《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》137話 ”人よ、神に逆らうべからず”・熊野ミサキの敗北とイズ高校オカルト部の最期の場合

「ぎゃははははは! 植木鉢アタックの威力を見たかよ! て……めえ」

耳のを幾度か使って分かったことがある。

めちゃくちゃにこれ、”酔い”が回るのだ。

死という人間にとって最も恐るべきことからの卻、が再生し、再構されるときの言葉に出來ない萬能

力を振り回す快楽は確かに存在し、そして味山はそれをせるような特別な存在ではない。だが……

「……やべえ、ゴーストバスターの前に人間やっちまったか?」

復活直後のノリノリなタイミングで思わず、植木鉢を投げてしまった。

それもとっさの出來事のせいか、はたまた相手が胡散臭かったせいか。味山のは無意識に怪種に向けるくらいの勢いで”班長”に攻撃していて。

「――あはは~、いや~驚きました~え~、探索者ってみんなこうなんですか~? いやいやいや違いますよね~、他の方はもうしまともでしたよ~」

「お?」

むくり。班長が起き上がる。自分の薄い髪のに散らばった植木鉢の土を掃いつつ。

「あはは~アサマ様の加護ぞあれ。無駄ですよ~、私への攻撃は――」

TIPS€ ”神権限”により神話攻略前の神種には定命の者による攻撃は通用しません。

「うおっ、良かった! 死んでなかった!! いや~安心したぜえ。人殺しにはならなくて済んだみたいだ、あービビった」

本気でほっとをなでおろす味山。それを見た班長はにこにこのエビス顔のままし固まる。

「……ほんのし、ぞっとしますね~、あなた心の底からそう思ってるんですね~……というか、なぜ、あなたがここに……いえ、今はもういいです。さて、味山さん、どうしたものでしょうか~私、あなたの処遇を非常に悩んでおります~、生かすか、それとも、殺すか」

「あー? 何言ってんだ? だが、俺も奇遇だな、俺もアンタの処遇を検討中だぜ」

「ん~、どういう意味でしょうか~?」

班長が味山の言葉に首を傾げて。

「お前をどれだけぶん毆ってもいいかの検討をしてんだよ。熱いのも大丈夫かァ?」

Advertisement

ぼおおおう。味山の右腕の火が興したように燃え盛る。それを見た班長がぴくりとを震わせた。

「……古い、火……下手をしたらひのやぎよりも……? 一それは……まさか、神の殘り滓……?」

「あ? なんか、アンタ妙なことを知ってるな。やっぱあれか、てめーかなり悪の奴だな」

「さー、どうでしょーう。……味山さん、あなたの力はとても稀有なものです。アサマ様に一度見つかってなお、心も命も両方失わなかったのは、初めてです。うーん、実にー、惜しいですねー」

「いやなにそれほどでも」

「うーん、惜しい。今、我々イズ王國は人材をしてまして……今日見たことは忘れて、わたしと組みませんか?」

「組む?」

「はい〜、ともにアサマ様を奉じて、王國を盛り立てましょ〜、サキモリ、指定探索者でさえ膝を折るかのお方のお力のもと、どうでしょう、新たな世界で新たな國を作りませんか?」

