《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》138話 熊野ミサキと神と化け
「あ、味山さんは……どこに……」
「死んだんじゃないですか〜? リュウグウサマは人のが大好きですから〜。まあ、でも、最近若くて瑞々しいを食べてますから~、それと比べると味は落ちてそうですけど〜、さて……」
「ひ……」
白川、そう呼ばれた男が悲鳴をらす。
『お嫁さんですか、お山はきっと良い所です。トカゲの尾は味しいですが、蛇には気をつけないといけません』
「アサマさま……」
「ダメだ、波……!」
「しつこいですね~、あ、そうだ~熊野さ~ん」
名前を呼ばれる。ウチはようやくあの探索者が消えていった扉から目を離した。
「……なんや、班長」
「白川さんを始末してください、適當に怪の巣へ放り込んでおいてくれて構いません。あ、それとも見せしめに……アサマ様よろしいですか?」
『はい、太は嫌いですが夜は優しいので好きです、でも冷たくて指が取れました』
「ひ……なんなんだ、なんなんだよ! お前たちは! やめてくれ、たった一人の娘なんだ! どうして、こんな……」
「あ~完全に解けちゃいましたね~白川さん、殘念です~アサマ様に疑問をじる時點であなたはもう國民ではありません~、アサマ様、どう思いますか?」
『お嫁さんは好きです、山のおさるさんたちが喜びます。果は味しいですが蟲さんがたくさんいてじゃりじゃりしました』
「だめだ、波! だ――ぐふ」
「は~い、そうやってそのまま娘さんの輿れの瞬間を見送ってあげてくださ~い、どうですか、どんな気分ですか、白川さ~ん」
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「あああああ、離せ、離せ、離せええええ! や、くそくしたんだ、瑠璃と、妻と! 波だけは守るって――なんで、だなんで俺は今まで忘れて――」
「元陸上自衛軍東部方面區フジ駐屯地所屬、第3小隊長の白川武さん」
「……なんで、それを」
「奧様の最期の瞬間、一緒にいたじゃないですか、あ、この顔じゃありませんでしたっけ? これかな? 集団で避難していた時に、奇聲をあげて、怪を呼び出したニートの若い男覚えてませんか~?」
「あ」
「うぶっ、ふ、ふふふふ、くふふふふふふふふ、その顔! その顔~、あ~思い出しましたぁうふふふふふふふふ! 怒るに怒れませんでしたよねえ! 怪種が世界に溢れたその日、たまたまあなたが避難導してた人たちの中に、奧様がいてえ! たまたまその集団がパニックを起こして、たまたまヒョウモンヒト斬りカマキリが現れたんですからねえ! そして、たまたま最初にパニックを起こした若い男のせいで、あなたの奧様はおなくなりに」
「君のせいじゃない、だから生きてくれ。今日死んだ人達の分も――でしたっけ! あはははははは! いい人お~ですねえ~奧様は代わりに死んじゃいましたけど~ああ~全部全部臺無しでしたね~」
「なんで、それを……班長、お前が知って」
「ああ、だって、その男は……おっとこれ以上はネタバレになりますね~。でも今でも覚えています、目の前にいる間接的には奧様の仇になるはずの無能を前に、あなたは何も言えなかった。恨み言を吐く権利があったのに理解あるふりして……ぷっ、うふふふ。ごめんなさい、いやいやいや、あの時のあなたの顔――
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最高でした」
まず、目が微笑み、それから厚いがにやりと。
白川がその顔に、何を見たのか。目を見開き、ぶ。
「お前……まさか、お前!! おま、ぶっ!」
『くな』
「あら〜アサマ様ありがとうございます〜アサマ様はお父さんが嫌いですよね〜」
『…………』
「お父さん……なんで泣いてるの?」
「波、すまない、俺が俺のせいで……」
