《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》136話 おやま、あじやま
総合オカルト雑誌・月刊ルー2024年5月號
~本當は怖いニホンの山特集~
おやま。という言葉を聞いたことがあるだろうか?
古來よりニホンはかな自然に囲まれ、その恵みをして生活してきた。
中でも山は國土の大半を占め、その資源は今日まであらゆる営みに消費されてきている。それほどまでに我々の生活に差した自然の一つ、山。
だが、皆さんは本當にこの山というものを正しく認識できているだろうか?
結論から言おう、山とは本來,人の領域にあらず。
海、湖、川。これらの主な自然と比べて山だけ、”おやま”というまるで何かを敬うような言葉が我々の中に自然と付いているのはなぜか。
高名な神社のその多くがヒトの住まう場所よりも高い場所にあるのはなぜか、武闘家などが己を鍛え、今の領域から抜け出そうとする際になぜ”山籠もり”をするのか。
我々は、本能で知っているのだ。”おやま”には何かが最初から住んでいるのだと。
石神レキシントン、文責。
◇◇◇◇
「行きたくねえけど、行くしかねえか」
味山が手鞠が転がっていった部屋の扉を見つめる。虎にらずんばなんとやら。ドアノブを握り、大きく息を吐いて――
がちゃり。ドアを押して開く。
「うわ、マジかよ」
暗い。ロビーフロアはあんなに明るいのにこの部屋はあまりにも暗すぎる。背後からわずかに屆くロビーの明かりの余波だけが味山の足元を照らして――。
がちゃん。
「うお!」
そのドアも、閉まってしまった。味山はもうすでに心臓がバクバクのどくどくだ。もう怖いのでなんで扉が勝手にしまったのかとかも考えないことにした。
「やめようぜぇ~そういうのはよぉ~。真っ暗じゃ~ん。あ~くそ……。ジャワ、頼む」
ぼおう……。右手を掲げる、手のひらに熾った小さな種火がゆらり、ゆらりと味山の右手を舐めるように広がっていく。即席の松明だ。
「落ち著くわ~火。さて、と」
腕が屆く範囲の視界を確保した味山がまずはくるりと振り返り、勝手にしまったドアを開けようとする、だが。
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「はいはいはい、知ってる知ってる、そういうパターンね、はいはいはい」
がちゃ、がちゃ。
開かない。もうだいたいこういう、勝手に閉まる扉は開かないときまっているのだ。
「だが、俺はそういうお約束には負けねえ!! ホラー空間を探索するときは絶対に逃走経路を確保した方がいいんだ!! うおおおおおおおおおおお!! クソ耳! 今こそ出番だ!」
びきり。ドアノブを摑みながら味山が使用するのは”耳の大力”。ほんの一瞬ではあるが、
TIPS€ 耳の大力、使用。
「おんどりゃあああああああああ!! ――あっ」
ぼぎっ。
嫌な音ともに手ごたえが一気に消える、味山の力にドアノブが耐えきれなかった。取れちゃった。
「…………ドアを壊せばええやんけ!!」
往生際の悪い味山、どうあってもこのまま真っ暗空間を火の明かりだけで進む気になれないらしい。ぼっこんぼっこんドアを蹴ったり毆りまくったり。しかし、今度は不思議なことにドアはびくともしない。
「はあ~……なんなんだよ、クソ……。わかったよ、行けばいいんだろ、行けば」
だめだった。しばらくしゃがみ込んだあと急にスンってなりつつ、味山が部屋の中を進み出す。もうこの時點で明らかにこの部屋は何かがおかしい。
「……どう考えても、ここ、ホテルの部屋っぽくねえな……」
足元はむき出しのコンクリートの床、火の明かりが屆く範囲には無機質な長機が向かい合わせでいくつか並んでいるような……。
「……職場のデスクを思い出すな」
ぼそり、呟いて。
prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr、prrrrrrrrrrrrrrrrr、prrrrrrrrrrrrrr。prrrrrrrrrrrrr。
「うお!?」
著信音、そしてデスクの上に明滅する緑の。デスクの上に置かれた固定電話に著信が。
「いやいやいやいや、待って。絶対無理、前のセーフハウスの時も同じだったよな。どうせあれだろ? 電話を取ったらなんか出てくるんだろ? 無理」
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味山が固まって首を橫に振り続け。
