《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》42 元聖騎士と雷の帝王②
シュトゥルクの槍から雷撃が放たれた。
凄まじい閃と轟音を放ちながらとてつもない速度で迫るその雷撃を、バージェスが火焔を纏ったシュートブレードで薙ぎ払った。
「俺の雷撃を、そんな方法で相殺するのはお前くらいのものだろうな」
「お前、まさか雷帝か? なんでお前がこんなところに……?」
バージェスが立ち止まり、かつての仇敵二人がたった五メートル程の距離を開けて対峙した。
「特に理由などない。ただ、八年前にやり殘したことを今更やり遂げたくなったというだけのことだ」
「やり殘したこと?」
「ああ。……聖騎士バージェス、お前を殺す」
「俺はもう、とっくに聖騎士なんかじゃないんだけどな」
「俺にとっては、お前以外にその名を持つものは存在しない!」
「……」
バージェスから見たシュトゥルクの向こう側に、オレット達自警団員が倒れていた。
シュトゥルクと會話をしながら、バージェスはそちらの方をちらりと盜み見た。
「やめとけオレット。お前じゃかなわねぇ」
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そんなバージェスの言葉とほぼ同時に、白魔のに包まれたオレットがよろよろと起き上がったのだった。
「あれで生きているとは大したものだ。そしてやはり、聖騎士の手の者であったな」
「バージェスさん……。今の話は……」
「悪いなオレット。その話はあとだ」
そう言って、バージェスがショートブレードを構え直した。
闘技場の狹い廊下通路では、背にした大剣は使えない。
この狹い廊下で雷帝シュトゥルクを相手にするならば、大剣よりも小回りのきくショートブレードの方が適しているのは間違いなかった。
だが問題は、度重なる雷撃をけて剣が持つかどうかだ。
「ここは狹いな。どうだ雷帝、場所を移さないか?」
「勝手にしろ。俺には……関係ない!」
そう言って、シュトゥルクの雷槍から再び雷撃が放たれた。
バージェスは、今度はそれをけ止めず、橫の通路へと逃げ込んでそれをかわした。
そうしてそのまま走り去っていく。
そんなバージェスの後を、シュトゥルクが追っていった。
「バージェスさん!」
「こいつの相手は俺がする! オレット! お前は負傷者の救護と臭い魔獣の掃討を頼む!」
そうオレットに指示を出し、バージェスは狹い廊下を駆け抜けていった。
雷撃の気配をじ取るたび、を反転させて魔法剣でそれをけ、その衝撃を利用してさらに加速した。
「……とんでもない男だな」
「お互い様だろ? こんなレベルの雷撃を何発も何発も……、並の師ならとっくにすっからかんだ」
「それを難なくけ止めるお前もお前だ」
「なんなんだよこの褒め合いは……」
「さぁな」
「ってか、なんでまたお前がその槍を持ってんだ?」
「……さぁな」
「……」
今シュトゥルクが手にしている『雷槍ボルドー』は、魚人戦爭の際に聖騎士隊が奪い取り、現在は皇都の地下図書館のさらに地下深くに封印されているはずの武だった。
なぜ、その槍が再びシュトゥルクの手に戻っているのか?
そんなバージェスの疑問は、背後から迫る無數の雷撃の前に吹き飛んだ。
とにかく、シュトゥルクをオレット達から引き離すことには功した。
だが、このまま闘技場の狹い通路を走り回っていては、やがてバージェスもあの雷撃に捕まってしまうだろう。
逃げ場のない狹い通路は、雷撃を扱うシュトゥルクにとっては有利で、大剣を扱うバージェスにとっては不利な戦場だった。
また被害の拡大を防ぐために、バージェスは元來た道を戻るわけにはいかなかった。
無盡蔵に雷撃を放ち続けるこの魚人を、キルケットの街中に出してしまうわけにはいかなかった。
だから今、バージェスが向かうべき先は闘技場中心部の戦闘區畫だ。
そこは、街中でありながらバージェスが全力で戦える場所だった。
「とはいえ、勝てるのか?」
魚人戦爭の折。
聖騎士隊がシュトゥルクの雷槍ボルドーを奪い取ったのは、それ以外にシュトゥルクをどうにかする方法がなかったからだ。
絶大なる雷電を纏わせ、槍と共に投げ放つシュトゥルクの最強奧義。
それをあえて陣中にくらい、多大な犠牲を出しながらも雷槍ボルドーを奪い取ることで何とかシュトゥルクの雷撃を無効化したのだった。
「……やるしかねぇよな」
バージェスは周囲の標識を素早く確認しながらもひたすらに走り続けた。
そんなバージェスの前方から、強烈な腐敗臭が漂ってきた。
そしてその直後、二の腐敗したウルルフェスがバージェスの前に現れたのだった。
「ちっ! さっきからなんなんだよこの魔獣達はっ!?」
バージェスの剣が再び炎を纏う。
そしてバージェスは、一瞬にして二のウルルフェスを真っ二つにして、その脇を走り抜けていった。
一直線になった通路で、背後から迫る雷撃を三回ほど叩き切った後。
通路を駆け抜けたバージェスは、闘技場の観客席へと飛び出したのだった。
→→→→→
「副団長!」
「オレットさん!」
バージェスと共に闘技場に侵した自警団員達は、バージェスよりもかなり遅れてオレットの場所までとたどり著いていた。
「オレットさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、私は大丈夫。それよりもこの二人をお願い」
そう言って、オレットは床に倒れている部下二人を後発隊に引き渡した。
「お願いね……。私の白魔は他人にはほとんど効果がないから……」
「はい。任せてください」
後発隊の白魔を扱える者が、そう言って早速二人の治療に取り掛かり始めた。
「ロンドの小隊は負傷者を救護しつつこのまま闘技場の外まで撤退。カナルとゼアンの小隊は私と一緒にバージェスさんの援護へ。弓隊は撃準備、魔隊は裝備を遠距離戦用に切り替えておいて」
そう言って、オレットは小隊を率いてバージェスと魚人が走り去っていった通路へと向かっていった。
「バージェスさんが……本の聖騎士?」
走りながらも、思わずオレットはそう呟いていた。
本人から、『バージェス』という名は元聖騎士を騙る偽名だと聞かされていた。
そして、今のいままでそれを信じていた。
ただ、弟子から見た贔屓目なのかもしれないが……
彼のはこんな田舎の街に収まりきるようなものではないということを、夫(ガンツ)とよく話していた。
度々わざとらしく下心があるようなふりをしていたが、その実その行は全て『関わった者達が皆良い方向に進んでしい』という、ただひたすらな優しさだった。
だからオレットは心の底で、本當にそうだったらいいなと、いつもそう思っていた。
自分や夫が敬するこの人が、もし國中からも稱賛をけるような人なのだとしたら、それはどんなに誇らしいことかと思っていた。
ただ、それと同時に。
もしバージェスがそんな大人ならば……
自分のような田舎の娘に數年間も付きっきりで剣の指導をしてくれることなど、絶対にありえないことだろうとも思っていた。
だから、いつもそんな思いは頭の片隅に追いやってしまっていた。
「……本當に?」
だが、もし本當にそうだとしたら……
彼には、もっともっと相応しい舞臺があるはずだった。
こんなところで、突然現れた謎の魚人に敗北して死をもたらされることなど、あってはならないことだと思っていた。
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