《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》3

「いやぁ、普段の姿勢や腳運びを見ててもかなり戦える方だなとは思ってたけど、こんなに強かったなんて」

「そうじゃろう、琥珀が言った通りじゃろ? でもそう言えば、お主たちが手合わせをするのはこれが初めてなんじゃなぁ」

「そうだね。もっと早くに付き合ってもらってれば良かったよ。そしたら道中ももっと楽しかったのに。さすが、兄さんが目をかけただけあるね」

錬金工房の中に移してからもクロヴィスさんの賛辭は続いてしまう。琥珀まで一緒になって褒めちぎるのはやめてしいのだが。

「絶対勝てないなんて言って。しっかり良い勝負に持ち込んで引き分けとるじゃないか!」

「あのね、試合方法が私にも分があるものだったのと、運が良かったのが大部分だから、そんなに大げさに言われると私が恥ずかしいの」

「兄さんも気にしていたけど、やっぱりリアナ君は謙遜が強いなぁ」

「謙遜では……だって、実際あと二歩……いや三歩離れた位置から試合を開始してたら、私が負けてたじゃないですか」

「へぇ?」

どうにか違う方向に話を持っていけないかと苦心する私だったが、上手くいかない。話を逸らす、なんてテクニックは私には難しいようだ。

そしてポロリと口にした言葉に、クロヴィスさんが食いついた気配がして私はまた失敗を悟った。

「ねぇねぇ、それ何拠で?」

「えっと……琥珀の訓練をしてもらった時の様子からした、ただの予測ですが。さっきより距離が離れてたら、先に魔法が使われて、その後の私の行は全部防と回避に徹する事になって絶対最終的に負けてただろうなと思って……」

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「……すごいね、リアナ君。そこに気付いてもらえたのは嬉しいな」

「? どういう事じゃ?」

「ああ、もちろん、琥珀君。君も優秀だよ? まだ技を磨く余地は大いにあるが、未だに君の能力の底が見えない。この先が楽しみだ」

「ん? 何か気にかかる言葉もあったが……今は褒めたのか?」

「そうだよ」

なら良し、とばかりにを張る琥珀とクロヴィスさんのやり取りをそっちのけで、私は今の言葉の意味を頭の中でぐるぐる考えていた。

……もしかして、わざと「最善手を取ればギリギリ私が勝てる勝負」を仕掛けてきたの?

引き分けになったけど、それなりに評価できる所もあったし、私が今指摘出來たからお眼鏡にかなった……という事?

私はクロヴィスさんに見せる人工魔石を用意しながら、背中がゾワっと冷える思いがした。

良かった……私、間違えなかったみたいで。でも同時に思うのは、「こんな選別を周りの人全員にやってるのかな」って事だった。

寢臺列車の中で二人きりで聴取されたのとはまた違うけど……なんて言ったら良いんだろう。これでクロヴィスさんが考える最適解かそれ以上の果が出せてなかったら、きっと靜かに失されてたんじゃないかって、そんな気がする。

今までは「自分にも他人にも厳しい人なんだな」ってふんわりじてただけだったけど……フレドさんがクロヴィスさんについて心配してた事が、ちょっと分かった気がした。

しかし、今回の試合は……出來ればあんなに大勢の前でしたくなかったな。これだったら、ミドガラントに來る旅路の途中でわれた時に手合わせをしておけば良かった。

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私の事を「コネでって來たんじゃないんだな」って思ってたけど見直してくれた人ももちろんいただろう、でも余計に敵視してくる人も増えてしまった。

クロヴィスさんはそんな事予想してなかったんだろうけど……。

「……ええと、本題にりますね。こちらが新しい製造方法で作った人工魔石です」

「お、これが……すごい、手で削って作ったみたいな結晶だね?」

「そうなんです、何故かこの方法で作ると自然とこういった形になるみたいで」

正確に計測すると多のゆがみはあるが、眼では人工かと思ってしまうような綺麗な多面だ。ちなみにこの人工魔石は、八〇面の三角形で構されてる。面の數はものによって多ばらつきが出ているが。

そして私の研究発表だと聞きつけて、この工房のまとめ役であるニアレさんも興味津々の顔でクロヴィスさんと一緒に並んでいる。

ちなみにニアレさんもクロヴィスさんのスカウトで加した人で、今では起する出力がおいそれと確保できない古代の大規模魔導裝置の研究をしている。「君の研究がもっと大きな等級の魔石を作れるようになったら、私の研究が捗るから頑張ってくれ!」と々手を貸してくれた。