がちゃ――
「おいおいおいおいおいおいおい」
味山は電話を取っていない。なのに、話をとったような音が。
『2023年、5月25日の留守電がいっけん――』
『あ、ママー、かなでです、あのね~わたし、ちょっと出かけてくるね。おやまのふもと! うん、ともだちが一緒にあそぼって! ママの言いつけ通り17時には帰るから~サヨナラああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
ぶつっ。
ぷーぷーぷー。
途中から、最後の方、人の聲じゃない。
「…………力業すぎるだろ」
無理やりホラーを押し付けられた味山がうなだれる、もうすでに帰りたいが帰る場所もないので進むだけだ。
「くっそ……とにかく出口、出口を……」
TIPS€ 機の資料を確認しろ。神種の攻略の手がかりがあるぞ
「ほんとにい?」
味山が響くヒントに口を尖らしながら恐る恐る機に近づく。燃える右手で照らす範囲、大學ノートや文獻がデスクに積まれてあって。
「次、次いきなり鳴ったらマジで怒るからな! な!」
近くの電話機をわからせつつ、味山が右手を掲げ、左手で手近にあるノートをめくった。
それは、新聞の切り抜きがられていてーー。
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2023年5月26日 チュウゴク新聞
2023年5月25日、家を出たきり行方不明になった水森かなでちゃん(11歳)の捜索が警察によって行われた。
家に殘された母親に宛てての留守電メッセージでは付近の山に向かう旨が伝えられていたが、水森宅の周辺には山(・)林(・)な(・)ど(・)は(・)な(・)い(・)。
またかなでちゃんは攜帯電話など持っていないことや、電話の著信履歴が非通知だったことから家出や拐の線も含めて警察の捜査が続いている。
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付近の住人からは仲の良い親子で、家出などは考えられないと言った聲が上がる。
また近所の住人であるTさんがインタビューに答えてくれた。
※デスク武藤から、朝下記者へ!!
以下のインタビュー記事は削除!! 閲覧厳!! オカルト記事じゃねえんだぞ!
「ああ、あそこの家の親子ですよね。殘念です、魅られたんでしょうね。おやまに行くとかなんとかでしょ? この地域じゃたまにあるんですよ。ただ、最近はほら、お國の、なんだっけ? チヨダとかいうとこが頑張って々なもの鎮めてましたけど、ダンジョンの影響でしょうね、々なものがあの島から染み出してしづつタガが外れてるんですよ。10何年前かにあったヒロシマの中學生が河川敷でたくさん死んだ事件あったでしょ? あれも封印式が緩んだ所をめちゃくちゃの素養がある子と、なんかよくわからないものがアレを起こしてしまったんですよね。とりあえずダンジョンが安定化するまではこういうこと増えると思いますよ。あ、しまった、まだダンジョンってそういえば公表されてませんよね? え? かなでちゃんのこと何か知ってるかって? うーん、まああの子は多分とても良い子で優しい子でしたからね。多分中途半端に遊びにったりしたんじゃないでしょうか? なんか數日前にイズの方に遠足行ってたでしょ? 連れて帰ってきたというより、きちんとお別れせずに真田遊ぼうとか言っちゃったんじゃないかな。多分、もう出てこないと思いますよ。警察はもうかなでちゃんよりも、お母さんの安全を考えた方がいいんじゃないかな。かなでちゃんが寂しがると次は多分お母さんが連れて行かれると思いますけどね」
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「……oh」
あかん。これはあかん。
味山は震える手でノートを閉じる。何一つ事態が理解できないのに、自分が今、どうしようもないオカルト案件に巻き込まれているのだけがわかる。
「つーか、ここ、マジでどこだ……ホテルの中にこんな資料がなんで」
prrrrrr
プルルルルルル。
ぷふるるるるるるるるる。
「っひ!!」
また、電話が鳴る。味山が固まってそのまま電話機を見つめ。
寫真。気付けば機の上に。
とランドセルを背負ったの寫真。
満面の笑みを浮かべる幸せそうな寫真。撮っているのは父親だろうか?
