《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》46 拠點防衛戦②

その音とほぼ同時に、エントランスの魚人の子供たちがさらなる大聲で鳴き始めた。

「魔攻撃かっ!?」

玄関扉が破壊された衝撃で、お屋敷全がガタガタと揺れている。

なぜそうなるのかはわからないが、とにかく起きている事態だけは把握した。

俺のお屋敷が……

何者かの襲撃をけている。

「きゃぁぁっ!」

シュメリアが足をらせて、階段から転げ落ちていった。

慌てて手を摑もうとしたが、間に合わない。

「危ない!」

階下にいたアマランシアが駆け上がり、転げるシュメリアをけ止めた。

今の衝撃でお屋敷の玄関先につけていた明かりが消し飛んでしまった。

ぽっかりと玄関先に空いた大の向こう側には、ただただ暗闇が広がっているだけだった。

「こんなことするのはーっ! どこのどいつなのですかーっ!?」

「引き摺り出して落とし前つけさせてやる!」

早速ロロイとクラリスがブチギレている。

二人はそのまま外に飛び出していきそうな勢いだ。

俺も、一瞬頭にが上りかけたが……

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意志の力で無理矢理にそれを鎮めた。

「相手の目的がわからない以上、いきなり深追いはすべきじゃない。クラリスはここに殘れ。ロロイ、アマランシア……二人で外を頼めるか?」

「なんでだよっ!」

除け者にされたと思ったのか、クラリスが抗議する聲を上げた。

し落ち著け。頭にが上らないようにするんだろう?」

「……」

「クラリスは俺とシュメリアの護衛を頼む。俺たちはこのままミトラのところに向かう」

相手をぶちのめすより何より先に、ミトラの安全を確保したい。

クラリスにも、その意思は伝わったようだ。

「了解。……悪かった」

アマランシアに抱き止められたシュメリアは、転げ落ちる際に足を捻ったようだ。

右足の足首を押さえながら床にへたり込んでいた。

俺は、アマランシアから引き渡されたシュメリアのをそのまま擔ぎ上げた。

「だ、旦那様⁉︎」

「シュメリアは黙ってろ。……舌噛むぞ。ロロイ、アマランシア。相手と相手の目的がわからない以上無茶はするなよ」

「了解なのです!」

「はい」

「じゃあ目的がわかったら無茶してもいいのですね!?」

「いや、それは時と場合によ……」

俺がそうツッコミをれかけた瞬間。

お屋敷の外の暗闇から、再び何かが飛んできた。

「アルバス! 私の後ろに!」

的に前に出たクラリスが、魔障壁(プロテクション)を展開して俺とシュメリアを守る。

クラリスは、この場での自分の役割をちゃんと認識してくれているようだ。

「うりゃぁぁーーっ!」

ロロイは聖拳アルミナスを『倉庫』から取り出すと、次の瞬間には屋敷の外に向けて遠隔打撃の連打を放っていた。

お屋敷の外から飛んできた水の矢が、ロロイの遠隔打撃に撃ち落とされてそこら中で弾け飛ぶ。

「水の魔、ですね……」

アマランシアは、霧の魔を発させながらるようにして外へと駆け出していった。

「こんなことする悪い奴は、ロロイがぶちのめしてやるのです!」

そう言って、ロロイもさっそくアマランシアを追って屋敷の外へと飛び出していった。

「二人とも気を付けろよっ!」

お屋敷の玄関扉を壊したのは、間違いなくあの水の矢の魔だ。

一度に打ち込まれて來た魔の規模から考えると、かなりの使い手と見える。

そういう魔法力の高そうな相手は、クラリスにとってはかなり相が悪い相手だろう。

あと、ロロイとクラリスを組ませると暴走を止める奴がいなくなる。

「くそっ! マジでどこのどいつだよ。こんな真似をしやがるのは⁉︎」

クラリスの怒聲が鳴り響く中、外ではすでに魔戦の気配がしていた。

ロロイとアマランシアが、外で水の矢を使う魔師との戦闘を繰り広げているようだった。

「……」

俺のお屋敷を襲撃する可能のある相手と、その理由。

黒い翼絡みやら、魚人絡みやら、クドドリン卿絡みやら……

正直言って、思い當たる節はそれなりにある。

