《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》14 文化の違いとその理解
大きな課題が発覚した日の午後。
俺達は、今日のところはいったんお屋敷に戻ることにした。
さっきは『習うより慣れろという言葉がある』とかなんとかカッコつけて言ったのだが……
相手がこのレベルだと、まずは座學でこの國の商売の一般常識を知ってもらわないことにはなんともならない。
そういうわけで、俺はお屋敷の食堂でフウリ達に々とこの國の通貨(マナ)についての基礎的なことを説明しようとしていた。
「これが『封霊石(ふうれいせき)』だ。マナを封じ込めることができ、封じ込めてあるマナの分量によって徐々にが変わっていくというものだ」
実際の計測には専用の計測を使うのだが、ある程度こなれた商人になれば味を見ただけでほぼほぼ正確に中のマナの量を當てることができる。
「命石(めいせき)のことですね。それは、一応知っています」
封霊石についての説明を始めた俺に、シオンがそう応じた。
「知っているというと……どんなことを知っているんだ?」
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「我々エルフ族にとっては、狩りや戦に出る戦士たちが家族や親しい者に預けて行くものですね」
「そうだな。俺たちの國では、その使い方をする場合はこれを『キズナ石』と呼んでいる」
「『封霊石』ではないんですか?」
「『封霊石』というのはこの石自のことだ。そこに生者のマナを封じ込めると、シオンの言う『命石』……、俺たちの國では『キズナ石』と呼んでいるものになる」
「なるほど。使い方によって呼び名が変わるのですね」
シオンが額に手を當て、若干天を仰ぎながらそう言った。
『キズナ石』はシオンの言うところの『命石』のことだ。
だが『命石』は、俺たちの言うところの『キズナ石』または『封霊石』のことになる。
その辺が、シオンにとってはなかなかややこしいようだった。
「それで、俺たちはその『封霊石』にモンスターのマナを封じ込め、それを通貨として使っているんだ」
「なるほど。それで、マナが封じ込められた『封霊石』を『キズナ石』というのですね」
「いや、違う。モンスターのマナがった、通貨として使われる『封霊石』は……『マナのった封霊石』だ」
「で、では……マナのっていない封霊石は?」
「『ただの封霊石』だな」
「っ!」
それを聞いたシオンは、絶的な顔をしていた。
『キズナ石』はシオンの言うところの『命石』
『命石』は、俺たちの言うところの『キズナ石』または『封霊石』
そこへきてさらに『封霊石』は『ただの封霊石』と『マナのった封霊石』に分かれ、そのうちの『マナのった封霊石』にあたるものはエルフの世界には存在しない。
「ややこしいけど、一応わかりました」
あまり深く考えたことはなかったが、確かにこの辺はちょっとややこしいかもしれない。
「でもそれなら、自分のマナを封じ込めれつづければ、いくらでも『マナりの封霊石』が作れてしまいますね」
「ん?」
シオンはどうやら『キズナ石』と『マナりの封霊石』をごっちゃにしてしまっているようだった。
「いや、それはできないんだ。人のマナを封じ込めた『キズナ石』は、俺たちの國では通貨としては使えない。モンスターのマナを封じ込めた『マナりの封霊石』だけが通貨として使えることになっていて……」
「しかし、モンスターのマナもエルフや人間のマナも、本的には何も変わらないはずなのでは?」
「私達の教えでは、そういうことになっていますね」
そこで、アマランシアがフォローをれてくれた。
どうやらエルフ達の中では、モンスターのマナとエルフのマナは完全に同一の質のものだと考えられているようだ。
「白魔師たちの研究によると、どうもそれらはかなり質が違うものらしくてな……」
「いや、しかしそれだと……」
「~~~」
「~~~」
やはり、なかなかに手強い。
シオンもフウリも、下手に『エルフの常識』という前報が頭にある分、本當に何も知らない子供に教えるよりも逆に大変な狀態になっているように思えた。
ただ、一応みんなやる気と歩み寄る姿勢はあるので、そこだけが救いだった。
「わかったよ。とりあえず、この國ではそういうことになってるってことね」
フウリがめんどくさそうにそうまとめた。
「フウリの言うとおり『人間の考えはそういうもの』だと思ってとりあえずは理解しておいてくれ。何もそれを心から信じ込めというわけじゃない」
