《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》43 元聖騎士と雷の帝王③

バージェスが飛び出した先の観客席にて。

階段狀になった椅子を足場にしながら、バージェスとシュトゥルクが激しい戦闘を繰り広げていた。

バージェスはシュトゥルクの放つ無數の雷撃をかわし、時にけ止めて相殺した。

そうして幾度となく剣と槍を撃ち合った挙句、バージェスのショートブレードは々に砕け散ってしまった。

「死ね! 聖騎士!」

「死ぬかよ!」

シュトゥルクの突きに対して、瞬時にを反転させながらそれをかわしたバージェスが、背中から引き抜いた大剣を振るった。

バージェスの大剣から炎が迸り、火炎の斬撃となって次々とシュトゥルクに向かって飛んでいく。

「そんな技まで隠していたのかっ!?」

「お前が知らなかっただけだろ!?」

宙を飛ぶ斬撃と共に一気に間合いを詰めたバージェスの持つ大剣と、シュトゥルクの槍とが至近距離で激しく撃ち合った。

互いの魔法力が弾け、周囲に凄まじい音を轟かせた。

「おおおっ!」

「ぐ、ぬぅぅ」

シュトゥルクが全から雷撃を放ち、大剣と鉄壁スキルとでそれをけたバージェスが大きく弾き飛ばされていった。

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バージェスは観客席から空中へと飛ばされ、闘技場の戦闘區畫へと落下していった。

そして、ドスンと大きな音を立てて地面に著地した。

「やはり、強いな。ここへきてさらに戦闘力が上がっている」

3〜4メートル程高くなった塀の上。

観客席側から見下ろすようにして、シュトゥルクがバージェスを見據えていた。

「あんな狹い通路じゃ、まともに戦えねぇからなぁ」

そう言って、バージェスは大剣を構え直した。

「かつての大戦で數多の同胞達を焼き払ったらかの魔法剣は……ここでは使わないのか?」

「……どうやってお前に勝つかは、これから考えるさ」

「総量で言えば、俺の魔法力と貴様の魔法力とでは俺の方が確実に上だろう。故にこのまま持久戦を繰り広げていれば……それで俺の勝ちが決まる」

バージェスの思考を読んだかの如く、シュトゥルクは次々と言葉を並べたてた。

「ならばやはり最強の一撃に賭けるか? だが、それすらも敗れた時がお前の最後だ」

「お前。そんなに、おしゃべりなやつだったか?」

「……八年も経てば、変わるさ」

バージェスの言葉にハッとしたシュトゥルクが、し遠い目をしてそう言った。

そんなシュトゥルクの脳裏に浮かぶのは、はしゃぎ回る五つ子やシャリアートとの平穏な日々だ。

「雷帝……」

バージェスは、シュトゥルクの瞳に先ほどまでとは明らかに違うが宿ったことを見逃さなかった。

「聖騎士よ、お前はこの八年で何かが変わったのか?」

「まぁ、それなりにはな」

ぶっきらぼうにそう答えるバージェスの脳裏に浮かぶのは……

聖騎士の座を追われ、死んだような日々を送る自分に再び命を吹き込んでくれた……、弟子達と過ごした賑やかな日々。そして、ここ最近のクラリスとの騒がしい日々だ。

「そうか。それはよかった」

「お互い、あの戦場を生き延びたんだからな」

「……ああ」

「シュトゥルク。お前が喋らない以上、お前にどんな事があるのかはわからねぇが……」

「?」

「もうやめにしねぇか?」

バージェスの目から見て、シュトゥルクの戦いには迷いがあった。

シュトゥルクがただの気まぐれなどではなく、覆し難いなんらかの目的のためにこの戦いに臨んでいるのは明らかなことだった。

何も語らずとも、剣と槍をえればそれくらいはわかる。

それがわかる程度には、數多の強敵達と剣で語り合ってきた。

「今は戦爭をしている訳じゃねぇんだ。俺にできることがあるなら……」

「ならば、早々に死んでくれ! 俺は、お前を殺さなくてはならない」

そう言ってシュトゥルクが雷槍ボルドーを高々と掲げると、その頭上に凄まじい雷電が渦巻き始めた。

それは、先程までの雷撃の比ではない。

そこには、これまでの雷撃の十倍以上はあろうかというほどの強大な魔法力が込められていた。

全ての迷いを斷ち切り、ここで決著をつけるため。

シュトゥルクは、最強の一撃で勝負を決めにきているのだった。

→→→→→

掲げた槍の先の上空から、ゆっくりと雷電の渦がシュトゥルクの所まで降りてきた。

その雷電が、シュトゥルクの手によって圧製され、さらなる高度の魔力へと変貌していった。

「敵にけをかけたつもりか? そのけが、お前を殺すのだ」

「どうしても、やるって言うんだな?」

対するバージェスもまた剣を握り、気を靜めて集中し始めていた。

「天地に満ちる霊よ……、我が呼び聲に応え、我が剣へと集え。我ら矮小なる人の子へ、その力を示したまえ」

バージェスの詠唱が周囲に響き渡り、その大剣へ周囲の霊が収束し始める。

……間に合うか?

周囲の霊を集め、その力を借りるバージェスに対し、シュトゥルクは自前の魔法力で技を作っている。

ゆえに技が完するまでの時間は、どう考えてもシュトゥルクの方が早い。

このままでは、バージェスは未完狀態の極大魔法剣でシュトゥルクのあの技をけ止めなくてはならなくなるだろう。

シュトゥルクが言うように、戦わずに(けな)済む道など(どかけ)探さずに(ずに)、さっさと極大魔法剣の準備にっていればよかったのだ。

……け切れるか?

萬全の狀態であっても、あれほどの技を相手にしては勝敗は時の運というレベルだ。

正念場……。

そういうのは、いつも本當に突然やって來るものだった。

つい一時間前までは、自警団の詰所でガンツ達と馬鹿な話に花を咲かせていた。

それが、今や命を賭けた大一番勝負に臨まざるを得ない狀況なのだ。

シュトゥルクは、明らかにこの一撃で決めに來ている。

だからバージェスも覚悟を決めるしかなかった。

超高度の魔力へと変貌したシュトゥルクの雷電が、雷槍ボルドーへと吸い込まれていった。

そこで、雷電の魔法力とシュトゥルクの闘気とが混ざり合う。

雷槍ボルドーを片手に握りしめ、シュトゥルクが半を大きく後ろへ引いた。

そしてシュトゥルクは全力の投擲の勢をとった。

その技は、シュトゥルクの最強奧義。

超高度の魔法力と闘気を纏う雷槍は、目標への衝突とともにその全てを解放する。

そして、周辺を雷電の力で焼き盡くすのだ。

それは、かつての魚人戦爭において、たった一撃で燈火聖騎士隊を半壊狀態へと追い込んだ必殺の一撃だった。

「行く、ぞ……」

「あまりせっかちだと嫌われるぜ」

バージェスの魔法剣は、未だ六割ほどの完度だ。

條件的には、圧倒的に不利だった。

しかしこちらの準備が整うのを相手が待ってくれるはずもない。

シュトゥルクは、紛れもなく本気の全力でバージェスを殺しに來ているのだ。

「さぁ、行くぞ聖騎士!」

「……ああ、しゃあねぇな」

そう言ってバージェスは……

大剣を逆手に持ち替えた。

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