《骸骨魔師のプレイ日記》結晶窟の王 その二

一気に王(クイーン)塩獣(ソルティア)の頭上まで距離を詰めようとした私達だったが、その進路を塞ぐように現れたのは合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)だった。

「そりゃあ來るよな」

「飛べる前衛職って、あたしだけかい!」

「前衛の真似事くらいならワイもやれるで!」

二頭の合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)の前に飛び出したのはサーラと七甲の二人である。ただ、その背中はエイジのような防重視の前衛職に比べて真に失禮ながら頼りないと言わざるを得なかった。

サーラは素早くきで接近して一撃を叩き込んだら即座に離する、ジゴロウや源十郎のようなタイプ。七甲に至っては本來は【召喚魔】に特化した魔師だ。仕込み錫杖から抜いた剣も、接近された時の急時や召喚獣を紛れて斬りかかるために習得したもの。敵をけ止めるのには向いていないのである。

「二人はなるべく二頭を引き付けてくれ。その間に…」

「私達で仕留めるってことね」

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「お願いするっす!」

しかし、七甲よりもさらに打たれ弱い私と武が弓と銃であるシオ、そして理的な攻撃はすり抜けるせいで壁役にはなれないポップコーンにはその役割は難しい。二人に何とかしてもらうしかなかった。

意図せずして前衛を請け負わざるを得なかった二人だったが、嫌そうにしていた割には素早く狀況に適応していた。エイジのように全ての攻撃をけ止めることなど出來るはずもない。だが、注意を引き付けつつ回避し続けることで私達に意識を向けないようにしているのだ。

「ほれほれ、當ててみんかい!」

「當てられたら困るんだけどねぇ!」

サーラと七甲は複雑な軌道で飛行しながら、飛斬系の武技を頻繁に使って注意を引き付け続ける。斷続的に攻撃されている合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)は狙い通りに二人を追いかけ回していた。

ちなみに挑発的な臺詞に意味があるかどうかは不明である。塩獣(ソルティア)は無機質というか、というものはあまりじられない印象があるからだ。連係をとって戦っている時も、敵を倒せるのならば味方の損害など度外視していた気がする。

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きっと王(クイーン)塩獣(ソルティア)さえ生きていれば群れとしては全く問題がないのだろう。蟻や蜂ならば労働を引きける個があまりにも減してしまえば群れの維持が難しくなるのだろうが…どうやら塩獣(ソルティア)の場合は王(クイーン)塩獣(ソルティア)が乗っているガラスの切り株のようなモノから軽を吸い込んでエネルギーを供給しているのだと思われる。それ故に王(クイーン)塩獣(ソルティア)以外は使い捨ての駒で構わないのだ。

思考の方向が本筋から逸れたが、とにかく合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)に限らず塩獣(ソルティア)には挑発などに訴えかける行為は無駄なのではないか、と思うのだ。まあ、わざわざそのことを指摘するつもりはないが。

「ポップ、シオ。一ずつ、確実に仕留めよう」

「わかった。じゃあ七甲君が引き付けてる方から狙いましょうか」

「そうするか。侵塩のを砕く役と本を狙う役、どっちが良い?」

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「私の能力(スキル)的に砕く役が得意ね。専門って言っても良いわ」

「自分は両方やれるっすよ」

「なら砕くにはポップに任せる。シオは狀況に応じて臨機応変に対応してくれ。私は本に適した魔を使おう」

「了解っす」

「頼むわね。じゃあ始めるわよ…アアアアアアアアッ!!!」

ポップコーンが絶したかと思えば、合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)の二つある頭部の、獅子の形をした方が消失してしまう。ポップコーンは騒衝幽霊(ポルターガイスト)、つまりラップ現象などの理的影響を起こす幽霊なのである。

は絶すると念力を発生させられる種族(レイス)だ。進化を重ねて高位の騒衝幽霊(ポルターガイスト)となっている彼はが発生させる念力はかなり強力だ。獅子の頭部は消滅したように見えるが、実際は彼の念力によって握り潰されたのである。

ポップコーンの絶による念力は一撃にとどまらない。び聲が続く限り、彼程距離ならば何度でも念力を発生させられる。合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)は幾つも抉られたような傷を負うことになった。侵塩の部分は本ではないのでダメージは微々たるものだが…彼によって本出したぞ?

