《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》実力を問われる

どうしてこんな事になったのだろうか。私は正面を見つめたまま、今一度考えていた。

そう、今日は新しい製法で作った人工魔石が形になったから、それを見せる……それだけの話だったはずだ。

周りには観衆まで集まっている。最初は琥珀とベルンちゃんだけだったのに、いつの間にこんなに増えてしまったのだろう。

訓練に使われている中庭でクロヴィスさんと向かい合った私は、心この狀況に怖気づきながら手汗の滲む木剣を握り直した。

……実際の武の取り扱いと近付けるため、重りとして鉄芯がっている。それこそ、まともに當たれば怪我をするのは確実だ。

なんでこんな、クロヴィスさんと模擬試合なんてする事になってしまったんだろう。

フレドさんの生まれ故郷であるミドガランド帝國の帝都にやってきた私達は、クロヴィスさんの所有する件の一つに住まわせてもらっていた。

正確には、冒険者クラン「|竜の咆哮」の所有する件だ。私達三人は、クロヴィスさんのもう一つの顔である「聖銀級冒険者デリク」の知り合い……という事になっている。

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帝都の中心部にもアクセスの良い、治安の良い區域の家族向けの集合住宅の一部屋。他の部屋の住民も管理人もクランの人なので、防犯面もバッチリ。心配のアンナも即納得した條件だった。

私達はこうしてリンデメンの時以上にスムーズに新生活を始める事が出來たのだが、クロヴィスさん達はとても忙しそうにしていた。特に、フレドさんは帰國と言うか……かつてのフレドさんを知ってる人達の前に出る事自が五年ぶりなので、余計に。

二人共、しばらくはちょっと顔を出してはすぐ帰るほどで。むしろそんな中私達に気を遣ってもらうのがちょっと申し訳ないなとすら思った。

生活に不便はないかとかは、エディさんがサポートしてくれたので全く問題なかったしね。

忙しそうなフレドさん達とは変わって、私達の生活は順風満帆そのものと言って良い。

まず手配してもらった件には、アンナが目を輝かせて喜んだ「システムキッチン」というタイプの炊事場が整えられていた。魔道が組み込まれて、コンロ、シンク、広々とした調理スペースに収納も確保したとても機能的な構造になっている。

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確かに、使いやすいし掃除もしやすそうだなと私も心した。

そこでアンナは毎日楽しそうに凝った料理を作るようになって、最近では拵えるお菓子の出來栄えがお店で売ってるようなものと遜がなくなってきたくらいだ。

そして琥珀だが、クロヴィスさん……いや冒険者デリクのクランの仲間達が、琥珀に稽古をつけてくれるようになって、こちらも毎日思う存分かす事が出來るようになって楽しそうにしている。

リンデメンに居た時は、一応私が相手になって毎日訓練はしていたけどあれでは足りなかっただろうな。今ではほぼ毎日「|竜の咆哮」に所屬する冒険者達と一緒に基礎訓練をして、時には試合のような形で力比べをしているが、それでもまだ力には余裕があるみたいだし。

一度私が同行した後は、問題ないとクランの幹部に判斷されて、時々「|竜の咆哮」の依頼に琥珀だけ連れて行ってもらったりもしている。

もちろん、帝都から日帰りで行ける依頼ばかりだが、琥珀は中々可がってもらっているらしい。

人の指示をちゃんと聞いてけるようになったなんて、本當に琥珀は長したなと思う。最初の時なんて、「どうして魔を倒すだけじゃなくて討伐証明部位とやらを切り取って持って帰らないといけないのか」から説明してたもの。

むしろ今は、私が教える事が出來ない琥珀の怪力を生かした戦い方とか、琥珀の鋭い聴力や嗅覚を利用したより効率的な警戒の仕方などをクランに所屬する優秀な冒険者の皆さまに教えてもらえているので、とても実力が上がったと思う。

強化の得意な前衛の人や、獣人の戦士からのこなしと腕力を生かした立ち回りを教わってからはそれは特に顕著にじた。

師として、追い抜かされないように私も進しなければ。

ちなみに私だが、ここでも一応錬金師として活している。もう家族に知られているので、リンデメンに居た時のように隠れなくても良い。

現在使わせてもらっている工房は、「|竜の咆哮」の所有する敷地に宿舎棟と鍛冶工房と並んでいる大規模なもので、やはりクロヴィスさんの私である。私以外の錬金師はクロヴィスさんが個人的に支援している人達で、彼らの仕事は「|竜の咆哮」の使う魔道やポーションを製作する事だと聞いた。