班長がそこでいったん言葉を止め。

ゆっくりと、そのニコニコ顔に隠れた瞳を薄く開き。

「アレフチームの味山只人さん?」

月のが、味山と班長を照らす。

「お前……」

イズ王國の人間は味山をアレフチームとは認識していなかったはずだ。つまり、この班長は最初から――。

この時點で味山の検討は終わった。

「おっと、つい口がってしまいました〜、それで答えは、ーーおおっと」

班長の言葉はそこで止まる。何故なら、すでに。

「お前、とりあえずボコボコにするよ」

「え~なんでですか~、もうしお話しましょうよ~」

「無理だな、お前、なんか無にムカつくよ」

2つ目の植木鉢を味山が無表のまま抱えて。

「ッあははは〜、さすが、探索者ですね〜」

「殺す気はねえから死ぬなよ! 手がかり! アサマとかいうのとか、あとてめえ自の事とか! 教えてくれよ! 々とお!」

「ーーーー……うわ、驚きました、呼びかけに完全な無視ですか。神の殘り滓との完全な五分の関係……あなた、本當に人間です?」

Advertisement

班長がなにやら呟き、そして初めて焦った顔を浮かべる。

耳の大力、はつど――。

「殘念ですね〜渉決裂で〜す。熊野さーん、出番ですよ〜」

TIPS€ 警告 號級の発を確認

「ッ!? 號級!?」

植木鉢を反的に班長へ投げつけ、瞬時に味山がその場に伏せる。

撃や銃撃と同じでを敵に回す時はまず回避行から始めるのが鉄則だ。

ぱりいいん!!

響く音は空中で植木鉢が砕けた音。

かすん、かすん。

頭上を、何かがかすめていく。

壁に突き立つそれは、黒い羽……?

「おっ、なんやなんや、ええ反応するなァ! お兄さん、それに普通あのタイミングで植木鉢投げるか? 人間としてはやばいけど、探索者としては歴戦やなあ!」

快活なの聲。いつから、どこから……?

「さすがで〜す、熊野さん。いいじに見守ってくれてたんですね〜」

「人使いすぎやろ、おっちゃん。こちとら忙しいねんぞ。アサマ様のお食事の準備に、昨日はリュウグウサマへ叛逆者を屆けたりとか……で、この兄さんが昨日アンタが言ってた本當の敵って奴か?」

がいた。

セミロングの髪、くくられた一房の三つ編み、白い巫服、華奢なに、黒い、巫服……?

