《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》17 お忍びの大商人
南部地區、外門付近の路面店広場にて。
フウリ達には『気になるがあれば好きに買いに行っていい』と言って、それぞれに500マナずつを渡してあった。
だが、シンリィ以外の二人はなかなか行に移れないようだった。
シンリィの手元のお菓子だけが、どんどんと増えていく……
そもそもフウリとシオンは、500マナがどのくらいの額なのかもよくわかっていないかもしれない。
この街で商売をする以上、そのあたりの金銭覚を含めしっかりとこの街の常識を知ってもらわなくてはいけない。
その辺りも含めて、実際に買いをしてマナをに変えていくことで、その覚を摑んでしいところだった。
フウリとシオンが、意を決して商店の方に歩き出した。
フウリは何やら置や裝飾を並べている店へ、シオンは短刀なんかの武を扱っている店へと向かっていった。
フウリは問題ない。
だが、シオンの向かう先の店では、おそらくは500マナではまともなものは買えないだろう。
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値札を付けない店のようなので、シオンがそれに気づけるかどうか……
「どうしますか?」
「これも経験だ。しばらくは様子を見よう。……トラブルになりそうだったら俺が行く」
そんな俺の心配をよそに、シオンは路面店の店主としばらく言葉をわした後で別の店に移った。
おそらく、會話をするうちに手持ちの金(マナ)では足りないことがわかったのだろう。
悪くない行だ。
裝飾の店に行ったフウリの方も、問題なく買いが出來たようだ。
そして、そんなじでしばらくシオンたちの様子を見守っていたら……
「あれ……?」
俺は、本來なら絶対にそこにいるはずがない。
見覚えのある顔を見つけた。
「んん?」
「アルバス? どうしたのですか?」
「今そこに、ここにいてはいけないはずの人間がいる……」
そのはスタスタと大通りを歩き回りながら、あちこちの店を覗いては離れ、覗いては離れしている。
そのきはかなり獨特で、突然き出したり止まったり、ひたすらに己の興味のままにき回る様は、どこかロロイを連想させた。
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そのは、次に興味を引くを探してキョロキョロとあたりを見渡し始めていた。
そして、俺と視線が合い……
「おっ……おおっ! アルバスじゃーん!」
そんなことを言いながら、俺の方に駆け寄ってきたのだった。
「……アルバス様、どなたですか?」
アマランシアがし警戒したような聲でそう言った。
「アルバスはウワキモノなのですよ」
「アルバス様、そういうことなんですか?」
ロロイは一どこでそういう言葉を覚えてくるんだか……
「違う違う。ロロイは、前に一度會ってるだろ?」
どうせクラリスだろうけどさ。
「んー? 覚えてないのです。……最近なのですか?」
「半年前だな」
「それはもう、絶対覚えていないのです!」
ロロイは、自信満々にそう答えた。
そのは、スタスタと俺たちの前まで歩いてくるなりアマランシア達をジロジロと無遠慮に眺め回し始めた。
嫌な視線というよりも、ただ単に珍しがって面白がっているようなじだ。
「エルフ、か……。隨分珍しいのと連(つる)んでるね。また何か面白いことをしようとしてるのかね」
とりあえず、話しかけられてしまった以上まずは挨拶だ。
「お久しぶりです。シャルシャーナ殿下」
「ん? そんなに久しぶりだっけ?」
そのは、ロロイとおんなじことを言い出した。
「およそ、半年ぶりですね」
半年ぶりは、久しぶりでいいだろう。
「ふぅん。そういやそうだったかな」
「……」
やはり、どことなく摑みどころがない。
今俺の目の前にいるは、皇のでありながら皇國各地で様々な商売を展開し、莫大な富を築きあげている大商人だ。
その名を『大商人シャルシャーナ』と言う。
商人ギルドからは、現在商人としては皇國にただ一人しかいない『白銀等級』の位を得ている。
そんな、名実ともに『皇國一の大商人』と呼ばれるべき大人だった。
「ところで『殿下』はやめてよ。ここへは皇としてではなく商人として來てるんだからさ」
「そう、なんですか……」
そうは言いつつも、シャルシャーナの著ているはいたって普通だ。
見た目は商人どころか、完全にその辺の街人にしか見えない。
大商人シャルシャーナは、完全にこの街に溶け込んでいた。
正を知らなければ、誰も彼がそんな大人だとは思わないだろう。
しかも護衛の一人さえも連れていないので、これではロロイやアマランシア達を引き連れている俺の方がよっぽど偉そうに見えてしまう。
ちなみに俺との面識は、半年ほど前にシャルシャーナが俺の屋敷を訪れ、海竜ラプロスの素材を買い取って行った時にできていた。
「貴族院でも、シャルシャーナ様がこの街に來られるという話は出ていませんでしたが……」
だから、彼がこんなところを一人でフラフラ歩いているなんてことは、本來あり得ないはずのことなのだった。
半年前にシャルシャーナがキルケットに來た時には、それはもうすごいことになっていた。
その訪問は數ヶ月前からキルケットの貴族院に伝えられ、貴族達が総力を上げてシャルシャーナの訪問に向けた準備を進めていたのだ。
「ふと思い立って、誰にも言わずに一人で來たからね。心配しなくても、オークションまでにはちゃんと名乗り出るよ。今回ここへ來た目的はまさにそのキルケットオークションなんだからね」