だから今の時點ではなんとも言えなかった。

「クラリス! とにかくミトラのところへ行くぞ!」

とにかく、こんな無茶苦茶な狀況下ではどこにどう流れ魔が當たるかわからない。

やはり、すぐにでもミトラの部屋へ向かってミトラの安全を確保したかった。

「わかった! ついてきてくれ!」

そうしてクラリスと共に階段を駆け上がり、そのままミトラの部屋へと走りだそうとした剎那。

「そんなに慌ててどこへ行くんだい?」

そんなくぐもった聲と共に、俺たちの目の前の廊下に突如として黒の人影が現れたのだった。

「敵……、に決まってるよなっっ!!!」

「待てクラリス! そいつは……」

俺が止める間もなく、クラリスが黒の人影に突進していく。

見覚えのあるその黒は、間違いなく黒い翼のものだ。

しかも、前れもなく突然に現れたことから考えて、目の前の敵が『時空の魔石』を持っていることは間違いない。

つまり……、黒い翼の首領。

アルミラの黒を見ているし、『時空の魔石』についての話も聞いているはずのクラリスにもそれはわかっているはずだった。

それをわかった上で、クラリスは今ここでそのを討ち取ろうとしているのだ。

「闘気剣!!」

俊足スキルと闘気剣スキルとを駆使して、クラリスはいきなり決めにかかっていた。

相手が現れたのは、クラリスの間合いの側だ。

発的な推進力と共にほぼノータイムで繰り出させる凄まじい速さの必殺の斬撃。

並みの相手であれば、この距離とタイミングで繰り出されたクラリスの斬撃を、この狹い廊下で避けることはほぼ不可能だろう。

「そう焦るなよ。キマイラ喰い」

だが、クラリスの剣は空を切った。

「男もも、せっかちすぎるのは良くないよ」

クラリスの後ろからその肩をポンポンと叩きながら、黒の人影が余裕たっぷりにそう言った。

「ざっけんなっ!!」

振り向き様のクラリスの一閃もまた、空を斬る。

は、瞬きする間に廊下のし先に移していた。

『時空の魔石』による短距離空間移

タイミングがシビアすぎるが故、勇者ライアンですら戦闘ではほとんど使わなかったその真スキルを、目の前のは完全に使いこなしているようだった。

まぁ、ライアンの場合。

あのくらいの距離なら下手に『時空の魔石』を使うより『神速』スキルを使って移したほうが速かったりするわけだが……

「黒い翼……。その首領、だな?」

俺の問いかけに、黒が深く被ったフードの奧で薄ら笑いを浮かべた。

肯定、と言うことだろう。

そうなると、先ほどの水の矢の魔も黒い翼配下の盜賊のものと見て間違いないだろう。

それは、いくつか可能があった『襲撃をける可能のある相手』の中でも、最も厄介な相手に違いなかった。

「まだ、俺から奪いたいものがあるのか?」

しいものは後ほど伝える。あのアルミラが致命傷を負わされた前回の反省を活かして、今回は『力づく』はやめることにしたんだ」

「マジでどの口で言ってるんだ?」

「あはは……」

まともに會話するのはこれが初めてのはずだが、どこか既視のある捉えどころのなさだった。

その相手が何処の誰だったのかは……今は思い出せない。

「何がしくてここまできたかは知らないが、お前達にやるようなものは何もない。それに……、他人(ひと)の屋敷を訪ねるにしてはずいぶんと禮儀がなってないんじゃないのか?」

「ふっ、ふふふ……。盜賊に『禮儀』を語る?」

薄ら笑いを浮かべながら、首領の姿が再び掻き消えた。

クラリスが全方位に向けて神経を研ぎ澄まし、全力で警戒をしているが……

俺達から見える範囲には、もう何処にも居ないようだった。

「……どこ行きやがった!?」

クラリスがそう言った瞬間、外での戦闘音が激しくなった。

「外かっ!?」

俺たちとの戦闘は本命ではないということか?

先程の『今回は力づくはやめることにした』というのは、一どういう意味なんだ?

「旦那様! ミトラ様を……」

「っ! ミトラッ!」

黒い翼の首領がいなくなったことを確認し、周囲を警戒しつつ、俺達は慌ててミトラの部屋へと駆け込んだ。

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