《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第6章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 3 革の袋(3)

3 革の袋(3)

古い時代の紙幣であれば、古商とかに問い合わせればいい。

しかし発行年だけが問題で、それ以外は普通に流通している一萬円紙幣と変わらない。となれば、あっちこっち探し回るくらいしか手がないだろう。

――どうする? どうしたらいい? 明日朝一番、銀行に行って相談してみるか?

と、そう思った途端だった。

以前、節子から聞いた話を、剛志はいきなり思い出した。

「銀行なんて信用できないんですって。だからぜんぶ現金で、自宅に置いてあるって言うのよ。逆に怖いわよね。ご夫婦だけで、それもけっこうなお年寄りなんだから……」

農協で知り合った老婆がそう教えてくれたと、節子が驚いた顔で告げたのだった。

――あれは、どの辺だったか……?

さらに近所を散歩していて、急に聲にしたことがあったのだ。

「あれ、あの大きなお家がそうよ。ほら、話したじゃない……銀行嫌いの、やっぱりうちと一緒で、無農薬やってるお婆さんのこと……」

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そう言って指差された古い屋敷の形を、剛志は今でもぼんやりとだが思い出せる。

こうなれば、その屋敷を探し出して頼んでみるしかない。節子の話が本當であれば、きっと古い紙幣だって貯め込んでいるはずだ。たとえ四百萬に及ばなくても、ゼロなんかよりはよっぽどいいに決まっている。

剛志はそう決斷し、一萬円札の束をショルダーバッグに詰め込んだ。

そのまますぐに家を出て、記憶にある屋敷を探してそこら中を歩き回った。

しかし一向に見つからないのだ。やがて日も暮れてきて、一気に気溫も下がってくる。手がかじかんで、足の指先がジンジン痛んだ。そうしてすぐに闇夜となる。そうなるとし街燈から離れただけで、家の大きささえ定かではなくなった。

剛志はひとまず諦めて、明日、日の出とともに探しに出ようと思うのだ。

そして次の日、剛志は久しぶりに自転車にまたがって、節子とよく歩いた多川沿いの道から探し始める。晝前には、あの二人がやって來るのだ。それまでに金を手にれて帰らないと、三十六歳の剛志は一文無しで旅立ってしまう。

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ところが川沿いを走り始めて、すぐにここは違うと気がついた。この辺りには古い家が見當たらず、ここ十年、二十年で建てられたくらいの家ばかりだ。この先いくら走ったところで、戦前からあった屋敷などにはきっとお目にかかれない。

――となれば、やはり昨日のどこかだ……。

単に見逃したか、それとも大きな勘違いでもしているか?

剛志はそんな不安をじながらも、自転車の前を元來た道へ向けたのだった。

そうしてその後、屋敷は呆気なく見つかった。それは道一本外れた奧側にあって、昨日通った道からでも、古めかしい瓦屋がしっかり見える。

どうして昨日は、こんなのに気づかなかったか? 思えば思うほど意味不明で、それでもとにかく、見つかったことだけは神に謝したいと素直に思えた。

さらに、その時點で九時にもなっていなかったから、

――余裕で間に合うぞ!

と、剛志はホッとしながら古びた屋敷の前に立った。

ところがだ。かなり舊式の呼び鈴をいくら押しても、うんともすんとも反応がない。

――噓だ……こんな朝っぱらからいないのか?

〝ブーブー〟という音が外まで響いて、いるなら聞こえないなんてことあり得ない。

「お願いです! 誰かいませんか?」

そう聲をあげてから耳を澄まし、

「お願いです。しだけ、時間を頂けませんか~」

そんな大聲を何度もあげるが、変わらずに靜まり返ったままなのだ。

――くそっ! くそっ、くそっ!

どこかで何か間違えたのか? それさえまったくわからない。

そんな自分がけないが、それでもここで踏ん張るしか道はない。

――頼む! いるんなら顔を出してくれ!