「はぁ……」
その行は、どう考えても正気とは思えない。
中央大陸の皇都からここまでは、幾つもの危険な地域を通り抜けなくては辿り著けない。
シャルシャーナ自に多の戦闘力があったとしても……
大商人であり皇でもある分を考えれば、一人で出歩くなんてのはあり得ないことだった。
「あと『様』もやめてよ。アルバスなら呼び捨てでいいよ。私もそうしてるし」
「……流石に無理です」
そうと知らずに知り合ったリオラとは訳が違う。
「そう? 殘念だね」
それよりも驚かされたのは、そもそもシャルシャーナが俺のことを覚えていたことだった。
日々凄まじい數の人に會い、星の數ほどの商談を行なっているであろうシャルシャーナが、地方都市で一度會っただけの俺のことなんかを覚えてるはずがないと思っていたのだが……
「ところで、アルバス。この前買い損ねた海竜ラプロスと水魔龍の含魔石(がんませき)、今ここで売ってくれない?」
「隨分といきなりですね……」
どうやら、俺のことを覚えていたのは俺から買い損ねたものがあったからということらしい。
確か、前の商談時には『含魔石の所持は討伐者の特権だ』とか言って、結局は自分から引き下がったと記憶していたのだが……
移ろいやすくて破天荒。
なかなかに常識的な論理が通じなそうな相手だ。
「商談は、思い立った瞬間からすでに始まってるんだよ」
「なるほど……」
意味が分からん。
シャルシャーナは、一見全てが適當で、あまり人を気にかけていないように見える。
だが、その側にはドロドロと燃える凄まじいを宿しているようにじた。
一度そのに火がつくと、思いを遂げるまではもう絶対に止まらないような……
どこかに、そんな怖さをじるだった。
「で、どうなんだい?」
俺が大商人シャルシャーナの何を知っているわけでもないが、どうもそんな気がしていた。
勇者ライアンや黒金の魔師ルシュフェルド、それに獣拳帝のアルミラ。
そんなまともじゃない奴らが纏(まと)っていた獨特の空気が、このからもビンビンとじられるのだった。
「殿下。誠に殘念ながら水魔龍の含魔石(がんませき)は……」
『盜賊に奪われてしまった』
俺がそれを言うより先に、シャルシャーナが俺の言葉を遮った。
「おっと。面倒な話になるならまた後にしよう。実はあまり時間がないんだ。これから人と會う約束があってね……。そういうわけで、この商談の続きはまた今度。それまでにいい返事を考えておいてよ」
そう言って、シャルシャーナはさっさと走り去って行ってしまった。
→→→→→
殘された俺たちの間には、なんとも言えない沈黙が流れた。
「なんというか……変な人でしたね」
アマランシアが呆れたようにそう言った。
「そうだな。でも、何かで圧倒的に人よりもずば抜けている人間というのは、ああいうなのかもしれないな」
一説によると、現在皇族の遊説や公務などにかかる費用は、全てシャルシャーナが稼ぎ出した金(マナ)で賄っているとかいないとか……
また、シャルシャーナは各地で無數の商店を手掛けているというが……
それがどの街のどの店なのかを知る者は、実はほとんどいないという話だった。
もしかしたら、このキルケットのどこかにもシャルシャーナの息のかかった商店があるのかもしれない。
この國隨一の大商人シャルシャーナは、かねてより多くの謎に包まれている人なのだった。
→→→→→
「ん……?」
大商人シャルシャーナと別れ、そのまましばらくシオン達と買いをしながら歩き回っていると……
なにやら前方が騒がしくなり始めた。
「なんなのですかね? ちょっと見てくるのです!」
「シンリィも行きます!」
さっそく興味を惹かれたロロイとシンリィが、走りだしていってしまった。
「ロロイさんは、本當に元気がいいですね」
「シンリィもな。ロロイはもうし落ち著きがしいところなんだが……」
「あれがロロイさんとシンリィの持ち味ですよ」
「まぁ、そうだな」
確かに、ミトラやアルカナのように落ち著き払ったロロイの姿は、あまり想像できなかった。
ミトラがロロイ並にはしゃぐ姿と同じくらいに想像できない。
そんな話をアマランシアとしていたら、すぐにロロイ達が戻ってきた。
「アルバス。この前の悪い奴がいて、なんだか悪そうなことをしてたんだけど……今からぶっ飛ばしてきてもいいですか?」
「シンリィもロロイさんをお手伝いします!」
「待て待て……」
クドドリン卿がどんな悪いことをしていたのかは知らないけど。
普通に考えたら、貴族をぶっとばしちゃダメだろう。
やっぱり、もうし落ち著きがしいかもしれない。
『この前の悪いやつ』で、すぐにそれがクドドリン卿だろうとわかってしまう俺も俺だけど。
「……殘念なのです」
そう言って項垂れるロロイの後ろからは、徐々に騒ぎの中心が近づいてきた。
「……」
そこにいたのは、やはりクドドリン卿だった。
大きめの荷馬車を三のウシャマに引かせ、前後左右には六人の屈強そうな護衛を引き連れている。
そして、いつものようないやらしい笑みを浮かべていた。
そんなクドドリン卿が引き連れた荷馬車の上には鉄格子のついた檻が置かれており、その中には數名の子供が捕えられているようだった。
「魚人? ……奴隷?」
俺の後ろから、シオンのそんな呟きが聞こえた。
そしてアマランシア、フウリ、シオンの雰囲気が、明らかに変わりはじめたのだった。
そんな三人の変化に、シンリィが思わず一歩引いて息をのんでいた。
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