「おや、また……しづつアサマ様の洗脳が……? ふむ……」
『……おとうさんは嫌いです、あつくて、固くて臭くてきらいでした』
「アサマ様……違う、よ、お父さんはそんなのじゃ……」
『かぜがふいてきました、からすが骨をついばむのが嫌いです』
「え……」
風が、その異形に向けて吹き始める。イズ半島に吹き付ける風、そのすべてがこの場所に向けて。
「ああああ……」
「アサマ様、アサマ様、アサマ様」
「おお、神様……」
フジヤマお面の人々が、ひざまずき、首を垂れる。
ウチらは今、神様の前におる。
古い、古い時代、まだ人間がこの星の頂點に立つ前の時代、きっとこうして祈ってたんや。
「ありがたや……」
「恐ろしや……」
祈るいうのは、畏れるということ。
ウチらニホン人のどうしようもない底の部分が手を合わせ、拝ませる。
『おとうさん、はきらいです。おんなのこはみんなおとうさんがきらいなはずです、おおきくてくさくてつらいです』
雷が鳴る、大雨が降る、大風が吹く。ウチらの生活を天地が脅かす。ウチらはそのどうしようもないもんに神様を見つけ、拝み、畏れた。
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それと同じ。
今、ウチらの目の前におるんは、それと同じや。
『おんなのこはおとうさんと一緒にいてはダメです。こっちへ、おやまへ。きのこもあるくりもある味しいおはなのみつもあります、6月は花嫁さんもたくさんきてくれます』
襤褸を纏った異形が手を差しべる。
ウチらはただ、それに従うだけ。膝を付き、首を垂れて。
ーー、人を守れ
でも。ウチはアサマ様の巫で、アサマ様が可哀想で……
頭が、痛い……。
「ヤダ……今のアサマ様……怖い」
『……………』
「あらららら〜、これは……本格的に……」
小さなの子、白川の娘はそう言って、地面に這う父親の元へ。
「波……」
「お父さん、泣かないで、大丈夫だよ、きっと大丈夫だから」
『やめてください、やめてください、やめてください。お父さんは怖いです。お母さんならいいですが、お父さんはダメです』
襤褸を纏う神がしわがれた指先を親子に向ける。
ぞ、ぞ、ぞぞぞぞぞぞぞ。
ドロドロに溶けた土のような闇が産まれる。
おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー。
きゃははははは、きゃははは。
あはははは、あはははは。
こどもの聲が折り重なるように積もる。溶けた闇が蠢く、足跡がベタベタと。
「ひっ……やだ。怖い、怖いよ! お父さん!!」
「……っ! 大丈夫、大丈夫だよ、波……!」
「あ〜あ、アサマ様、食べちゃうんですか〜? まあ、それもありですね〜、ではどうぞ、パクッと」
闇が、親子に迫る。それは神様の世界の泥、生きてるものがれればたちどころに命が終わる、そんなもの。
『おやまに、いこう』
「お父さん……」
「大丈夫だ、波……」
夜が、闇が、無力な人を飲み込む。
それを見ても、ウチはけん。
あの時と同じ、同じ、同じ、同じ。
オカルト部のみんな、処刑、リュウグウ。
ウチは何、を。
ーーじゃあ、任せたぞ
なんでやろ。目の前にある景とか、ぐちゃぐちゃの頭の中とか、そういうの全部関係なく、その聲が。
さっき喰われた探索者。あの"味山只人"を名乗る妙な探索者。
アイツ、笑ってたなぁ……
自分が死ぬっちゅーのに。
あれ、ウチ、同じもんを、あの顔と同じものを見て。
ーー恨みます、でもーー。
神的な白い髪、無表やけど、友達の前でだけにへらって笑うその顔。
オカルト部の最期の生き殘りの最期の顔が離れんくて。
「あれ、どうしたんですか? 熊野さん?」
班長の聲が聞こえる。目の前から。
「あ、あんた……」
「巫様……?」
親子の聲が聞こえる。背後から。
ああ、ウチは大馬鹿や。
「せ、先輩。な、何してるんですか? アサマ様の邪魔になりますよ……」