味山がその寫真に手をばし、裏面を眺める。ボールペンで文字が。
「……水森かなで、11歳……?」
その瞬間。
がちゃり。
また話をとってもいないのに、そんな音が響いた。
『おかあさん、かなでだよ』
『おかあさん、どこにいったの』
『おかあさん、なんでおうちにいないの』
『おかあさん、かなでだよ、いこーよ』
『おかあさん、かなでだよ、さびしいよー』
『おかあさん、みんな、まってるよ』
『おかあさん、みんなをおむかえにきてね』
『おかあさんおかあさんあかあさんおかあさんおかあさんおかあさんあかあさんおかあさんおかあさんおかあさんあかあさんおかあさんおかあさんおかあさんあかあさんおかあさん』
『おかあさん』
『むかえにいくね』
『あそぼう』
がちゃ。つー、つー、つー。
「…………」
あかん。これは、もうあかん。
一刻も早く、この場所から出たい。
気付けば、あの寫真は消えている。
ぱさっ。
山のように積まれた大學ノートから、一冊のノートがり落ちた。
味山は生まれて初めてコーヒーを飲んだ子供がするような顔で、恐る恐るノートを開いた。
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2028年8月31日 チュウゴク新聞
"消えた淺沼一家、未だ見つからず"
先週、25日。トーキョー都ミナト區に居を構える淺沼和弘さんとその家族が突如全員姿を消してから1週間が経とうとしている。警察は數百人制で捜査を進め、警察犬なども員しているが今の所手がかりらしい手がかりはつかめていない。
全員が行方不明となった淺沼家のリビングには人男1人分の量と推測される痕が殘されていた。警察は殺人事件の可能も視野にれて本件の捜査を進めている。
※非公開記事 公開するかは編集長と警察の話し合いが終わってから。
捜査員へのインタビュー。
「正直ね、あんまこういうこと言いたくないけど、多分これ、ホシ上がんないよ。お手上げだね。というか俺個人は関わりたくないってのが本音だね」
ーー何か理由が?
「警察犬いるでしょ? 賢い連中だよ、人間じゃ見えないものや気づかないものに気づくもんなんだよ、って。捜査から1週間経ってるけど、実は警察犬を現場にれたのって一回だけなんだよ」
ーー何故ですか?
「怯えちゃって仕事になんないのよ。そんじょそこらの犬じゃない、國が金を使って、統やら訓練やら々考えて、人間よりも金かけて育した犬よ。それらがね、もうあの家に近づいた時點でヒンヒン言い出して、泡吹いて倒れるのよ。それに長年仕事してるとわかるけど、……いや、やっぱこの辺でよそうか。これ、記事にしないでね。オフで」
ーーいや、しかし、一家丸ごと消えるなんて事件ですよ。そんな見つからないだなんてことがほんとに現代の世の中であり得ますか?
「あるよ。この世はね。お兄ちゃんが思ってるほど、人間様は人間様じゃないわけ。この仕事してたら分からされるんだよ」
※インタビュー記事削除!! 絶対に!! お前ほんといつもどこから見つけてくんの!? こういう変な人さあ!
