《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》18 奴隷の売買

「アルバスではないか。すぐにそこをどけ、私が通る」

そんなクドドリン卿の後ろの檻の中にいたのは……

「魚人、か」

「あぁ、サウスミリアで捕らえてきた。最近はどこかの誰かが獨占しているせいで、エルフの奴隷が手にりづらくてなぁ」

「……」

こんな奴、相手にするだけ無駄だろう。

本當なら、さっさとどこかにいなくなってもらいたいところなのだが……

「その魚人の子供達を、どうするつもりですか?」

俺の後ろから、靜かな聲でアマランシアが質問した。

「……」

だがクドドリン卿は答えない。

それどころか、アマランシアの方を見ようともしなかった。

『エルフと會話する気はない』ということなのだろう。

……クソ貴族が。

「クドドリン卿。……その魚人達をどうするつもりだ?」

アマランシアに変わり、俺がその質問を繰り返した。

すると、クドドリン卿はやっと視線をこちらに向けた。

「闘技場で使うのだよ。かつて、征西都市カラビナで大いなる人気を博したという『奴隷闘技場』を、私がこのキルケットで再現するのだ」

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「……」

「魚人のの聲は、よく人間を狂わすと聞く。こやつらも私のために、さぞかし良い悲鳴をあげてくれることだろう」

「……」

俺の背後にて、アマランシア達が纏う空気がさらに張り詰めていった。

ただ、それは全てを知る俺だからこそわかる変化だ。

アマランシア達は、盜賊として數々の潛任務などをこなし、異常なほどに気配を隠すに長けている。

そのアマランシアが、俺にもわかるほどに苛立っている。

おそらくだが、今にも武を抜いてクドドリン卿に襲い掛からんばかりの狀況だ。

これは……本格的にヤバいかもしれない。

流石に、こんな街中で大貴族に襲いかかってしまったら、言い訳のしようがない。

これからアマランシア達と共に進めようとしている計畫も何もかも、全てが白紙になってしまう。

「訳あって俺は今、奴隷というものを容認できない」

俺は、とりあえずしゃべり始めた。

しゃべりながら思考を巡らして、なんとかこの狀況を打破する糸口を摑むしかない。

「お前の事など知るか。さっさとそこをどけ」

「アルバス。やっぱりこいつぶっ飛ばして……」

「……ダメだ!」

冗談みたいなことを本気で言ってるロロイの言葉を、即座に否定した。

そう、ダメなんだ。

ここでクドドリン卿とその護衛をぶちのめせば、この場は解決するかもしれない。

それで、俺たちの気持ちは晴れるだろう。

だが、長期的に見た場合はそれではダメなんだ。

今のこの街のルールはそうなってはいない。

エルフ、および魚人は奴隷と扱っても良いというのは、この國では暗黙の了解として認められてしまっている。

だから、その奴隷を他人から力づくで奪うというのは『盜賊行為』に他ならない。

そんなことを大通りのど真ん中で大っぴらにやるわけにはいかない。

ましてや、相手は大貴族だ。

そんな真似をすれば、確実にこちらが処罰されるになってしまう。

だから、俺はこの街のルールに則ってこの場を納める必要があった。

今の俺に考えつく、その方法は……

「アマランシア……すまない」

まず、小さく絞りだした言葉はそれだった。

「アルバス様?」

アマランシアたちの目の前で……

俺はこれから、非道に加擔する。

「クドドリン卿。俺に、その奴隷達を売ってもらえないだろうか?」

商人としてこの場を納める。

そのためには、俺自が奴隷売買に加擔するしかなかった。

「ほう?」

クドドリン卿はしおかしそうに目を細めた。

そんなクドドリン卿の様子からは、付ける隙があるようにじられた。

「さっきも言ったが、この奴隷達は私の闘技場で使う予定なのだ。ここでお前に売ってしまったら興行に差し障りが出る」

「しかしまだ子供だ。子供では大した抵抗はできないうちに死んでしまう」

「……」

やはり失敗続きの闘技場運営に自信が持てないのだろう。

痛いところを突いてみると、クドドリン卿はし考え込み始めた。

「俺の見たことがある奴隷闘技場の試合においては、奴隷側の抵抗もかなり激しかった。本の戦士が數多く混じっていた。奴隷が生き延びる可能もあったからこそ……、どちらに転ぶかわからなかったからこそ、その試合の観客は盛り上がっていたように思う」

