《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》×2-3

「ジデンくぅん、助けてよぉ。僕じゃダメみたいなんだよぉ……」

子犬のように救いを求める上目遣いでジデンを見上げるイオネル。

休日を潰された恨みからその鼻っ柱をぶん毆りたいジデンだったが、ここで鼻をへし折ったところで何の得にもならないと理が彼を抑制したこともあり深いため息一つで流すことにした。

「仕方がないでしょうイオネル様。あれだけのことをしたのですから。年の立場になって考えればこの反応は不思議ではありません」

「どうしたらいいのかなぁ?」

「……はぁ。ここは私に任せてください。イオネル様は私が良いと言うまで姿を見せないでください」

「ええ? それはちょっとひどくない? ここ、僕の部屋でもあるんだけどねぇ」

そう縋るイオネルだが、ジデンは部屋から出るようあしらう。

落ち著かない様子の年と引く気配を見せないジデンに、イオネルは諦めて肩を落としながら部屋を後にした。

「とりあえず泣きつかれるまで待つしかないでしょうね」

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ジデンはを震わせながら泣きび続ける年をしばらく靜かに見守った。

が傾き西日が窓からわずかに差し込んでくる頃。

すっかり寢息を立てて眠る年に目を落とし、ため息をこぼすジデン。

「耳が潰されるかと思いました……」

年の絶をしばらく聞き続けたジデンは、その聲量から頭痛を覚えてしまうほどだった。

目もとを赤く腫らして眠る小さな年のどこにそんな力があったのだろうかと不思議に思ってしまうほどに。

「スープを溫めなおしてきますね?」

ジデンはそう呟いて傍に置いてあった食を手にしたその時、スプーンと食がぶつかり音を立ててしまった。

「うう……」

(まさか、起こしてしまいましたか……?)

これ以上の音は立てまいとジデンはその場を微だにせず年の向を窺った。

「ここ……」

だが殘念なことに、せっかく泣きつかれて眠りについた年はジデンが立てた音によって目が覚めてしまったようだ。

「……起こしてしまいましたか」

こうなってしまえばどうにでもなってしまえ。ジデンは自の耳が潰れる覚悟で年に聲をかけることにした。

「ここは、どこ……?」

ジデンを見ても取りす様子を見せない年に、とりあえずでおろす。

「ここはガイリーン帝國の魔法士寮の一室ですよ」

「……?」

「と言っても分からないでしょう。とりあえず君のお名前を聞いてもよいですか?」

「……エインズ」

「そうですか、エインズ君ですか。良いお名前です。エインズ君、お腹は空いていませんか?」

そうジデンは意識して優しく接すると、丁度よくエインズの腹が鳴った。

エインズの鳴き聲で聴力が馬鹿になってしまったジデンでも、二人きりの靜かな部屋に響いたエインズの腹の蟲は聞きらさなかった。

「スープを溫めなおしてくるので、し待っていてくださいね」

ジデンは食を手にして、エインズがじっと顔を向けてくるなか部屋を後にしドアを閉める。

安堵のため息がれた。

「ジデンくん、その後はどうかなぁ?」

スープを溫め直しているジデンのもとへ寄ってきたのはバツが悪そうな表を浮かべるイオネル。

「ええ。大分と落ち著いたみたいですよ。彼はエインズ君というそうです」

泣き止んだばかりでなく自の名前まで教えてくれるまでに落ち著きを取り戻した年の様子を聞いたイオネルは一瞬で表を明るくさせる。

「それじゃ、僕も會ってもいいかなぁ?」

「いや、だめでしょう。また初めからやり直しですよ」

「ええぇ……」

肩を落とすイオネルに、どうして自分の上司はこれなのかとため息をつくジデン。

エインズを帝國まで連れてくる判斷を下したのはイオネルである。この先エインズの処遇についても決めるのもイオネルなのだ、二人の間に介在し続けるのは面倒なことこの上ない。

湯気が立ち始めたスープを軽く混ぜながらどうしたものかと考えるジデン。できることならこのバトンをイオネルにぶん投げて一つでもストレスの原因を減らしたい。とはいえエインズがイオネルの顔を見れば転してしまうのも実狀。

(こんな分かりやすく特徴的なスカーフェイスがエインズ君を脅かしているんですよ)

スープを混ぜながらイオネルの顔に殘る頬の痕を見るジデンはそこではっと思いついた。

「そのお顔を隠せばいいのではないですか? 何かしらのお面などで」

そう思いついたジデンは我ながら悪戯めいた発想だとじ暗い笑みがれそうになった。しかしイオネルにそれがづかれてしまうと他の手段を考える必要が生まれ、面倒くさいことになると思いジデンはさも真剣な顔つきでイオネルの目を見た。

一旦自室に戻ったジデンはクローゼットを漁り、いつの祭りで買ったのかも忘れた奇妙な安っぽい仮面を一つ手に取る。

ジデンは被っていたホコリに何度か咳をしながら手で払い部屋の外に出ると、わずかに引きつった表を浮かべるイオネルに笑顔で手渡した。

「どうぞ」

「ええぇ……。これをつけるのぉ?」

「仕方がないでしょう。その顔を隠さなければあの子がまた平靜を失ってしまうでしょうし」

そう言われてしまうとどうしようもないイオネルは観念したのか仮面をつけた。

の視界が狹まるのと同時に、埃っぽさにくなり咳をするイオネル。

それを見ても何も思わないジデン、むしろどこかがすく思いのジデンは「行きましょう」と短く言うにとどまった。

お盆にスープを載せたジデンの後ろを歩くイオネルがぶつぶつと不満を口にしているのがジデンの耳に屆いているのだが、それらに一切反応しない。

石張りの床をコツコツと靴を鳴らしながら歩き、エインズのいる部屋まで戻った。

「戻りましたよ、エインズ君。スープを溫めてきました」

ドアを開けスープを持ったジデンとその後ろを連れるようにってくる奇妙な仮面をつけたイオネル。

イオネルの顔を見ただけで気が転していたエインズだったが、顔が隠れイオネルを正しく認識できないいま、エインズが取りすことはなかった。

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