のオレンジの瞳には、黒い羽のような文様が散らばって。

「お前……探索者か?」

その所作、たたずまい。味山は無意識にそのを探索者だとかんじた。

よく知っているあの英雄バカや英雄ガチ勢と同じ、一部の特別な存在の圧。

人間の形をしているのに、それに収まらないような覚。

「ハッ、同業かいな! 酔狂やな、兄さん! こないな所にやってきてまうなんて! ほんと、笑えん話やわ」

TIPS€ 警告・指定探索者だ。

「っくそ! どう見ても味方じゃないなあ!」

「なはははははは! よおわかっとるやんけ! 話早くてやりやすいわ!」

ばさり。

服関西弁のの背中から黒い翼が生える。

、形狀、構造。

……?」

Advertisement

味山が呟いて。

「観察眼もええ! あんた、慣れてんなぁ! 戦うっちゅーことに!」

ぶわり。がその圧を覚えている。

あの荒ぶる嵐と相対した時と同じ。號級

世界を変える力をめた存在、一國の軍事力に數えられる存在の力の圧。

「――熊野先輩!!」

「っお! 桜野くん!?」

「味山さん! お待たせしました! 桜野です!」

背後から響いた青年のさわやかボイス、フジ山お面のイケメンボイスの桜野が突然現れた。どうやら合流が間に合ったらしい。

「おお、桜野かァ、遅かったなァ、まちくたびれたで」

「味山さん、彼が俺と一緒にイズ王國へ潛したニホン指定探索者、サキモリの熊野先輩です! お願いします! 彼を取り戻すために一緒に戦ってください!」

「お、おお! わ、わかった! ど、どうすりゃいいんだ!?」

「死なない程度にぶん毆りましょう! アサマの洗脳を解くために!」

「わお、探索者らしいやり方」

味山の一歩後ろで桜野が構える。TIPSが正しければ彼もまた持ちの探索者。

ならば、號級相手にもやれるかもしれない。

「ハッ、ウチもみくびられたもんやなあ。出來るもんならやってみいや! ウチはアサマ様にこのを捧げた、あのお方に害する存在は全部、ウチがいてこましたるわ!」

「味山さん、俺がで彼きを止めます! 前衛お願いできますか!?」

「了解、フォローよろしく」

「はい! 熊野先輩! 行きますよ!」

「……ほんま、こわいやつやで。ええよ、來い! 相手しちゃるわ、侵者!」

「うし、桜野くん、3.2.1で突っ込むぞ」

出し惜しみする気はない。

味山が火の準備、焼によるカウントの作の覚悟を決める。

めちゃくちゃ熱いし、痛い、が。

”耳男”を使う時だ。

「わかりました、ご武運を、味山さん」

「よおし、3.2.いーー」

味山が背後を桜野にまかし、意識を前方へ、完全にーー。

TIPS€ 警告、背後での発を確認。

よし、同時に仕掛けるつもりか。

味山が耳の大力を使用し、突撃しようとして。

TIPS€ 警告・夢見草(ソメイヨシノ)発

――お前を狙っているぞ

「えっ」

ぼしゅう。

味山が、こける。何故か。

その右足が、樹に、桜の花が咲く樹に変わってーー。

「ごめんなさい、味山さん」

倒れた味山が上を起こして振り返る、そこには無表でこちらを見下ろす指定探索者の顔。

「は!? 桜野!? なんっーー」

「悪いなァ、兄さん、これもウチらの仕事やねん」

「ギャ!?」

ひゅん。

関西弁巫服の翼から弧を描いて放たれた巨大な羽が味山の背中を真上から貫く。

地面にい留められて。

「ふうっ……よかった、不意打ちが効いて。でも、流石です、味山さん。ギリギリで気付かれた時はヒヤヒヤしましたよ」

「桜野、話が違うで。本當ならこの兄さん、中央棟で片付ける予定やったやろ」

「すみません、先輩。あの警察たちに撃ち殺されるか、中央棟にいたアサマ様に呪われるかで終わると思ったんですけど……まさかここまで辿り著くとは。まさか、本當にヤチヨ、の人だったりして」

「え! この兄さん、ヤチヨなんかいな!? ほへー、初めて見たで! 実在したんやな!」

「ああ、違いますよ、先輩。話を合わせてカマかけただけです」

けろっとした聲で、桜野が呟く。からん、お面を外す、そのさわやか塩顔イケメン顔の目は黒い靄が混ざり、濁っていた。

まずい、耳、耳男を。

味山が力を振り絞り、震える手で火を燈そうとして。

「……ほんと、ゴメンな」

の聲が上から。ごんっと強い衝撃を頭にじて、味山の意識はそこで終わった。

◇◇◇◇

〜1日前、イズ王國、南イズ地域、”域。リュウグウクツ”にて

探索者法・第13條、1項。

”全ての指定探索者の存在意義は人類の繁栄とその保護のためにある。非常時においてはその能力の全ては國家の武力としてでなく、民間人の日常の安寧の為に発揮すべし”