そうは言ったものの、シオンはなかなかに納得がいかないようだった。
→→→→→
「今日はここまでにしようか。初日からあまりを詰めすぎても良くないからな」
そう言って俺が本日の座學會の終わりを宣言した時、フウリとシオンはすでにぐったりとしていた。
「キツイねこれ」
「ええと、黒いのが10萬マナりの封霊石で、それ以下になるとだんだんと紫になっていって……」
「最初からそんな高額の取引はまずしないだろうから、まずは0〜1000マナの、白〜緑の味を大まかにでも覚えた方が良いだろうな」
「ええと……、白っぽいのが0マナで、1〜9マナにかけてだんだんと赤くなって、それから10〜99マナにかけて黃くなって、その次が緑で……」
「……」
なかなかに先は長い。
「……と、シンリィ?」
「はっ! すみません寢てしまっていました!」
そして、シンリィに至っては普通に睡していた。
一見、大人しく話を聞いていると思っていたのだが……
「出たな、シンリィの聞いてるフリ。頷いてると見せかけて揺れてるだけっていうやつ。相変わらず上手いなぁ」
「西の長老が何か話してる時も、よくそうやって聞いてるフリして寢てたわよね」
フウリとシオンに次々と指摘され、シンリィは若干泣き顔になっていた。
「ごめんなさいごめんなさい! アルバスさん! もう一度だけお願いできますかっ!?」
「いや、今日はもう俺の方が疲れた」
「ひー!」
「責めてるわけじゃないから、あんまり気にするな」
シンリィが興味を持てるような話が出來ていなかった俺にも問題がある。
さらには、自分が話すのに夢中になり過ぎてシンリィが寢ていることに気が付かなかったことも問題だ。
「私もなんだか疲れたので、夕食前の気分転換に湯浴びをしてきますね」
「あ、じゃあ僕も」
そう言って、シオンとフウリが部屋を出て行った。
「……ん?」
なんか、ごくごく自然に二人で出て行ったけど……
このお屋敷の風呂は一つしかないので、夕方から夜にかけては時間帯別に男で分けている。
それ以外の時間だと、り口に名前を書いた紙をって『ってます』と主張することになるのだが……
あの雰囲気は、今から普通に二人で同じ風呂にるというじだろうな。
「あの二人……そういう関係なのか?」
アマランシアに向けて、そう尋ねてみた。
ここ最近は割と近にいたつもりだったのだが、そのことには全く気が付かなかった。
「結婚しているわけではないですよ。あの二人は同郷で、同じ里のたった二人の生き殘りなので……、おそらくは姉弟のような覚なのでしょう」
「……そういうもんか?」
人前の子供じゃないのだから、例え姉弟といえどを見せ合うのはどうかと思うが……
「エルフ族が普段水浴びをする森の泉などには、目隠しや仕切り板などはありませんので……、ある程度仲が良ければ、例え異が相手でもを見られることなどあまり気にしないんですよ」
俺の思考を読んだかの如く、アマランシアがそんなことを教えてくれた。
「……なるほど」
やはり、意外なところに意外な常識の違いが潛んでいるようだ。
そんな中にあって、人間とエルフの両方の文化をよく理解しているアマランシアの存在は、この上なく有難いものだった。
「じゃ、シンリィも行ってきます! ……せっかくだから、頭目とアルバスさんも一緒に來ますか?」
「私は後にします」
「俺も、遠慮しておく」
一瞬、お屋敷の風呂にアマランシア、シオン、シンリィの三人がでいるところを想像してしまった。
「我々のことをより深く理解するためにも、アルバス様は行ってきたらどうですか? フウリもシオンもシンリィも、アルバス様が相手なら全く気にしないと思いますよ」
「……俺の方が気にするんだよ。違いを理解することは重要だが、お互い無理して相手に合わせる必要はないだろう」
「そうですね。ふふふ……」
アマランシアは全部わかっていて、そんなことを言って俺をからかっているのだった。
→→→→→
「あ、シュメリアだ! シュメリアもお風呂りますか? フウリとシオンが先にってますよ!」
食堂の外から、シンリィの聲が響いてきた。
「えっ、えっ!? フウリさんとシオンさんが二人でお風呂に? えっ、なんで? もしかしてそういう関係で……」
「シンリィも今から行きます!」
「えっ……? ええっ!! いったいどういう事ですかぁっ!?」
廊下からは、シュメリアの慌てふためく悲鳴のような聲が聞こえてきた。
これは、後でフォローをれておかないとだな。
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