「あら〜、そういう事、なんですか〜、熊野さ〜ん?」
『…………』
「夏の夕暮れ、涼しい風ん中、冷たいスイカを齧るのが好きやった」
「……なんの話ですか〜」
「當たり前やと思ってた日常の話や。ああ、いや、なんでや、なんでやろ、分からん、ウチは今更何を……」
気付いたら、こうしてた。
あの時は、出來んかったのに。
ウチは、アサマ様の前に立つ。
「……貴はアサマ様のことを知ったんですよね〜可哀想な可哀想なアサマ様、誰にも見つけてもらえず、ひとりぼっちでこの世の理不盡に飲まれた子……そんな子です〜アサマ様には正當があるんですよ〜、この國に復讐する権利が、この國の人をげる権利が、貴は」
「それでも、これだけは違うやろ!!」
バカが、アホが、無能が。今更遅すぎる。
「子を想う親を! 親を想う子を! それはこんな簡単に、奪われてええもんやないやろ!」
ウチは立つ。目の前で消えようとしてる家族の前に。
ウチは立つ。本當に守らないといけないものの前に。
痛い、中が痛い、
ーー人を守れ
ーー國を守れ
もう遅いかもしれないけど。ウチは一度それを捨ててしもうたけど。
「遅いのはわかってる、でも、これは違う……これだけは見逃せん……親を想う子を、子を想う親を……これを見逃したら、ウチは本當にもう、壊れてまーー」
「あ、そういうのいいんで」
「え……あ……」
熱、い。膝、立てない、地面……ウチ、倒れて……
これ、か……? アサマ様の、祟り……が破裂したような……
「巫様!!」
「あ、あんた大丈夫か!?」
だめ、こやんで、こやんでええ。
芋蟲みたいに這いつくばるウチを班長が見つめる。
「今更、気張られても〜笑うしかないんですよね〜。人間の善とか誇りとか〜そういうの、見せるのし〜遅かったんじゃないですか〜?」
班長の言う通りや。ウチは既に、見捨てた。
無くしたらいかんもんなくして、死なせたらあかんものを死なせた。
ウチは負け犬や。
それはもう間違いない、でもーー。
「そういうの〜今更萎えるんですよね〜貴は全部遅すぎた。アサマ様の全てを知り、アサマ様に同した。心を明け渡し、イズ王國のしもべ、アサマ様の巫となった。それで終わりなんですよ。あの勇気ある彼らを貶め、騙し、絶の中殺したのは、貴ですよ〜その事お忘れで〜?」
でも。
それでも。
「あ、巫様、ダメ、が……」
「き、君。ダメだそれ以上を流すと……」
「頭から離れん……」
「は〜?」
「頭から、離れんねん……! アサマ様の悲しみよりも、嘆きよりも、ウチにはあの子達のび聲が、離れん!! ウチの頭はおかしくされてもうた! 守るべき人たちを前に、ウチは何も出來んくて! なくしたらあかんもんを無くした!」
ぼた、ぼた。ぼた……
が落ちる、終わる、全部終わる。
「どーでもいーけど、死にますよ〜、貴はアサマ様のしもべ。そのも心もアサマ様の神に冒されてます〜殺すのは勿ないですから〜出來ればもうやめにしませんか〜?」
「そしたらあんたはこの人らを殺すやろが!!」
「え〜私じゃあ、ないですよ〜アサマ様です〜。花嫁候補もお父さんを選んで、巫様もいきなりの翻意。アサマ様〜どうしますか?」
班長が、ニヤニヤしつつ、アサマ様に聲を向ける。
襤褸を纏う神がうーん、と首を捻って。
『仲間はずれは悲しいです。みーちゃんは、意地悪でした。ろーくんは良いのに、私はダメだそうです。お風呂にってなくて臭いからダメみたいです』
「ですよね〜仲間はずれはよくないですね〜じゃあ、もうやってしまいましょうか、アサマ様……ね?」
「アンタ……! アンタおかしゅうないか!? なんなんや、さっきから! まるで、アンタがアサマ様をーー」
「ああ、そこまで考える脳みそが戻りましたか。これは本格的に……味山只人、何かしましたね」
「アサマ様、もうやめましょう! ウチ知ってます! 貴が本當は!?」
「はい、では、アサマ様?」
『ぽんぽんおてだま、潰れます』
ぱちゃ!!
