《現実でレベル上げてどうすんだremix》W-008_巻き込まれ勇者召喚 2

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「むむむむむ……」

知らず、淑らしからぬ聲がれてしまう私、エメリー・E・日南。

今は魔法使い向けの訓練を終えて、剣士の訓練場に顔を出しに來たところなんだけど……

視線の先には馴染の腐れ縁である同級生、城銀次と、

「ハァッ! ――ッヤア!!」

「ほっ」

……例の男、久坂厳児の姿。

いや、一応年上だからさん付けが適切だし、現に會話の上ではそうしてはいるのだけど、

なんとなく、せめて心の中だけでは、敬稱をしにくい気持ちが正直、私にはある。

「また難しい顔してるねえ、メリちゃんは」

「上瞼が一直線になってるッス。ツンデレの目ッスね!」

「だれが、なんの目ですってヒカルゥ……?」

「いひゃひゃひゃッ、暴力ツンデレは今日び流行らないッスよ日南氏ッ!」

別の場所で訓練していた二人も戻ってきたらしく、後ろから話しかけられる。

鍛野(かのう)あかねと、宮藤(みやふじ)玉(ひかる)。綺麗な長い黒髪とすらりとした長、落ち著いた雰囲気のほうがアカネ。そして眼鏡と特徴的な髪留めがトレードマークの、賑やかなほうがヒカル。

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言うまでもなく二人とも子で、だからなにかと銀次との距離が近い彼らにちょっとやきもきすることもあるけれど……って、それは今は関係なくてッ。

