《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百三十話 格の悪さの証明終了
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第三百三十話
魔王軍特務參謀ギャミを前に、私は持參した地図を機の上に広げた。
地図にはガンガルガ要塞があるダイラス荒野を中心に、西にローバーン。そして北にディナビア半島が描かれている。
「今回の停戦で、我ら連合軍がガンガルガ要塞を手にれました」
私は指先をかし、ガンガルガ要塞周辺で円を描く。
「しかしディナビア半島には、まだ多くの魔王軍と移民としてやってきた魔族が殘っています」
私は指先を、北のディナビア半島へとらせた。
ディナビア半島へと通行するには、このダイラス荒野を通らなければいけない。この地を連合軍が抑えている以上、ディナビア半島にいる魔族は陸路でローバーンに逃げることは出來ない。ディナビア半島には港や船もあるが、すべての魔族を乗せるには時間も船も足りない。連合軍が進めば殺となるだろう。
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「だったら何だ」
ギャミの聲は苛立たしげだ。自分達の失敗で、これから多くの命が失われるのだから、腹が立つのも當然だろう。
「このディナビア半島に殘る魔族ですが、通行を許可しても構いません」
「なっ、それは本當ですか!」
私の提案に思わず聲を上げたのは、ギャミの護衛として背後についているイザークだった。
ガリオスの七男は、父親と違い何とも微笑ましいほど素直だ。つまり渉には向かない格だ。
ギャミが目を細め背後を振り向く。を出すなと視線で叱りつけているのが分かった。イザークも失言だったと、口に右手を當てて肩を落とす。
「うちの護衛が失禮した。それで、條件は? もちろん無料ではないのだろう?」
「話が早くて助かります。ローバーンにはまだ多くの人々が奴隷として働かされていると聞きます。彼らの柄と換。ではいかがですか?」
私の提案に、ギャミは顎に指を當てた。
今ギャミの小さな頭の中では、膨大な數字が踴っていることだろう。
魔族の奴隷とされている人々は、ローバーンにとっては重要な労働力だ。彼らを失えばローバーンの生産力は大きく低下する。しかしこの提案は、魔族にとって悪い話ではない。
「考えるまでもない話と思いますよ。同胞の命と奴隷とでは比べにならないでしょう」
悩むギャミの背中を、私は後押ししてやる。
ギャミは顔を顰めたが、私は事実を言っているだけだ。
この大陸に取り殘されている魔族にとって、殘された同胞の命は何よりも貴重だ。それに奴隷となった人々は、魔族にとっては貴重な労働力であると同時に危険な存在でもある。
「奴隷となった人々は、決して牙を失ったわけではありませんよ、あなた達が隙を見せれば、武裝蜂起もあり得るのでは?」
私が指摘してやると、ギャミはさらに渋面を作った。
ガンガルガ要塞を攻略した今、人類の次なる目標はローバーンとなる。連合軍がローバーンを攻撃した時、奴隷となった人々が武裝蜂起すれば、魔王軍はと外に敵を抱えることとなる。
「大軍と戦っている時に、後方で火の手が上がる。指揮としては最悪の狀況ですね」
私が笑って指摘してやると、ギャミがすごい形相で私を睨んだ。
「格の悪いだ」
「それはありがとうございます」
私はにんまりと笑った。戦爭とは相手の嫌がることをどれだけやれるかだ。格が悪いと言うのは最大の譽め言葉だろう。
「奴隷となった人々を解放してくれれば、同胞を救えるだけでなく、潛在的な敵を排除することも出來ますよ?」
「ふん、都合のいいことばかり言うな。この換、お前達にとっても利があるだろう」
ギャミの視線が、切り返すようにって私を抜く。
確かにこの提案は魔族だけでなく、連合軍にとっても都合のいい話だった。
奴隷となった人々の解放は、分かりやすい果と言えた。
今回の遠征では、連合軍は戦死者を多く出した。このままでは國に帰っても、非難を浴びるかもしれないのだ。しかし囚われていた奴隷を解放したと言う名は、損害を覆い隠すには十分だった。
「命を尊ぶ振りをして、闘いたくないだけなのではないか? この戦爭はその方らが勝利した。だが実際のところ、窮しているのは連合軍の方ではないか?」
ギャミが皺だらけの指を私に向ける。
指摘の通り、連合軍は確かに勝利したがその実はボロボロだ。ヒューリオン王國は先王が崩し、ハメイル王國は率いていたゼブル將軍が戦死している。ホヴォス連邦とヘイレント王國も兵力の半分以上を失っている。
我がライオネル王國も人ごとではない。兵力はすでに當初の半數以下となり、カイルやオットー、グランやラグンといった將軍達も傷つき倒れている。これ以上の戦闘行為はしたくないと言うのが連合軍の本音だ。
「そんなことはありません、連合軍の軍勢三十萬人は士気高く戦意は旺盛です」
「ふん、噓を申せ。その方らの兵力は、いいところ二十五萬であろうが」
ギャミは私が盛った數を正確に修正してきた。
「ディナビア半島には二萬萬の兵士、十萬の魔族がいる。簡単には倒せぬぞ?」
「おや、おかしいですね? 我々が送り込んだ偵の報では、駐屯している魔族は一萬、移住している魔族は々六萬と言う話ですが?」
私がギャミの水増しを正すと、特務參謀は視線を逸らした。
「ディナビア半島には、ガンガルガ要塞のような強固な防衛施設はありません。戦いにもならないのでは?」
「かも知れんな。だが嫌がらせはできるぞ? 迫り來る連合軍に対して、畑に火をかけ井戸に毒を投げ込み、撤退しながら街を破壊する。その方らはディナビア半島という焼け野原を手にするがよい」
ギャミがいやらしい笑みを浮かべる。
今度は私が渋面を作る番だった。
ギャミの言ったことをされれば、連合軍は失った兵力や國力を回復できない。場合によっては立ち直れない國も出てくるだろう。
「何と格の悪い。よくそんなことが思いつきますね」
「うむ、褒め言葉は耳に心地いいな」
睨む私に、ギャミは薄ら笑いで答える。
私が目を細めると、ギャミも同じく小さな目をさらに細くした。
互いの視線が天幕の中で絡み合い、火花を散らした。
レイ「魔王軍の參謀は格悪い顔してんな~」
イザーク「そっちこそ」
レイ「あれがいいんじゃないか」
イザーク「……」
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