いや、クロヴィスさんは手紙とかで報告してただけだけど、ニアレさんは私の研究容なんて知ってるはずなのにどうして改めてわざわざ、そんなに楽しそうに聞くなんて……まぁいいか。

ちなみに、琥珀は私の研究発表には興味が無いらしく、他の人が相手をしてくれるというのでまた中庭に戻って行った。

「ええと、今回一応形になった新しい人工魔石ですけど、ロイエンタールのリンデメンで製造されているものとは全く違った作り方です。大雑把に言うとあちらは、魔石を細かく砕いて固め直して大きい魔石にしているのですが……その方法ではどんなに頑張っても二十等級程度のものを作るので一杯でした」

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「あれはあれで大変興味深いですけど、固めるのに必要な分がどうしても無駄な抵抗を産んでしまいますからねぇ、多配合変えてもあまり変わらないでしょうね」

二人共、とっくに分かっている事だとは承知しているが一応確認のために説明していく。

「新式の人工魔石は……スライムのに魔石の核となるものをれて、魔石を育てさせる事で作ります。なので、人工魔石と言うか、自然を材料とする従來の製法とは別に、類似を人工によって作り出しているので……人造魔石とでも呼ぶべきでしょうか」

拳大の、新しい製法で作り出した人工魔石……いや人造魔石を手のひらの上で転がすクロヴィスさんが楽し気にニヤリと笑う。この話を聞かせた時からとてもワクワクした顔をしていて、最初はとても興した様子で々まくし立てて聞かれたが、今でも興味は薄れていないようだ。

的な作り方を記した紙を二人の前に並べて、実を前に話を始める。二人は椅子に座ったまま、私が々なものが置いてある実験機の前を歩きながら説明するのを視線で追いながら聞いている。

「まず採取してきたレッドマンティスの卵鞘(らんしょう)に、こちらの薬品を使って処理を行います。殻など余分な部分を溶かして取り除くためのものです」

レッドマンティスは人男と同じくらいの背丈になるカマキリに似た赤茶の魔で、普通の蟲のカマキリと同じように卵鞘と呼ばれる卵の塊を産みつける。木の幹の上の方に産み付けられる巨大な卵鞘からは、春になると一斉に數百匹程が孵ってしまうので、見つけ次第火をかけるなどして卵のうちに駆除するべき存在として知られている。

蟲のレッドマンティスは外殻や攻撃に使う鎌の部分が素材として需要はあるけれど、討伐には鉄級以上が推奨されるとても危険な魔だ。

が持つ魔石は魔長と共に大きくなると知られているが、でどうやって作られているかはよく分かっていない。しかし卵の中には「魔になるはずのもの」だけでなく「魔石になるはずのもの」も必ずっているはずだと考えた學者が見つけて近年発表したものになる。その論文ではデルネット・ビーという蜂に似た生態を持つ魔の卵が使われていたが、私はこの地域での手にりやすさを考えてレッドマンティスを利用している。

一つ目に指さしたのはすでにその卵を処理した後の、濁った溶だ。

「そして得られたを、遠心分離機にかけます。ここで、長後魔石になるはずだった……魔石の核と呼んでいる部分が最下層から得られます」

私はそう言いながら、隣のを指し示した。重さに従って綺麗に分かれて層になっており、一番下には明ガラスの原料に似た、小さな砂粒ほどの質が溜まっているのが眼でも確認できる。

手振りで「それが見たい」と求められたので、こちらにばしてるクロヴィスさんの手に渡す。ニアルさんまで覗き込んでいる。

「それで、人造魔石を作らせている、こちらの水槽にいるc-ミック種のスライムですが……」

隣の水槽の中についての説明に移る。一般的な、半明のゲル狀のの付いた「スライムの核」と呼ばれる塊を持つ典型的な「スライム」だ。野生のものと違い、完全に管理した飼育下にいるものなので、の中にゴミなどが浮いていない。

なのでスライムの核の他に、レッドマンティスと同じ赤茶の小ぶりな魔石が半明のの中に漂っているのも良く見える。

「ここにいるスライムには、えっと……一度スライムが持っていた特をすべて失わせた後に、自分はレッドマンティスだと勘違いと言うか、錯覚させている……と言うか……そうやって魔石を作らせているんです」