目下の問題はそう、あの男。

「このっ――これでッ!」

「おっと」

ひたむきに斬りかかっていく銀次。

その相手をする久坂はというと、なんというか、見るからに覇気がない。

剣を両手でしっかり握り汗だくで挑んでいく銀次に対し、棒立ちでほとんどかず片手で雑に剣を振るその様は、手を抜いているのが素人目にもあからさまなほど。

真面目にやれ、なんて言うつもりはない。あれはそもそも、彼我に実力差がありすぎる結果だ。

現にあの男は召喚初日、あの場の誰もどうすることもできなかった魔族を退けている。

どうして本來の勇者より遙かに強いやつが事故で出てくるのか、という不條理はじるけど……

そのへんは今後、私たちが長していけばいいだけ。

凄まじい――それが勇者の強みのひとつだという話だし。

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「勵んでいらっしゃいますね、ギンジ様」

「クマトリヤ先生」

穏やかな聲に振り返れば、ローブ姿の妙齢の人。

スミカ・クマトリヤ先生。私たちの召喚儀式を取り仕切った、この國の若手筆頭の魔法使い。

私の魔の先生でもあるから敬意としてそう呼んでいるけれど……

「その先生、というのはやはり照れくさいですねっ。私(わたくし)もまだ修行中のゆえ。……ときに、エメリー様? なぜヒカル様の頬を摘まんでいらっしゃるので……?」

「わっ! 忘れてたヒカル、ご、ゴメンねッ?」

「な、ナイス指摘ッ、クマトリヤ氏……ッ」

當の本人は慣れない様子で、年上らしからぬ可らしさではにかんでみせる。

次いで訊ねられ、慌ててヒカルを解放。妙にらかくて結構クセになるのよね。ついついむにむにし続けちゃうというか……。

「コホン。と、ところで先生、先生から見て銀次はその、どうですか?」

「どう、とおっしゃいますと?」

「えっと、勇者としてどうなのかというか……ちゃんと強くなってるんでしょうか? 実際に魔族と戦いになったとき、ちゃんと通用する力がついてるのかな、って」

「なるほど」

誤魔化しついでに先生に聞いてみる。ついでどころか本當に気になっていることなんだけど。

腕を組んでおとがいに手をあてる彼。……そうすると元がむぎゅっとなって、ゆったりしたローブの中は意外とみっちり詰まっているのが見てとれて、正直うらやましい。

「……私は魔が専門で、剣士の力量については測りかねるところもありますが」

「構いません。それを言ったらワタシは魔すら素人ですし」

「エメリー様は筋がいいですよ。それは私が保証いたします。――ともあれ、そうですね」

ワタシへらかく微笑みかけ、それから銀次たちに視線を移す先生。

アカネもヒカルも靜かに聞く姿勢で、二人にとっても関心のある事柄なのだと窺える。

「率直に申せば、ギンジ様はめきめきと力をつけておいでです。それこそこちらへ來たばかりのころとは見違えるほどかと」

「そう、ですか? でも……」

すこしの間をおいてからの、先生の答え。

それが信じられないわけではないけれど、つい視線はあらためて銀次たちのほうへ。

「――っだあ!! もう、限界……」

「ん。お疲れさん」

そこではいよいよバテた銀次が、仰向けにひっくり返っている。

一方、とくに慨もなさそうに剣を収める久坂。會ってからほとんど変化のない読めない表で、息も上がっていないければ汗ひとつかいてすらいない。

これまでずっと久坂相手の訓練を続けてきていた銀次だけど、

今のところ一本の有効打すら取れず、毎回あんな風に、最終的にはバテバテで地べたに転がされている。あそこまで太刀打ちできないのを見ると、そもそもあれはになる訓練なのかとつい考えてしまう。

けれど先生は、ワタシの心配を見かすように微笑んで、

「たしかにああして見ると、なかなか果が上がらないようにもじられましょう。ですが勇者を鍛えるのであれば、あの形はある意味で正道……いえむしろ、あの方のとの立ち合いこそが現狀、最も効果的な鍛錬とさえ言えるかもしれません」

「……どーいうことッス?」

思いの外、確信的にそう言い切る。

意外に思ったのはヒカルも同じだったようで、ワタシの疑問を代弁するような問いかけが。

「それはひとえに勇者の特異、そのひとつに因ります。これは以前も申した、常人を遙かに凌ぐにも関わるのですが――自より格上の相手へ挑むこと。それこそが、勇者の長を最も飛躍的に促すとされているのです」

先生の真剣な眼差し。

その先にいるのは、一見普通だがいまいち正のあやふやな男。

「歴史を紐解けば、過去にも例はあります。勇者の力をもってしても、到底敵わないはずの戦力での魔族の來襲……そしてそれを奇跡的に退けた大逆転劇……そんな絵語のような戦況の記録こそが、他でもない勇者の特異を今日(こんにち)に伝えているのです」

「朗報。勇者、サ○ヤ人だった」

そのあたりはここへ來てからの座學でも聞いていた。過去の勇者の中には、國の一番弱い兵士よりも非力だったにもかかわらず、上位魔族の襲來があるやいなや果敢に挑んで死に狂いで辛勝してしまった者もいたとか。

それはそれとして、いかにも彼らしい想を言うヒカルは軽く小突いておく。

「あるいはレベル差補正で経験値ウマー! って寸法ッスかね?」

「? ヒカル様は時折不思議なことを仰いますが……」

「無視して構いませんよ? 先生。……でも、hmm, あの訓練が最良、ねぇ」

「なにやらご不満そうだね、メリちゃん」

まったくへこたれないヒカルはもう流しておいて、思わずぼやくように呟いてしまうワタシ。

それに目聡く反応するのは、アカネ。

「不満っていうか、……なにか言いたそうねアカネ」

「いやまあ、馴染が會って間もない男にれ込んでいるのは、やっぱり複雑な心境なのかな、とか」

「んなっ――」

返ってきたのはいたずらっぽい、言うに事欠く言い草。

言葉を失くし、我知らず顔が熱くなる。

「おおっとッ、鍛野氏からのBL(ブルーライン)にれそうな発言ッ!」

「ぶるーらいん?」

「薔薇の園りとも言いましょうかッ。やぁ、自分じつは、あまりそっちの分野には明るくなかったりするのですが……」

「Shut up,Hikaru! てゆーか、ワタシがしてるのはそんな心配じゃないわよッ!」

「ふむ。心配は心配なんだ、やっぱり」

「それはッ、……そうだけどっ」

らしく疑問符を浮かべている先生はおいといて、悪乗りが始まったヒカルの聲にようやく我に返ってとりあえず黙らせるワタシ。するとこの場ではじつは最もそっちの分野に詳しかったりするアカネが、言葉を捕らえるようなことを。

図星なのがタチが悪い。この場合。ホントに。

「~~そうじゃなくてッ、その、あんまり負けっぱなしでへこたれやしないかしらって、そういう心配っていうか。ほらあれで銀次(アイツ)、そんな打たれ強いってワケでもないんだし……っ」

