《現実でレベル上げてどうすんだremix》W-008_巻き込まれ勇者召喚 3

23/06/07_ちょっとだけ修正。展開そのものは変わりません。

余所からの干渉で移させられたのは今回が初めてだが、

実際のところ、それで俺がなにか損をしたわけでもなく。むしろ早々に食住を、それもこの世界では最高水準だろう王宮での暮らしを確保できたのは、の字とすら言えた。

最初襲ってきた牛頭を退けたのも、打算だったところは大きい。わかりやすい形で実力を示せば、なくとも邪見にされることはないだろう、という。だから例えば〔反〕で牛頭の斬撃を返す、などの真似はできなかった。傍目に俺がやったとわかりにくいし、あとたぶん牛が死ぬし。

食住の面倒をみてもらっている以上、まれている役割は果たさないといけないだろう。

それは取りも直さず、勇者の訓練。

しかし銀次たっての希とはいえ、剣などさっぱりの俺が十分な稽古をつけられるかどうかは微妙なところというか、まあ不十分だろう。

というわけで、代わりを呼ぶことにした。

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「――お呼びでしょうか、我が主」

。じゃなくて【降臨】で出てくる“守護使徒”のアスタロテと、

「鏾。用か」

霊召喚】のうちの一、金の霊のロイ。

アスタロテは剣を扱うspecialを持ち、ロイはあらかじめ武を所持して現れる。訓練にはもってこいと思ってこの二を選んだわけだが……

「な、な――ななななんすか久坂氏っ、そのどすけべボディ天使とハスキーボイスの鎧っ娘(コ)はぁッ!!?」

「あらあらまあ」

不意に聲を上げたのは本來のお客のうちの眼鏡。たしか宮藤だったか。

てかよくロイがだってわかったな。たしかによく見れば型なのはわかるが、聲は低めだしなにより中は空の鎧だけの奴なのに。

見れば黒髪長の鍛野も口元に手をあて、思わずといったじで聲を。

そして他、銀次と金髪日南、さらには先程まで話していたクマトリヤは、揃って絶句。

まあ、予想できた反応ではある。九割九分九厘はアスタロテに対する驚きだろう。実際俺も最初はその見た目に絶句したし。

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「そんな、私よりも――い、いえっ、ではなくて、召喚っ? それも二同時のうえ片方は、これは、亜神格級の……!」

しばしアスタロテの部を凝視し思わずというじで呟いてから、はっとするクマトリヤ。

次いでまた別の驚きを口にしているが、そっちは勘違いな気がする。言い草からこの世界にも召喚したりする魔法とかがあるようだが、それと俺の力は間違いなく別だろう。

「おや、その方(ほう)は私(わたくし)の本質を捉える程度の目はあるようですね。しかしその私をしもべとする主様こそ真に尊(たっと)き方であると、」

「しゃしゃんな、アスタ」

「っ――申しわけありません、我が主……」

一方で居丈高になるアスタロテには、釘を刺しておく。こいつのこういう態度も正直恥ずかしい。

あと俺が強く言ったりすると、ちょっと気持ちよさそうにするのはお前それ、なんなの?

「まあさておき、銀次、今度からこいつらが訓練相手でどうだ?」

「!? ――こ、このヒト? たちとですか……?」

「ああ。こいつらなら武の心得も、たぶんあるし、あと間違いなく俺より用だと思う」

「…………」

本題として、俺は提案を投げかける。

聞かれた銀次はというと、まだ事態を呑み込めない様子でアスタロテを見上げている。

「この者の鍛錬を私に、ですか? 主様」

「できないか?」

「いえっ、主様の命とあれば、なんなりと。……ですが私も人への指南など初めてゆえ、首尾よくはいかないやも……」

「そのへんはやりながら考えりゃいい」

そのアスタが、今回呼んだ用件の確認を取ってくる。

……のはいいが、近(ちけ)え。いや目線を合わそうとしてるのはわかるが、浮いた狀態で前屈みになってもだけやたら近づくだけだろうが。あと妙に甘ったるいにおいがすんのもなんなんだ。

