《【書籍化】捨てられ令嬢は錬金師になりました。稼いだお金で元敵國の將を購します。》あなたたちの行く末に。

大樹の枝が変形している大橋は、飛竜たちの浸かる溫泉にかけられている。

枝と枝とが組み合わさってできている端は、人が五人以上は並んで歩けるぐらいに広くて、勾配がなだらかになっており案外歩きやすい。

広大な溫泉には數頭の飛竜が浸かっている。

私とジュリアスさんの姿に気づいて、気持ちよさそうに溫泉の中にいたヘリオス君とリュメネちゃんが首を擡げて、橋の欄干へと顔を乗せた。

「ヘリオス君、リュメネちゃん!」

欄干から顔をのぞかせる黒と赤の飛竜に私は手を繋いでいるジュリアスさんを引っ張りながら駆け寄った。

二頭は瞳をきらきらさせながら、「キュ!」「クルクル」と聲をあげた。

頭からお湯に浸かって遊んでいたのだろう、二頭の顔はお湯に濡れていて、いつもよりも艶々しているように見えた。

「溫泉はどうですか? 気持ちいいですか?」

「キュウ!」

「クルル!」

ヘリオス君とリュメネちゃんは、翼をばさばささせた。

翼を濡らしていたお湯の雫が舞い散り、夕焼けの茜に照らされて輝いた。

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私はヘリオス君とリュメネちゃんの鼻先を、よしよしとでる。

「二人とも、ずっと働いてくれましたから、ゆっくりしてくださいね。今までずっと大変だったでしょう、リュメネちゃんも沢山、心配しましたよね」

アストリアで待っていたリュメネちゃんも、ヘリオス君のことがすごく心配だったはずよね。

ハルモニアに來てからは毎日が目まぐるしくて。

ようやく、し落ち著けたような気がする。

リュメネちゃんは私の顔に鼻先をりつけた。大きな瞳で私を覗き込んで、瞼をぱちぱちさせている。「お母さんもお疲れ様!」と言われている気がした。

うん。今の「お母さん」は、私の希だ。できればお母さんって思ってしいなっていう。

「ヘリオス君も。ずっと、ありがとうございます。これからも、よろしくおねがいします」

ヘリオス君も私の顔に鼻先をりつけたあと、がえるようにじっとジュリアスさんを見つめて、そのにとん、と、顔を寄せた。

ジュリアスさんは俄かに驚いたように目を見開いて、それからヘリオス君の額を軽くでる。

「……ヘリオス、リュメネ。街はあらかた元に戻り、魔討伐の騎士団も機能し始めている。しばらく、自由にしていていい」

「キュウ!」

ジュリアスさんに言われて、ヘリオス君は「分かった!」というように力強く返事をした。

それからリュメネちゃんの首に軽く額をり付ける。

リュメネちゃんは目を伏せて尾をぱたりと振った。ぱたりと振っただけだけれど、お湯がばしゃりとはねた。

ヘリオス君はもう一度お禮をするようにジュリアスさんに向かって頭を下げる。

ジュリアスさんは軽く、ヘリオス君の鼻先にれて、口元に優しい笑みを浮かべた。

溫泉の飛沫を浴びて、著や髪がった。けれど、かえってそれが涼しくて心地いい。

「今までも自由にしていいって言っていましたけれど、今のは……」

「俺たちからしばらく離れても大丈夫だという意味だな」

「なるほど、たまには二人きりで、ということですね」

「あぁ。ヘリオスたちもたまには誰も背に乗せずに、自由に空を飛びたいだろう」

「ふふ……」

ジュリアスさんがヘリオス君たちに言った言葉が嬉しくて、私は微笑んだ。

それだけ――この國に、平穏が訪れたということだろう。

「ディスティアナは、ヘリオス君とジュリアスさんにとっては……苦しいことのほうが多かったんだろうと思います。でも……これからは、楽しいことがきっと、沢山ありますよ」

「そうだな」

「はい!」

「クロエ。人は死んだら天上界にのぼると言われているのだろう。そこは、しく平和な魂の楽園だという」

ジュリアスさんが私の手を引き寄せる。

今まで――ジュリアスさんは神様の話をするのが嫌いだった。天上界の話も。天使の話も。

好きじゃないみたいだった。

でも今は。

「だが、お前がいる場所が、俺にとっては……楽園だ」

世界樹の枝で出來た橋の中央はとても高い位置にあって、海に落ちていく夕日が遠くに見える。

世界が橙から、夜の闇にを変えていく。

街の至る所にある錬金ランプに明りが燈る。街がらかく、あたたかく、づき始める。

「私も、同じです」

私はにっこり微笑んだ。

笑うことは、苦手だった。

自分の笑顔はいつだって、作り笑いのようにじられていた。

けれど今は――自然に、微笑むことができている。

暗い夜空に、毎晩の恒例行事のようになっている花火があがりはじめる。

ひまわりの形、百合の形、薔薇の形。

トビウサギの形。きのこ型の錬金ランプの形。

ヘリオス君の形、リュメネちゃんの形。

そして――。

『聖なる天使と黃金の英雄へ、謝と敬を込めて』

『ありがとう』

『あなたちの行く末に、幸多からんことを!』

誰かの、私たちへのメッセージが、夜空を大きく彩った。

思わず夜空に手をばした私をジュリアスさんは引き寄せると、きつく抱きしめた。

長い長いお話にお付き合いくださりありがとうございました!

本日、書籍化3巻が発売になりました、皆様のおかげです!

そして、きりのいいところでディスティアナ復興編もおしまいです。

番外編なのにものすごく長くなってしまいましたが、お付き合いくださりありがとうございました!

しでも楽しんでいただけましたら、下にあります☆のマークをぽちっとしてくださると嬉しいです。

長らく続けてきた二人の話ですが、

落ち著いたところでまた続きを書くかもしれません。そのときはまたよろしくお願いします!

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