失敗した。

完全にウチらは失敗した。

簡単な任務ではないとは思っていた。でも、敵は予想以上の化けやった。

『ー―あそぼう』

ウチは、負けた。

それを見てしまった、聞いてしまった、知ってしまった。

とても古いかみさまの話。人間が好きな神様の話。

そして可哀想なこどもたちの話。

ウチはそれに同してしもうた。

やから、負けた。せやから、失敗した。

そして、今、これからも失敗する。

波の音が聞こえる。

火山活によって海から隆起した地表に、波が打ち続け、窟になる。その窟の天窓が崩れて、その場所は生まれた。

龍宮窟。

そう呼ばれた海食はきれいな場所やった。

海から波がしみ込んでくる砂利じりの砂浜。

そこには人が並んでる。

手を縛られて。腳を黒い羽で穿たれて。

彼ら、彼らのが砂浜にじわりとしみ込んでる。

「ひ、ひ、いや、だ!! やめて、やめてやめてやめて! よして! いやだ!! 食べないッ『ぺろんちょ』

ぶしゅ。

目の前で、人が死んだ。

棘のついたブヨブヨ、それは舌や。

『こってり、じゅーしー』

リュウグウサマ。

チョウチンアンコウみたいな顔に、建ような大きな白い

リュグウクツに棲まう人食いの化けの舌が、人の、本來ならウチが守らなあかんこの國の人の命を舐め取った。

「……」

舐め取られて縦に削がれた顔。

足を羽で刺され、後ろ手を縛られ、きの取れない制のまま顔からを吹き出してそのまま倒れる。

その足を刺したのは誰や。

ウチや。

その手を縛ったのは誰や。

ウチや。

「うそ……翔くん……? え……?」

『さっぱり、まろやか』

もう1人のの子。まだ若い、高校生くらい。これから未來のある子達。

それは本來、ウチらサキモリが、指定探索者が守らなあかん未來の種達。

命令やった。

アサマ様の神司である”班長”からの。イズ高校に潛し、全員を生け捕りにせえちゅう命令やった。

「……」

白い髪の人さん。うつむいたまま微だにせん。部長さんや。

「やだ、やだっ、やだあああああああああああ」

泣き喚く可いお嬢さん、部員の牧原さん。

「くそ、翔……」

鋭い目の細の男、よう口が回る賢い子、梔子くん。

「うそ、だよね、翔?」

日焼けしたに長い手足、運神経抜群のスポーツの高原さん。

みんな、ええコたちやった。

イズ王國に殘った反抗勢力。最後のひとつ。”イズ高校・オカルト部”はアサマ様の正に最も近づき、挑んだ。

神様に彼らは正々堂々挑み、そして、負けた。

ウチが、負かせた。

「はーい、みなさーん。ご笑覧くださーい。ここにいる5人の學生さん達はなんと〜アサマ様の教えに従わないばかりか〜、アサマ様のことを神ではないと貶めようとした罪人で〜す! イズ王國の守り神、化けから私たちを庇護して下さってる神様に向けてなんと、罰當たりなことでしょうか〜」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。

砂浜にはフジ山お面の大人たち。周りに広がる大衆達、男の言葉に拍手を返す。

異常な景や。人が化けに喰われたのに、誰1人揺すらしとらん。

「よって、アサマ様のご盟友であらされるここ、龍宮窟の主、リュウグウサマの供となってもらうことにしました〜卑しい罪人の魂は、リュウグウサマと一つになることで、清められまーす」

ずぷん、ぱき、ばき。

「あ、うそ、噓! ヤダ! 翔くん、翔くん!! やめて!」

顔を舐め取られて死んだ子のを、化けの舌が絡めとり、そのまま口の中に。

ぽきん、ぽきん。骨ごと噛み砕かれ、咀嚼される音がウチの耳に。

なんや、これ、なんや、これは。

「それではこれより、イズ高校オカルト部の皆さんの公開処刑、いえ、お清めを始めまーす!」

班長が楽しそうに聲を張って。

「アサマ様は本日、彼らを捕らえた時のお疲れを癒すためにお休みです。今回は、この私、イズ王國"班長"と〜、彼ら反逆の徒、イズ高校オカルト部の皆様の捕縛に大きく貢獻して下さり、アサマ様の巫として認められた"熊野 ミサキ"さんが取り仕切りまーす、拍手〜」

ーー拍手の音が鳴り響く。

ウチは、ウチのは恭しく頭を下げて、禮をしてしまう。心がを掌握できひん。

まるで映畫か何かを見てるみたいに、ウチの目の前で、全てが進んでいく。

「恐れります、班長さん。今日はめでたい日です、アサマ様に歯向かう輩がいのうなる、お力添えの一つとなれて栄です」

誰かが、喋ってる。

アホか、ウチや。ウチが喋っとんのや。

「く、熊野さん!? な、なんで!? なんでですか!! なんで、裏切ったんですか! あなた、ニホンのサキモリなんでしょ!? なんで?」

拘束された學生の1人、ああ、長高いスポーツの高原さんや。彼が聲を張り盛んばかりにぶ。

「ん〜裏切るもなにもなあ。ウチは最初から、アサマ様の巫さんやさかいに。作戦っちゅー奴や。君らんとこの部長さんは最後までウチのこと疑ってたけどなあ」

「……」

口が、勝手にく。映畫を見てるように俯瞰する。ウチのでウチやない何かが喋る。

いや、ちゃう。あれは、紛れもなくウチや。何人のせいにしてんねん、ダボハゼが。

「なんで……なんでよ! 翔が、死なないと行けなかったの! くそ、くそ!」

「簡単なことですよ〜高原さん、あなた達はイズ王國の反逆者だからで〜す。罪には罰を、罰には死を。この厳しい世界には、厳しい理が必要、ププッ、なのでーす」.

