《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》×1
×1
その男の頬には痕があった。
「これはねぇ、雷の攻撃魔法だよ。何もそうとしなかった自分を悔やみながら時間をかけてくたばるといいよぉ。村の仲間全員に懺悔する時間は裕にあるとおもうからぁ」
男はしばらく燃え落ちた瓦礫の山を眺めてから、ため息を一つして歩き始める。
ここには死の臭いが充満している。
家屋の全てが崩れ去り、あちらこちらで火が上がっている。
の臭いと脂が燃える臭い。人が燃える臭いに男は堪らず顔をしかめる。
「けっこう我慢をしていたんだけどねぇ、やっぱりダメなものはダメだねぇ」
木の枝を片手に持った男は、風下から避けるようにして、移する。
「ああ! こちらにいらしたのですか!」
風上まで移した男は、ようやく不快な臭いから解放され綺麗な空気をいっぱいに吸い込んだ。
「いやぁ、あの臭いがどうしてもダメでねぇ。風下は地獄だよ?」
男ほどではないが、それなりの服をに纏った青年が一人走り寄る。
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「導師雷帝、イオネル様。全て終わりました」
「そうかい、報告ありがとう。この後に確認のために見て回るのなんて僕にはできないから助かるよ、ジデンくん」
スカーフェイスの男——イオネルは青年ジデンににこやかに頷いて謝を伝えた。
二人は燃え広がる村の様子を眺めながら、揺らめく炎に目を奪われる。
「イオネル様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ジデンは顔を赤く照らされるイオネルの橫顔を見ながら尋ねた。
「うん? なんだい?」
「どうしてこの村なのでしょうか? 導師イオネル様がわざわざ足を運ぶほどの価値がある村なのでしょうか、このシルベ村は」
問われたイオネルは「うーん……」とわずかに悩んだ後に答えた。
「天啓、なのかなぁ。この村そのものになにも価値はないよ。だけどね、これは君には分からないかもしれないけれど、これが魔と魔法、この二つを大きく変化させるものだと僕は信じているよ」
答えを聞いたジデンだがまったく理解ができなかったようで「はあ……」と間の抜けた相槌しか打つことができなかった。
「こんな魔法も魔も理解できていない猿に、それだけの力があるようには思えないのですが」
「ジデンくん、君だって魔を完全に理解できているわけでもないだろう?」
「それは! イオネル様に比べれば確かにそうですが……、私は魔師ではありませんので」
ジデンは一介の魔法士に過ぎない。
魔法士と魔師では知識や力、そこに大きな差があることをジデンは理解している。それを不意に指摘され、聲を荒げてしまった。
「申し訳ありませんイオネル様」
「いいや、気にしていないよ。それにねジデンくん、そこで燃える骸の多くはこのままただ死んでいくだろうどね、もし仮にこの中から一人でも生まれたら大きく変わるんだよ」
「生まれる?」
「魔師が、だよ。魔師一人の存在で世界は大きく変わる。俗世のことにあまり興味はないんだけどねぇ、ガイリーン帝國優勢の勢もひっくり返る可能だってあるんだよ」
燃える村をじっと見つめるイオネル。
それはまるで何かを待っているような、そんな待の眼差し。
「イオネル様のような魔師であればそれはそうでしょうが……。まさかイオネル様はこの村から魔師が生まれてくるとお思いで?」
ジデンも照らされるイオネルの橫顔から目を外し、炎揺らめく村へと向けた。
「……種は撒いた、と思うんだけどねぇ。今回もハズレだったかなぁ」
待てども一向にきがない村の姿にイオネルはため息を一つ吐いてがっくりと肩を落とす。
「あとジデンくん、僕は魔師ではないよ?」
「えっ? ですが『箱庭の魔』様とあれだけ親しげに話されるなんて、あのお方がお話しなされる相手は優れた魔師だけだと聞き及んでいるのですが」
「彼とは、長い付き合いでねぇ。でも僕はもう魔師ではないんだよね。やるべきことは全てやりきった。だから僕は理としてこの世界を見守る。僕のように足掻いてくれる存在が現れるのを」
「は、はあ……」
徐々に炎が弱まっていく。
燃えた瓦礫が炭化し火が消えていく。
殘るのは完全に燃やし盡くし炭化した黒い骸。
「帰ろうかジデンくん。今回はハズレだったみたいだ。別のところに行こうか」
「えっ? 他も行くんですか?」
「そうだよぉ。皇帝の坊ちゃんには許可は貰っているからねぇ、こんな自由をもらえている間に働いておかないと。ジデンくん、働かざるべき者食うべからずだよぉ?」
「皇帝から許可を!? 私が言うのもあれですが、こんなことを続けているとサンティア王國との間で大きな爭いが生まれますよ?」
どうしてそんなことを皇帝が承諾するのか、ジデンはイオネルに許可を出したその真意が分からなかった。
それとも、イオネルは皇帝をかすほどの力を持った存在なのか。
「そういうのを僕に言わないでよぉ、僕に分かるわけないじゃないか。僕は承諾してもらえたからけているだけで、そのあとのことなんて知らないよ。ダメだよぉ、ジデンくん。先のことを考えすぎるがばかり行できないなんて、まるで仕事が出來ない盆暗みたいだよぉ」
イオネルはジデンに他の兵士を集めてくるように指示を出した。
ジデンが村の方へと駆けていく中、イオネルは一人先に村を後にする。彼らは遅れて合流してくるだろう。
「帝國がどうなろうと王國がどうなろうと関係ないんだよねぇ。ジデンくん、魔師が願う安寧は國が求めるそれとはまるでスケールが違うんだよ」
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