《異世界でもプログラム》第五十九話

丘の頭頂部に座っていると、注ぎ込む太が気持ち良い。風も気持ちがいい。吹きおろしの風だ。

「アル!」「アルバン!」

何があった?

俺とカルラは、武を抜いて走り出した。

丘から駈け下りる。

數十メートルの距離がもどかしい。

「クォート!シャープ!」

ダメだ。

森から出てくる奴らを抑えるだけで一杯だ。二人が苦戦しているわけではない。連攜が阻害されている。

違和しかない連中だ。強いわけではない。數が多いわけではない。でも、ダメージをダメージとして認識していない?

を恐れていない。

でも、武の扱いに慣れているようには見えない。武も防も服裝もバラバラだ。どういった集団か解らない。

エイダが居れば分析をして、共通點から想像が出來たかもしれない。

エイダをアルトワ・ダンジョンに向かわせたのは失敗だったか?

まずは、怪我をして苦戦しているアルバンを助ける。

「カルラ!アルを助けろ!」

俺は、遠距離からスキルで補助を行う。

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大技を使うには、アルバンやクォートやシャープが近すぎる。

相手を無力化する方法はないのか?

「はい」

アンデッドではない。魔に変異しているようにも見えない。人だ。でも、人だとは思えない。意識が希薄で”個”がない。

アルバンも、苦戦はしているが余裕があるようにも見える。

敵意がない?

クォートとシャープも敵意がないから、対処が後手後手に回っている。

どうなっている?

カルラが、アルバンと敵の間に割り込む。アルバンを攻撃していた奴らは、間に割り込んだカルラを攻撃する。

襲ってきている連中は、訓練をけている印象はない。スキルを使っている様子もない。

観察をしていて気が付いた。

「カルラ!アル!そいつら、攻撃のタイミング・・・。予備作がない。かすのに、筋ではなく、未知のスキルを使っている。人形と戦っていると思え!」

っている奴が居るかもしれない。今の助言できが変わるようなら、っている奴が近くに居る。

きに変化は見られない。

カルラとアルバンも、きに慣れたのか、先手が取れ始めている。

これなら、安心して・・・。

クォートとシャープの加勢に迎える。

「カルラ!アル!そっちは任せる。徐々に、クォートとシャープ側に導してくれ」

「はい」「うん」

二人から承諾が得られる。

導は難しいかもしれないけど、移はできるだろう。

「クォート!シャープ!」

反応が鈍い。

「旦那様」

クォートが戦いつつ、下がってきているのが解る。

戦えていない。抑えている?

ヒューマノイドタイプの設定に何か問題があるのか?

執事服がボロボロになっている。

シャープもメイド服が破れている。

ブラックボックスになっている部分はないはずだ。

エイダと俺で詳しく調べた。

狀況が異常なのか?

それとも、俺が知らない何か設定が生きているのか?

襲ってくるのは、”人”だ。

ではない。武を持っていない。殺意もない。しかし、攻撃をしてくる。

そうか、クォートとシャープは、明確な攻撃でない為に、襲撃者の撃退が出來ない。

目の前で行われる。自分以外への明確な殺意の確認が出來ない為に、攻撃対象として認識が出來ていない。

「シャープ!クォート!らせるな!俺に近づけるな。近づいた者を排除しろ!」

それなら、明確な殺意を対処すべき攻撃に変えてしまえばいい。

ヒューマノイドタイプの基礎に関わる事だ。

小説の世界にあるような、”ロボット三原則”をAIに當てはめて考えたのが間違いだったのか?

”人の安全を脅かしてはならない。人の権利や尊厳を尊重しなければならない。指示に従い目的や役割の為に活する”

今のクォートとシャープの行は、俺が定めた”仕事”を完遂するための行だ。

自己のへの攻撃は対処すべき問題ではない。

”仕事”を行う為の定義を変えてしまえばいい。

”パチン”

指が鳴る音が響いた。

こんなに、大きな音がするのか?

え?

シャープとクォートに纏わりついていた人たちはきを止めた。

何だ?

”パチパチパチ”

「いやぁここまで完璧に対処されてしまうとは・・・。アルノルト様。逞しくなりましたね。私は嬉しいですよ」

え?

あいつは・・・。

忘れられない。

あいつは!!!

「クラーラ!!!!」

刀を抜いて突っ込む!