が。
あー、これ、死ぬなあ……
でもーー。
「はい、さような……ら?」
ばしゃ。
「な。んで?」
「あ、アンタ、ほんとにもう、よせ、大丈夫、大丈夫だ! もう十分だ!」
「巫様、だめ、それ以上はしんじゃう……」
「先輩、なんで、そこまで……」
足を前に。
ウチはウチの溜まりを踏みしめ、立つ。
「人を、守れ……」
手を広げ、ばす。ウチの小さなで庇えるもんじゃないってわかってる。
負けたウチが今更こんな事して、何の意味もないってわかってる、それでもーー。
「思い、出した……ごっつい攻撃喰らうて、思い出したよ……」
「何言ってるんですか〜ふーん、それにしても頑丈……いや、頑丈すぎますね〜の影響……? いや、八咫烏にそんな不滅の概念はないはず……うん? 熊野、ミサキ……ああ〜ミサキ神〜! なるほどなるほど、どこかで混ざったのか、それとも混ぜたのか〜人間は業が深くていいですね〜」
班長が愉快げにを揺らして笑う。
部長ちゃん、ごめんなあ、ウチ。アホでバカで、無能で、ほんま、ごめんなあ……
「あの子の、最期の言葉、ようやく思い出した」
あの探索者の男と、部長ちゃんの顔が、最期が被る。
ーーあとは任せたぞ。
ーー恨みます、でも。
信じてます、後を任せました。
「ウチは、任された! ウチは託された! 負け犬の無能でも! 3度目はダメや!! 人を守る、國を守る! ウチはそれを為すための存在!」
前へ。
その度に闇の泥が逃げていく。
「あ〜完全に……ダメですね、もう。殘念です。あーあ、桜野さん、お願い出來ますか……?」
あかん、班長が桜野に指示を。
「先輩が? 先輩を、俺が先輩を? でもアサマ様は絶対だし、でも先輩を傷つけるなんてありえないし、あ、そうだ、俺が悪いんだ。夢見草……」
ぽん。
桜野が、桜の木になった。
「……………」
「……………」
『……………』
自分で、自分にを使って。
「は〜……指定探索者、防人さえ抑えれば余裕と思ってましたが〜意外と綻ぶものですね〜まあいいや〜」
「あ、が……」
班長が指を鳴らす、それだけで頭が割れるように痛む。
が、鼻から、目からこぼれ続ける。
「巫様!!」
「來るな! ……いや、ちゃうな、お嬢ちゃん、お父さんと一緒におり。大丈夫や、お姉ちゃんめちゃんこ強いからな。アサマ様もあのハゲもちょちょいのちょいやで」
「ほんとに?」
「ほんとや、ほんと。お父さんに優しゅうしたり、仲良くーーあ、ぎっ、イイイイイイイイイイイイイイ……!!」
いたい。いたい、いたいいたいいたいいたい……!
「もういいで〜す。早くし、んで……あら〜」
でも、まだ生きてる、まだ死んでない。あの子達、オカルト部達の子らはもう、痛みをじる事すら出來ない!
理由にならん! ウチがここで、怖気る理由がない!!
「かしこみ、かしこみ……奉る……」
「真言での、使用……ニホン神話系の保有者はこれがあるから面倒ですね〜。でも、アサマ様……?」
『はい。おやすみなさい』
「あっ」
べちゃ、べちゃ、べちゃべちゃべちゃべちゃ。
ウチ達の周りに澱んでいた泥が一斉に。
「だめ、や、だめや、ダメダメダメ! こっちに、ウチに來い! ウチを狙え! ウチを……!」
「あら〜泥が全部熊野さんの方へ〜うざったいですね〜安っぽい正義と安っぽい使命……良い加減面倒で〜す」
べちゃべちゃべちゃ。
「あ……」
溶ける、ウチが消える。
「洗脳されたままに、それでも己を取り戻したのは正直驚きましたが、もう良いです」
「消えていく自我の中、聞いてください。貴のそれ、全部自己満で〜す」
聲が聞こえる。
キツイなあ……そうや、わかってる、このまま、ウチが死んだら……
「貴のそれは何の意味もない自で〜す。貴が死んだ後、そこの親子もまたアサマ様のお食事に。稽ですね〜助けるとか、救うとか、守るとか……言ってる人は気持ち良いかもしれないけど……実力の伴ってないそれは、もはや哀れで〜す」
班長の言葉は正しい。
ウチのこれはもう何の意味もない行かも知れない。
