《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2

「それに、本當に帰ってからに出來ないものは対応してるから」

「でも……使ってらっしゃるの、遠距離共振ですよね? それで間に合うんですか?」

「ああ、これは特別だからね」

私が知っているタイプのものとはかなり形が違うが、クロヴィスさんが度々使っているのを見ているのでそれが遠方との連絡に使う魔道である事は知っている。

雙子の魔の魔石を使って作られるこの魔道は、対になってるものとお互いを共鳴させる質がある。分かりやすく言うと、共振の畫面に書いたものがそのままもう片方の共振の畫面に表示されるのを利用した連絡手段として使われている。

普通の通信機は魔導線を引いた先でしか使えないし、魔力波を使った通信はノイズも多く傍のリスクが大きい。共振はその點どこにでも持ち歩けるし、ペアになってる魔道でしか報のやり取りは出來ない。

しかし貴重な魔石を使う高価な魔道な上、一度に伝えられる報もなく、距離が離れると畫面の同期も時間がかかるようになってしまう不便な面も多い。

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隨分畫面は大きいけど、これだけで不足なく仕事をするのは天才のクロヴィスさんと言えど難しいのではないだろうか。

「ちょっと実演してみようか。例えばここにメッセージを書くと……」

「……え? 書いた文字が消えて……すぐに返事が來た……す、すごい。共振の同期早すぎないでしょうか……?」

目の前でサラサラと『この共振の実演をしてるからそっちも何かメッセージを書いてよ』とクロヴィスさんが綺麗な読みやすい字をつづる。すぐに畫面が真っ白に戻ったと思うと、『また何か変な事してるんですか?』と返事が書かれた。すごい、相手の人の筆記してるペンのきまで分かる程の遅延のない共振だった。

通信相手の部下がいるというミドガラント帝國まではまだ遠い。この距離なら普通は時間が経って相手の畫面にジワ~ッと連絡が表示されて、それを確認した相手が返事を書いて、またこちらの畫面にジワ~ッと文字が現れるのだけど……今のは殆ど、目の前の人と筆談でやり取りするくらいの反応に見えた。

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質の良い共振同士が同じ部屋にあるならともかく、この距離でこんな事が出來る遠距離共振……初めて見た。間違いなく、コーネリアお姉様の作ったよりも能が良い。

「別に今までにない遠距離共振を発明した訳ではないんだけどね。もちろん既存の魔導回路を改良したりはしてるけど……これね、実は雙頭竜の魔石を使っているんだ」

「えっ……ドラゴンの魔石ですか⁈」

國寶として寶庫の奧深くに仕舞われているか、國の一大事に起する魔道に使われているような貴重な存在の名前が出てきて、私は興味深く覗き込んでいた魔道から驚いてを引いた。そ、そんな高価な魔石が使われて……⁈

でも、そうか……。

「……雙頭竜の魔石……確かに、核にする質も申し分ないし、雙子の魔とは言えど別々の個だからどうしても差は出ますもんね」

「そう。だからここまでタイムラグなく共振が同期するってわけ。元は一つの魔から採れたものだからね、こうして功して良かったよ」

言われたらそうか、と納得するがすごい発想だ。やろうと思ってこうして試して実現させてしまうのがもっとすごいが。

雙頭竜もそういう種類がいるのではなく、おそらく雙子として生まれてくるはずが不完全にの一部が分かれかけたまま生きているのだとされている。

こういった個は普通のや數の多い魔ではたまに起こる事ではある。學園の生準備室で雙頭の蛇の標本を見た事もあるし。

しかしドラゴンでそれが起きて、たまたま人が討伐して魔石が手にるなんて奇跡に近い。

「やっぱり、ご自分で討伐したんですか?」

「いや、イヤリングになってうちの國の寶庫に眠ってたんだよ。ただの寶石扱いなんてほんと勿ない事するよね。で、それを何かの機會で褒章に指定して、これに作り直したんだ」

「ほ、寶庫の裝飾品を……!」

手を軽く握って中指の背でコンコンと魔道を叩くクロヴィスさんの手元を見てるだけでハラハラしてしまう。その中には都市の年間國家予算に匹敵するような額の魔石がっていると思うとどうにも。

「同じものがあといくつかしいから冒険者ギルド経由でも探してるんだけど、中々タイミング良く見つからないんだよね」

「あ、當たり前です! 魔道の核に使えるような魔の変異種が出たら災害じゃないですか、普通は」

普通のでは奇形の一種だが、脅威になる魔では「変異」として記録される。いち冒険者で対処できるものではなく軍がくような話だ。

いや、でもクロヴィスさんなら出來そうなのが……。

「あ、魔石の換みたいだね」

「じゃあ次は俺が運転を……」

押し固められただけの土の上でゆっくりと魔導車が止まる。特に決めたわけではなさそうなのだが、力の魔石の換のタイミングで何となく三人で運転手を代している。やはり立場上気を遣っているのか、エディさんがハンドルを握る事が多いが。

業務として運転する乗合魔導車などと違って、自家用車は特に免許は必要ないのだが、率先してフレドさん達が引きけてくれている。アンナはちょっと運転に興味を持っていたけど。