「そこが手紙で報告されて一番興味を持ったところだよ! 特を失わせるとか、勘違いさせるって、どうやって? いや、どういう事?」

「……スライムは様々な特を持ちますよね? 毒沼にはその毒に耐を持ったスライムがいつの間にか生まれますし、火山の火口付近には熱耐を持ったスライムがいます」

「そうだね。ちょっとした環境の変化でも、新種と呼べるような新しいスライムが次から次へと生まれる。他の生きにはない速さで新しい特を獲得する魔だ」

ここで、クロヴィスさんの話を遮って「メフラト古代跡で発見された一部の生活魔道の原力に當時スライムが使われていた話聞きました⁈ 魔石がなくても大規模魔導裝置がかせるかもって夢が広がって……」と割ってりそうになったニアレさんを、クロヴィスさんがそっと制してくれた。

圧力に押されて話を中斷しそうになった私は、はっと気を取り直して自分の研究の説明を再開させる。

「……皇(すめらぎ)で、その特徴を使って、スライムで神珠(しんじゅ)の養が始まったんです」

「神珠の養の話自は聞き覚えがあるけど……詳しく調べてなかったなぁ。國の事で忙しくて……いや、言い訳は良くないね。もっと見分を広げておかないと」

いやいや、皇太子としての仕事もしながら、この話題について知ってるだけで十分だと思うのですが。

あまり一人で何でも知ってて何でも出來てしまうの、やっぱり周りの人はやりづらそうだな……。

神珠はしい寶石にも見える、貴重なの魔になる素材として知られている。しかし神珠をそのの中に生み出すキサカイウムギという貝の姿の魔は金級以上の冒険者のパーティーでなければとても手が出せない上に、神珠は全部の個ってる訳では無いので、大変貴重なものになる。

キサカイウムギは巨大な貝の見た目をしていて、普段は海の底にいて近寄らなければ何もしてこないのだが倒そうと思うととても恐ろしい魔だ。キサカイウムギに呑まれて溺れ死ぬ人も多いが、神珠目當ての冒険者は後を絶たないと聞く。

その貴重な素材を人工的に作り出したなんて、すごい技が開発されたと思ったのだが。

でも実際、素晴らしい技だと思うんだけどあまりニュースになってないのも事実だ。どうしてだろう。神珠とは言っても今はまだ「キレイな寶石」くらいのものしか作れていなくて、魔的な素材としての価値があるものは出來ていないからかな。

「寶石としての真珠の輸出國であるシャディール王國の圧力があったのかもしれないな……まぁいい。とにかく神珠を作る養方法にスライムが使われているんだね?」

「はい。キサカイウムギの代わりに、キサカイウムギの特を持たせたスライムに神珠を作らる技ですね。今回それと同じように、スライムを使って魔石を作らせる事が出來ないと考えたのが著想になります」

なるほど、そんな政治的な話も影響していたのなら納得だ。そんな事を考えつつ説明を続ける。

「皇(すめらぎ)では亜種が発生しやすい種類のスライムに、ひたすらキサカイウムギのを大量に食べさせる事でキサカイウムギの特を獲得したスライムを得たと公表されています」

「わぁ、すごいね。とてもじゃないが真似できない方法だ」

「よく予算がおりましたねぇその研究……」

ニアレさんも同意するのを見ながら、私も心頷く。キサカイウムギのは上級ポーションの材料になる上に、とても味しいのだ。高級食材としても干が輸出されたりもしてて……いずれにせよかなりの高額になる。

読んだ論文では、食べさせても全てのスライムが確実にキサカイウムギの特を得ている訳ではなかった。さらに、キサカイウムギのを與えずに時間が経つとスライムは段々その特を失ってしまうのだ。ぞっとするくらいこの研究にはお金がかかってると思う。

それを參考にした私も最初、魔をスライムに與えるだけではまったく「魔石を作る」という特は得られず、々試行錯誤をした。

當然だが、普通のスライムに魔石はない。つまり魔石を作るを持ってないので、出來るかどうかすら當てもないまま実験をしていて……正直全然上手くいかなかった。しかし「神珠を作る特は得られたんだから」と思ったのと、何となくいける気がする……という私の勘で続けていた。