でも、託された。でも、信じてもらった。
なら、ウチは。
「ですが〜最後のチャンスです。その親子をこちらに差し出しなさい。泥に溶かされたが辛いでしょう? 寒くて痛くて死にそうでしょう、今なら、私がなんとか〜してあげまーーr
「やかましいんや、ハゲ、黙っとれや」
「……はーい」
あ〜くそ、死ぬわ、これ。言うてもうた。
すまんなあ、お嬢ちゃん、弱くて、ごめん…….ウチ、結局なんも守れんで……。
「アサマ様、終わらせましょうか」
あ、死ぬ。殺される。
なんとか、この親子だけでもーー。
「巫ならまた、ニホンからやってくる指定探索者を探しましょう。ああ、そうだ、次は貴崎のの後継なんてーーあれ、アサマ様、どうしましたか?」
『……………』
いつまで経ってもウチは死んでない。
ふと、気付いた。
アサマ様が、背後を振り返ってる。
そこにあるのは、大扉や。そう、あの扉。リュウグウサマが閉めたはずの、大扉。
あれ、よく考えたらあの扉。
「……そういえば〜なんで、異界への扉、消えてないんでしょうか~?」
そう、役目を終えたはずの大扉は。ずっと空中に浮いてた。
『あ』
「アサマ様? いかがしましたか?」
班長とリュウグウサマが何やら話して。
『リュウグウ、食べられちゃいました』
「「は?」」
ウチと班長の聲が重なって。
ドガッ!! ぎい!! ドガッ、ゴガっ!!
ゴギャン!!
ぎ、いいいいいいいいい。
大扉が、開いた。
「え……」
じょああああああ。
扉の向こう側にあった夜の海が、溢れる。
ウチらの足元に海が流れ込んで。
『ヒイイイイイイイイイイイイイイ!?!! ヤダァァァァアァアァアァアァアァアァアァアァアァ!! タベ、タベラレルウウウウウウウ!! ヤダ、助けっ「あん肝!! 大好き!!」
ぼちゃん。
一瞬のことやった。
大扉から、飛び出たのは、リュウグウサマ。チョウチンアンコウのような顔に白いの神様。
でも、なんか、妙に傷だらけで、なんか、悲鳴をあげながら大扉の向こうにまた消えた。
まるで、何かに引きずられたような。
え、いや、て言うか今、リュウグウサマ以外の聲が聞こえーー。
「……」
「……」
『……………』
誰もがなんも喋れんかった。
夜の海が広がる大扉の向こう側は不気味なほど靜かになった。
「あ……」
ツーっと、大扉の向こう側から溢れる海水に、青が混ざり出してる。
怪ののに似てた。
ばちゃ、ばちゃ、ばちゃ。
ばちゃ、ばちゃ。
ばちゃ。
足音や。
海の、砂浜を歩いてるような、足音。
ありえん、ありえん。
その可能はない。だって、それは食われた。ウチの目の前で、リュウグウサマに連れ去られて。
ばちゃ。
「うお……臭みがすげえな。やっぱ居酒屋のあん肝ってきちんと処理されてんだなぁ」
ばちゃ。
「……は?」
ウチの聲か、班長の聲か、どっちでも良かった。
人間、ありえんものを見たらもう、"は"しか、出てこんのよ。
「お、白川さんに娘さん。まだ生きてるなぁ、っとあんたは死にそうだ。でも、そう言うことか、さすがだぜ、指定探索者。やっぱお前らただもんじゃねえなぁ」
男がいた。
そいつはここにあるはずのない奴や、だって、こいつは。
「あ、なた……ど、ど、どど……は? り、リュウグウサマは?」
班長が震える聲でつぶやいて。
「殺した。まっずいあん肝野郎だったぜ〜。さて、次はどいつだぁ」
男がいた。
信じられんものを見た。
ありえないものを見た。
神の裁きをけたはずの男が、夜の海に引き摺り込まれ、リュウグウサマに食われたはずの男が。
『フジヤマ、おやま、危ない』
「あ? え、ギャァアァアァアァアァアァアァアァアァアツウウウウウウウううううううううう!!!」
火柱。
アサマ様がその男に指を向けた、瞬間、男がいた場所に、真っ赤な火柱が上がった。
「あ、はは……。いやいやいや〜アサマ様、そんな本気に、フジ山のマグマの権能まで使わなくても〜、勿ないですよ〜あははは〜でも、良い響きですね〜罪人の悲鳴は」
「ギャァアァアァアァアァアァアァアァアァ……」
「あ、ああ……」