近所に住むTさんへのインタビュー。
「え、淺沼さんのお宅まだ見つかってないんですか? あー……多分ですけど5年前に連れて行かれたあの子、かなでちゃんがとうとうおかあさんを見つけたんじゃないのかな。よほど気にられたんじゃないですかね? 統合された神格の人格と呼べる部分がなんとなく遊び相手を求める子どもから親を求める子どもの方にシフトしていってるじありますね。え? 淺沼一家の行方ですか? うーん、正直もうちょっと厳しいんじゃないかと。もしも、接の際にただしいけ答えが出來てたら痕とかは殘ってなくて普通に連れていかれただけで済んだかもしれないですけど。多分新しいお父さんの方、淺沼さんの方はもう厳しそうですね、お母さんの方は怪我はないかもですけど、戻ってくるのは難しいんじゃないかな? かなでちゃんがおかあさんが新しい家族を作っていたのをどうけ止めるかでも対応は違うと思いますけど、まあいなくなったのが小學五年生くらいでしょ? うーん、それからずっとあっち側にいたとして、価値観はおそらく長してないからやっぱ厳しいんじゃないかな? ほら、子供の頃ってすごく殘酷な時でもあるじゃないですか。捕まえた蟲を素手でバラバラにしたり、蟻の巣に水流し込んでみたりとか。アレらもそういう覚でこっち側に関わってきてるので、正直目をつけられた段階でもう覚悟は決めておいたほうがいいですよね。それかもう、いっそのことあっちが飽きるまでとことん遊びに付き合うか。まあ、命が何個もあってなおかつ、それを使い潰すのに躊躇いがないバカでもない限り無理ですけどね。それが出來たら多分なんとかなったんじゃないのかな? ああ、これまた記事にはならないんですよね、大丈夫ですよ、多分結局伝わると思うんで。まあきついとは思いますけど、すみませんね。本當なら多分、あなたが相手するようなはずじゃなかったんですけど、でもまあ。箱庭へ戻るには一番手っ取り早いですよ。神を狩りなさい、探し索める者よ。恐怖を乗り越え、絶を踏みつけ、進めばいい。あ、でもそうだ。もし出來るのなら、しあの子たちのことを知ってあげようとしてください。案外、あなたのような人の方があの子たちと合うかもしれませんしね。それとあとは、厄介なのが蘇っています。裏切りにお気を付けを。アレはそういうのが好きなので。
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TIPS€ 神種の報を手にれた。"おやま"、"母と子"、"ルールによる死の押し付け"
TIPS€ 報を手にれ、お前は神に近づいている。
神種"アサマ"に対する神話攻略が15%進行中。殘り5%の進行で、権能への耐が付與されるぞ
「いやな、響き、それになんだこの記事……途中から何か変じゃね? ん?」
何かメモが挾まっている。そこには。
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これから數秒間、決していてはなりませんぞ。も通用しないので。
ここまで辿り著いたサキモリへ。
石神レキシントンより
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TIPS€ 警告 くな。
「あっ?」
ぺた、ぺたぺたぺた。
ノートを閉じ、メモを読んだ瞬間、ヒントが囁く。
背後で、足音が聞こえる。
TIPS€ 警告 決してくな
ぺた、ぺた。ぺた。
何故か、その足音が子どものものであると味山はじた。
だれ、だれ、だれ。
聲が聞こえる。
とんっ、とんっ、とんっ。
何かが飛び跳ねるような音。
あかるい、あかるい、きれい。
おかあさん。
とんっ、とんっ。
あはは、ははは。
たくさんの聲、たくさんの足音。
味山の背後でずっと、それが増えていく。
「ーーっ」
TIPS€ 警告 異界の法則発。決して遊びに付き合うな。死ぬぞ。異界では死ぬな、"耳の"があっても永遠に殺され続けると意味がない。
あははは、ははは。きゃははは、あはは。
あはは
あははは、おーい、こんにちは、こっちでーす。
ほのおですね、もえてますねなにかいますか、おーい、おうーい、おおおあーあ おへんじ、へんじ、おへんじしてくださーい
そこにだれかいますかー
背後から聲が聞こえる。高い、男の聲、年の聲、の聲。……でも、何かおかしい。抑揚が。
下手くそなモノマネを聞いている気分だ。
