《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》909 初公開の魔法
最初こそ悪霊の想定外なきに驚かされたが、その後は終始こちらのペースで戦闘は進んでいた。まあ、時折ミルファが攻撃をさばききれずに結構痛いダメージをけてしまい、ネイトの回復魔法で事なきを得るというハプニングもあったりしたのだけれど。
もっともこれは彼が迂闊だったからではなく、相の悪い敵に真正面から立ち向かわなくてはいかない弊害といった方が適當だ。実際、囮役をよく勤めていたと思うよ。
その甲斐あって背面に回り込んだうちの子たちは攻撃に専念できていたと言えるもの。
え?ボク?いやだなあ、ちゃんと働いていましたとも。ミルファの背後から飛び出すように奇襲をして直接攻撃でダメージを與えてみたりとか、〔生活魔法〕の【源】を顔――のっぺらぼうだけど――のすぐそばに出現させてみたりとか、あの手この手で翻弄していたのですよ。
例えるなら夏場に集ってくる小さな羽蟲か蚊にでもなった気分だわね。ぷーん。
「嫌がらせをさせたらリュカリュカに勝るものはいないでしょうね……」
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などと後々ネイトに呆れ顔で言われてしまったけれど。あれ?
このままの調子で最後までいければ簡単だったのだが、そうは問屋が卸さないと言いますか、運営もそこまでは緩くはなかったらしい。HPゲージのおよそ四分の一を削ったところで、悪霊が両腕を頭上へと大きく振り上げた。
「みんなすぐに離れて!」
あれは不味い!?と直的にじ取ったボクはほとんど脊髄反でんでいた。それが功を奏したのか、悪霊の背面(あちら)側にいるうちの子たちが急いで距離を取っていく。正面(こちら)でもミルファがくるりと背を向けダッシュで離していくのが視界の端に映る。
その一方で、仲間たちへ警告することに注力していたボクは、逃げるタイミングを完全に失っていた。
怪しくる両の拳が振り下ろされ始めたのを見て覚悟を決める。逃げられないなら、せめて何が起きるのかしっかり見極めてやるんだから!
ドゴン!と轟音を立てて悪霊の拳が床に激突した次の瞬間、悪霊を中心に怪しいが水面の波紋のように広がっていく。要は衝撃波的なものによる全方位攻撃ってことね。タネを暴き終えたところですぐさま行に移る。
「【アクアウォール】!」
本邦初公開!〔水屬魔法〕技能の練度を最高値にまで上げきったことで進化した〔中級水屬魔法〕で新たに習得した防(ウォール)系の魔法だ。
「……え?へぷっ!?」
が、練度が足りなかったのかそれとも集中が甘かったのか、水の壁はあっという間に崩壊して大量の水しぶきと一緒に衝撃波の一撃に跳ね飛ばされることになったのだった。
「う、く、ふにゅ……!」
あえて勢いには逆らわずにゴロゴロと床を転がることで衝撃を逃がしていく。余計な怪我をしないようにを丸めておくのがポイントです。まあ、その分目が回ってしまいやすいのが難點その一な訳ですが。
あと、息が続かなくなったり舌をかんだりするのは論外だけれど、無意識化でもが勝手に備えてくれるので、適度に聲を出すのもおススメです。
さて、その一があるということはその二もあるということで。
難點その二、攻撃の強さによっては意外と長い距離を移することもあり、戦線に復帰するまでに時間がかかることになる。この時のボクがまさにそれで、何と謁見の間のり口付近にまで転がされてしまっていた。
フラフラする視界に難儀しながらもなんとか立ち上がる。そしてようやく五が戻ってきたと思っていたら、どこからともなくうめき聲のようなものが聞こえてくるような気がする?
「今度はなんなの?」
出所を探って周囲を見回していると、あるが見つかる。それは荘厳で巨大な扉だった。全面にわたって細やかな細工が施されており、品としても一級の価値がありそうだ。そんな大扉がかすかに揺れていた。
「えっと……、もしかしてもしかするってやつ?」
うん。何を言っているのか意味不明だね。とりあえずここはそれだけいっぱいいっぱいになっているのだと理解してもらえればと思う。
「王様だものねえ。配下を呼ぶとか通達するとかの能力があってもおかしくはないかあ……」
つまりは扉の外には死霊たちが押し寄せてきているのでは?と思い至ってしまったのですよ。うめき聲っぽいのは死霊たちの鳴き聲?だわね。
「やれやれ。まさか時間制限もあったなんて、えぐい仕様だなあ」
ある意味、自我の殘っていた元兇その一な魔法使いの死霊を先に倒しておいて正解だったのかも。そうでなければ今頃魔法陣を使って、その上扉を開けて外の死霊たちまで追加されていたかもしれないもの。
「元王様の悪霊一でもこれだけ手こずっているっていうのに、死霊追加(おかわり)だなんて冗談じゃないっていうのよ」
その悪霊だが、さすがにあれだけの大技はそう何度も連発できるものではないらしく、ちまちまとした攻防に逆戻りしていた。それでもアルゴリズムに若干の修正が加えられたのか最初の頃よりも積極的に攻撃したり、を捻るようにして背面にも意識を向けているように見えた。
「あっちはあっちでのんびりとはさせてくれないってことか」
今のところは互角以上に戦えているが、あちらの行にさらなる変化が加えられればそうも言っていられなくなるだろう。これでもボク、司令塔役だからね。
「おっと、戻る前にHPを回復しておかないと」
転がったり【アクアウォール】を張ったりして軽減したとはいえ、衝撃波によるダメージは無視できるものではなかった。
アイテムボックスから狀の回復薬を取り出し、ごっきゅごっきゅと飲み干す。お風呂上がりに牛シリーズを飲むときのように、腰に手を當てることを忘れちゃいけないよ。
「うへえ……。みんなの要でカレーの香り(フレーバー)をつけてみたけど、絶対失敗だと思う……」
NPCたち、カレー好き過ぎじゃないかな。運営にかれー中毒者(きれんじゃー)が居るのは間違いないと思う。
味に問題はあっても効果に問題はなく、HPが見る見るうちに全快していった。
「これでよし、と。そろそろ戦いに戻りますか」
敵のきが変わったことで正面と背面の連攜が必要になってきているようだからね。パーティーリーダーとしての、そして司令としての力の見せ所というやつですな。
あからさまなお膳立て?それは言わないお約束ですよ。
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