それ以外の時間はクロヴィスさんの資金援助によってそれぞれ研究を行っているそうだ。なお、クロヴィスさん自も「天才錬金師でもあるクランマスターのデリク」としてたまにここで作業を行っている。機にあたらない研究容をちょっとだけ見せてもらったが、「皇太子として忙しくながら、いったいどこにこんな凄い研究をする余力が……⁈」と驚くような容だった。次に顔を合わせた時に研究に著いて質問しようと考えていたのだが。

その「|竜の咆哮」の所有する工房を間借りさせてもらう形で、私は新式人工魔石の研究をしている。

クランマスターのデリクさんがどこからか人を連れて來るのは珍しくないらしく、そういった存在は錬金師に限らずたくさんいるみたいで、私と琥珀は何の障害も無くこのクランにれていただいる。むしろ、私がちょっと「こんなにすぐ馴染んでいいのかな」と心配するくらいには。

工房で働く錬金師たちのまとめ役であるニアレさんには「うちのクラマスは、優秀な人を見るとすぐスカウトして連れてきちゃうからなぁ。もう事後報告にも慣れたよ」なんておしゃってて。その「天才にスカウトされてきた優秀な人」と最初は期待されてて、ちょっと居心地が悪かったけど。

実力以上に勘違いされるのは心臓に悪い。でも弱音は吐いていられない。私はフレドさんの役に立てるとクロヴィスさんに示すために、何かしら果を挙げなければいけないのだから。

それで、やっとクロヴィスさんに報告できるくらいの大きさの新式人工魔石が出來たとエディさん経由でお伝えして、「クランマスターのデリク」としてここに訪れた訳なのだが。

クロヴィスさんは私の約束よりもかなり早い時間に到著して……きっと他にもここでやる事があったのだろうな。その時はちょうど、私が琥珀に簡単な稽古をつけていた。

しかし琥珀と私がクランハウスの中庭で訓練をしているのを見て、クロヴィスさ……いやデリクさんが「僕とも手合わせしよう」だなんて言い始めたのである。

「デ、デリク様⁈ リアナさんは錬金師でしょう! 何を無茶な事を……」

「いや、リアナ君は優秀な金級冒険者でもあるよ」

久々にクランハウスを訪れたクランマスターを大勢が囲んでいた中でそんな発言をされて、私にざぁっと人の目が集まった。

さっきまで、中庭に降り立った騎竜のベルンちゃんとクロヴィスさんに、英雄を見るみたいにキラキラした視線を向けていたのに……クロヴィスさんを尊敬しているらしい人達ほど、私に向けるには棘が混じっているのが分かる。

たしかに、こんな……組織のトップがこうしてポンと連れてきた新人を気にかけている様子が見えるのは、気に食わないだろう。……私も実際、あの時新しく家族になったニナに対して似たようなを抱いてしまった訳だし。

副クランマスターだと紹介された男、たしかジェスさん……がぎょっとした顔で止めてくれていたが、クロヴィスさんは発言を引っ込める気はなさそうだった。

「琥珀君に稽古をつけたり指導してるのは見てたけど、十分僕とまともにやり合える腕は持ってると思うよ。ちょうど良かった、実力も確認したいし、最近肩がこる仕事ばっかりだったからさ。リアナ君、ひと試合しようよ」

「ええ……」

「ああもう……この人はほんと、人の気も知らずに勝手な事ばっかり言って……!」

わーっ、と頭を掻きむしりながら困った顔をするジェスさんは、しかしそれ以上「クランマスターのデリク」を無理に止めても無駄だと途中で失速して、私に「すいませんね」といった視線を向けてくる。

ここで私も、何が何でも辭退するという選択肢は諦めて、話に流されてしまったのだ。

こうして、私は「|竜の咆哮」のクランハウスの中庭で、「クランマスターのデレク」と武を構えて向かい合っている。

離れた所から無邪気に応援してくる琥珀、「リアナ、手加減せずに思い切り倒してしまって良いぞ!」なんて無責任な事を言うのはやめてしい。ホラ、私達を囲んでる、クランの人達の目が厳しくなっちゃってるじゃない! 私は正面を見據えたまま、周囲に一瞬だけ意識を向けて反応をじて冷や汗をかいた。

當然、琥珀の応援通りになんて行かない。いくらなんでも実力差がありすぎる、全力でかかっても數回まともに打ち合うのがやっとだと思う。

しかし、別の考え方をするなら……ここでクロヴィスさんに、私がちゃんと使える駒だとアピールする機會が得られたのはある意味幸運ではないか。何か一つで抜きんでて秀でるという事は私には難しいと思う。なので、「々な分野でそこそこ役に立つ」としっかり売り込んで、これからもフレドさんの仲間として有用だと認めてもらう……というのは良い案なのではないだろうか。

私は覚悟を決めて、模擬剣をしっかりと握り直した。

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