いますかー、おへんじしてください、まってまーす、こっちはたのしいです、ずっとはるでーす。おみずもあります、おてだまも、おにんぎょうもあるぞー。
おいでください、こちらでーす、こわくないです、おーい。どこですかー。
ソレは、味山を探しているようだ。まだ、見つかっていない。
ほのおがあります、こわいです、でもきれいです、ほのおはだれのものですかー
TIPS€……"鬼裂" わが友。味山只人……決して返事をするな。以降、貴様の耳に屆く聲も、疑え……ここでは決して死ぬな
「っ!?」
鬼裂。
味山只人のの中に棲まうそれが耳を通じて警告を。
TIPす ここですかーーいますかーーおなまえを教えてくださーい きこえてますよねーー
TいっぷS こんばんわー こわくないですよー おーい 聞こえてませんかー
耳に響くヒントもおかしい。鬼裂の助言通り、味山はただ、耐え、耐えて。
こないんですかー そうですかー おいていきますよー。いいんですかー
おなまえおしえてくださーい。
ほんとにだれもいないんですねー ざんねんでーす またきまーす
よくできました。
もう、聲も足音も聞こえない。
ぼおう。気付けば、右手の炎がゆらめく音が。
「…………やば」
TIPS€ お前は異界を攻略した。
がちゃり。
部屋のさらに奧、鍵が開いたような音がした。
「……行くしかねえよ、もう」
味山が右手の火を掲げながら進む。
ドアが見えた。鍵も開いている。
「……探索者なわけで、オカルト専門じゃねえんだよ」
苦々しい表を浮かべつつ、出口の扉をゆっくりと、開けた。
そこは。
「ねんねーころり、おころりーよ、ぼうやは良い子だ、ねんねーしな」
「うーみはーひろいなーおおきーなー」
「よばれーてとんでー踏まれめきーえた」
「かーごめーかごめ、かーごのなーかのとーりーは」
広い空間。
壁は一面のガラス張り、夜のイズの海が一できるテラスビュー。
そこに広がるは異様な景。
たちがその場に座り込み、みんな一心不に何かを抱いて歌を歌い続けている。
「うわ」
何か。味山はすぐ理解してしまった。
「ねんねーころり、おころーりよー」
人形だ。
たちは皆、人形を抱いている。こけし、ニホン人形、雛人形、西洋人形。種類は様々だが、みないちように我が子をあやすように座り込み、に抱いて。
「普通じゃねえよ……」
植木鉢でを隠しながら、味山が呟く。
だが、とりあえずは目的地までたどり著いた。イズ王國のは夜な夜なここに集められているらしい。
だが、何のために、これはなんだ?
TIPS€ 輿れの選定だ。神話攻略の足掛かりを得た。"輿れ"、"ままごと"、”人形”
「いや、分からん。なんも分からんぞ」
そういえば、別の棟から合流するはずの桜野がまだ來ない。あいつはあいつで、確か仲間の指定探索者がここにいるのではないかと探しに來るはずだが……
「おころり、よー、坊ちゃん、良い子だー、ねんねーしなー」
「ん……あの子……クソ、マジかよ」
見覚えのある子も、そののの中に。
味山を拾ってイズ王國まで連れてきてくれた男、白川の娘だ。夕食の時間までは白川と一緒にいたはずだが……
「がきんちょまで、巻き込まれてんのか……?」
あの子は確かどう見てもまだ小學生くらいの年齢だ。それが他のたちと同じように虛ろな目で人形を抱いて子守歌を歌い続けている。
その様子、味山にはそれがひどく悍ましい景に見えた。
「くそ……! あー、絶対やばい、が……」
味山只人のちっぽけな正義と倫理観。
しかしそれはどのような狀況でも揺らぐことはない。
何故ならそれを無視することは、味山にとって気分が悪いことだから。
「おい、波ちゃん! 俺だ、俺! 味山只人! こんなところで何してる? 帰ろうぜ……」
「…………」
ぐるり。
の目、まるで歌舞伎役者のようにぐるりぐるりとあらゆる方向に黒目がいていく。
「おっと、やばそう、波ちゃん、君、こんなとこでなにしてんだ」
「……みなみはね、はなよめになるれんしゅうしてるの」
「うん?」
しゃがんでその子と目線を合わせる味山、嫌な予がしてきた。
「あさまさまのね、およめさんになるのそうなのねんねーころり、おころりよー」
「……お父さんが許さねえよ。それにニホンじゃ18歳からだ、結婚できるのはよ」
「あさまさまのね、およめさんになるのー」
だめだ、呼びかけに応じない。
