《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》×2-1

×2―1

燃える廃材を眺めるイオネルの橫に並び、同様にその炎に橙に照らされるジデン。

ジデンがこうしてサンティア王國の辺鄙な村、シルベ村までわざわざやってきたのは橫に並ぶイオネルが理由だ。

今朝のことだ。

ジデンとしてはガイリーン帝國で穏やかな休日を過ごそうとしていたのだが。

「ジデンくーん、ハイキングに行こうか」

などと間の抜けたような聲でドアを叩かれたら、どれだけ居留守を決め込もうとしたとしてもどうしても舌打ちがれてしまう。

そんな舌打ちを、魔法魔に長けたイオネルが聞きらすことはあり得ない。

「あっ、ジデンくん今舌打ちしたでしょ。いけないんだよぉ、僕いちおう君の上司なんだからね?」

なおもイオネルがドアを叩くてを止めない。

仕方なく、覚悟を決めたジデンはドアまで重たい足をかし、最後の抵抗をみせる自の右手を左手で叩きドアを開錠した。

「おはようございます、イオネル様。ハイキングとはこれまた、嬉しいおいのところ申し訳ないのですが、生憎と本日はの調子が悪いようでイオネル様にご不快を與えかねません。本日は自室にて療養に勤しみますので……」

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ジデンはイオネルに口を挾める隙をみせず一方的に捲し立てた後、「やあ、おはよう」といったじで手を広げながら固まるイオネルの目を一度も見ることなくドアを閉めた。

(イオネル様には申し訳ないですが、休日まで上司の顔を見たくはありません。ましてハイキングなどと)

激務に追われ疲れが蓄積されたこのをどうして休日にまでも痛めつけなければならないのか。

死んでも嫌だ。

それが皇帝の勅命であっても今の自分ならば目の前で破り捨てて「誰がやるか、バーカ」と使者を追い返すことだってできるかもしれない。

「……あ、これ皇帝坊ちゃんの命令だったんだけど、どうしよう……」

「さあイオネル様、どちらへ向かわれるのですか? サンドイッチと熱々のコーヒーでも持って楽しい楽しいピクニックといたしましょうか」

にこにこと満面の笑みを浮かべながら再びドアを開けたジデンの服裝はすでに外行のものに著替えられていた。

「お著替え早いねぇ、ジデンくん。そんなに喜んでくれるなら坊ちゃんに話をつけた甲斐があったよ。それにしてもジデンくん、の調子良くなかったんじゃないの?」

「ええ。私くらいになりますと集中して療養に勤しめば短時間で治りますので。今では元気が有り余るくらいですので」

「やっぱりジデンくんはすごいねぇ!」

「ははは……」

ジデンの瞳は死んでいた。

せっかくの休日が潰された楽しくもないイオネルとのハイキングは、激務で疲れが蓄積されたジデンのにはかなり堪えた。

ガイリーン帝國とサンティア王國との関係は良好とは言えない。もちろんそれでも隣接している國家でもあるため四角四面な外ぐらいは細々と続いていた。サンティア王國の首都とガイリーン帝國の首都間の道は両國の関係を表しているかのように適當な合で整備はされていた。

両首都間でこれなのだ。辺鄙な村へ赴くとなるとその道のりは困難なのは當然である。

道なんか整備されておらず、道とは呼べない獣道を進むしかない。

足場の悪い山を登り、鬱蒼とした森を抜け、服の側は汗で気持ち悪い滝が流れ、服は汚れて枝に引っ掻けたのか破れた箇所まである始末。

創痍であろうが、こんなところを抜けようとする者が列をしてそれなりの所帯でくのだ。

當然魔獣が襲ってこないわけがない。

ジデンや他の付いてきた者たちも魔法の心得や剣にはそれなりの腕もある。足場が悪く、木のを利用するなど立地を利用した襲撃をしてくる魔獣はそんな満創痍なジデンの神力をゴリゴリと削っていった。

ジデンがちらりと橫目でイオネルを見てみると、彼は楽しそうに雷を奔らせ魔獣を次々と落としていく。

立地や魔獣の不規則なきなど意に介さないように、雷は森の中を自由自在に奔り強靭なを容易く貫く。

(これが導師雷帝イオネル様ですか……)

楽しそうなイオネルを見れば見るほど裁を保てるほどの神力もないジデンは苛立ちが増していった。

どうして自分がこんな苦しみをけなければならないのか、誰のせいなのか。

「魔獣と誤って魔法をぶつけてみましょうか……」

悪魔の囁きにジデンの杖の先がイオネルに向く。

「もうすぐで森を抜けそうだねぇ。……おっと、ジデンくん危ないよそれ! 杖が僕の方に向いちゃってるよ、あぶないあぶない」

「あっ、これは……。失禮しました、イオネル様」

「もうジデンくんったら、魔獣の影と僕を間違えるなんて、そんな初歩的なミスをしちゃってさぁ。ほんとうに怖いねぇ」

杖に気づいたイオネルが笑みを浮かべながらジデンを指摘する。

はっとして杖を下ろしたジデンの心には、疲弊してしまっているとはいえイオネルに杖を向けてしまった罪悪が殘る。

「……チッ」

「おっとジデンくん? いま、舌打ちしなかったぁ?」

「いえ、していません。し自の練度の低さを悔やんでいましたが、もしかしてれてしまっていましたか?」

「ジデンくんは真面目だねぇ」

「いえいえ。ははは……」

ジデンの心に罪悪が殘っているにしろ、その大半はイオネルへの憎しみで埋め盡くされている。

當然、先の舌打ちもイオネルに向けたものである。

(はぁ……。これは次回の同期集結愚癡らし大會のネタになりますね。優勝間違いなしでしょう)

途中、川で汗を流したり汚れや魔獣の返りを浴びた服を洗い落としながら休憩を取ったジデンたちは、もうひと踏ん張りと重い腰を上げて歩き続け夜までにシルベ村へと到著することができた。

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