《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》好青年

祝勝會を楽しんだコウは、エメと二人でアストライア艦に戻ろうとした時、背後から聲をかけられた。

「待って!」

歩き出そうとした二人を制止する聲。ヘスティアだった。いつもの黒髪に伊達眼鏡、ブレザー系の制服に戻っている。

「どうしたヘスティア。できるだけセレモニー系は斷ってくれと頼んだはずだが」

「そういう話じゃない。明日の話だよ。バルドから命乞いめいたSOSがったの。彼にも恩があるから、お願い。助けると思って明日は時間を空けて。ウーティス」

「命乞いめいた? いったい何が起きているんだ」

「ヴァーシャが荒れているのよ。あなたに負けたことではなく。――ヘルメスがあなたに全賭けして大もうけしたことがばれて、拗ねている」

うんざりした様子のヘスティア。彼にとっても思いもよらぬ出來事だったのだろう。

「それは…… 何をしているんだヘルメス……」

コウが思わず額を抑える。

今頃熱狂的なコンサート開催中だった。【アカケトス】は今や人気急上昇中のアーティストだ。楽はすべてTAKABA製の特注らしい。どんなコネがあるか気になるコウだった。

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「自棄酒と絡み酒でバルドが生け贄に……」

「行きたくないな……」

正直に本音を話すコウ。元々酒は苦手だ。

「お願いして鷹羽兵衛とヤスユキ、居合わせたクルトも參加してくれるわ。あなたが來ればヴァーシャの機嫌も直ると思うし?」

「そのメンバーも絡み酒をするぞ……」

ケリーがいないことが唯一の幸いだ。

「おねがい!」

拝み倒すヘスティア。

「わかった。そのメンバーなら引きけよう。構築と剣の話にしかならないから、お偉いさん同士のセレモニーよりはましかもな」

そのメンバーは星アシアの各勢力重鎮だよね、と言いたくなるエメ。

コウ自、そろそろお偉いさんたる自覚を持ってしいとも心思っていた。

「ところでヘスティア。フリギアを見ないんだが、どこにいったか知らないか? アシアも半分しか知らないらしい」

「半分しか知らないってどうよ?」

「自分を分割して一人を安全地帯に。もう一人はおうち探しらしい」

「あの子、アシアの因子があるといっても中ほぼアテナだからね? あまり放置していたらやらかすよ?」

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「ほぼアテナなら安心じゃないか。――違うみたいだな……」