「……ごめん、みなみちゃん、ここはダメだ。置いて行けねえ」
味山がの肩にれて、そのまま連れて行こうとーー。
「あっ」
「あ?」
ぽとん。
味山に肩を摑まれたせいか、波が抱いていた人形をおとして。
あ
「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」
一斉に、その場にいるたちが味山を指さして。
「あ?」
みーつけた
ぱさり。いつのまにか、味山の足元にソレが落ちている。
裏面に文字が。
"かなで、みんな、おやまでいっしょ"
「……」
味山が、その寫真、表側を確認すると。
「……うわ、まじかよ」
笑っていた親子、しかし、母親の寫真は顔が真っ赤に塗り潰され。
の寫真はさらにさらに、にっこり、にっこりと。目と口が引きちぎれんばかりに笑って。
TIPS€ 警告・神種に発見されたぞ
「う、お……えええええ……」
ぶしゃ……。
膝から力が抜ける。同時に顔のというからが流れ始める。フジ山お面の隙間からどろどろと流れ落ちて。
TIPS€ 警告 神種による存在そのものへの攻撃を確認、対抗技能、対抗特として”神”、”英雄”が必要……はじまりの火葬者”ジャワ”にわずかな神あり――判定に失敗、お前の”凡人”と”完された自我”、以上の特によりジャワの”神”は打ち消される。神話攻略、20%に満たず。未だ"アサマ"は神なりて。
TIPS€ 警告 権能"アサマの祟り" 発
「ぶふぉ……なんか、ごめん、ジャワ……うえええええ」
が止まらない、外傷はないのにからが追い出されていくようだ。
――行方不明となった淺沼家のリビングには人男1人分の量と推測される痕が殘されて。
「うおおおお……あれ、そういう事かよ……!! や、っべ……」
あのホラー空間で得た報、新聞記事で出ていた報と同じことが今、起きている。つまり、これは――。
「ちくしょおおおお、やっぱり、ホラーかよおおおお……! ど、どうする……やべえ、このままは、やばい」
で鼻や口がふさがり始める、呼吸が荒く思考がまとまらない。永遠にシャワーを浴びせられたままどんどん息が出來なくなる覚――。
「ねんねーん、ころりー、おころーりよー」
「ぼうやは、よいこだーねんねーしな」
周りのたちはを流し続ける味山のことなど見えてすらいないかのようだ。
てと、てと、てと。
「あ?」
人形が、いた。
染めのまま倒れる味山の前に、いつのまにか人形が。
真っ白のおしろいの、口と鼻と耳はまるで削がれた痕のようなものしかなく、目は真っ黒に真円の形に塗りつぶされていて。
なんで、どこから、いつから――。
あ、さっきあの子が抱いていた――。
「え」
気付けばそれが、味山を指さして。
みーつけた。
「ぎゃっ――」
ぷちゅっ。
人の形をしたシミ。踏み潰された蟲のようにぺちゃんこになった味山はもう、ぴくりともきはしない。
……にっこり。
人形の真っ黒の目が、どんどん歪んで、なかったはずの口、ああ、裂けるように黒い線が走って。
味山の死骸を見つめ、人形はいつのまにか消えていった。あの寫真も、もうない。
ソレはもう、己の在り方を忘れている。
ソレはもう、己の喜びを忘れている。
ソレはもう、どうしようもなく歪んで。
人形が満足そうに笑顔のまま、次の瞬間にはもう、どこにもいない。
「ねんねーん、ころりー、おころりーよーぼうやは、良い子だー、ねんねしなー」
これが、恐怖。
決してれてはならないこの世のすぐ隣にある彼岸の法則。それに魅られ、それに見つかれ、それに出會えば最後。
人間の運命の末路なんて決まっている、あの新聞記事の犠牲者と同じく味山もまた、追いつかれ沈んでいった。
じゅる。
――だが、一つだけ。犠牲者たちと味山で違うことがひとつだけある。
連れ去られたの子も、消えた一家はそ(・)う(・)ではなかった。
だが、味山只人はそ(・)う(・)だった。
ただそれだけの話だ。
そう、味山只人は恐怖の前に沈む只の人間であると同時に――。
TIPS€ 既に異界'山怪の足跡"から抜け出している。ここではもう死んで良い
TIPS€ 耳の・発
「い」
――探索者(化け)だ。
「ーーいってえええええなああああああああああああああああああああ!! クソがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ぶちゅるるるる、じゅるるう。
人から響く音とは思えない汚い音。
