと思えば、言うに事欠いて程度の低い罵倒か」
嘲笑を浮かべるが、俺はそれに対して同様に肩をもう一度すくめる。そして言った。
「だから、馬鹿だと言っているんだ。どうして俺に対して、魔大陸の未來に関わることを問う必要がある?」
「な、なに?」
俺の言葉の真意が分からないのだろう、怪訝な表を浮かべた。
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「やれやれ。本気で分かっていないようだな。お前は神に創造された魔大陸の鍵なのだろうが思慮が余りにも淺い。教えてやろう。神が言外に語る事実を。そもそもどうしてパウリナとお前と言う二つの鍵を用意していたと思う」
「むっ……! そ、それは……。今はそんなことは関係ない」
「馬鹿が。お前が見えないことこそが最も大事な真実なんだ。不明であるならば、黙って聞け、レメゲトンよ」
「ぐがっ……!」
屈辱に咽ぶ聲音をらすが、構わずに俺は言葉を紡ぐ。
「お前はもしかしたらパウリナが予備だとでも思ったのかもしれない。あるいは、アークの一部の機能を行使するにはパウリナが必要だと考えたのかもしれない。だからこそ、念のためにパウリナをさらい報を引き出そうとした。だがな、あの神イシスはそんな細かいことをする奴じゃない」
「神相手に分かったようなことを!」
「まぁ、直々に代理を頼まれているのでな。魔大陸の皇帝の座にそれほど拘泥するお前の気持ちは実はよく分からん」
「なっ!」
俺はいらだつ相手に逆に冷靜に事実のみを告げる。
「なぜ予備ではないのか。機能が別ではないのか。それはパウリナがごく普通の壽命を持つ、ただの人間のであり、一方のお前が千年を生きる魔大陸の化けであることを考えれば自ずと答えが見える」
「ああー、分かりました!」
「儂も分かったかもしれん!」
「先生、ボクも分かりました。あの神様らしいですね!」
「あれは変わった神ゆえなぁ」
四人の聲が響く。それと同時にエリス王も納得した聲を上げた。
「星と共に生きるのか。それとも星外へ逃げ出してまで生き延びるのか。その選択をヒトに委ねたということですか」
「そんな馬鹿なことがあるか!」
レメゲトンの怒聲が響いた。
「ふざけるな! これだけの準備をしておきながら、最後の判斷はヒトに委ねるだと⁉ 星の未來がかかった選択をそんな曖昧にする訳がない!」
「レメゲトン、星外での生活は恐らく過酷なものになるだろう。アークは無論、そのための機能を搭載しているはずだ。だが、星にざして生きることと、宇宙で生きることは全く違う。多分だが、どちらも死ぬ可能は同じくらいある。宇宙での生活に慣れずに死ぬことは當然ありうる」
「何を拠にそのくだらない説を吐く!」
「パウリナの一族がその最終判斷をするための存在。すなわち星に、大地に差して生きる普通の人間としてあえて生み出されたからだ」
「⁉」
レメゲトンはハッとした表になる。
恐らく、今までこの魔大陸を支配し、アーク起の判斷も全て自分に優先権があると思っていたはずの彼にとってみれば、それは青天の霹靂であったろう。
「レメゲトン、お前が千年を生きる魔大陸の支配者であるならば、彼たち一族は魔大陸に生きる……いや、星の大地に生きる者だ。ゆえに、お前の一存でアークを起することは許可出來ない」
「お前に許可などとっ……!」
「俺は星の代理人であり、お前たち魔大陸、アークの鍵の判斷を見守る者だ。控えろ、今お前がすべきことはパウリナの意見を聞き屆け、起するかどうかを味することだ。上位者である俺につまらぬ口をきくことではない」
「ぬううううう!」
ギリギリとからをしたたらせるほど悔しがるレメゲトンであるが、俺は優しくパウリナに言葉を促す。
「パウリナ、君はどうしたい? 偽神は打倒し、星の未來を作る為の學校も運営し、將來の人材も育はしている。だが、將來また邪神の類が襲來することは否定しない。だから、レメゲトンのしようとしていることに理がない訳じゃない」
「わ、わわわ、私が決めるんですかぁ⁉ ほ、本當に私はお芋を育てるのが得意なだけの一般人ですよぉ⁉」
「そんな一般人の君が勇気を振り絞って、俺たちについて來た。そんな君の意見が聞きたいんだが?」
彼はオドオドと、いつも通りに冷や汗をぐっしょり搔き、どこか隠れるところを探す。だが、ここは平原だ。隠れる場所などなかった。
なので、彼は観念したように言葉を発したのだった。
「い、家に帰りたいです……。やっぱり、自分の家が一番落ち著きますもん。生きていたって、生きた心地がしないのはもう勘弁です。へ、へへへ……」
「最後までパウリナちゃんだったね。でもその意見は王も賛だよ!」
「正直でいいとじましたがデュースはどうですか? 私は、オートマタ種族の王として、彼の言葉を支持します」
「ふん、王がいいって言うんなら、補佐が言うことは何もないね! それに私も雑務が國に沢山殘ってるんで、早く帰りたいのは同だ」
「ふむ、魔大陸の住人の意見はよく分かった。なるほど、自分の家《星》が一番落ち著くか」
俺はパウリナの意見に微笑んで頷く。
「言われてみれば當然の話か。ふふ、賢者を稱しているというのに一本取られた気分だ」
俺はそう言ってパウリナの髪をくしゃくしゃとでたのであった。
「では、アー君?」
「ああ」
俺は裁可を下す。
「星の代理人として決定する。アークの鍵の雙方の意見を聞き、パウリナ・アルス・サロモニスの意見を尊重することとした。アークは起しない!」
もちろん、神が數十年後に起床した際にまた違う判斷をするかもしれない。
だが、今俺がすべき決定はここまでだ。
未來にどんな災禍が再び起こるかなど分からない。
だが、その時はその時で、他の誰かが俺に代わって、この星を守るために闘するだろう。
それだけの話だ。
そして、それでいい。
それがパウリナの言った、自分たちの星で生きるということなのだから。
俺はそう結論付けたのだった。
しかし。
「許さん! 許さんぞ! 俺は方舟を起させる! アークの皇帝として君臨し、全てを支配するのだ! そして‼」
レメゲトンはんだ。
「他の星! 他の星系! 銀河を支配する! 新しい神に俺はなるのだ!」
レメゲトンは突如、自分の心臓に腕を突き立てる。
鮮が舞う。
「邪魔はさせんぞ、アリアケ・ミハマ! 星神イシスの代理人よ!」
そう斷末魔を上げながら、臺座の上のクリスタルに自分の心臓を埋め込んだ。
「方舟よ、起せよ‼」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‼
突如、大地を震撼させる振が俺たちを襲ったのであった。
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