奇跡が起きた、そう思うた瞬間、それは全てねじ伏せられた。
「リュウグウサマがやられたことは驚きましたが〜これで〜」「ギャァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァ」「全部終わり、……うん? うるさいな〜いつまでんでるんですか〜」
そのびは、いつまで経っても消えん。
火柱の中でもがき続ける人影が、何萬度にも匹敵する火柱の中で、まだ形を殘して。
「ギャァアァアァアァアァアァアーー」
あ……
人影が、消えた。燃え盡きてしもうた。
絶。
ウチは煌々と燃え盛るその火柱、神の扱う火が人命を消す様をずっと、見つめて。
「あ、あ〜良かったで〜す。さすがはアサマ様〜では、次は熊野さんを」
『參った』
「え? アサマ様?」
『不思議、死んでるのに、笑ってる』
「え?」
「ーーャァア、ハハハハハハハハ」
「な、に? 聲……?」
ありえんものを、聞いた。
燃え盛る火柱の中、溶巖が渦巻くそれから、ありえんものご響いてる。
『ばけものが、來た』
「ギャハハハ……ギャハハハハハハハハ、アアアアアァつううううういなああああ、ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
火柱を割ってそれが現れる。
骸骨。溶巖に焼かれ、も皮も臓も、いや、聲帯も、聲なんて出せんはずのそれが笑ってる。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 300回以上、死亡ウウウイウウウウウウウウ!! アツイイイイイイイイイイ!!」
真っ黒な骸骨が、笑い、それでも笑い、火柱の中から現れる。
じゅううう、溢れる溶巖を垂らしつつ、けんはずのそれがカタカタ、ゲラゲラ笑いながら。
「……」
「みちゃだめだ! 波!」
「ええ……」
「おおおお……祟り神……」
「おおお」
周りの人達が、みんな怯えて。
ああ、でも、なんやろ、ウチ、ウチ、が熱い。心臓が高鳴る。予がする。
「綺麗……」
赤赤とした、溶巖、神の力をおしのけ、割って、それが現れる。
ずりゅう。にゅる、ぶちゅ。
まず、黒焦げの骨の表面が磨かれたように、白へ。そして次は、が戻る、管が編まれるように集まり、筋が重なり、皮がそれを包んで。
「あ、ありえないでしょ〜それは〜人間が〜したら、ダメでしょ〜」
班長が、泣き笑いのような表を浮かべて。
『おやま、おやま、ふじやま、おやま、なんで、死なない、消えない、燃え盡きない、なんで』
アサマ様も、震えてるように、みえて。
「ギャハハハハハハハ!! あ〜なんだってえ〜? おやま〜? フジ山〜? それがどうしたんだァ!? 俺ァ、味山だぜえええええええ!!!」
所々焦げた全の。
首に備わる緑のエラ。
骨のまま現れたひだりて。
そして、火をそのまま燈す右腕。
でも、何よりも、ありえんのは。
「あなた、味山さん、お前は、何者だ……」
班長の問いに。
耳が、ぐにゃあっと歪んだ。
そう、その頭は、耳のお面みたいなのが張り付いて、、
「あ〜!? だから、言ってるだろうが、味山……いや、違うなぁ」
ばちゃ、ばちゃ、ばちゃ。
夜の海を踏み締めて。
山の炎を背景に。
神の力を全てのりこえ、ソイツは笑った。
「俺ァ、耳男だァ!!!! ギャハハ、ギャハハハハハハ、ンギャーハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
化けが、神の前で笑ってた。
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
凡人探索者の書籍、夏頃出る予定です。書き下ろし9割の新作! WEB版読んでる人はニヤニヤしまくりの話になると思います。
あとそろそろ新作もかくつもりですので、引き続きしば犬部隊を宜しくお願いします。
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