《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》94 フェリクス様の10年間 3
「私の話の中には、君にとって聞くのが辛い話があるかもしれない。その場合は、すぐに教えてくれ。速やかに話を止めるから」
フェリクス様はそう前置きをすると話を始めた。
けれど、聞き始めてすぐに気付くほどに、フェリクス様は言葉も話題も選んでいて、私の負擔にならないようにと気を使ってくれていた。
途中でミレナが戻ってきて、話しながらでもつまめるような料理をテーブルの上に並べたけれど、話に熱中していた彼が手に取ることはなかった。
「それから……既に聞き及んでいるかもしれないが、我が國の領土が増えたのだ。ゴニア王國とネリィレド王國を併合したからね」
「ええ」
ハーラルトの話によると、10年前、フェリクス様に毒蜘蛛を仕掛けたのはゴニア王國とのことだった。
だからこそ、殺されかけたフェリクス様があの國と戦ったのだと。
「10年前にフェリクス様は毒蜘蛛に噛まれたけれど、その蜘蛛はゴニア王國の者が放ったと聞いたわ」
「ああ、そうだ! そのせいで何の罪もない君が毒をけ、苦しみ、長い間眠り続けた」
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まるで昨日起こったことのように激しい調子で同意するフェリクス様を見て驚いたけれど、話がズレたように思われたため修正する。
「えっ、ええ、そうね。でも、元々毒をけたのも、苦しい思いをしたのもフェリクス様だわ」
フェリクス様はを歪めると、首を橫に振った。
「私がけた苦しみなど、せいぜい數時間だ。の數にもりはしない。そうではなく、ルピア、君が苦しんだのだ」
フェリクス様ははっきりと最後まで言わないけれど、まさか苦しむ私の敵討ちをしようという気持ちがいくらかあったのかしら。
「ネリィレド王國は……」
おずおずと先を促すと、彼は苦々し気な表を浮かべた。
「ああ、あの國こそが黒幕だった。ゴニアとネリィレドの王室は婚姻にて何代も前から強く結びついている。そして、ネリィレド王國は君の母國と隣接しているから、私が君を妃にしたことで、我が國とディアブロ王國が強く結びついたのではないかと危機を抱いたらしい。地形的に2國から挾まれた形になるからね」
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「まさかそんな……」
考えもしなかった展開に驚いていると、フェリクス様はを歪める。
「ああ、全くもって馬鹿げた話だ。ディアブロ王國の國王にしろ、私にしろ、他國に侵略しようという気持ちなどこれっぽっちもなかったのに、何もないところに恐怖を読み取られたのだから。そして、大國ディアブロ王國への侵略は難しいとネリィレドが判斷した結果、我が國がターゲットにされた。しかも、正面から向かってくるのではなく、王である私を暗殺したうえで、その混に乗じて攻めろうとしたのだ」
そう言うと、フェリクス様はを読み取られたくないとばかりに目を伏せた。
スターリング王國が勝利したと言っても、なくない被害を被ったはずだ。
そのため、彼はその當時にじた悲しみや悔しさを私に読み取られたくなかったのだろう―――恐らく、私が同じように悲しみや悔しさをじないために。
彼の優しさが伝わってきたため、が塞がったような気持ちになって、私は思わず隣に座るフェリクス様の手を取った。
「フェリクス様、ごめんなさい。あなたが大変な時にずっと眠っていて。私は目覚めて、あなたの側にいるべきだったわ。あなたが悲しい時には一緒にいて悲しむべきだったし、あなたが悔しいとじた話を聞いて、を共有すべきだった」
私の言葉を聞いたフェリクス様は驚いた様子で顔を上げると、激しい調子で否定した。
「それは違う! 君は私の毒を引きけて眠っていたのだ! それ以上何もできるはずがないし、それ以上のことをむはずもない!!」
そうだろうか。
多分、毒を抜くだけならば、2年ほどの眠りで済んだはずだ。
戦いがいつ行われたかは分からないけれど、フェリクス様がはっきりと時期を言わないのは、私が私の意志で眠っていた時間と重なるからではないだろうか。
「私は私の意志で必要以上の時間眠っていたわ。だから」
そのことを確認しようと口を開いたけれど、途中で遮られる。
「君は好きなだけ眠っていいのだ! そもそも君に長期間眠ろうと決斷させた原因は私だ。そのせいで、君は親しい者たち全てと12年もの間斷絶しなければならなかった。痛みと苦しみを引きけただけでなく、さらなる犠牲を払ったのだ……本來ならば、君には一切の犠牲など必要ないのに」
「えっ、……いえ、そんなことはないわ。フェリクス様ではなく、私が決斷して」
驚いて否定しようとすると、またしてもフェリクス様に言葉を遮られた。
「君がそう決斷するしかないよう、私が君を追い詰めたのだ!!」
苦し気にばれた言葉を聞いて、私は目を丸くした。
10年前、フェリクス様は十分なほどに優しくしてくれた。
だから、彼に追い詰められたのではなく、私が彼の邪魔にならないようにと、自らを引いたのだ。
けれど……たとえばネリィレド王國が何もないところに恐怖を読み取ったように、私もフェリクス様の気持ちを読み間違えたのだろうか。
フェリクス様の世界は私がいなくてもきちんと回っていくと考えたけれど、もしかしたら彼の世界にしばかりの綻びが生じ、上手く回らなかったのかもしれない。
「……自分では気づかなかったけれど、もしかしたら10年前、私は追い詰められていたのかしら。だから、を守ろうとして、自分に都合のいいことを読み取ったのかしら……フェリクス様の希に反して。そうだとしたら、フェリクス様に大変な迷を被らせてしまったわ」
申し訳ない気持ちになってそう言うと、フェリクス様は「そうじゃない!」と激しく言い返してきた。
「私は何一つ迷を被っていない! そして、君が々なものを読み取るしかなかったのは、私が君をギルベルトとビアージョ、アナイスから守らず、君との話し合いを拒絶したからだ」
彼の激しさに言葉を差し挾めないでいると、彼は後悔した様子で言葉を続ける。
「10年前、私が君を酷く誤解して拒絶した後も、君は3度、自分から私のもとに來てくれた。なのに、私は一度も君と會おうとしなかった。そのことをずっと後悔し続けている」
そう言うと、フェリクス様は震える手を握り締め、自分の額に當てた。
「3度も拒絶されたのならば、心が砕けても不思議はない」
6/7(水)に【SQEXノベル】からノベル2巻が発売されます。
ルピア×執著心あらわなフェリクスの素晴らしい表紙が目印となっています!