「そんな理知らない!! ふざけるな、ふざけるなよ! そんなことで人が死んでいい筈がない!」

「おお〜高原さ〜ん。あなたはオカルト部の中でもほんとに気高く、心が強いですね〜、死を前にして〜そこまで吠えれるのはとても、素晴らしいで〜す」

「悪趣味やなあ、おいちゃん。はよ終わらしたりや、かなわんで、若い子が死に急ぐとこ眺めんのは」

「熊野さ……いや、熊野ミサキ!! アンタは、アンタは最低だ!! なんだよ! 指定探索者って凄い人なんだろ!? サキモリは怪から人を守る為にいるって言ったのに、なんでーー!?」

ほんとに、なんでやろなあ。ああ、くそ、かん、何も考えることが出來ん。

なのに、口だけいてまう。

「……ッ、あ。な、ははは。痛いとこつくなぁ、高原ちゃん。あれ、ほんとや、なんで? なんで、ウチ、あれ……?」

ほんとや、ほんとやん。なんで、ウチはこれを突っ立ってみてんねん、ウチは、ウチはーー

おかあさん、どこ?

あーーそう、や。

あの子、あの子達があまりにも、哀れで、可哀想、で……

「は〜い、熊野さん、そこまで。罪人の言葉を聞く必要はありませ〜ん。さて、高原さん。どうしましょうか〜もしかしたら〜今ならアサマ様に誠心誠意心から謝れば許してくださるかも知れませんよ〜」

「う、噓だ! アンタみたいな人の言う事は信じない! よくも、翔を……殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやる……」

ぞわり。

その子の足元から何かが滲み出る。その子の髪が逆立ち、耳が尖り始めてる。

「おやおや〜やっぱりい〜、そうですかあ、"神の殘り滓"がいいじに行き渡ってきましたねえ〜。でも、和解や會話まではしてなさそうだな〜、でも、今は、熊野さ〜ん」

「ほい、ほいっと」

「あぎゃゥ!?」

ウチの手から放つカラス羽の矢が、あの子の足に突き刺さる。地面と足をい付けた、もうけんよ。

「高原ッ……! くそ! オイ、頼む、もうやめてくれ!!」

5人のうちの1人、短髪の男の子がぶ。

「おや〜梔子くん。ダメですね〜命乞いのタイミングが違います。減點で〜す。ほら、チャンスは一回だけです。君はこれまでもよくく舌で、危機を逃れてきましたね〜アサマ様の権能すらも誤魔化したその弁に敬意を払って……どうぞ、何か、一言……?」

「……お『ペロン』

「え?」

「へ?」

ぶちゅ。

短髪の男の子が顔を上げた瞬間、化けの長い舌がカエルみたいに飛び出して、その子の首を攫っていく。

ぴゅー。

噴水みたいに赤いを流す首の斷面。が、ようやく今首がないなったことに気付いたように、倒れて。

「あらら~、ごめんなさい、も〜リュウグウサマダメですよ〜梔子くんが頑張ってスピーチにチャレンジしようとしてたのに……う〜ん、でもやはり、説得や脅迫も前提にはきちんと暴力がないと難しいのかもしれませんね〜」

言葉で危機を乗り越えようとした子は、言葉を繰る前に化けに食われた。

彼の首なしのもまた化けの舌に巻き取られ、そのままするりと飲み込まれていった。

「アッ、アアアア……!!」

「あ、ああ、梔子くん!? やだ、もう、やだよお!」

「……………」

地面に頭をり付けて唸る高原さん。泣き喚く牧山さん。そして黙って俯いたままの部長さん。

「おっと〜良い気迫ですね〜高原さん。神の殘り滓、"貓又"が土壇場で貴に力を貸したのですか〜いいテストになりますね〜ああ、でも、愉快なオカルトクラブのメンバーも殘り3人になってしまいました〜」