とりあえず心配の例を挙げてみる。取り繕うようだけれど、これだって本心には違いないし。

友人たちの生溫かい視線は極力気にしないようにしつつ、指差したほうへ目を向ければ、

「それで、どうでしょう厳児さん! 僕の剣の腕のほうは……!」

「んん、どう、っつわれてもな」

いつのまにか起き上がっていた銀次が、久坂へと詰め寄っていて。

その様はあたかも、憧れのスポーツ選手と肩を並べて練習できたあとの年のよう。

魔族を一刀で退けた久坂に、完全に心酔しているのだ。あの単純バカときたら。

思いの外こたえてないのはいいとして、あいつのあの調子も心配のタネのひとつではあるけど……

「剣とか素人だしな、俺。何度か言ってるが、技云々ならここの兵隊さんらのが詳しいだろ」

「でも厳児さんには敵わない、ですよね? 一番強い人と戦うのが一番いい経験だって、騎士団長さんも言ってましたし!」

「そりゃ、そうなんだろうけどな」

二人のやりとり。じつは理があるのは久坂のほうじゃないかって、ワタシはじる。

魔族に勝てるあの男の剣は、たしかにとんでもなく速くて鋭かったけれど、

本人も言うようになんというか、素人くさい。同じ素人のワタシですらそう思うくらいに。

こう、技もセンスもないけれど、凄い力で振ったから凄まじい威力になっただけみたいな。

そんな久坂と稽古に勵んでも、肝心の技につかないのではないか――

なにを隠そうこれが、今のところのワタシの一番の懸念だったりする。

「どう思いますか、そのへん。クマトリヤさん」

「へっ、あ、わ、私ですかっ?!」

不意にこちらを向いた久坂が、先生へ。

話を振られた彼、軽く跳び上がるようにしながら目をくりくりに見開いている。

「はい。訓練の指針とか、そっちでなにか希があるなら。俺はなんだかんだ外野ですし」

「あ、え、ええとですねっ、私も剣はよくわからないので、が、ガ、~~クサカ様の、お好きなようにしていただければ、それでもう、はい……っ」

歩み寄りながら訊ねる久坂に、答える先生は俯きがちでしどろもどろ。

……最初の一件で銀次以上にやられてしまっている人が、ここに。まあ、あの時一番そばで庇われていたのは彼だから、仕方ないのかもしれないけれど。

にしても、こっちが微笑ましくなるくらいいたいけな年上人を前にして、あの無ぶりはどうなのかしら、久坂。……ひょっとして銀次並みの鈍

その當の鈍も「エメリー、みんな、そっちも訓練は一旦終わり?」なんて言いながら、のんきにこっちへ歩いて來てるけれど。

「クマトリヤ氏かわよ……恥じらう人魔法使いがにスーッと効いて……」

「侮り難いよねえあの史は……ローブぐと『おおっ』てなるくらいすごいし」

「か、鍛野? あんまりそういう目で見るのは……」

「アンタも時々目が行くクセに」

「なッ!? そそっ、そんなこと――!」

「エメたんのツンデレやきもちもかわよ……」

「誰がッ!」

バカなこと言ってる二人もそうだけど、その相手してるワタシもかなりのんきなのかも。

一応世界の危機ってことで呼ばれてるはずなのよね、ワタシたち。

「でも剣技についちゃ、やっぱ兵隊さんに教わっといたほうがいい気がすんですが」

「仰ることは存じ上げます。なれど現狀、ギンジ様のきについていける者が、もはや兵の中にはおらず……」

「え? あ、そう」

「はい。――あっ、でもそれもクサカ様との鍛錬の賜で、ギンジ様も、並の魔族ではもはや太刀打ちできないくらいの力はついておいでですからっ!」

向こうでは両拳を握って力説する先生が、詰めた距離に気づいて慌てて半歩退いたりしている。

また俯いて恥じる彼を余所に、久坂はなにやらすこし考えこむようにしている。

「剣技。剣、剣ね……」

呟き、ややあってひとつ頷き、

「試すか。――【降臨(アスタ)】。あと【霊召喚:金(ロイ)】も」

なにげなく、一言。

すると、

突如、天から降りそそぐ

同時に久坂の傍らに、どこか禍々しい気配。

そして、

「――お呼びでしょうか、我が主」

「鏾(サツ)。用か」

の中からは天使のような長が、翼をはためかせながら。

そして気配は小柄な全鎧の姿となって、それぞれ久坂に寄り添うように現れたのだった。

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