《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第96話 レイン、うそをつく

フローレンシア家の大広間。

豪華な長テーブルには完璧に磨き上げられた數十組の銀食輝く水晶のグラスが丁寧に並べられ、その下では金糸によって上品な花模様があしらわれたテーブルクロスが目を奪うしさを放っていた。

一族全員が一堂に會しても十分な余裕のある長テーブルの周囲には、ただ二人だけ座っている。上品な裝にを包んだその二人は、フローレンシア家の令嬢メディチ・フローレンシア。そしてその娘レイン・フローレンシア。

二人は使用人によって運ばれてくる多種多様な料理に特別反応することもなく、淡々と咀嚼を繰り返している。その雰囲気は壁際に並んでいる使用人たちが思わず背筋をばしてしまうほど冷え切っていた。

「────レイン。今日は魔法の実技があったみたいね」

メディチ・フローレンシアはどこかの親バカと違い表立って娘の學校生活に干渉することこそないが、學校の最新報だけは常に手するようにしていた。魔法學校にはフローレンシア家の息がかかった職員が何人もいて、報は逐一メディチの耳にるようになっている。そして同様のことは帝都全域で起こっていた。フローレンシア家の力を使えば、午後のニュースを夕刊より早く知ることだって朝飯前だ。

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「ええ、もちろん完璧にこなしたわ。形狀変化まで出來たのは私だけだったもの」

言葉とは裏腹にレインの表は暗かった。折角待ちんでいた実技の授業がやってきたというのに、そしてそこで最高のパフォーマンスをしてみせたというのに、最早誰もレインの魔法のことなど覚えていないだろう。教室の雰囲気からそれをじ取っていたレインはどうしても笑う気になれなかった。

(…………リリィ。あの子さえいなければ……今頃私が──)

実技の授業を終え、教室はリリィの話題で持ち切りだった。人一倍が小さく子供っぽいリリィが自分の何倍も大きな魔石を吹き飛ばしたとなれば、そうなるのは自然な流れだった。それにただでさえリリィはその水の髪や寶石のようにしい杖、一人だけ被っている帽子、スライムを飼おうと言い出した張本人と話題に事欠かない人だった。

リリィにはリーダーシップがなく好き勝手に行するので、そういう意味では決してクラスの中心人という訳ではないが、それでも大きな存在を放っているのは確か。レインはそのことがとにかく気に食わなかった。私のほうが真面目で、努力して、大人なのに…………どうして。

「そう。それで────あの子はどうだったの? リリィといったかしら」

レインという人、その心のまで見ようとしないメディチは、娘が浮かない顔をしていることに気付かない。メディチにとってレインはあくまでフローレンシア家存続のために大切な存在であり、自らのプライド、コンプレックスを満たすための道だった。

「リリィ? あの子は…………ふつう、だったわ。魔法は使えるみたいだけど、それだけ」

「そう。ならいいわ。今後も頑張りなさい」

それっきり、フローレンシア家の食卓は沈黙が支配する。

(…………また褒めてもらえなかった。私の優秀さが足りないんだわ…………)

家族の暖かさというものが致命的に欠如したフローレンシア家で育ったレインは、今更母親からの優しい言葉を求めて涙することなどないが、ではなく事実として「自分が優秀だ」というお墨付きはしかった。自分が優秀であればこの家は上手くいくと薄々じ取っているレインにとって、その言葉は自らの努力の行き先が間違っていないことを証明するコンパスであるはずだった。だが、未だ母からその言葉が娘に送られたことはない。

(…………あの子に勝てば、きっと)

リリィのことを「ただの子供っぽいクラスメイト」だと思っていたレインにとって、今日の出來事はなかなかショッキングだった。あの子があんな強力な魔力をめているなんて考えもしなかった。最初は「エルフだから」と自分を納得させたが、クラスにエルフはリリィだけではない。他のエルフは魔法こそ使えるが特に目立つものはなかった。それに、その考えはレインの好みではなかった。種族を理由に敗北をれるのは、分に合わないのだ。

(…………一學期のうちに、ぜったいあの子に勝ってやるわ)

レインの頭の中では、既に次に會得するべき魔法の算段が始まっていた。

「今日はもういいわ、ごちそうさま」

そう言って席を立つレインの足は、フローレンシア家自慢の図書室に向かっている。

珍しく夕食を殘した娘の瞳が、悔しさに歪んでいることすら、メディチは気付かない。

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