「しかしなぁ。捕えてきてしまった以上、いつまでも無駄飯を食わすわけにはいかんのだよ。死のうがどうしようが、キチンと金(マナ)を稼いでもらわんとなぁ」

そのもったいぶった言い方には、やはり付ける隙が垣間見える。

には、額を吊り上げようとする意図がじられた。

つまり、ここまでの會話で揺さぶりをかけることで、提示する金額次第ではなんとかなるというところまで話を持っていけたということだろう。

「ならば、五人合わせて5萬マナでどうだ?」

「ふざけるなよアルバス。そんな相場通りの額で……」

「ならば、50萬マナでは?」

「ごじゅ……」

クドドリン卿が言葉に詰まった。

どちらにしろ足元を見られた狀況での商談なのだ。

始めからそのくらいの額は覚悟していた。

相場の十倍。

先の見えない闘技場運営に使うよりも、一括で売る方に気持ちを傾けさせた上で、一気に片をつける。

はじめにあえて相場通りの額を提示したのは、下手なを出されずにこの額で決著をつけるために他ならない。

ただし、見た目が人間に近いの魚人などが混じっていると、この相場通りにはならない。

特に下半に魚人の特徴を有し、上半が人間に近い形態の魚人は「人魚」と呼ばれ、かなりの高値で取引される傾向にあった。

だが、ざっと見る限りはこの中にはそういった魚人はいないようだった。

全員がかなり魚人らしい見た目をしていて、俺からすると全員が別不明だ。

また、人間の言葉も喋れないようで『キーキー』と謎の奇聲を発するだけだった。

先程のクドドリン卿の言葉から察すると、別不明の中にの魚人も混じっているのだろうけれど……

とにかく、相場的に『価値が高い』と判定されるような見た目の魚人はいないようだった。

「……」

俺は、ざっくりとそんなことを考えながらも、そんな自分に嫌気がさしていた。

俺は今、魚人達をモノとして見て、モノとしての価値を判別しながら奴隷売買の商談を進めている。

それは、後ろからアマランシア達に突き刺されても文句が言えないような所業だ。

「その額ならば、今すぐにこの場で支払うことができる」

『どうせ仕れはただなんだろう?』とは、さすがに言えなかった。

「なるほど、なるほど……。うーむ。いや、しかしなぁ……」

クドドリン卿はしばらく考えるフリをし続けていたが、やがて『荷馬車代』としてさらに20萬マナを要求してきた。

「わかった。ならば合わせて70萬マナで買い取ろう」

最後に俺がそれを飲むことで、この商談は立した。

俺は、アマランシア達の目の前で奴隷を買い取ったのだった。

「ふふん、なかなか良い商談であった」

そんなことを言いながら去っていくクドドリン卿が……

突然何かにつまづいて地面にぶっ倒れた。

「うぎゃっ! なんだ! くそっ! ふざけるな!」

「だ、大丈夫か?」

思い切り顔面を打ち付けていたので、あまり大丈夫ではなさそうだが……

「うるさい! 黙れ! わざとだ!」

護衛に助け起こされながら、真っ赤な顔のクドドリン卿がそう言って強がっていた。

「……そうか」

俺の隣では、ロロイが口笛を吹きながら何かを倉庫にしまい込んでいた。

これに気づかないあっちの護衛も、そういうことをするこっちの護衛も、どちらも問題ありだな。

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