「次は私だ。星魔陣起、呪文調整、黒刃百足!」

この黒刃百足というオリジナル魔は、対塩獣(ソルティア)用に開発したものである。これは闇屬の刃を連結させて全長二十センチメートルほどの百足の形狀に整えた魔なのだが、その特と腳のような形狀にした細い刃によって張り付いた相手に継続的なダメージを與えることだ。

実はこの魔、消費する魔力に対して期待出來るダメージはあまりにもない。持続時間は長いものの、百足が張り付いていなければダメージを與えられないからだ。

仮にジゴロウに當てたとしても、すぐに払い除けられてしまうだろう。その際、與えられるダメージは最低品質のポーションで治る程度かもしれない。

だが、こと塩獣(ソルティア)に対しては高い効果を発揮するのだ。塩獣(ソルティア)の本は脆弱で、それ故にダメージを負ったならば即座に出した部分を侵塩で覆って守ろうとする。この時、敵に張り付く質を持つ黒刃百足を放つとどうなるか。

「うわっ…えっぐ…」

「流石はボスやでぇ!」

その答えは目の前の合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)が示してくれている。侵塩の側に殘った五匹の黒刃百足が本に巻き付いてガリガリと力を削り取っているのだ。

侵塩は魔力を吸い取るので、黒刃百足は本來の効果時間よりも短い時間で消えてしまうだろう。だが、脆弱な本へと継続的なダメージを與えられるのはかなり大きい。合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)の力はこれだけで三分の一以上が吹き飛んでしまった。

「これを一に付き三回、都合六回繰り返せば勝てる。シオが加わればそれも早くなるだろう。引き付けるのは任せるぞ」

「そのくらいなら、なんとかする!」

「ホレホレ、食らえや!」

私に塩獣(ソルティア)の力を一気に削り取る手段があるとわかった七甲とサーラは、慣れない壁役であっても短時間ならばこなせる自信がわいたらしい。明らかにきが良くなっていた。

サーラは複雑な軌道で飛び続けながら合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)の片方の注意をずっと引き続けているし、七甲はダメージを稼ぐ度に私に向く注意を召喚獣を上手に使って逸していた。

魔力を吸い取るという特上、召喚獣と塩獣(ソルティア)の相は最悪に近い。しかし、七甲はその相を腕前によって覆すまでに至らずとも互角にまで持っていっていた。

その方法は召喚獣そのものではなく、召喚獣に持たせたアイテムで攻撃するというものだ。弾を始めとする研究區畫で開発された攻撃アイテムを持たせて特攻させるのである。これならば侵塩を浴びて召喚獣が消滅したとしても、殘ったアイテムが発して侵塩の部分を吹き飛ばせるのだ。

アイテムの消耗が尋常ではないが、この方法でなければ十八番である召喚獣を活かせない七甲なりの工夫であった。それを否定するどころか、私は心せずにはいられなかった。

今も起すると周囲に雷屬ダメージを継続的に與える球形のフィールドが発生する弾が発している。アイテムを湯水の如く使っているが、実は七甲の懐はあまり痛んでいない。何故なら、ここで使っているアイテムは、実は研究區畫の者達の試作品や求めるレベルの威力に達しなかった失敗作であるからだ。

自分が塩獣(ソルティア)との相が悪いので力を貸してしいと願いつつ、廃品の処理や試作品の使い勝手を報告するという條件でタダで譲渡させているのだ。この渉上手な點は私も見習いたいものだ。

「片方は仕留められたか」

「よっしゃぁ!手伝うで、サーラはん!」

「助かる!」

そうこうしているに七甲が引き付けていた合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)は倒れた。そうなれば手が空いた七甲がサーラと共に殘った合獣(キメラ)型塩獣(ソルティア)を引き付ければ良い。負擔が分散されたこともあり、二頭目はより速やかに倒すことが出來た。

これで私達の行く手を阻む者はいなくなった。この勢いのままに王(クイーン)塩獣(ソルティア)を倒してしまおう。そう思ったまさにその時、下から仲間達の悲鳴と怒號が聞こえてきた。

「畜生!最高級の中和剤がいくらあっても足りねぇぞ!」

「ぐっ……落とされ、うわああああっ!?」

「鮫に引きずり込まれた!?絶対に小島から落ちるなよ!」

最上位種だと思われる塩獣(ソルティア)がまき散らす侵塩であっても、持ってきた現狀で作製可能な最高品質である『優』品質の中和剤ならば中和可能らしい。だが、その數は限られている上に積極的に侵塩を使ってくるようなので消耗が激しいようだ。

また、海中に潛む塩獣(ソルティア)の正も明るみに出た。『不死野郎』のメンバーの一人が小島から落ちたかと思えば、その下半を丸呑みにするようにして巨大な鮫型塩獣(ソルティア)が現れたのである。

小島の上で戦っていても消耗を強いられ、小島から落ちれば鮫に食べられる。そして食べられた者は二度と浮かんではこない、と。確実にこちらの戦力を削りに來る戦い方だ。

やはり決著を急いだ方が良いだろう。私達は同じ思いを抱いていたのか、誰かが何かを言うこともなく急いで王(クイーン)塩獣(ソルティア)の元まで飛翔するのだった。

次回は6月11日に投稿予定です。

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