《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》47 拠點防衛戦③

「ミトラッ、無事かっ!」

「ア、アルバス様……」

ミトラは、ベッドの脇で立ち盡くしていた。

そこら中から音やら戦闘音やらがしているせいで、どうしたらいいかわからなかったようだ。

とにかくその無事な姿を見て、俺は心底安堵した。

だが、屋敷の外では今もロロイ達が激しく魔を撃ち合う音と衝撃が響いている。

このままそれが続けば、庭に面しているミトラの部屋にもいつ流れ魔が飛んでくるかわからない。

「ここは危険だ。すぐに廊下へ……」

「そこにいるのは、シュメリアとクラリスですか? さっきまでいたもう一人は、マナが消えていきなり外に……」

眼帯を巻いたミトラは、『生命探知』のスキルで周囲を視ていたようだ。

「とにかく廊下へ……」

そう言ってシュメリアを下ろして部屋に走り込み、ミトラの手を引いて廊下へと連れだした。

その直後。

ミトラの部屋の外壁をぶち抜いて、水の矢が室に降り注いできた。

間一髪だ。

衝撃でよろめいたミトラのを橫から支えた。

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「アルバス様、これは一なんなんですかっ!? 今このお屋敷で何が起きているんですか!?」

「俺たちの屋敷が、黒い翼(盜賊団)の襲撃をけているんだ。ロロイとアマランシアが外で応戦しているが、正直言って俺にもまだ事態の全貌は把握できていない」

「っ!」

ミトラが息を飲む音が聞こえた。

ミトラにとってはそんな危険な場所にを置くことなど、あまりにも非日常的なことだろう。

だが、こうなると、お屋敷に住んでいた他の遊詩人たちを外に泊らせたのは正解だった。

元々は拠點防衛のためではなく、こちらから攻め込む相談をするためだったんだけど……

結果的に、今この屋敷にいる非戦闘員はミトラとシュメリアの二人だけだ。

そこに俺を加えても、護衛が一人いればなんとか守り切れるような人數だった。

魔障壁(プロテクション)を扱えるクラリスが俺たちについてくれていれば、他の二人はとりあえず全力で戦える。

「っ! 魔障壁(プロテクション)!」

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次の瞬間、クラリスが前に飛び出して魔障壁(プロテクション)を発した。

