《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》22 魚人(雷帝)

「いない! 本當にどこにもいないわ!」

シャリアートの悲痛なび聲が海中に響き渡った。

子供達の姿が見えなくなってから、今日で三日目になっている。

その間、シュトゥルクとシャリアートは周囲の海に住む魚人族のみならず、人間の知り合いにまで片っ端から聲をかけて回っていた。

だが、子供たちに関する有力な報は何一つ得られなかった。

食べるも食べずに子供達を探し回っているシャリアートを落ち著かせるため、シュトゥルクは一旦妻を棲家の窟へと連れ帰った。

「なんてこと……。どうしてこんなことに……」

「命の石のは消えていない。あの子達がまだどこかで生きているのは間違いない」

海は広大だ。

遊んでいるうちにふと帰り道が分からなくなり、そのまま逆方向に進んでしまえばどこまでも遠くに行けてしまう。

「でも、他の家族の縄張りを通っていれば、誰かしらがあの子たちの唄聲を聞いているはずよ!」

「偶然か……、もしくは……」

「まさか、本當に人間の街に……?」

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「そこは普段からきつく言い聞かせている。あの子たちがそう簡単に陸に上がるとは考えづらい……」

「絶対に見つけ出す。どこにいても……、絶対に……」

「ああ、必ず見つけ出そう」

十歳まで育てて、別れる。

だがその短い期間の間に、魚人族の母親は子供達に一生分のを注ぐ。

そのは盲目的であり、執念ともいえるほどのものである。

それゆえ子育て中の魚人の母親から子供を取り上げることは、奴隷商人にとってさえもじ手とされている行為だった。

「危険だが、明日はもう一度人間の街に行ってみよう」

「明日なんて無理。今すぐに……」

し休めシャリアート」

「嫌!」

「人間の街に行けば、最悪の場合戦闘になる。そんなでいけば逆にお前が捕らえられてしまうぞ」

「くっ、うぅぅ……人間が憎い。人間が憎い!」

シャリアートは悔しそうに顔を覆い、泣き始めた。

「まだ、そうと決まったわけではない」

「そうとしか考えられない!」

「だが……」

『子供の行った先を、私は知っているよ』

不意に、そんな人間の言葉と共に空中に黒い人影が現れた。

聲から察するに、の様だ。

「こんにちは、魚人さん。ご機嫌はいかが?」

「……誰だ? ふざけるなっ!」

そのの神経を逆でするような言いに、シャリアートが瞬時にして逆上した。

そして、人影に向けて牙をむきだして威嚇しながら、即座に水の魔を放って相手を拘束しようとしたのだった。

の足元の地面から水が溢れ出し、一気にの周りを取り囲んでいく。

「あら、殘念。初対面なのにもう嫌われているようね」

がパチンと指を鳴らすと、を拘束しようとしていたシャリアートの水魔が空中で霧散した。

「なっ……」

「やめろシャリアート!」

相手が相當な実力者であると見たシュトゥルクは、シャリアートとの間に立ちふさがった。

もし目の前の相手が子供達を攫った張本人であるとすれば……

萬に一つにも力づくでは打ち勝てないだろう。

シュトゥルクは、瞬時にそう判斷していた。

「……何者だ?」

そして、シュトゥルクは冷靜な聲でそう問うた。

「私は……、『黒い翼』という名前の盜賊団。……の、首領。あなた方の子供達の行方について、心當たりを伝えにきた」

「……」

値踏みするような目で黒の人を睨みつけていたシュトゥルクであったが、やがてゆっくりと口を開いた。

「なぜ、それを俺たちに伝える?」

「あなたに、恩を売りたい。先の魚人戦爭において、燈火聖騎士隊の進撃を最後まで強力に阻み続けた。魚人族最強格の戦士『雷帝のシュトゥルク』を……我々の陣営に加えたい」

「そんな二つ名は昔の話だ。雷槍ボルドーはあの戦爭で聖騎士達に奪われた。俺にはもう、雷撃は扱えない」

「その槍ならば、今ここに……」

そう言って、黒が『倉庫』のスキルを発し、中から一本の長槍を取り出した。

「……なぜ、お前がそれを?」

「人間達から奪いとった。私は盜賊、だからね」

「お前も人間だろう?」

「さぁ、どうかしらね?」

深く被った黒いフードから、僅かに見える口元がニヤリと歪んだ。

「子供達は西大陸の中心地……城塞都市キルケットにいる。クドドリンという貴族がそこへ連れて行った。もはや、そう簡単には手は出せまい」

「っ!!」

『まさか本當に……』と歯を噛み締めたシュトゥルクの橫で、シャリアートが耳をつんざくようなび聲を上げた。

「いやよ! そんなの嫌っ!」

「信じる信じないはお前達次第だ。お近づきの標に、その槍はしばらく貸しておく。どう使うかはお前次第、だ」

そう言って。

の姿は現れた時と同じようにして一瞬にしてかき消えたのだった。

「でも、私としては……。かの強兵『雷帝のシュトゥルク』の戦いが見たい、かな」

の消え去った空間から、最後に聲だけがこだまのように響いてきた。

「あの子達を助けに行く! キルケットという人間の街はどこにあるのっ!? ねぇ……シュトゥルクは知っているんでしょ!? 教えて! ……教えなさい!!」

「……」

取りして泣きぶシャリアートを拘束し(抱きしめ)ながら、シュトゥルクはが消えた場所をいつまでも睨みつけ続けていた。

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