をそのまま與えるのではなく々な部位に分けて與えてみたり、それらをすり潰してペースト狀にして直接スライムの中に注してみたり……神珠の養を參考に、芯になるものが必要かなと考えて貝殻を削って作った玉をれたりもした。

最終的に、何とか研究果として紹介できる程度のものが得られたので、こうして報告をする事が出來るまでになったのだ。

「スライムが持っていた特をすべて失わせる……なるべくまっさらな狀態にするために、特殊な処理を行い、極力刺激や変化を省いた環境で數代繁させています。ほぼ新種ですね」

「野生のc-ミック種はたしか茶っぽい核だったけど……この水槽の中のは真っ赤だね。これがまっさらな狀態って事か……」

的な「特殊な処理」の容については私が匿する許可を得ている。

他に存在する、特を獲得する能力が高いスライム……オクト種、ソニックス種、キファニル種、同じように飼育したこれらのスライムの核を抜き取り、混ぜ合わせ、c-ミック種の核の中に直接注ぎ込む……という作をしている。この人造魔石の一番重要な箇所だ。

ちなみにこんな方法を見つけ出せたのは、悩んでる私に対して琥珀が何気なく口にした「四つの特徴が全部しいならそれぞれちょっとずつ切って混ぜるのはいかんのか?」というヒントのおかげなので、とても謝してお禮も渡した。本人は何でかよく分かってなかったけどね。

便宜上、私はこのスライムを「ミミックスライム」と呼んでいる。やはり核の中に他のスライムの核を混ぜるというのはかなり負擔がかかるみたいで、ミミックスライムになる前に九割ほどのスライムが死んでしまう。

「ミミックスライムにする所までいったら、狙い通りの特を與える功率もかなり高くなります」

魔石の核を採取したレッドマンティスの卵の、あれの中間層のクリームの部分を與えると効率が良いのに気付けたのは大きかった。

「そして、卵から採取した魔石の核に、のレッドマンティスの魔石付近の組織を付著させたものを、レッドマンティスの特を得たミミックスライムのの中に直接れて……運が良いと、こうして魔石が育つわけです」

組織を付著させる理由は何でです?」

「魔石の核だけよりも、魔石に長する確率が上がるんです」

「なるほど」

レッドマンティスの特を得ても、魔石を作ってくれるミミックスライムはその中の三割程度。その魔石も、本來のレッドマンティスの魔石である十五等級以上の大きさになるものはない。

のスライムから十ミミックスライムになってくれれば運が良い、その魔石を作るようになってくれるのは三程。そうして研究を繰り返して、二〇等級以上の人造魔石が得られたのはまだ八個だけ。

とても収率が悪いように見えるが、今回クロヴィスさんに渡した……三十三等級の人造魔石一つで結構なおつりが出るくらいの利益が回収できる見込みだ。

そのくらい、大きな等級の魔石の価格が高騰しているという事でもある。國や都市の防衛に使われる大規模魔導裝置をかすには必須なので、國レベルで取り合いが起きている狀況なので、もし「三十三等級の魔石」として使える人造魔石が今後も作れるなら、とても大きい事業になる。

もうちょっと効率上げるだけでも、利益率が大きく改善しそうだし。

これならクロヴィスさんも、文句なしに私をフレドさんの陣営として認めてくれるだろう。まるで新しいおもちゃを手にれたみたいに、とても楽しそうに人造魔石についての説明を聞いていたクロヴィスさんの反応を見て私はホッとでおろすことが出來た。

「よし、さっそく僕が作った飛行船をかしてみよう。力の魔石が確保出來なくて試運転したきりだったからな……」

「!! デリクさん! それはズルいですよ! 今後の魔道の発展のため、私の持ってる古代跡の魔道くか先に試すべきで……」

「いやいや、ニアレ。こういうのはクランマスターの僕に決定権がある訳だからさ」

「そ、そんな貴重なものにいきなり使うのはやめてください!」

魔石を持ったまま椅子から立ち上がったクロヴィスさんと、一緒について行ってしまうニアレさんを慌てて追いかける。替えの効かないものに試して、何かあったら私に責任は取れないのに……!

「え、ちゃんと確認試験してるんでしょ? あはは、リアナ君は心配だな」と全然取り合ってもらえず。

クロヴィスさん達が作ったという飛行船がちゃんとくまで、ハラハラしながら見守る羽目になるのだった。

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