《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第100話 ジークリンデ、

「ぬおおおおおおおおおおッ!!!!!?????」

ジークリンデのび聲が超速で後ろに流れていく。ありったけの魔力を流し込んでフルスロットルに叩き込んだ改造二車は躙するように帝都前の大通りを走し、帝都はみるみるうちに小さくなっていく。この瞬間は何度味わっても気持ちがいいな。

「ヴァ、ヴァイスッ、止めろ! 止めてくれ!!」

「何言ってんだ、まだまだ加速するぞ」

「私を殺す気かッ!!」

「しっかり捕まってりゃ大丈夫だ、死にはしない」

ぎゅう、とお腹を締め付ける手が強くなる。そうそう、そうやってりゃいいんだよ。

「そろそろキツくなってきたな…………あれやるか」

俺は接地しているタイヤに魔力を纏わせ、しだけ地面から浮かす。すると、さっきまでブルブルと震えていた座面がシンと大人しくなる。地面とタイヤの間に魔力を挾むことで衝撃を散らせるのだ。大幅に振が軽減され、ジークリンデがしホッとしたのが分かった。

「ジークリンデ、目的地までは何キロだっけか」

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「…………約五百キロだ」

「二時間だな」

「…………思っていたのと違う」

ジークリンデが何かを呟くが、風の音にかき消され俺の耳までは屆かない。聞き返すと、ジークリンデは何でもないとんで怒ってしまった。

「何なんだ一…………」

いつもと違うジークリンデの様子に首をかしげながらもアクセルを回す。暫く無言の時間が続くと、ぷく、とジークリンデが頬を膨らませたのが背中の覚で分かった。一どうすりゃいいんだよ。

「ここでいいのか?」

「ああ、間違いないはずだ」

二時間のドライブを終え俺たちが辿り著いたのは、森林とむき出しの巖がないまぜになったような採掘地帯だった。人の営みの匂いはなく、周囲には打ち捨てられた小屋がいくつかあるだけ。恐らくは既に放棄された場所なんだろう。

空に目を向ければ、大型の鳥が聞いたこともない鳴き聲を発しながら優雅に漂っている。遠くに來た、ってじがするな。

「ここは昔、帝都が使っていたコーラル・クリスタルの採掘場なんだ。記録によるともう數十年は放置しているようでな、資料と全く違う狀況になっていることもあり得る。それで再び稼働出來るか私が確認しに來たという訳だ」

「なるほどねえ…………まずはカフェで一服って訳にはいかないと」

殘念ながらな、と言いながらジークリンデは手にしている紙をちらちら確認しながら周囲を見渡す。恐らくは地図の類だろうか。釣られるように俺も何となく視線を彷徨わせてみると、本的な疑問に行き著いた。

「なあジークリンデ。見た所コーラル・クリスタルがあるようには思えないんだが、本當にここで合っているのか?」

元は森林地帯だったと思われる一帯は綺麗に切り開かれていて、遠くの巖まで見渡せる。しかしいくら探してもどこにもコーラル・クリスタルの赤は確認出來ないのだった。てっきり赤くる壁がお出迎えしてくれると思っていたんだがな。

「それはそうだろう。コーラル・クリスタルは地層の奧深くに出來る結晶だからな。その為に…………ん、あれか。ヴァイス、あれを見てみろ」

ジークリンデが指さした先にあったのは、木材で補強された窟の口だった。巖壁にぽっかりと空いたそれの先にコーラル・クリスタルがあるという訳か。

「あの先に?」

「ああ。資料によればあの窟から取れる部分だけでも採掘率は10%ほどらしい。當時はまだ採掘技も発達していなかったし、コーラル・クリスタルの需要もそこまで高くなかったからな。稼働途中でプロジェクトが中斷されたんだろう」

「つまり、あの窟がまだ使えるか確認するのが今回の仕事って訳か。見た所危なそうだが」

數十年も放置されていた窟などし考えるだけで危険が盛り沢山だ。落石や崩壊に始まり、急激な気溫の上下、危険生や有毒質の発生などいくらでも思い浮かぶ。どう考えても採掘屋を雇って確認するべきだと思うんだが、魔法省は意外と人手不足なのか?

「これは本當に俺たちがやらないといけない仕事なのか? どう考えても専門家にやらせるべきだろ。なくとも魔法省長補佐が直々にやってくる必要があるとは思えないんだがな」

俺の疑問に、ジークリンデは流し目をこちらに向け、その後やれやれとばかりに肩を落とした。

「全くその通りだ。私だってそう思うんだが、これが意外と複雑なことになっているんだ。まあ分かりやすく言うと…………利権と派閥爭いというやつか。コーラル・クリスタルを武に利用しようというプロジェクトは、今後かなり大きな予算を投する可能があってな。今の段階から一枚噛みたいという奴が魔法省にも大勢いるんだよ」

「…………それでお前が來る羽目になった、って訳か」

「正確に言うと、そうなることを見越して裏に進められている、ということになる。私が今この場にいることを知っている人間は、魔法省にも殆どいない」

行くぞ、とジークリンデは窟に向けて歩き出す。その背中はいつもよりし小さく見えた。帝都でも有數の名家であるフロイド家の令嬢で、且つ魔法省長補佐という立場にあるジークリンデでも、ドロドロとした権力爭い渦巻く魔法省の駒の一つにしか過ぎないのだ。

…………その細い両肩に、一どれほどのが乗っかってるんだろうか。全く、凄い奴だよお前は。

「ヴァイス? 何をボサッとしてる。さっさと行くぞ」

「────ああ。今行く」

小走りでジークリンデの橫に並ぶ。

隣に立つジークリンデはやはりいつもよりしだけ頼りなくじて、俺は一歩だけ橫に距離を詰めた。近くにいた方が良いと何となく思ったからだ。

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