「ふ、フッ、フッ!!」

「ああ、あああああ〜わあああああああ」

「…………負け、か」

オカルト部のメンバーも殘り3人。ようやったよ、君たちは。ただの學生が本當によう頑張った。

……いや、何を言うてんねや、助けろやボケ。おい、聞いとんのか。ウチ、おい。やめろ。

「さて〜元気な男の子達2人はもう、リュウグウサマのお腹の中。牧山さ〜ん、次行ってみましょう!」

「ヤダって! 本當にやめて! え、噓! うそうそうそ! 私、死ぬ、死ぬの!? やだ、ヤダ! 高原さん! 助けて! 部長、なんで、私は死なないって! 噓、ヤダ!」

「やめ、やめろ! おい! 聞いて、くそ、け、け、け」

「あ〜そうだ〜リュウグウサマ、ストップで〜す」

『イウコト』

化けが牧山さんに向けていた舌をぴたりと止めた。

「えっ」

「せっかくの機會なので、來るべき時の練習をしてみようかなと〜、あ、熊野さん、高原さんの拘束外してもらって良いですか〜?」

「ええんかいな?」

「オッケーで〜す。試してみたいことがあるので。えーと、そうですね、なんと名付けるべきか。伝承再生では蕓がありませんし、そうですね〜。ーーーー」

班長が妙な手のき。

「ッあ」

「え? アッ」

つぷ。

次の瞬間には、の子がの子の首に齧り付いてた。

「あ、え……た、かはらさん?」

「ふ、ふしゅー、ふしゅうううう!!」

何獣の瞳、獣の耳、人間の形相ではない顔での子の首を噛み続ける。

「あはは〜、貓又の本能的に弱い獲から狩ろうとしてるんですね〜面白いです。ふむふむ、會話や和解、あるいはそれ以外の何かで対等な関係を結んでいない殘り滓は、こうしてを乗っ取るわけですね〜」

「ふしゃるる、るゔゔゔゔぅ」

「や、やめ、て、たかはらさん、いたい、痛いよう……あ、が、あ、痛い、痛い、痛いよおおおお、やめて! た、助け、死んじゃう、死んじゃうってば! やめて!」

「るゔ」

「……! ヒュ、あ」

ごり、ごり。

貓又と呼ばれたの子が、獲笛を噛みちぎった。獲となったの子はもう悲鳴すらべん。

爪が牙が、そのを裂いていって。

「あはは〜ライオンがガゼルを仕留めるみたいですね〜、やはり神の殘り滓に適応した人間は常に乗っ取りの危険めている、と。ふむふむ、では、実験その2に移りましょ〜。ほい、解除っと」

「えっ」

の子、高原さんが正気に戻る。

そして気づいてまう、自分が最悪をやらかしてることに。

「あ、あああ……あああああああああ!?」

口元を友達ので真っ赤に染めて、ぶ。

「あ〜あ。可哀想ですね〜高原さんが噛み殺してしまいましたね〜。友達のの味、友達の噛み心地、骨のや筋の舌りはいかかでしたか〜、たまらないものでしょ〜?」

「う、わ、ああああああ、ヤダ! もう、もうやだ! これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ……!」

「あらら〜壊れてしまいましたか〜? でも、ダメで〜す。オカルト部の皆さんには割とイライラさせられましたので〜最上級の絶と共に殺しま〜す。はい、それでは特別ゲストのお二人にご登場して頂きま〜す」

