「お手並み拝見だな」

腕組みをしながら、舞臺を注視するロウガさん。

俺もまた、張した面持ちで試合が始まるのを今か今かと待ちわびる。

こうしていると、司會者が勢いよく魔道を振り上げた。

「全員、舞臺に上がりましたね？　では、試合開始です！！」

司會者の合図とともに、剣を抜く選手たち。

歓聲が沸き上がり、闘技場は熱気に包まれた。

先ほどの試合があっけなくアルザロフの勝利に終わったせいもあるのだろう。

激しい試合を求めて、観客たちは聲を張り上げる。

「やっちまえー、ガイドン！！」

「スペード、俺はお前に１０萬も賭けてるんだからな！！」

中でも特に、試合に金を賭けているらしい男たちの聲はもはや怒號と化していた。

あまりの迫力に、聞いているだけで委してしまいそうだ。

しかし、盛り上がる客席とは対照的に試合の流れは平靜そのもの。

選手たちは武を構えたまま、不気味なほどにかない。

「……これはどうしたことでしょう！　見合ったまま、誰もきません！！」

やがて一向にきを見せない選手たちに、司會者も異変を察知した。

彼は聲を張り上げて選手たちを煽るが、それでもなおかない。

焦れた観客たちも彼に合わせて聲を上げ、中にはを投げる者までいたがきはなかった。

「かないんじゃない。けないんだよ」

苛立つ観客たちの一方、クルタさんが青い顔をしながら呟いた。

その額には大粒の汗が浮き、息も荒くなっている。

ロウガさんとニノさんもまた、クルタさんほどではないが険しい顔をしていた。

周囲を見渡せば、他にも冒険者らしき人達が俺たちと同様に引き攣った表をしている。

……彼らもまた、じ取っているのだろう。

離れていても伝わってくる、が震えるほどの殺気を。

「……凄い気迫ですね」

「うん、こんなのはボクも初めてだよ」

「お姉さま……」

気配に耐えかねのか、ニノさんがそっとクルタさんの袖を摑んだ。

クルタさんは彼の背中に手を回すと、ゆっくりとってやる。

そうしていると、舞臺の中央でゴダートが退屈そうに大きなあくびをした。

「つまらんな。それがしの不戦勝か？」

「……舐めるんじゃねえ！！」

ゴダートの挑発に応じて、一人の選手が気勢を上げた。

それに続けとばかりに、他にも數名の選手が咆哮する。

さながら、襲い掛かる重圧を聲で吹き飛ばそうとしているかのようだった。

「おりゃあああっ！！　裂鋼斬！！」

「おおっと！！　スペード選手、いきなりの大技だぁ！！」

空高く飛び上がり、ゴダートに向かって剣を振り下ろす男。

鈍を思わせる巨大な剣が天を裂き、ビュンッと風斬り音が響く。

飛び散る火花、拡散する衝撃。

ゴダートは自らの剣で攻撃をけ止めるが、あまりの威力の大きさに足元の石畳が割れた。

「何という一撃！　これでは、防をしてもダメージは深刻でしょう！」

目まぐるしくき始めた試合に、司會者の実況も熱を帯びる。

しかし、言っていることはまったくと言っていいほどずれていた。

今の攻撃は……ほとんど効いていない……！

ゴダートはけた衝撃を、すべて舞臺に流してしまっている。

あれでは、攻撃をしている側の方がよほど疲労していくことだろう。

続けて他の選手たちも攻撃を加えるが、すべて同様に流されてしまう。

「見て。ゴダートのやつ、よく見るとあそこから一歩もいてない！」

やがてクルタさんが、ゴダートの足元を指さして言った。

あれほど激しい攻撃を凌いでいるにも拘らず、ほとんど下半がいていない。

そんな馬鹿な、いったいどれほどの実力差があればこんなことが起きるんだ……！？

俺が驚いていると、やがてにわかにゴダートの眼が鋭くなる。

「飽きたな。そろそろしまいにしよう」

途端に、攻撃を仕掛けていたはずの選手たちが吹き飛ばされた。

いきなりの展開に、観客たちはたまらず眼を剝く。

司會者も実況を中斷してしまうが、そこは流石にプロ。

すぐに舞臺上に視線を走らせると、魔道を手に聲を張り上げる。

「おおっと！　今のは何でありましょうか！　私の眼にはゴダート選手の全から衝撃波が放たれたように見えました！！」

「……違う。今のは薙ぎ払っただけだ、とんでもない速度と威力で」

俺のつぶやきに、同意するように頷くクルタさん。

直後、ゴダートがきを見せた。

彼は姿勢を低くすると、剣の切っ先をの後方へと下げる。

その構えはさながら、東方の侍がする居合斬りのようであった。

もっとも、手にする大剣は刀とは比べにならないほど巨大だ。

普通に振り抜けば、當然ながら切っ先が地面に當たってしまうのだが――。

「はあああぁっ！！」

ゴダートを中心にして、舞臺の一角が吹き飛んだ。

遅れて轟音が響き、風が頬をでる。

直後、砕された石畳が欠片となって客席にまで飛んできた。

ゴダートは地面に當たることすら構わず、一気に大剣を振り抜いたらしい。

そして――。

「な、なななな……！！　何ということでしょう、選手たちがたった一撃で……！」

ゴダートの周囲にいた選手たち。

彼らの上半が、無慘にも消失してしまっていた。