《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》24 確証のない話
それから數日後の朝食時。
その日、ミトラは食堂に現れなかった。
やはり調がすぐれないらしい。
そろそろ本格的にカリーナを呼ぶべきだろうか?
魚人の子供たちについては、シュメリアの盡力もあって何とか普通に食事を取ってくれるようになってきていた。
エルフの行商人については、今も毎日のように講義と実踐を繰り返している。
店を開くようなこともしてみていたが、アマランシアのいる店以外ではほとんど商品は売れなかった。
今一歩、何かが足りないような気がしている。
そんな今進めていることをあれこれと考えていたら食事が遅くなり、気付けば食堂に殘っているのは俺とカルロの二人きりになっていた。
ミトラの調が優れない以上、家庭教師兼護衛として雇われているカルロもまた暇を持て余しているようだ。
「なぁ、カルロ」
「なんでしょうか?」
「ここ最近ずっとミトラの調が悪いように思うんだが」
「そのようですな。ジルベルト様も、大事を取ってミトラ様に割り振る仕事の頻度をかなり減らしておられるようです」
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「ん……? そういう話だったのか?」
「ええ、ミトラ様から聞いてはおりませんか?」
「まぁ、聞いてはいたが……」
俺が聞いたのは『ジルベルトからの仕事が減り、暇になって気が抜けたから調が悪くなった』という話だった。
だが、カルロによると『調が悪くなったから仕事の量を減らされた』という事らしい。
それは、かなり大きな違いだ。
ジルベルトのことだから、ミトラを気遣ってというよりも単純に長い目で見た時のリスクを軽減したということだろうが。
「それは、いつ頃からか覚えているか?」
「私が覚えている範囲でよろしければ……おそらくは、ひと月ほど前にアルバス殿達が門外地區からこのお屋敷に戻ってきた頃からでしょうか」
それはそれで、ミトラにとってはかなり大きな環境の変化だ。
お屋敷から外に出ることで張り詰めていた気持ちが、再びお屋敷に戻ることで緩んだというのはありそうな話だった。
「……そうか」
には月に一度の調不良などもある。
ミトラは毎回比較的重いらしく、定期的に寢込んだりもしていた。
だが、どうも今回のはそれとはなにか違うような気がしていた。
何より、カルロのいう時期からだとすると長すぎる。
「ミトラ様自も仰っていましたが、最近の無理が祟ったのかと思います」
「そうだな。元々ほとんど外に出ない生活だったのだからな」
ジルベルトの仕事の手伝いを始めてからというもの、ミトラはかなりの頻度で外に出かけるようになっていた。
シュメリアやカルロの付き添いがあるとは言え。
分厚い眼帯で常に視界を覆っているミトラにとって、毎日のように初めての場所へと連れ出されるのはそれだけでも相當な負擔だろう。
それに……
屋敷の自室から外へ出るということは、それだけでも何かの拍子に瞳のことがバレるリスクも高まるということだ。
それについても、ミトラにとってはかなりのストレスになっているはずだった。
「ただ、し気になることもございまして……」
しだけ聲のトーンを落として、カルロがそんなことを言い出した。
「なにがだ?」
「いえ、全くもって確証もなく。何よりミトラ様ご自が『疲労のため』と仰っておりましたので……」
カルロの言葉はどうにも歯切れが悪い。
「何か気になることがあるなら言ってくれないか?」
「いえ、全く確証のない話です」
職業柄、カルロの口は固い。
話すべきではないことや『話すな』と言われたことについて、カルロは例えどんなことがあっても口にしない。
その部分においてカルロは、非常に信用に足る男だった。
何せ、俺が『聞かなかってことにしてしい』と言った、アマランシアの正について。
カルロはジルベルトにさえ伝えていないようだった。
カルロは本當に『聞かなかったこと』にしたようだ。
「俺には話せないことか? ならば、これ以上は聞かないぞ」
真の『信用に足る人』とは。
気心が知れているからといって何もかもを相手に打ち明けてしまうような者ではない。
それは、相手が誰であろうと言ってはいけないことは絶対に口にしない者のことをいうのだろう。
ならば、カルロが『話せない』と判斷したことについて、これ以上無理やりに聞こうとするのは野暮なことだった。
カルロは首を橫に振り、再度「そういうわけではなく、全くもって確証のない話なのでございますが……」と前置きをしてから言葉を続けた。
「ミトラ様は、ご懐妊されているように思います」
「……ごかいにん?」
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
「ごかいにん……、ごかいにん……、ご懐妊……」
もう三度繰り返してみて、ようやくその意味が理解できた。
「子が、いるということか⁉︎」
「確証はございませんよ」
再度、カルロがピシャリとそう言い放った。
「ただ、以前私の妻が子を宿した時と、し様子が似ているように思ったというだけの話です」
「……そう、か」
やることをやっているのだから、いつかはそういうこともありうる話ではあった。
だが、當のミトラがそれをんでいなかったから、そうならないようにと一応は気をつけていた。
それでも、絶対の自信はなかったから……
そういうことが起きても不思議はなかった。
ただ、正直に言って実は全く湧いてこなかった。
「アルバス殿……。今一度申し上げますが。全くもって、確証はございません」
再度、カルロにそう念を押されたが……
俺の鼓はいつの間にかし早まり始めていた。
→→→→→
その夜。
俺はミトラの部屋を訪れていた。
「アルバス様。実は、今日はこのまますぐに寢ようと思っておりました。せっかくいらしてくださったのに申し訳ありません」
時刻はまだまだ早い時間だ。
にもかかわらず、俺が尋ねていくなりミトラは寢支度を整え、そそくさとベッドにり込んでしまった。
仕方がないので、ベッドわきに椅子を移させ、そこでミトラに話しかけることにした。
「ミトラ……」
そう呟き、俺はミトラの肩にれた。
そのまま眼帯の結び目へと手をばす。
「申し訳ありません。調がすぐれないので……」
そう言って、ミトラは寢返りを打って俺の手から逃れていった。
どうやら、抱こうとしていると思われたらしい。
「ミトラ……」
「……」
そうして、ミトラはそのまま寢息を立て始めてしまった。
子供の件については、そのまま聞くタイミングを逃してしまった。
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