運転ミスで事故が起きるのも怖いが、やはり運転の良し悪しで揺れも酷くなるので、舗裝されてない場所では頼らせていただいている。

「いや、兄さんは午前中ずっと運転手だったでしょ。次の街まで僕がハンドルを握るよ。リアナ君、良かったら前で話相手になってくれない?」

「えっと……私で良ければ」

私はクロヴィスさんのいに乗って、後ろから降りて助手席に移した。この魔導車は貴族が良く使うタイプの、運転席とそれ以外の乗車席の空間が完全に分かれてるタイプなので、後ろに載ってる人達と會話が出來ない。

エディさんは「私は喋りながら運転するのは苦手なので」と言っていたけど、クロヴィスさんは黙ってると退屈なのだそうだ。

琥珀が起きてた時はずっと助手席で、魔導車から見えるものに「あれは何じゃ?」「次の街はどんなとこじゃ?」なんてずっと話しかけてたらしいけど……後からそれを知って焦ってしまった。「楽しい時間だったよ」と言ってくれたクロヴィスさんはかなり心が広いと思う。

「……なるほど、既存の共振の魔導回路にそんな改良點が……」

そしてクロヴィスさんは運転席に移ってからも大変興味深い話をしてくれた。きちんと運転しながらよくこんな複雑な話が出來るなと心してしまう。

私はマルチタスクが出來なくて、一回集中するとアンナが聲をかけたくらいでは気付けなかったりするので心してしまう。

「リアナ君が持ってる奴も弄ってみようか? 今より同期速度は速くなるはずだよ……いや、君なら自分で出來るか」

「いえ、これは借りものなので勝手に改造するのはちょっと」

「あはは。出來ないって言わないのがいいね。結構難しい事を言った自覚があるんだけど」

難しい……事だっただろうか? 自分で思いついた訳ではない、やり方を今全部口頭で説明してもらったのに。たしかに大分細かい作業が必要になるけど、幸い作業もそこそこ得意だ。正確に細かい魔導回路を引くのも苦手ではない。

絵を習っていたからかな。基礎も技も教えてくださったアンジェリカお姉様に謝しないと。

「この前の時は兄さんの九歳の春まで話したよね」

「そうですね。春の建國記念日の式典で、クロヴィスさんがフレドさんと久しぶりに顔を合わせて退屈な式典の途中途中でお喋りをした話を聞きました」

魔道についての話がひと段落すると、話はいつもの流れになった。フレドさんに聞こえないとこにわれたから、多分そうだろうなと思っていたけど。

前回話を聞いた所を思い出しながら子供の頃のフレドさんとクロヴィスさんを想像する。頭は良いけど、だからこそ下手な大人よりも賢くて、周囲と軋轢を産みがちだったクロヴィスさん聞いててハラハラするエピソードが多い。

でも、クロヴィスさんはフレドさんの話をするのが好きなんだなぁと毎回しみじみじる。とても楽しそうに話すのだもの。

私の方も、「フレドさん子供のころから気遣い屋さんだったんだな……」とか発見もあるし、正直楽しい。

「しかし、リアナ君には話し甲斐があって嬉しいよ。エディなんかはせっかくの兄さんの話をすぐ聞き流すからつまんなくて」

「あはは……」

そう、最初はフレドさんの過去を知ってるエディさんの方が昔話の相手にえば、と思ったんだけど。クロヴィスさんの意向で私がこうして聞かせてもらっている。

エディさん曰く、「同じエピソードを何十回も聞かされてれば、仕えてる主人の話と言えどさすがに飽きます」だそうで。私は十分興味深く聞かせてもらっているけど……。

「それで……その式典の後に白の庭園を使ったパーティーがあるんだけど。兄さんの相手を取り合ったの子達に取り囲まれて、きも出來なくなってて大変そうだったなぁ」

「前聞いたお話でも似たような事になってましたけど、昔からすごかったんですね……」

「うん、すごくモテるんだよね。まぁ見てたら分かるかな? 僕は、兄さんが大勢から好かれてるのはちょっと誇らしいんだけど、気の毒に思う事も多いかな」

「そうですね、確かに……」

「変なが寄って來そうになったらリアナ君も気を付けてあげてね。君が橫にいたら大は諦めると思うから」

そう言われて、想像してみる。そうね、私も……例えば道を尋ねるために知らない人に聲をかけなきゃいけないとなったら、二人組よりも一人でいる人に聲をかけるだろう。

「分かりました……! 微力ながらフレドさんの力になりますね!」

「うーん、なんか勘違いしてそうだけど、まぁ結果は同じだからいいかな。そうそう、その式典の時に王族と高位貴族の子供達で建國時を再現した短い劇をやるんだけどね……」

その劇でフレドさんは、帝國の祖となった王に加護を與えた神様の役をしたそうだ。

「當時はとてもきれいだなぁ、流石兄さんだって思ってたんだけど。大人になった今思い出すと可かったなぁって思っちゃうよね」

私が見られない、その期の話を聞くたびに「いいなぁ」って思ってしまう。でもこんなの小さい子供の獨占みたいで、恥ずかしいから誰にも言ってないけど。

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