2巻は書きたいものが溢れてしまい、全の半分近くを加筆しました。
我ながらこんなに書きたいものがあったのかと驚きましたが、おかげで読んでほしいものを詰め込むことができた1冊になりました。
〇WEB掲載分
全的に修正しました。読みやすくなったと思います。
〇加筆分
1【SIDEアスター公爵】いけ好かない従妹の夫
いいだろう。彼が僕の想像通り最低の男であるということを証明して、ルピアを母國に連れて帰ろう。恐らくフェリクス王はそれほどルピアに未練もないだろうから、簡単に彼を差し出すに違いない。そう考えながら、僕はにこやかに名前を名乗った。
(アスター公爵視點でのフェリクスとの対決)
2【SIDEフェリクス】慕
誰が見ても、私のことが好きだと分かる。
「ルピア、私も君が好きだ……」言葉にすると、思いが込み上げてきて、ぽろりと涙が零れた。
(「慕」にドレスの話と刺繍の話を追加)
3【SIDE騎士団総長ビアージョ】私たちは私たちの王妃を失い続けている
私は一片の汚れも狡さもなく、を守ることすら知らない王妃陛下を―――私が守るべき主君を傷付けた。そのため、どこまでも優しい王妃は、私ごときの言葉に傷付き、長い眠りにつかれた。余計な傷を1つ多く抱えたまま。
(ビアージョが猛省する話。周りの者たちは、このようにルピアを見ているとの一つの指標です)
4【SIDEフェリクス】私の眠り姫
私は彼の首元に顔を埋めた。「私が生きていて、君も生きていてくれるのだから、贅沢を言っている自覚はあるが、……君が眠り続けていることが寂しいのだ」
(WEBでは書かなかったルピアが眠りについてから5年目の日々にフォーカスしました)
5【SIDEフェリクス】ルピアと巡るディアブロ王國
ルピアの母であるディアブロ王國王妃は澄んだ聲を上げた。
「フェリクス王、私の子どもを返してください」
ルピアを返せと言われた瞬間、肺の中の空気が全てなくなったかのような、耐えられないほどの息苦しさを覚えた。衝撃をけてを強張らせると、無言のまま王妃を見つめる。
(ルピアが眠りについて7年目、フェリクスがルピアとともにディアブロ王國を訪れ、彼の家族、イザーク、ルピアの婚約者候補者たちと対峙する話)
6【SIDEフェリクス】ルピアの寢室滯在権を巡るミレナとの攻防
「は、お前は何を言っている? 鬼か! お前は鬼なのか!?」
私はを覗かせない様子で、淡々と鬼畜な提案をしてくる妃の侍を睨み付けると、絶対に嫌だと抵抗の聲を上げた。
(ルピアの寢室からフェリクスを追い出そうとするミレナと、追い出されまいとするフェリクスの攻防)
7 深酒をしたフェリクス、可い可いと妻を褒めちぎる(新婚4か月)
ダメよ、ルピア。フェリクス様は酔っているのだから、信じてはいけないわ。
でもまさかフェリクス様が深酒をすると、これほどまでに相手を褒めるタイプだったなんて。
(これでもかとルピアを褒めるフェリクスと、いいことを考えたつもりのルピア)
8 クリスタ&ハーラルト、ルピアとリスの真似をする(新婚4か月)
ハーラルトから差し出されたものを手に取ってみると、それは茶の耳と尾だった。明らかに人のサイズ用に作られた、リスに模すための。「おねーさまもリスになって、いっしょにバド様の気持ちを考えてくれる?」
(リスのふりをした聖獣とリスの扮裝をした3人の話+フェリクスの深)
すごく読んでほしい1冊になりましたので、ぜひぜひお手に取っていただければと思います。どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
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