《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》905 一つの終焉

初手は軽く渾の右ストレートから。

え?全然軽くない?まあ、いつ潰れても構わないというスタンスですので。絶対に許すつもりはないけれど、長く苦痛を與えてなぶるような真似もしませんから。

「まず、自分よりも優れた人やモノがあることを許容できない狹量さがアウトだわ。周囲の人たちもそれに気が付いていたんだろうね。だから師匠を超えることもできなければ、組織の長に任じられることもなかったのよ」

「違う!我は結果を出していた!それをあの連中が醜くも妬んで認めようとしなかったのだ!」

「結果ねえ……。それって誰の基準で?」

「我の研究を最もよく理解している我の基準に決まっているだろう!」

うわー……。真顔で言い切ったよ。世間一般とのズレを認識できていないと、ここまで稽だったり哀れだったりするものなのか。

「はあ……。お話にならないわ」

やれやれだと言わんばかりに、アメリカンコメディ風な大仰さで肩をすくめつつ首を振る。もっとも、心境的には本當に呆れ返っていたので、それほどわざとらしくはならなかっただろうと思う。

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「なにを――」

「あなた基準の評価なんて、他の人にしてみれば何の判斷材料にもならないから」

周りの同意を得られていない、しかも研究者自らが勝手に設定した基準なんて、それはもうただの勝手な主張だ。し頭を使えば気が付きそうなものなのだけれど、自分が一番だと思い込んでいたから理解できなかったのかもしれない。

「わ、我の評価が無価値だと……」

ボクの言葉がショックだったのか、よろめくようにしながら後退りをしている。心なしかその郭が最初に見た時よりも薄くなっているような気もする。

これはもしかしてアレですかね。という鎧がないから神的なダメージがクリーンヒットしている狀態なのでは?

つまりは人格否定や罵倒(ばとう)する文句でも倒せてしまうのではないかしらん。

……やっぱりそれはダメだね。ボクが気にらないのはそのやり口や態度、考え方なのだ。真っ當にそれを突き崩していかないと、例え楽に勝ててもしこりが殘ることになるはずだ。

「だいたい、あなたは矛盾しているのよ。研究に沒頭していたいとか言いながら、どうしてこんな場所にいた訳?」

「け、研究には多額の金がかかるものなのである。よって後援者(パトロン)は必要不可欠なのである!」

一見筋が通っているようだけれど、本的に捉え違いをしている。そしてそのことを理解していない、いいえ、気が付いていながら目を背けようとしている節がある。

「ボクが問うているのはパトロンの有無じゃない。あなた自がこの地を拠點にしていることよ。どうしてこんな人間関係が煩雑になるだろうことが分かり切った大都市にしたの?なぜ権力の中樞だった『天空都市』に居るの?」

「ぬ、ぬぬぬぬぬ……」

まあ、答えられないよね。例え「平伏せさせてやる」という上から目線のものであっても、あれだけ蔑んでバカにしてきた人たちに対してそんなを持っていただなんて認められるとは思えないもの。

多分、この予想は間違っていないと思う。こいつはそんな強い承認求をめているのだろう。昨今のアニメや漫畫なら魔法の研究に傾倒していったことも含めて、この辺りで彼の昔語り風な回想シーンが挾まれていることでしょう。こんなやつでも力がなくで狀況に流されざるを得ない年期にまでさかのぼれば、それなりに悲劇的なバックボーンを形できそうですし。

もっとも、ボクとしては下手にをしたくないから、詳しい事なんて知りたくもないですけれどね!ぶっちゃけ、尺も足りない。スピンオフ作品で――製作に名乗りを上げる人がいるなら――頑張ってどうぞ。

「うぬぬぬぬぬ……」

當人はというと、相変わらず唸り聲を上げるばかりだ。きっと心では奧底に沈めていた心が浮かび上がってきて、それを必死に打ち消そうとしたり逆に認めるしかないとじていたりと忙しくしているのだろう。

実力行使に出るなと釘を刺しておいて正解だった。あれがなければが暴走して魔法を暴発させていた可能が高い。目撃者――ボクたちのことです――を消して完全犯罪立!と短絡的に考えるかもしれないからねえ。

さて、こちらとしてはそんな心の折り合いがついて落ち著くのを待ってやる道理などない。

むしろここが追い詰め時だろう。

「答えられないなら代わりに言ってあげる」

「や、やめ――」

「あなたが『天空都市』にこだわっているのは自分の力を見せつけたいため。あなたは他人を見下しながらも本當は誰からも認められたかった。自己顕示と承認求が凝り固まって大化した怪、それがお前の本なのよ」

「やめろおおおおおおおおおおお!!」

「否定するならさらに問うわ。どうして『天空都市』の人たちまで死霊化のに巻き込んだの?他人なんて必要ないなら自分一人だけ死霊になれば十分だったはずなのに」

とどのつまり、こいつは自分が一番でいたかったのだろう。一番になるためには二番以下の誰かが必要になる。神だけの存在となって永遠の時を得る、は『天空都市』維持のための力源とする、といったお題目に乗せられて、王以下この街にいた人たちはまんまとに巻き込まれてしまった。

ただし一點、誤算だったことがある。彼以外の全員が自我や生前の記憶をなくしてしまったことだ。

こいつの口ぶりや格からして大半がそうなるのは織り込みずみだったと思うが、王を始めとした実権を握っていた者たちや師匠だった宮廷魔師といった実力者は自我が殘ると考えていたのではないだろうか。

さっきも言ったけれど、一番になるためには二番目以下になる人たちが居なくてはいけない。つまり、「俺様凄いだろう!」とドヤ顔するための相手が、「いよっ、この天才!あんたが大將!」と持ち上げてくれる相手こそ必要としていたのだ。

「あ、あああ……。アアアアア……」

ついに本音を自分自に誤魔化しきれなくなってきたのか、他の死霊たち同様に虛ろな表へと変わっていく。だけど、それで終わらせるつもりはない。

「そうやって策を弄(ろう)した末に、お前の周りからは誰もいなくなってしまったのね。んだ理想郷なんてどこにも存在しないわ。さようなら、一人ぼっちの王様」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!?!?!?!?」

魂を削るような絶を最後に、死霊化の元兇となったそれは消滅した。

何一つ、その存在した証を殘さずに。

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