《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第99話 ジークリンデ、くっつく

「おい、早く乗れよ」

「いや、乗れったって…………これ、一人乗りだろう」

「二人乗れるんだよ。ほら、座面に余裕あるだろ」

「そうかもしれないが…………でもだな…………」

「でももへったくれもねえよ。これは正真正銘二人乗り出來るんだ。騙されたと思って乗ってみろって」

わざわざ先にっていかにスペースが空いているか示しているというのに、ジークリンデは中々乗ろうとしない。それどころか自分のを抱きしめてすすっと二車から距離を取り始める始末。

「なあ、お前…………もしかして…………怖いのか?」

「なっ!? バッ、馬鹿にするなよ!? 怖い訳がないだろう!」

ジークリンデは顔を真っ赤にして俺を睨みつけてくる。が、その目元は普段よりし潤んでいる気がした。

「そうだよな。リリィですら乗ったことあるのに、大人のお前が怖い訳ないよな」

「ぐっ…………!」

視線でプレッシャーをかけていると、自ら逃げ場を斷ったジークリンデが観念したようににじり寄ってくる。しかし中々乗ろうとしない。

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「おい…………置いてくぞ?」

「待て! 視察だと言っているだろう! 私を置いて行ってどうするつもりだ!」

「だったら早く乗れって」

顎をしゃくって急かすと、ジークリンデはやっと観念したのか座面に手をつき、る素振りを見せた。

…………のだが。

「…………れない」

「あん?」

ジークリンデはボソッと何かを呟き下を向いてしまった。俺は痺れを切らして二車から降り、耳を近づける。

「どうしたって?」

流石にもうそろそろ観念して乗ってしいんだがな。早く行かないとそれだけ帰ってくるのが遅くなる。リリィを心配させちまうだろ。

「…………どかないんだ」

しかし俺の思いはコイツには屆いていないようで、相変わらず下を向いて何かを呟く。

「悪ぃ、何て言ってるか全然分から────」

「乗れないんだッ!!! 足が! 上がらなくて!!!」

「のわッ!!」

急に耳元で大聲を出され、俺は反的に飛び退く。地面に手を付きながら顔を上げると、ジークリンデは恥の極みのような赤面で俺を睨みつけていた。

「何だって…………足…………?」

言葉に従って視線を下ろしてみる。

まず目につくのは、すっかりお馴染みの魔法省の制服。上等な生地で仕立てられている深緑のそれは元で確かな膨らみを伝えていて、その側に何らかの存在を示唆していた。分厚い生地をあそこまで盛り上げるとは…………學生時代からさらに長を遂げていると見える。

「おい…………どこを見ている」

「すまんすまん」

そこから更に視線を下ろす。ただでさえ細い腰を黒いベルトがぴっちりと締め上げ、上半とのアンバランスな…………。

「…………おい」

「分かってる。急かすな」

突き刺すような視線に追い立てられ、更に目線を下げる。ジークリンデを守る深緑の守護者はちょうど膝上までが仕事範囲のようで、そこからはが顔を覗かせ…………ることもなく、タイツがけキラリとっていた。しかしそれも膝下までの話で、そこからはゴツい漆黒のブーツが細い足を守っている。

更にジークリンデはその上から魔法省高にのみ著用が許される純白のロングジャケットをに著けていて、なるほど、確かにこれは二車に乗るような格好ではないと言えた。膝下まで分厚い生地に守られていては足を上げるのは難しいだろうな。

「…………なるほど」

「や、待て、お前今失禮なことを考えているだろう! 別に私は足が短い訳ではないんだぞ!? ただ今日の服裝がだな…………」

頷く俺に、顔を真っ赤に染めたジークリンデが突っかかってくる。どうも勝手に変な想像を膨らませているらしい。

「分かってるって。お前のスタイルが悪いと思ったことなんて一度もねえよ。寧ろ良い方だろ」

「なっ…………!?」

背は高くは大きい。腰は細くて足はスラッと長い。の好みなんて人それぞれだと思うが、一般的に見てジークリンデはかなり勝ち組な見た目をしている。本人がお灑落に無頓著でさえなければ學校でも人気が出たに違いないが、まあ學生時代を百回繰り返してもそんな未來はやってこないだろう。なにせ十年経っても一目で分かるくらい見た目が変わってなかったんだからな。

「…………お前が乗れない理由は分かった。だがしかし、こんな所で躓く訳にもいかないんだ」

きっとリリィは今この瞬間も、俺が帰ってこないかと玄関で待っているに違いない。それを思えば腕は自然とジークリンデの方へ向く。

「俺が抱っこしてやる。それで乗れるだろ」

「だっ、抱っこ!? ちょ────」

「ほれ、いくぞ」

ジークリンデの反応を待たず、腰と膝裏をすくい上げるように持ち上げる。そのままジャケットにシワがつかないように気をつけながら座面に降ろしてやると、何故かジークリンデは俺を睨みつけてきた。

…………コイツ、今日ずっと俺を睨んでないか?

「…………ぐぐ……ヴァイス、お前いい加減にしろよ…………!」

「お前の足が短いから乗せてやったんだろうが」

「だからっ、私の足は短くない!」

「分かってる冗談だって。ほれ、乗れたことだし行くぞ」

車にり、座面の空いているスペースに腰を下ろす。二人乗り可能とはいえ流石に余裕があるわけでもなく、背中に薄っすらとジークリンデの存在がじられた。

「ぬぉ…………近いな…………」

「悪いな、窮屈で。とにかく俺にしがみついてくれ」

「しっ、しがみつくだと!?」

「ああ。じゃないと落ちて死ぬぞ」

「死っ…………こ、こうか!?」

背中にがないので不思議に思い下を向くと、ジークリンデは両手で俺の脇腹の辺りをちょこんとつまんでいた。コイツの中ではこれがしがみつくなのか。

「全然違う。もっとこう…………がばっ! と抱き著いてくれ。出來ればお腹の所で手を組んでくれると安心なんだが」

「お腹で!? 手を組むだと!? それだと抱き著くことになるではないか!」

「だからそう言ってるだろ。命に関わることなんだ、頼むよ」

脇腹に添えられている手を摑んで、お腹の前まで持ってくる。すると背中にジークリンデがくっつくがあった。手を離すと、俺を抱き締めるように両手がゆっくりと繋がれる。

「こ、これで…………いいのか……?」

「完璧だ。…………ふう、ようやく出発出來るな」

「…………済まない。々と……」

「気にするなって。俺も言ってなくて悪かったよ」

「ああ……今度からは事前に教えておいてくれ。その方が…………助かる」

どうやらジークリンデは俺の背中に頬をくっつけているらしい。

喋るたびに背中がもごもごといて…………し、くすぐったい。

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