「」

「」

からん。

大衆の中から現れた2人の大人。フジ山お面が割れて。

「お母さん、お父さん……?」

にっこり。微笑んだままの男

白裝束を著た2人の男。それをみた高原が黙る。

あかん、これは。これだけはあかん。

止めんと、これは止めんと本當にダメーー

「熊野さ〜ん、高原さんの足、壊してくださ〜い」

「はいよ」

うちの、言うこと聞かん。

手のひらに現れるカラス羽、尖ったそれを弾いて。

「う、あ!? いたい、いたいいいいい、お父さん、お母さん!! たすけ、助けてよおおおお、わあああああ」

突き刺す。

「」

「」

娘が親に助けを求める。気丈に頑張ってきた子ももう、限界や。

「お母さん……? お父さん……?」

「」

「」

ニコニコ、ニコニコ。

2人の男の顔は変わらん。り付けたような笑みのまま自分達の娘が泣き喚き続けるのを眺めるだけ。

「さあて〜それでは始めましょ〜高原風香さんの処刑を〜、ではお父さん、お母さん、お願いしま〜す」

「」

「」

「え、えっ、えっ!?」

ずる、ずる、ずる。

「な、なん、なんっで? なんで!? お父さん、お母さん!? なんで!?」

「は〜い、殘念ですが〜高原さんの聲はお父さんお母さんには屆きませ〜ん。今から何が起こるか、あはは〜ーーそんなのわかりきってるでしょ」

『オヤコドン』

あんぐり。

リュウグウサマが、口を開く。に濡れた鋭い牙がずらり、口の中は暗く、先など見えるわけもない。

これから最悪が始まる。

「ッーーやだ! ヤダっ!! ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!」

「」

「」

「アサマ様に逆らうような悪い子の責任は親の責任でもありますので〜、子の不始末は親さんに清算してもらいましょ〜う」

「」

「」

あかん。なんや、これ。

「やめて! お父さん! お母さん! わからないの!? 私だよ!! 風香だよ! なんで!? どうして!?」

「」

「」

親が、子を引きずっていく。泣きぶ子を、ニコニコと微笑んだままに。

何のために?

決まってるやろ?

『オヤコドン、オヤコドン』

化けに、喰わせる為に。

「ヤダ、なんで!? あ……ごめんなさい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 私が、私が悪かったです! 風香が悪い子でした!」

「おや〜?」

その子の命乞いに班長がにんまりと。

「アサマ様に、アサマ様に逆らってごめんなさい!! 私が、間違えてました! もうしない! もうしないから、許して!!」

「ん〜? 親さんに決めてもらいましょうか? どうします〜? オタクの娘さんはこう言ってますが〜」

「」

「」

親の顔は変わらん。ニコニコしたまま、ずるずると娘を引きずっていく。

の跡が、砂浜に。

「ヒッ、な、んで? なんで!? やだ、お父さん、お母さん! まだ私死にたくないよ! まだ、やりたいこと沢山あって! 私、私! なりたいものだって』

け、けや。

これはあかんやろ、これはダメやろ。指定探索者やぞ、サキモリやぞ、けや。

「部長!! 助けて! 助けてよ! 翔! 梔子!? まきちゃん!! 貓さん、ねえ!? なんで!! なんで、誰も!? やだ! ヤダヤダヤダ! お父さん、お母さん! やめて、助けっーー」

こう言うのを何とかする為に、ウチはーー。

「」

「」

「あっ」

『イタダニマス』

「い、ヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

もぐ。

悲鳴ごと、化けがそれを喰らう。

一口で、全部終わり。3人の人間が食われた。最後まで親は子を庇うこともなくて。

ウチは、何をしてんのや、何を見てーー。

「さて、熊野さん、最後の1人ですよ〜」

「せやなあ、おっちゃん。まあ、隨分と部長さんはお靜かなようで」

「……」

1人殘されたのは、白髪の珍しい容姿のの子。

慘劇の中、ずっと1人俯いて。

「あなたが1番厄介でしたね〜部長さん。煮湯を飲まされました〜。最初から、決めてたんですよ〜貴は最後に殺そうって」

「……」

「ああ、なるほど〜何も言うつもりはないんですね〜うーん、もう割と飽きてきたんでいっか〜、リュウグウサマ、いっちゃっいましょうか〜」

のそり、化けが口を開く。

長い舌で部長のを巻いて、ヒョイっと持ち上げる。

その子は悲鳴を上げんかった。

「あっ」

こちらを見つめる、目が合って、その子が口を開いた。

ウチに向けて。

「ーー恨みます、でも」

「ーーーーーす、指定探索者」

ブチャ。

何を言ったんやろか。でも、部長ちゃんは何かをウチに伝えて、そのまま食われた。

白い髪のがはらりと砂浜に落ちて、海風に攫われていく。

「ハーイ、さよならー、さよなら、さよならー。イズ高校オカルト部の勇敢で愚かな皆さん、お疲れ様でしたー! 皆さーん、リュウグウサマに拍手を〜」

『ショクヤスミ』

化けが満足そうに目を細めて帰っていく。人間の味にご満悅。

「さて、それでは〜そろそろ戻りましょうか〜」

「趣味の悪い仕事やな、ほんま。疲れたわ、全く」.