悲しそうに首を橫に振るヘスティア。苦い思いを噛み殺しているかのようだ。

「わかった。落ち著いたら半を探すよ」

々とお願いね! じゃあ私はヘルメス監視に戻るよ!」

ふっと消えるヘスティアのビジョン。

「相変わらず慌ただしいね。ヘスティア」

「今まで無理をしていたんだ。この場所で聖域を作って落ち著いてくれたらいいよな」

「うん!」

そうして二人は、彼らを待つ祝勝會場に足を運ぶのだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

バーの一畫ではバルドとヤスユキが完全に酔い潰れていた。

構築談義が進み、珍しくヴァーシャとクルトも深い酩酊狀態だ。それだけ話が盛り上がったのだ。

「若ぇもんがだらしねえな!」

「そういう兵衛さんだって、もうふらふらじゃないですか……」

お茶とコーラで乗り切ったコウが、死累々たる酔っ払いたちをどうするか頭を抱える。

ヴァーシャとバルドをオイコスたちに頼むのも気がひける。しかも夜更けだ。子供を労働させたくはない。

「この二人どうしようか……」

犯人はバーテンダーのヘスティアである。面倒臭そうなヤツからこっそり強いカクテルを回していたのだ。

「はは。お困りのようだね。この二人はボクがなんとかするよ。だらしない師匠たちだなあ」

突如として、背後から聲を掛けられる。

「おお。君か」

コウより年上のようだ。兵衛には見覚えがある姿だ。

白髪に赤い瞳。き通るような白いはアルビノを連想させる、丈夫がいた。

バーテンダーヘスティアが固まっている。どうしてここに、という言葉を飲み込んで沈黙を守った。

「そいつぁ問題ねえ。バルド君の弟子でドリオス君だ。俺の弟子でもある。筋はいいねえ」

「その節はありがとうございました。ヒョウエ師匠の試合も見ましたよ。アナザーレベルシルエット相手に大立ち回り!」

ドリオスは心から激しているようだった。

「はは。おめえさんだってできらあ。鍛錬を怠らなかったらな」

進します。こうみえて稽古は好きなんですよ」

二人の話しぶりから、確かに兵衛の弟子であろう青年。コウはふっと笑う。

絵に描いたような好青年だ。

「あなたがコウさんですね。バルド様やヴァーシャ様からお話を聞いております。ドリオスです。握手といいたいところですが、剣士相手にはこちらがいいかな」

拳を突き出すドリオス。挨拶代わりに軽く拳を重なるコウ。

「コウでいい。ドリオス。外見によらず、鍛えた拳だ」

一件優男に見えるドリオスだが、鍛えられた拳はボクサーを思わせる。

「ボクシングやレスリングが本職なんですよ。でも剣に魅られてしまって」

恥ずかしそうに告白するドリオス。

「いつかアシアの騎士と異名を取る貴方とも試合してみたいですね」

「もうそれで定著してしまったのか……」

半ば諦めにも似た気分で事実を直視するコウ。

「よせよせ。生だとコウ君はドリオスには敵わない。シルエット戦ではわからんな」

「そうだな。剣は二人にしごかれているが、才能がなくてね」

コウが苦笑し、ヘスティアに聲をかける。

「バーン。この方にも一杯」

ヘスティアは一般向けにはバーンという通り名を用いている。

「かしこまりました」

気を取り直したヘスティアが座席を用意し、ドリオスに酒を供する。

「シルエットでも居合いを遣うそうですね。詳しく聞かせてください!」

「そうだな。――」

とシルエット戦の違いや居合いと剣の話に盛り上がる。いつの間にか兵衛も眠りについていた。

「夜明けも近付いてきましたね。――バーンさん。大きなカートはありますか? この二人運べるぐらいの」

「ご用意いたします。夜明けまでお預かりして送っていってもいいですが」

「こんな無様な師匠たちをオイコスたちに見せたくないなぁ。教育に悪いでしょ?」

悪戯っぽく笑うドリオスに、はじめてヘスティアの顔もぎこちない笑みを浮かべる。

「それもそうですね。では」

殊勝な態度でバーンは頷き、大きなカートを用意する。

ドリオスの手によってヴァーシャとバルドが雑に積み上げられた。

「一つお聞きします。コウさん。アストライアの皆さんと一緒に、アルゴフォースに來ませんか? ヒョウエ師匠も連れて。もし來てくれるならヴァーシャ師匠もヘルメス様に提案してストーンズ全へ創造意識の攻撃停止命令を出すと思うのです」

冗談めかしてコウに提案するドリオス。

ヘスティアの顔が引き攣る。

「一考に値する提案だな。現在アルゴナウタイとは講和狀態にある。――しかし、その提案は20年遅かったと思う」

ドリオスは顎に手をあて、ふむと呟いた。

「それもそうですね。失禮しました。またお會いしましょう。私もヴァーシャ師匠もあなたとヒョウエ師匠のスカウトは諦めませんからね」

「はは。ありがとう。また、な」

ドリオスはにこやかな笑顔で、巨大なカートを引きながら去っていった。

空がうっすらと明るくなっていた。東から赤矮星ネメシスが昇り始める。

し強めの酒がしいな。コーラ割りで」

「あなた、実は飲めない振りをするタイプ?」

「どうかな?」

コウはコークハイを一気に飲み干し、ヘスティアに語りかける。

「あれがヘルメスか。やりにくいな」

コウが苦笑した。修司の面影がまったくない、とは思わない。本質はカストルより修司に影響されているとじた。

「ちょっとコウ! 気付いてたの?! いつから?」

「最初からだ。そこまで鈍いつもりはないぞ」

「えぇ……」

コウは苦笑した。ヘスティアはアストライアクルーに告(チク)ろうと心に誓う。

「あんな雑にヴァーシャとバルドを運べる奴なんてそういないだろ」

「それをいわれても……」

「大した役者だ。普通に敬語を使っている。超AIは人間が好きだから、あの二人はお気にりなんだろうな」

「役者はあなたもよ。普段とは大違いね」

「普段とはなんだ。星アシアをかけた心理戦だったからな。戦いならこれぐらいできる」

用というか、不用というか」

ヘスティアが呆れた。コウは常に実戦においてのみ、本領が発揮出來るタイプだと痛する。この飲み會はコウにとっての戦いだったのだ。

危険な傾向ではある。実戦でなければてんで弱いのだ。心理的にも、おそらく試合でも。

「ごめんなさい。私、何度もあなたと接しないようヘルメスに言い聞かしたのに」

「人を惹きつけるものがある。大したカリスマだ」

「惹かれた?」

「ヘルメスだと気付かなかったら危なかったか。悪魔というものは常に魅力的で好人だ。恐ろしげな姿で威嚇するようなヤツは三流だ。そうだろ?」

「そうね。彼はヘルメス。商人、盜賊、錬金師――古來より胡散臭い人に崇拝されるヘルメス神を模した超AI。あいつほど心の機微を読むことに長けている奴はいないわ」

「それに元のも魅力的な人だ。合わさったらカリスマだろうさ」

「何がいいたいの?」

「今回ストーンズ側の調印役がヴァーシャとアルベルトだった。あいつはカストルの配下でメガレウスを喪った失敗者だ。失敗に厳しいストーンズで、どうしてアレオパゴス評議會の半神半人(ヘーミテオス)ではないんだ? それだけでストーンズ部がごたついていることがわかるよ」

「ウーティス……」

ヘスティアが心配そうな視線を送る。

「心配するな」

コウは笑った。

「さぞやヘルメスとストーンズは相が悪いだろうと思っただけだ。悪すら許容する好人など、あらゆる個差を認めない原理原則が正義の絶対平等とは対極だろう?」

「うん……」

言葉なになったヘスティア。

ストーンズの支配下である要塞エリアや防衛ドームは、能力による階級差がはっきりしており、階級が低いものはナノマシーンによって自我や判斷能力を奪われる。

今はましなほうで能力が劣ると判斷されたものは有機料にされていた。

そんな実態を知って逃げ出す傭兵も多く、優れた能力を発揮したら出世できる機會が多いアルゴフォースに希者が偏っている。

「石を割るか」

つまらなさそうに呟くコウの顔を、じっと見詰めるヘスティアだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

宿命の邂逅はさりげなく。

コウの何気ない一言は重大な決意をめるもの。さりげなく、そして重大な意味を持つものです。

次回はネメシス戦域の強襲巨兵500回!

フリギアのおうち探しですw そして斷章を挾んで次章ですね。きりよく501回をスタートにしても良かったのですが一話一萬字を超えるので無理せず。

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ヘスティアさんが告しました。

ブルー「へー」! エメ「えー」! アキとにゃん汰は無言で顔を覆います!続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

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