ぺちゃんこになったが再生する。
シミになったはグミ粒のように浮き、臓はでかいシャボン玉のように浮かびあがり、骨はレゴブロックでも組み上げるがごとく。
全てが元に戻っていく。
再生。そのはなんの意味もなく、なんの目的もなくとも再び蘇るのだ。
そのはすでに悍ましい化けのに等しい。
それは殺されても笑い続ける恐ろしい化けの力。恐怖など比べるべくもない最悪の怪の力。
ついにその力は人間では決して手を出してはならない恐怖がもたらす死さえあざ笑う。
恐怖はきっと人は殺す、だが。
「あああああああああああああ……死ぬかと思った! ぜってえええええあのクソ人形、見つけてギタギタにしてやらあ!!」
探索者は殺せない。
祟りで一度死んだ男が普通に起き上がる。
ぼたぼたぼた、が流れ落ちるも、どうやらもうあの謎の出はない。
再生の興は冷め、すんっとした味山がぼやく。
「……こえええええええ……なんだよ、あの人形……問答無用で20回分くらい死んだぞ」
TIPS€ 耳のカウント・39。壽命4年使用。
ぶーっと鼻をかんでを吐き出しつつ、味山がいた。
人から鳴ってはならない音を響かせつつ、その祟りで殺され盡くした筈のがもとに戻っていく。
「だが、幽霊の正見たり、人形かな……いや、まずいな、今んとこなんの足がかりもねえ、ただ普通に殺されただけじゃん」
一回ぶち殺されたおかげでし冷靜になった味山がうーんと首を捻って。
「あーららー、すごいですねー、アサマ様に拝謁して、まだ生きてる人間がいるなんて思いませんでしたー」
「あ?」
聲が響いた。味山の知っている人だ。
「殘念でーす、あじやまさーん、ダメですよー。労働英雄のあなたがこんなとこにいたら」
「班長……?」
「はい、どうもー。うーん、それにしても困りました〜夜は決して自由行を許していないのですが〜。殘念です、味山さん、本當に殘念です」
にこり。朗らかに微笑む小太りの男。
聲は優しく、しかし、この微笑みの目の奧は笑っていなく。
「アサマ様の祟りがあなたに」
あはははは。おじちゃん、おじちゃま、おじさんがよんでる。
ふふふふあははははら。
また、だ。
どこからか響く子供の笑い聲。
空気が冷たく、重く。
「アサマ様の祟りが、あなたをーーエッ?」
班長の言葉がそこで止まる、なぜか。
「てめええよおお、どう見ても怪しいなあ!! てめえが黒幕かぁ〜!? あの人形のこと、アサマとやらのことに詳しそうだなあ!?」
味山只人が萬歳するような形で、植木鉢を持ち上げて。
「え、いや〜その、それはほら、これから會話をしながら聞いてくださ」
「じゃあ敵じゃねえか、この野郎!!」
「え、へ? ギャバ!?」
ドグシャ!!
植木鉢、班長の顔にクリーンヒット。そのまま仰向けに班長が崩れ落ちる。
こどもの聲は消えて。
「どいつもこいつも簡単に人殺したりしてきてよお!! 怖いんだよ、お前ら!! オラァ!! 出てこいや!! 人形、いや、ク(・)ソ(・)ガ(・)キ(・)ど(・)も(・)!(・)!(・)」
ぼう。ぎん。ずん。
TIPS"原人" ーーぼおう。
TIPS"鬼" ーーよっこいせ。
TIPS"河"ーーキュ!
右手に火を、左手の指はいつのまにか骨に。そして首筋にはうっすらとエラが。
神の殘り滓。味山が己の探索者道を取り出して。
「今度はきっちり、ゴーストバスターしてやるからよお!!!」
ホラーVS探索者。
イズ王國は決して招いてはならない男を招いてしまったのだ。
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
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【6月10日に書籍3巻発売!】 「ビアトリスは実家の力で強引に俺の婚約者におさまったんだ。俺は最初から不本意だった」 王太子アーネストがそう吹聴しているのを知ってしまい、公爵令嬢ビアトリスは彼との関係改善をあきらめて、距離を置くことを決意する。「そういえば私は今までアーネスト様にかまけてばかりで、他の方々とあまり交流してこなかったわね。もったいないことをしたものだわ」。気持ちを切り替え、美貌の辺境伯令息や気のいい友人たちと學院生活を楽しむようになるビアトリス。ところが今まで塩対応だったアーネストの方が、なぜか積極的にビアトリスに絡んでくるようになり――?!