「おやおや〜熊野さ〜ん、貴まだ微妙〜に自我が殘ってらっしゃいますね〜あはは〜いつまで保つかたのしみで〜す。でも、熊野さんにはもう一仕事お願いしますね〜」

「なんや、おっちゃん。意味わからん事言うてからに。仕事お? 人使い荒いんと違うか?」

「そんな事ないで〜す。いえ、なに、し護衛をお願いしたくてですね〜……明日辺り、しイズ王國に、……厄介なのが紛れ込む気がきてまして〜」

「アサマ様の指示なら聞く」

「アサマ様からの神託で〜す。黃金崎にいる桜野さんと合流、彼に一芝居打ってもらい導します〜まあ、細かいことは現地にて〜」

「何が來るんや?」

「こんな、覚悟の足りない學生のごっこ遊びなんかじゃなく、本の、我々の敵と言うべき存在でしょうか〜」

「だから、誰や」

「探し索る者」

「あ?」

「きっと、あなた達のようにアサマ様に魅られることもなく、きっとこの學生達のように失敗することなく、たどり著くでしょうね〜いや〜まあ、言うならば」

「ラウンドoneってとこですね」

「意味わからんわ」

「……ふふふ、熊野さん、今どんな気持ちですか〜」

「あ? 決まっとるやろ、めんどい仕事が終わったのに、また新しい仕事を押し付けられてうんざり中や。……って何笑ってんねや」

「あはは〜いえいえ、"熊野ミサキさん"、聞こえてますよね〜。殘念でした〜、貴はもう変わってしまいました。……これが負けるということですよ」

その男が、ウチを見る。ウチの中に辛うじて殘る、指定探索者熊野ミサキを見つめて。

「人が、神に逆らうとこんな目に遭うんですね〜……ご愁傷様でした」

ああ。

ウチは負けた。失敗した。

頼む、お願いや。誰でもいい。神様でも悪魔でも天使でも人間でもーー

化けでもええから、お願いや。

誰か、今すぐウチを殺してくれ。

頼む、お願いや……これ以上、生き恥を曬す前に頼むから。

全部、全部、ぶち壊してくれ。

◇◇◇◇

〜そして、時は戻り。黃金崎地區、ホテル前にて〜

「は〜い、みなさ〜ん、深夜にごめんなさ〜い、集まってくださーい」

十字架に磔にされた男の周りにフジ山お面がぞろぞろと。集まる。

慘劇が、また始まる。

イズ高校オカルト部。勇気ある彼らは神の悪意の前に散った。

「……壯観ですね、熊野先輩」

「そうやな、桜野」

ニホンの神道を祖とする清らかなの指定探索者もまた、その高潔さゆえに、神の狡猾に敗れ傀儡と化した。

慘劇が始まる。いつものように、當たり前のように。イズ王國はきっと、神に負けた世界の図なのだろう。

オカルト部の時と同じように、指定探索者の時と同じように。

が人に悪意を向ける。

だが、唯一今回、違うのはーー。

「……おお、マジか」

「おや〜目を覚ましましたか〜おはようございま〜す、味山さん、そして殘念で〜す。あなた、ここで終わりなんです

班長が笑った。

「は〜い、では、これより〜反逆者、味山只人の公開処刑を始めま〜す!!」

繰り返しになる。

だが、これだけは確かなものだ。

イズ王國はきっと、やり方を間違えた。

「……なんか、イライラしてきたな」

ぼそり、その男が。

ーー凡人探索者がその言葉をつぶやいた。

慘劇が、始まる。

読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!

來月、現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで! 2巻が発売されます! 挿絵に加筆、そして表紙が最高です。

下記Twitterで告知してるのでぜひご覧下さい。いつもありがとうございます。

    人が読んでいる<凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください