《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》41、元聖騎士と雷の帝王①

強烈な腐敗臭が漂う石の通路にて、オレット達は亡骸魔獣に追われていた。

「副団長!! 何なんですかあのウルフェス達はっ!」

「斬っても刺しても全く止まらない! それに、さっきの魚人……」

「足をやれば止まるわ! 殿(しんがり)は私が引きけるから先に行って!」

走って距離を稼ぎ、振り向きざまに剣を振うヒット&アウェイで、オレットはこれまでに數の亡骸ウルフェスを無力化していた。

だが、全て倒したと思ってもすぐにどこからかまた現れる。

「くっ、いったいどれだけいるのよ……」

これではきりがない。

分斷され、外に逃れた部下はそろそろ本部に駆け込んでいる頃だろうか?

自警団の本部はここからほど近い。

ことが伝われば、すぐにでも夫のガンツか師匠のバージェスがここへ駆けつけてくるはずだった。

ただ……

腐敗臭を放つ謎の魔獣達は、オレットの想定を遙かに超えてしぶとかった。そして、何より數が多い。

オレット達は、街中への被害を防ぐべく闘技場のり口を障害で封鎖してしまっていた。

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そのため、増援が到著するまでには々時間がかかるだろう。

ひょっとしたら、自分たちが生きているには間に合わないかもしれない。

ウルフェス達は、の混じったよだれを垂らしながらオレット達を追い続けていた。

その目に、生者のは宿っていない。

致命傷となるレベルで斬ったり刺したりしても、怯むことさえなく牙を剝き続ける。

まるで、痛みをじてすらいないようだった。

あまりにも不気味なその姿に、部下達の戦意喪失が著しい。

「うわっ! くるなぁっ!」

「くそっ! この野郎! 死ね! 早く死ね!」

元々、オレットの小隊は新規加者の部隊教育の役割を擔っている部隊だった。

ゆえに、オレット以外のメンバーは比較的経験が淺いメンバーが多かった。

それは、ガンツとオレットで話し合った結果だ。

かつて恩師のバージェスがそうしてくれたように、自分達もまた、剣士を目指す次世代の若者達やこの街のためにできる限りのことをしたい。

それが『副団長自らが新加者の指導に當たる』というこの西部地區自警団獨自の教育システムができあがった理由であった。

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「もうすぐ団長達が駆けつけてくるはずだから、それまで頑張って!」

そう言って呼吸の荒い部下達を鼓舞し、オレットは再びウルフェスを斬った。

「オレットさん! もう行き止まりです!」

「くそうっ! このままじゃ……」

「ここで持ち堪える! 団長がくればこんな奴ら一瞬でひねってくれる! バージェスさんが來ればこんな奴ら一瞬で焼いてくれるわ!」

その時。

ウルフェス達の後ろから悠然と歩いてくる、魚人の男と目があった。

キン……

と、一瞬耳鳴りがした気がした。

「ああ、悪かった。ついつい『唄聲』を使ってしまった」

その男が現れた瞬間から、ウルフェス達の追撃がピタリと止んだ。

突然糸が切れて亡骸のように転がるウルフェス達。

そんなウルフェス達の間を抜けて、長槍を持ったその長の魚人が悠然と歩み寄ってきた。

……。今、バージェスと言ったな?」

「……」

オレットは剣を構え、ジリリと半を引いた。

いつでも前に踏み出せる。

だが、おそらくは通じない。

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先程會敵した瞬間、部下六名を一瞬にして無力化したのは、あの魚人の放つ雷撃の力だ。

今それを使われたら、オレットの剣撃は魚人に屆かないままに止まってしまうだろう。

「バージェスって名前の人……、たぶんこの街にはたくさんいますよ」

「俺が探しているのは、聖騎士のバージェスだ」

「では、殘念ながら人違いですね」

「とある者(・・・・)に、ここで暴れていれば現れると聞いた」

「私の知るバージェスさんは來るかもしれませんけど……。彼は聖騎士ではないですよ」

「……」

「あなたは、皇都の聖騎士と知り合いなんですか?」

會話が途切れてしまったので、オレットは無理矢理に話題を振って話を続けようとした。

話を続けているうちは、時間が稼げる。

……生き延びられる。

「奴と、奴の部下達に、數千もの同族を殺された」

「恨み……ですか?」

「今はただ、奴を殺す。そうしなくてはならないというだけのことだ」

「今からここにあらわれる彼は、その聖騎士の名前を借りているだけの別人です。あなたの恨みをける謂れがない」

「恨みではない。……だが、奴には死んでもらう」

そう呟いた魚人の手から、いきなり雷撃が迸った。

その雷撃は、オレットに直撃してその全を痺れさせた。

「ぐぅぅ……」

オレットががくりと膝をつく。

オレットの部下達は、その背後で腰がひけた構えで魚人に剣を向けながら短い悲鳴を上げていた。

「副団長!」

「オレットさん!」

その瞬間、倒れ伏したと見えたオレットが前へと飛び出した。

そのまま魚人に薄し、その首筋に向けて刃を跳ね上げた。

「ほう?」

だが、その刃が魚人の首に屆くより先に、オレットは魚人の蹴りを喰らって後ろに弾き飛ばされていた。

「常人ならば即死するほどの雷撃を食らって、すぐにけるとはな。それにその剣技……、かつて戦った聖騎士の取り巻き共を思い出す」

床に転がったオレットに、魚人が歩み寄ってきた。

「だから……、私は聖騎士なんかとは無関係ですって」

ゆっくりと立ち上がると同時に、オレットは部下二人に目配せをした。

り口付近に陣取っていた魚人の男が移したことで、部下達に道ができていた。

『自分がこの男の注意を引きつけているうちに逃げなさい』

それが、オレットから部下へのメッセージだった。

だが、何を思ったか部下達は背後から魚人の男に斬りかかっていき……

魚人が背後に飛ばした雷撃をけて倒れ伏してしまった。

かろうじて、息はあるようだが……

「ああもうっ!」

「殘念だったな」

再び、魚人の槍が帯電していく。

「くっ、そ……」

オレットの後悔は、突の判斷を誤って部下達を巻き込んでしまったこと。

あそこでもし、自分が闘技場に踏み込む判斷をしなければ……

しでも危険をじた時に、すぐに引き返していれば……

闘技場のり口を封鎖したりしなければ……

ただ、結果はどうあれ時間は稼げた。

早急に出り口を封鎖し、魔獣達を引きつけて闘技場の奧へと進んだことで、おそらくは今でも街人への被害は出ていない。

そしてそれこそが、自分たちが命を賭して遂行すべきこの街での役目なのだった。

何が起きているのかはいまだにわからない。

それに、かつて思い描いていたやり方ではないけれど……、自分(オレット)なりの方法で人を助けていくことが出來た。

いつかその過程で命を落とすかもしれないことは、どこかで覚悟していた。

とにかく時間を稼いだ。

あとは、ガンツとバージェスが何とかしてくれる。

あとは……

突き出された槍の突撃を右に跳んでかわし、オレットは腰の短刀を魚人へと投げつけた。

が、避けられた。

あとは……

そのまま前に飛び出して、一気に魚人との距離を詰めた。

雷撃はこない。

あとは……

「うわあぁぁぁあーーっ!」

あとは……

この後に來るバージェス達のために、この化けのような強さのこの魚人に1ミリでも傷を負わせてから逝く。

それが、オレット(自分)に課せられた最後の役目だと理解していた。

だが、オレットのすれ違いざまの一撃は魚人の槍で軽くけ止められた。

そして、オレットの剣撃をけ止めたその槍が雷電を纏い、再びオレットのを貫いたのだった。

→→→→→

衝撃で消し飛びそうになる意識を、オレットは懸命に保った。

意識を失えば終わる。

焼け付く全に治癒の魔法力を巡らせて、オレットはその雷撃になんとか耐え切った。

「……自己治癒? ……再生? なるほどそんな方法で、俺の雷撃に耐えていたのか」

オレットは、白魔る変わり種の魔法剣士だった。

本來それを『魔法剣士』と呼んで良いのかどうかは不明だが、恩師に倣いオレットは自の戦闘職をそう名乗っていた。

「あなたが戦ったという、聖騎士の部隊にも……、私みたいなのはいませんでしたか?」

そう言って……

雷撃で焼き付いた全に治癒を施しながら、オレットは再びまた前へと踏み出したのだった。

バージェスと出會う前のオレットは、リルコット治療院に勤める白魔師見習いだった。

だが、オレットの治癒魔には致命的な欠陥があった。

は問題なくなされるものの、なぜかそこにあるはずの治癒の効果が全くなかったのだ。

オレットは白魔師を目指して毎日必死に努力を積み重ねてはいたが、いつまで経っても他人に対してまともな治癒魔を施すことができないままでいた。

そして、そんな自分の進むべき道についてずっと悩んでいた。

そんな折、たまたま治療院を訪れていたバージェスの勧めでスキル鑑定をけたことが彼の人生の転機となる。

『自己魔力回収』

鑑定によって見出された、オレットが所持していたそのスキルはかなり特異なものだった。

それは、自らが放出した魔法力を、瞬時に、そして自的に、全て自らので吸収してしまうというスキルだった。

そのスキルのせいで、発した治癒魔の全てを自で吸収してしまうがゆえに、オレットの治癒魔は他人に対しての治癒効果がほとんどないのだった。

それは、魔師にとっては呪いとも言えるスキルだ。

そのスキルの所持が判明した瞬間、オレットの『白魔師として人々の役に立ちたい』という思いとその道は、々に打ち砕かれたのだった。

だが、オレットが積み重ねてきた白魔の研鑽と人並み以上の剣技の才能、そしてそれらを見出した恩師バージェスとの出會いにより、オレットの前にはこれまで考えもしなかった新しい道が示されていたのだった。

→→→→→

白魔に包まれ、オレットは雷撃の余波に耐えながら剣を振るう。

だが、その剣が魚人の首筋に屆く剎那、魚人の男の手が再び帯電をし始めた。

「なかなかにやる。あのが『この街の自警団は手強い』と言っていただけのことはある」

「くっ……」

オレットのを再び雷撃が貫いた。

オレットの全力の白魔も、もはや完全に焼け石に水だった。

魚人の男の魔の連は異常なほどに早い。

これほどの大魔を連発するなど、常識では考えられない程の魔の力だった。

目の前の魚人は、間違いなく本の聖騎士達を相手に互角以上に渡り合うような強敵なのだ。

そんな強敵に、地方都市の一自警団員にすぎない自分が打ち勝てないのは當然とも言えることだった。

それでも……

「はぁぁぁぁあぁーーーっ!」

自分の役目を果たす。

「ほう……」

ボロボロのでさらに前へと踏み込んだオレットの剣が、魚人の男の肩口を深々と切り裂いた。

「……見事だ」

嘆する魚人。

そして魚人が持つ槍からは、さらなる雷撃が迸ったのだった。

その雷撃を間近でけたオレットは、糸の切れたり人形のごとく立つ力を失い、その場に崩れ落ちたのだった。

「オレットォッ!!」

倒れ伏し、意識が飛びかけた剎那。

オレットの目に映ったのはかつての恩師の姿。

魚人から放たれた雷撃を、火炎を纏わせたショートブレードで叩き斬り、闘技場の廊下を凄まじい速さで突進してくる……、バージェスの姿だった。

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