ふと見ると、アスタを目で追ったままだったらしい銀次の視線が、こちらに。

「――アンタはいつまでガン見してんのよッ!!」

「いった?! いや僕はべつにそういうつもりじゃ……!」

「つもりがなくてもガン見はよくないよ? 銀次君。しかもそれが元となれば、なおさら」

「仕方ないッスよ、鍛野氏。こんなエロ同人界から來たみたいな金髪、見るなと言うほうがむしろ中二男子には酷ッス」

目の覚めるような鋭いつっこみが、日南から銀次へ。

鍛野もまた、窘めるようなことを。宮藤は擁護の姿勢だが、その目はすこし面白がっているように見えなくもない。

「酷というなら日南氏もッスね。同じ金髪碧眼なのになんて囲の格差社會……」

「I'm gonna blow you away,Aah?!! ってかヒカルだってワタシと大差ないじゃない!」

「フッ……じつは自分、つい先日ワンサイズアップしてるんスよ。――そう、Cの領域にッ」

「な、なんですって――!」

「ふふふ。私の前で囲の話とは、二人ともいい度ね。ええ、栄養がすべて長に取られるこの私の前で……」

「……ごめんなさい」

「ッス……」

宮藤に煽られるまま盛り上がる子二人だが、靜かに割りこむ鍛野の聲で俄然おとなしくなる。

あれだな。なまじ長もづきもあるアスタがいるせいで、鍛野の悲哀がより際立つようでもある。

「ええと……あ! その、クサカ様は召喚も扱えたのですね? てっきり戦士の方だとお見けしていたのですが、ひょっとしてそちらがご専門なので?」

「専門、というか、それもできるっつうじですかね」

話を変えるつもりか、こちらもおそらくづきよさげなクマトリヤが一歩近づき問いかけてくる。

この人もこの人で、ちょくちょく距離近いな。づきよさげと気づいたのも、この距離に加えて元を強調するような姿勢をとることがままあるからだったりもする。

あとは表に既視……ああ、そうか。喜連川や古幸が時々してたな、こんな顔。

「んー……というかそもそも、久坂氏って何者なんスか?」

不意に宮藤から投げかけられる、ある意味で今更ともいえる疑問。

「何者、か」

「はいッス。名前と見た目から、とりあえず同じ日本人なのはわかるんスけど、」

「あ、いや、たぶんそこからもう違う」

「え?」

続いた言葉にさっそく齟齬があったので、彼の言葉を一旦遮る。

宮藤は元より、勇者組全員が呆気にとられたような顔に。

「“にほん”ってのはお前らの故郷の、地名か? だとしたらそこは俺の故郷じゃねえな」

「いや、でも……」

「日本語、通じてるわよね?」

「ああ、【意訳】なしで言葉が通じてんのは俺も驚いた。けど今喋ってるこの言葉も、俺の故郷では“にほんご”とは呼ばれてねえな」

う銀次と日南につけ加えて言えば、四人ともがますます困顔に。

察するにこれは、偶然の一致なんだろうと思う。

無限にあるとされる世界の數。それだけ多ければ似通った世界も二つ三つ、あるいはそれ以上にあっても不思議はないだろう。

ものは試しと、俺と勇者組で互いの故郷の報をすり合わせてみれば――

「――どこを取っても日本じゃないスか!!」

「はあ、偶然ってすげえな」

「偶然、で済むレベルかなあ、これ……」

二者はそれこそ恐ろしいくらいに類似していた。ほぼ同じ、とすら言える。

適當に嘆する俺を、鍛野がなかば呆れたような目で見ている。

「えっと要するに、厳児さんもまた異世界人、ってことですか?」

「ざっくり言えばな」

「それじゃアン、……久坂さんの世界では、そういう力が使えるのは普通なのかしら?」

「普通ではねえな。まあ、いろいろあって、こうなった」

「……?」

日南からの問いかけは、適當に濁しておく。人殺しが絡む以上、レベルに関する話は間違いなく反を買うだろう。それでここを追い出されれば余計な面倒も増えるだろうし、そもそもすべてを正直に話す義理も必要もない。

ただでさえ、次にいつ【境界廊】が繋がるかわからない狀況だ。

それとなく子機を取り出して、見やる。

元の世界と今いる世界の時刻表示は普通だが、それ以外、次の世界への表示はでたらめになっている。指針は不規則な回転をくり返すばかりで、日時表示も無作為な點滅。

変則的にここへ來てしまった影響だろう。救いは子機がまだ生きていることか。仮に【境界廊】との繋がりが完全に絶たれれば、子機もまた沈黙するはず。

待ってりゃそのうち通じるだろう……とは思う。

問題はそれがいつになるか、か。數日か數週間か……數年という可能もなくはない。

「ところで、訓練するのではなかったのか?」

「ん、そうだった。どうする銀次、いや――」

ロイに指摘され、頭を切り替えて子機をしまう。

それから銀次へ向きなおり、問いかける途中で、

「せっかく揃ってるし、四人いっぺんに訓練するか?」

「え?」

「自分らも、ッスか?」

「あら」

ふと思い立ち、提案。

不意打たれたような子三人。たった今出た思いつきを投げかけたのだから、反応としては當然。

「どうせ戦う時は一緒になんだろうし、連攜とか取れたほうがいいんじゃねえかな」

「それは、そうですね! ありがとうございます厳児さん! 僕らのことを考えてくれて」

「たしかに一理あるけど……」

「えっとつまり、天使さんと鎧さん、それと久坂さんとで、四対三?」

「いや、俺はんねえ。アスタとロイで」

もっともらしい理由をつけ加える俺。銀次は禮を言うが、日南のほうはやや難気味。

そこへ鍛野から確認がり、俺は加わらない旨を告げる。

それでも実力的にはまだアスタらのほうが優位だろう、そういう見込みだったが、

「四二、ですか」

「ほほう、それはそれは……」

「ええ。結構ナメられたものね、ワタシたち……」

「ふふふ」

四人の顔つきが変わる。

なにやら矜恃にれてしまった様子。

「べつに舐めちゃいねえけど。なんなら四対四にするか?」

「なんじゃあ、出番か。どっこいしょ……」

「あいや! シュシュッと參上!」

「!?」

機嫌くらいは取っとくかと、追加で二霊召喚】してみる。

土の霊グラ爺と、影の霊ニンザブロウ。

人? 選は単純に、人型のほうがやりやすいかと思って。

若干怯んだ様子の四人を、SP回復薬の瓶を放りながら見やる。【降臨】で半分、【霊召喚】で四半分消費するので、回復はどうしても必要になってしまう。

「さて、俺らは離れてますか、クマトリヤさん」

「四同時召喚……?! いえっ、それよりその、よろしいのですかっ? さしもの勇者様方でも、あれでは……」

「あいつらも適當に加減はするでしょう。それに」

心配そうなクマトリヤに詰め寄られる。相変わらず、近い。

一応本気は出さないだろうということは伝え、それからもうひとつ。

銀次らの様子を見ながら、俺は言う。

「せっかくやる気になってるようだし、水は差さないでおきましょう」

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