どこからか、様子をうかがっていないかと、彼は屋敷を隅から隅まで見ていった。

そうしてほんの十數秒、突然、聲がかかるのだ。

「おい!」

小さいが、それなりに力のこもった聲が響いて、剛志が慌てて振り返ると、すぐ後ろに小さな老婆が立っている。さらにその後ろに使い込まれたリヤカーが見え、たくさんの野菜が山のように積まれていた。老婆は彼をジッと見つめ、目が合うなり睨みつけるようにしてこう言った。

「あんた、ウチになんの用かね……?」

その瞬間、剛志は一気に舞い上がってしまった。

慌てて肩からバッグを下ろして、それを老婆に突き出し、思わず言った。

「あの、ここに五百萬ってます。これとおたくの四百萬と換していただけませんか!」

ある意味、怪我の功名だったのかもしれない。

実際に、老婆は手數料として百萬け取ったし、あんな言葉がなかったならば、話を聞いてくれたかだって怪しいものだ。

あの辺の大地主である彼は、朝の収穫に近くの畑まで出かけていた。そして銀行を信用するしないは別として、かなり昔から現金を溜め込んでいたのも正真正銘の事実だった。

玄関先で事を説明すると、老婆は意外なほどすんなり剛志の言葉を信用する。

「ふうん、昭和三十八年より前かいね……そりゃまた、ずいぶんと変わったご要だね……ま、いいでしょ、ちょっとそこで待ってておくれよ……」

かなり腰の曲がった老婆だったが、意外とそのきはしっかりしていた。剛志にさっさと背を向けて、ぴょんぴょん跳ねるように廊下の奧に歩いて消える。

それから十分ほどで、紙幣の束を四つ抱えて現れて、それを剛志の前にバサッと置いた。そうしてふうっと息を吐き、顔を覗き込むようして聞いてくる。

「本當に、これと五百萬、換してくれるのかい?」

「はい、もちろんです。ただ本當に、これぜんぶ、二十年以上前のお札なんでしょうか?」

「そうだね、もっと前のだと思うよ。うちの押しれの、一番奧にあったのだから、きっとそいつが発行されて、そう経ってない頃のやつじゃないかね……あ、それからさ、一応言っとくけど、それはひと束、きっかり百枚ずつだから……」

であればきっと、昭和三十年前半だ。

「確認して、いいですか?」

「構わないよ、ただ、本當に五百萬くれるんならだよ」

そんな聲に、剛志は慌ててショルダーバッグを前に置いた。中から札の束を一つ一つ取り出して、彼の前に橫一列に並べていった。すると、老婆はニンマリ笑って、

「どうやら、本気のようだね……」

獨り言のようにそう呟くと、前掛けのポケットから何かを取り出し、剛志に見せた。

「ま、使わずに済んで、良かったよ」

そう言ってから、それをさっさとしまい込んでしまう。

この時剛志は、これがなんだかよくわからなかった。かなり重そうで、電髭剃りをふた回りくらい大きくしたってじだ。きっと護用の武か何かで、場合によっては自分に向けられていたのだろう。老婆の言葉からそんなじの推測はついた。

思ったままを尋ねると、老婆は聲高にケラケラ笑って、電気ショックで気絶させることもできるんだと言ってくる。

「こんな婆さんだからね、知らない奴が訪ねてくるとさ、いっつもここにれておくんだよ」

幸い、一度も使ったことはないらしい。

「さあ、さっさと調べておくれよ。わたしはこれから、ボケかけた爺さんの朝飯を作らんといけないんだからさ……」

さらにそんなことを言われて、剛志は慌てて札束の一つを手に取った。

パラパラっと捲ってみる。

そこで彼は、思いもよらぬ事実を知ってしまった。

――勘弁、してくれよ……!

この衝撃はけっこうなもので、そう簡単には立ち直れそうになかった。それでも……、

「まさかあんた、一枚一枚確認しようってんじゃないだろうね。いいかい、見ての通り、その帯封は自前なんだ。ちゃんと百枚ずつ數えてさ、和紙でわたしがこさえたもんなんだから、それが外されてないってことはね、間違いないってことなんだよ」

そんな老婆の聲に促され、知った事実を心の底へと追いやった。紙幣をバッグに押し込み、彼は無言のまま立ち上がる。

不思議なことだが、剛志の持ち込んだ紙幣の方を、老婆は一度も調べていない。

確かに、金融機関共通の帯封は付いていた。それでも彼は見ず知らずの男。そんなのが差し出した札束を、偽札だと思ったりしないのか?

ただその後も、深々と一禮して玄関を後にする彼に、老婆からはなんの聲もかからなかった。

結果、百萬を一瞬で失った。

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