《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百二十九話 聖と知竜の方程式
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第三百二十九話
渉の為魔王軍の陣地へと赴いた私は、魔王軍特務參謀であるギャミと対峙した。
ギャミは子供の様な背丈に、ツルツルとした皺のない顔をしている。そして薄い目で私を見る。
「一……」
ギャミが口を開いた。だがその時、酒宴で大きな笑い聲が響き渡った。言葉を遮られたギャミは苛立たしげに顔を顰め、騒ぎの中心である酒宴を睨んだ。
酒宴では飲み比べが行われており、魔族に混じってアルが盃を傾けている。
「ここは騒がしい。私の天幕で話そう」
ギャミが先ほど自分が出てきた天幕を見る。私が頷くと案する様にギャミが歩き、そのあとを護衛としてイザークが追従する。私もレイと共にギャミの後についていき、天幕の中にった。
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天幕には敷が敷かれ、機や椅子が並べられている。どうやら私がくることを予想し、準備していた様だった。ギャミが席を促し、私達は機を挾んで席に著く。
「改めてご挨拶を。ロメリアと申します」
「魔王軍、特務參謀のギャミである」
「今回は會談に応じていただき、ありがとうございます」
私は軽く頭を下げた。人類と魔族が正式に會談するのは、これが初めてだ。歴史に殘る一幕と言える。
「それで、ロメリア様。何の用でしょうかな?」
「今回の停戦を機に、私は人類と魔王軍の間で戦時條約を結びたいと考えています。主に捕虜の処遇に関して」
私が本題を切り出すと、ギャミは驚かずに頷いた。
現在、人類と魔族の間では、一切の戦時條約が結ばれていない。そのため兵士達は降伏することができないでいた。降伏しても捕虜を生かしておく條約がないためだ。そのため人間も魔族も、負けると分かっていても全滅するまで戦うしかない。
「捕虜の扱いに関する條約に、捕虜換の取り決め。また降伏や停戦の手順を定めておきたいのです」
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「これはしたり。我ら魔族を殲滅せんが為に、軍を起こした聖ロメリア。その方が我ら魔族を生かして返すと? そんな話を信じるとでも?」
ギャミが刃の瞳を向ける。私は鋭い視線に対して、短い言葉を返した。
「百三十七」
「ん? 何の數字だ?」
「現在、我がライオネル王國にいる魔王軍の捕虜の數です。もちろん拷問などは行っていません。食住も最低限の補償はしています」
私の國であるライオネル王國は、魔王軍の兵士を捕虜に取っている。
これはもちろん魔王軍の報を引き出すためだ。だがこの報収集はあまりうまく行っていない。まず敵が降伏してくれないため、捕虜を取るのが一苦労だ。さらに報を吐いても生きて帰れる保証がないため、魔族の捕虜は口を閉ざす。
それでも報を引き出すには、拷問するしかない。だが拷問で喋らせた報には、多くの噓が混じる。報をすり合わせるには多くの捕虜が必要になるが、その捕虜が取れないと言う最初の問題に戻る。
「私の目標は、奴隷となった人々を救うことです。しかしその方法を、必ずしも魔族の殲滅と決めてはいません」
勘違いされては困るので、私は自分が掲げている目標を伝えておく。
「貴方達が我々の同胞を解放し、奪った土地を返して故郷の魔大陸に帰ってくれるのなら、手を振ってお見送りしますよ」
「無理だな、魔導船がない」
ギャミの言葉に私も頷く。
私達が住むこのアクシス大陸と、魔族が住む魔大陸とも呼ばれるゴルディア大陸の間には、強大な海原が存在している。この海を渡り切るには、魔導船が必要不可欠だった。しかし魔導船の建造は魔族であっても難しいらしく、この大陸に殘された魔族達は一隻も所持していない。魔王ゼルギスが死んでから、魔導船の往還も途絶え、魔王軍はここに取り殘されている。
「結果として、互いを滅ぼすまで戦いを止めることは出來ぬか……しかしそれはこちらとて同じことだ。互いに滅ぼすまで戦いを止めぬと決めているのなら、降伏のための條約など結んでどうする。我ら魔族に命を惜しむ者はおらん! 最後の一兵になろうとも、降伏などせん!」
ギャミが天幕で吠える。しかしその言葉は何とも芝居がかっていた。
「ええ。我が國でも、そう言う者は多いです。全く、馬鹿げた考えです」
私がギャミの言葉を切って捨てた。
「そんな考えのせいで、兵士たちは降伏せずに死ぬまで戦うことを選ぶ」
私はこれまでの戦いを思い返した。
同じ人間同士の戦いであれば、降伏する狀況にもかかわらず、降伏せずに全滅するまで戦うことがあった。
「武勇を誇りとする將軍や兵士達はそれでいいかもしれません。ですが計畫を練る參謀として見たら、堪ったではありませんよね? 私達はしでも損害を減らそうと頭をひねっているのに、前線の兵士や將軍たちが採算度外視の投げ売りをしている」
私の言葉に、目の前にいるギャミが思わず吹き出した。
參謀や軍師とは、いわば戦爭の計算係だ。兵士をどこから集めるのか? 戦場に移させるには何日かかるか? 必要とされる食料は? 戦闘が起きた場合、損害はどれほど出るのか?
勝つために必要な數字を割り出して計畫する。それが參謀の仕事だ。
「確かに、我ら參謀にとって効率こそが正義だ。味方をいかに効率よく殺すか、それだけが至上命題よ」
ギャミが笑いながらも頷く。ひどい言い草だが、まさに真実であった。
自軍に一の損害が出たとしたら、敵軍には一以上の損害を出させる。これが參謀の仕事だ。その効率が良ければ良いほど、參謀は良い仕事をしたと言える。
「私達は効率よく、しでも損害を減らそうと努力している。しかし前線では降伏出來ないがために勝てない戦いに挑み、余計な被害を出している。実に馬鹿馬鹿しい」
私が言い切ると、ギャミも顎を引いた。
失われた兵力を回復するには、とんでもなく時間がかかる。降伏して捕虜換で兵士が戻ってくるのなら、それが一番効率的だ。
「貴方の言い分は理解できた。確かに、敵であっても歩み寄れるところは歩み寄るべきだ。私の一存では回答出來ないが、前向きに考慮しよう」
「ありがとうございます」
私は笑顔で頷いた。私としても、今日のうちに全てを決定するつもりはなかった。次回の會談の約束を取り付けるだけで十分だ。
「それで、話とはそれだけですかな?」
「いえ、実はもう一つ」
私はこの會談の真の目的を切り出した。
ロメリアとギャミ、敵同士だけど話が合う
注 「味方をいかに効率よく殺すか」は誤字にあらず。
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