8 64【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】
※書籍&コミカライズ決定しました!書籍第1巻は8/10発売、コミカライズ第1巻は10/15発売です! ※ニコニコ靜畫でお気に入り登録數が16000を突破しました(10/10時點)! ※キミラノ注目新文蕓ランキングで週間5位(8/17時點)、月間15位(8/19時點)に入りました! ある日、月坂秋人が帰宅すると、そこには三人の死體が転がっていた。秋人には全く身に覚えがなかったが、検察官の悪質な取り調べにより三人を殺した犯人にされてしまい、死刑となった。 その後、秋人は“支配人”を名乗る女の子の力によって“仮転生”という形で蘇り、転生杯と呼ばれる100人によるバトルロイヤルの參加者の1人に選ばれる。その転生杯で最後まで勝ち殘った者は、完全な形で転生できる“転生権”を獲得できるという。 そして參加者にはそれぞれスキルが與えられる。秋人に與えられたスキルは【略奪】。それは“相手のスキルを奪う”という強力なスキルであった。 秋人は転生権を獲得するため、そして検察官と真犯人に復讐するため、転生杯への參加を決意した。
8 151【WEB版】身代わりの生贄だったはずの私、兇犬王子の愛に困惑中【書籍化】
11月11日アリアンローズ様より【書き下ろし2巻】発売! 伯爵家の長女ナディアは、家族から冷遇されていた。実母亡き後、父は後妻とその娘である義妹ジゼルを迎え入れ溺愛し、後妻はナディアを使用人以下の扱いをしていた。そんなとき義妹ジゼルに狂犬と呼ばれる恐ろしい王子の侍女になるよう、國から打診がきたが拒否。代わりにナディアが狂犬王子の生贄として行くことになった。そして噂通りの傲慢な態度の狂犬王子クロヴィスは、初対面からナディアを突き放すような命令をしてきた。ナディアはその命令を受け入れたことで、兇犬王子は彼女に興味を示して―― ◇カクヨム様でも掲載 ◇舊題『身代わりの生贄だったはずの私、狂犬王子の愛に困惑中』※狂犬→兇犬に変更
8 74チート特典スキルは神より強い?
とある王國の森の子供に転生したアウル・シフォンズ。転生時に得たチート過ぎるスキルを使い、異世界にて歴史、文明、そして世界一の理すらも変えてしまう? これはとある男が10萬回、地球への転生を繰り返し集めた一億もの特典ポイントを使い、チートスキルを得て異世界にて無雙&地球には無かった楽しみを十分に満喫するお話。
8 147現実で無敵を誇った男は異世界でも無雙する
あらゆる格闘技において世界最強の実力を持つ主人公 柊 陽翔は、とある出來事により異世界に転移する。そして、転移する直前、自分を転移させた何者かの言った、自分の幼馴染が死ぬのは『世界の意思』という言葉の意味を知るべく行動を開始。しかし、そんな陽翔を待ち受けるのは魔王や邪神、だけではなく、たくさんのヒロインたちで━━━ ※幼馴染死んでません。
8 120史上最強の魔法剣士、Fランク冒険者に転生する ~剣聖と魔帝、2つの前世を持った男の英雄譚~
一度目の転生では《魔帝》、二度目の転生では《剣聖》と呼ばれ、世界を救った勇者ユーリ。しかし、いつしか《化物》と人々に疎まれる存在になっていた。 ついに嫌気が差したユーリは、次こそ100%自分のために生きると決意する。 最強の力を秘めたユーリは前世で培った《魔帝》と《剣聖》の記憶を活かして、Fランクの駆け出し冒険者として生活を始めることにするのだった――。
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