お前だけは!お前だけは!

「怖い。怖い。アルノルト様。また強くなりましたね。従者だけじゃなくて、傀儡子まで使われて、私は嬉しいですよ」

ダメだ。

クラーラには屆かない。

俺の攻撃がいなされてしまう。

スキルを併用しても屆かない。

「っぐ」

「アルノルト様。癖が直っていませんよ。攻勢に逸る気持ちは解りますが、防が甘いですよ。ほら、ここも・・・」

クラーラの蹴りが腹に突き刺さる。きは見えていた。なのに防ぐことができなかった。肩を軽く推されてバランスが崩れてしまう。

手加減されて、遊ばれて、俺は弱くなったのか?

「クラーラ!何故だ!」

「はて?何をお聞きしたいのですか?」

「貴様!」

距離を離して、クラーラを観察する。

奴は、武を持っていない。

「木龍!」

「ダメですよ。それは見ました」

わすのは想定していた。

同時に、水龍を呼び出して、頭上から襲う。しでも濡れたら、凍らせる。きが鈍れば、捕えられる。

「ははは。アルノルト様。本當に、強くなりましたね。しだけ本気をお見せしましょう」

な・・・。

クラーラがどこから武を取り出したのか。

見えない。

「・・・」

水龍が消される。

スキルが霧散する。

クォートとシャープが、糸が切れたマリオネットのように倒れ込むのが解る。

「っ」

居ない。

「アルノルト様」

後ろ

「ダメですよ。戦闘中に、相手から視線を外しては・・・。でも、これじゃ、他の者には、アルノルト様のお相手は厳しいですね。困ったことだ」

「なっ。貴様!」

「今日は、後始末と回収が目的ですし、貴方が居るとは思っていなかったので、帰ります。貴方の始末も指示されていません」

「待て!」

俺の首筋に當てていた剣を納めた。

振り返ると、クラーラは10歩ほど離れた場所に立って俺を見ている。

食客として、ライムバッハ家に居た時と変わらない姿で、変わらない視線で、変わらない聲で、俺を・・・。何故だ。

「そうだ。アルノルト様。これを、プレゼントします」

クラーラは、黒い石を俺に向かって投げる。

「これは・・・」

「そうですか、貴方でしたか?面白い偶然ですね」

「クラーラ!」

「魔を暴走させ、進化させる石ですよ。ご存じですよね?」

頭が冷えて來る。

クラーラは殺さなければならない。でも、今の俺では無理だ。もっと力がいる。

「あぁ」

「対処していたのは、貴方でしたか?」

「さぁ対処とは?知らないな」

「ははは。腹蕓は、旦那様、ライムバッハ辺境伯には敵わないようですね。まぁいいでしょう。その石は、私の腐った同僚が作ったのですが、気持ち悪いので、回収して処分するつもりだったのですよ。アルノルト様が代わりに対処してくれたようで、ありがとうございます」

「・・・」

「安心してください。その石を作った奴は、私たちの學に反する行でしたので殺しました。その一派を追って來たのですが、くだらない事をしていたので、追い詰めて殺したのですが・・・。まさか、アルノルト様にお會いできるとは、あのクズたちも、最後に面白い事をしてくれました」

「教えろ」

「何を?聞きたいのですか?お父上の事ですか?」

「違う」

「それなら?何をお聞きしたいのですか?」

「お前の、お前たちの目的は!」

「あぁそういえばお伝えしていなかったですね。妖の涙ティアドロップファーストのクラーラと言います」

綺麗なカーテシーを披する。

の涙ティアドロップ

組織の名前か?

「・・・」

「盟主様が目指すのは、貴族や王族や皇族や宗教に頼らない民による。平等な世界です。私たちは、その為に活をしています」

「平等な世界?」

「はい」

「平等?平等な世界?耳障りの言い言葉だな」

「ははは。耳が痛いですね。また、いずれ、お會いすることもあるでしょう。私は、この辺りでひかせてもらいます。クズの始末に來て、大きな収穫が得られました。アルノルト様。信じられないかもしれませんが、私は貴方が眩しくて羨ましいのです。そして、貴方の事が大好きです。殺してしまいたいくらいに!」

消えた?

『アルノルト様。私は帝國に帰ります。皇都に來られる時には、妖の涙ティアドロップを訪ねてください。盟主と共に歓迎いたします』

ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

クラーラ!

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