それとほぼ同時に、再び外から無數の水の矢が打ち込まれ始めた。

それらの水の矢はクラリスの魔障壁(プロテクション)に當たって次々に弾けていく。

それと同時に、クラリスの魔障壁(プロテクション)にも亀裂がり、次々と砕け散っていった。

「くそっ! やっぱり真正面からけると持たないか!」

次々と追加で魔障壁(プロテクション)を展開するクラリスだが、徐々に押し込まれているのは明白だった。

「外の二人は何してるんだよ‼」

元々、クラリスはスピードと手數で相手をかくするような戦い方を得意としている。

真っ向から量で勝負する魔の総力戦は、正直言ってクラリスの苦手とするところなのだ。

「姉さん! アルバス! もっと後ろに下がって……」

クラリスがそう言った瞬間。ボロボロになった外壁を抜けて、アマランシアが室へ飛び込んできた。

「まったく禮儀のなっていない客人ですね……」

そう言って、アマランシアが両手に凄まじいまでの火の魔法力をたぎらせた。

部屋の天井まで屆くようなアマランシアの業火だが、その火がお屋敷に燃え移る気配は全くない。

とてつもない程の量の魔法力を込めながらも、アマランシアはそれを完全にコントロールしきっているのだ。

れれば瞬時に木材が消し炭になるような高溫にも関わらず、その範囲を一ミリでも出ればその魔の影響は完全に消える。

とてつもなくハイレベルな魔だった。

「あちらの黒い翼(客人方)にも、しは白い牙(我々)を見習ってしいところです」

「アマランシア達は客人じゃないだろ?」

「あれ? 違いましたか?」

「まぁ、俺はとっくにのつもりだったんだけどな」

「……うれしいお言葉ですね」

アマランシアの表は見えなかったが、その炎がしだけ強く揺らいで燃え上がった。

打ち込まれている無數の水の矢は、アマランシアの火炎魔の熱にれて瞬く間に蒸発していった。

「悪いアマランシア! 助かった!」

クラリスが勢を立て直しながらぶ。

「クラリスさん。攻守を代しましょう!」

代⁉」

「私やロロイさんの魔的な攻撃では、外の相手に効果的なダメージが與えられませんでした。たぶん、クラリスさんのあの剣が有効かと……」

「わかった! じゃ、攻守代だな!」

「気をつけてくださいね。外は外でかなり厳しい狀況です」

「ロロイが暴走しかけたら、クラリスが止めてくれよ」

俺は、そう言いながらクラリスに特級の魔力回復薬を投げ渡した。

「任せとけ!」

魔力回復薬を一気に飲み干したクラリスは、そう言い殘して外へと飛び出していった。

かなり不安だが……

戦闘力ゼロの俺としては、この場はクラリス達に頼る他なかった。

アマランシアの言うように、こういうことには向き不向きと役割分擔があるというものだ。

戦闘時における俺の役割は、支援と分析だろう。

黒い翼の首領は、先ほど『しいものは後ほど伝える』と言っていた。

俺からまた何かを奪おうとしているのだろう。

一つ二つは、思い當たるがなくもないが……

こちらからそれを差し出して『これをあげるから帰ってください』だなんてふざけた真似ができるはずもなかった。

盜賊団とか……、本気で大っ嫌いだ。

→→→→→

水の矢の攻撃が一時止んでも、アマランシアは片手で魔を発し続けていた。

いつまた相手の攻撃が始まるかわからない以上、魔の発を完全に止めてしまうと次の反応が遅れてしまうからだろう。

「先ほどの薬を、私もいただいてよろしいですか? ……お代は後で払います」

アマランシアほども魔師でも、やはり魔法力は無盡蔵ではない。

まぁ、當然だ。

「もちろん。無料(ただ)でいい」

アマランシアの火炎魔の明かりが、破壊されたお屋敷の外壁かられ出している。

その明かりが、お屋敷の周辺を煌々と照らし出していた。

し目が慣れてくると、炎と月の明かりに照らされた外の様子が次第に確認できるようになってきた。

「それで、アマランシア。相手は何人だ? 首領のほかにも俺の知っている『黒い翼』のメンバーが來ているのか?」

アルミラ、ルージュ、シルクレッドとその妻三人衆、ジャハル。

後は、完全にその死を確認する前に姿を消していたダコラスも、死ぬ前に奴らに回収されてどこかで生き殘っている可能があった。

ただ、俺の知る限りはこの中にあれほどの水の魔を扱えるような魔師はいなかったはずだ。

「敵は、二人です」

アマランシアが、靜かにそう答えた。

つまり、今このお屋敷に攻めてきている敵は『黒い翼の首領』と『水の矢の魔っている魔師』の二人だけという事だ。

その瞬間。

なんとなくフウリとシオンがいつまで経ってもここへやってこない理由が分かった気がした。

奴らは、戦力を分散して広域戦闘を仕掛けてきている。

本命がこのお屋敷なのか別にあるのかはさておき、おそらくは街の外のエルフ達のところへも足止めのために黒い翼の人員が行っているのだろう。

そうなると……、街中でこれだけの騒ぎが起きているのにいつまで経っても自警団が駆け付けてこないのも、同じ理由かもしれない。

狀況は、俺の想定以上に差し迫っている可能があった。

「一人は黒い翼の首領。そしてもう一人は……あそこにいる人魚です」

アマランシアは、月明かりがす上空を仰ぎ見ながらそう言った。

つられて空を見上げると……

お屋敷の遙か上空にて、月明かりに照らし出された宙に浮かぶ水球の中に、人魚が浮かんでいた。

「あれか……」

そこには、確かに人魚がいた。

その人魚はそのがギリギリ収まり切るようなサイズの水球の中で落ち著かない様子でくるくるとき回っていた。

そして時折、ギザギザの牙をむき出しにして眼下の俺たちを威嚇していた。

「なんで、黒い翼が人魚と一緒にいるんだ?」

黒い翼とは協力関係なのか?

それとも、黒い翼には初めから人魚の魔師がいたのか?

今回の魚人奴隷の件との関連は?

いくつかの理由の候補やさらなる疑問が頭に浮かび上がったが……

今この場で答えを斷定することはできなかった。

「あの人魚は子供達の母親、か?」

もしその部分だけでも確認ができれば、奴らの目的を多は絞り込むことができるだろう。

それでも多くの謎が殘ることに変わりはないが……

「そう、です」

誰にともなく放った俺の問いかけに対し、シュメリアがそう答えた。

「そうか」

「……はい」

なぜシュメリアがそう言い切れるのかは不明だが……

今はそれを深追いしていられる狀況でもなかった。

もしシュメリアの言うことが本當なら……

あの人魚の最終目的は間違いなく『子供達の救出』だろう。

そうなると……

初めから子供達をけ渡すつもりがある俺達とあの人魚とは、そもそもここで爭う必要はないはずだった。

「ならば、すぐに子供達を解放しよう」

それで、狀況が多は好転するはずだった。

敵二人のうち一人に、俺達と敵対する理由がなくなるのだ。

シュメリアが先程まで必死に訴えていたのは、つまりはこういうことだったのだろう。

だが……

そんな俺の言葉に対するシュメリアの反応は意外なものだった。

「今は、もうダメです……」

なぜか……、今度はシュメリアがそれに反対した。

「何故だシュメリア!? さっきは『すぐにでも子供達を解放するべきだ』って言っていただろ?」

「今はもうダメなんです!」

「だからそれは何故だ?」

「それは……」

「それは?」

「い、言えないです……」

自分でも無茶苦茶なことを言っているのがわかっているのだろう。

きっぱりとそう言い切ったシュメリアの聲が、わなわなと震えていた。

「なぜ?」

「ダメなんです。とにかく、今はもうダメなんです!」

俺たちがその意味を全く理解できないであろうことは、シュメリア自が一番わかっているようだった。

「申し訳ありません……、旦那様……」

泣きそうになりながらそう呟くシュメリアの肩を、ミトラが抱き寄せた。

「アルバス様。シュメリアは……」

「わかってるミトラ。シュメリアは……たぶん噓はついてない」

『噓はついていない』けれど、『本當のことも言っていない』といったところだろう。

ただ、シュメリアは俺たちには知り得ないなんらかの方法で、今の敵側の狀況をかなり深く把握している。

それは間違いなさそうなことだった。

そして、シュメリアにそんなことができる理由と方法について……

信じられないことながらも、俺の頭の中にはぼんやりと一つの答えが見え隠れしてしまっているのだった。

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