《骸骨魔師のプレイ日記》結晶窟の王 その三
「王(クイーン)を直接狙いたいが、絶対に無理だろう。大盾兵を崩すしかない。一點に火力を集中させるぞ」
「オッケー!」
王(クイーン)塩獣(ソルティア)と奴を守る大盾兵型塩獣(ソルティア)の頭上にやって來た私達は一斉に攻撃を開始する。魔や武技が王(クイーン)塩獣(ソルティア)を守る大盾兵型塩獣(ソルティア)の一へと集中砲火されていく。
それらは狙った一に確かに當たったし、集中砲火させれば流石に防特化の大盾兵型塩獣(ソルティア)も大ダメージを負わせられた。だが、ここで舌打ちせずにはいられない事態が起きる。中央で守られていた王(クイーン)塩獣(ソルティア)が一つだけある眼球をギョロギョロとかすと、大盾兵型塩獣(ソルティア)が全て融合してしまったのである。
そうして一個となった大盾兵型塩獣(ソルティア)は、持っていた大盾を一箇所に集めて重ね合わせ、私達からの攻撃をしっかりとけ止めたのである。しかもその大盾には傷一つついていなかった。
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まず間違いなく、大盾兵型塩獣(ソルティア)にも侵塩による武生と武強化の能力(スキル)を持っているはず。融合したことでこの能力(スキル)が強化されたのかもしれない。
いくら防力が高かったとしてもレベル90オーバーの四人掛かりで一斉攻撃したのに大盾に傷一つつかないというのはショックである。そしてそれ以上に絶対に避けるべき長期戦を強いられることがわかってしまった。
「…最悪の狀況だな。時間を掛けられんというのに、意地でも持久戦に持ち込むつもりか。徹底的に自分達の持ち味を活かすとは、ここまで來ると稱賛に値する」
「おいおい、ボス!心しとる場合とちゃうやろがい!」
「そうだよ!このままじゃ負けちゃう!」
現実逃避気味に呟く私にツッコミをれたのは七甲とサーラであった。ポップコーンも非難するような視線を向けている。確かに不謹慎だったと自分でも自覚しているので、甘んじてその視線をけれていた。
何はともあれ、この守りをどうにかしなければならないことに変わりはない。そして実はこの狀況を一発で逆転させられる方法が私にはある。それはレベルが90に到達した時に取得した『』だった。
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ただ、これは私にとって最強の切り札と言っても過言ではない『』である。同じクランの仲間達にも詳細は話しているが、なるべく使わない方が良いという結論に至った。そんな『』を味方とは言え他のクランの者達だらけの場所で使うのは抵抗があった。
「背に腹は代えられない、か。切り札を使うぞ」
迷った時間は一瞬。私は切り札を使うことにした。確かに手のを曬すことにはなるだろう。しかし、それ以上に現狀を打破する力があるのに出し渋って被害を大きくしたくなかった。皆の信頼を失いたくなかったのである。
ただし、この切り札は強力だからこそいくつものデメリットがある。そのフォローをしてもらわなければ、私が誰よりも早くやられてしまうからだ。
「七甲とサーラは私を守ってしい。これから使う切り札は我ながらかなり強力だ。だが、使っている間は無防備になるからな」
「アレか!きっちり守ったるで!」
「何をするのかわからないけど、わかった!」
「シオとポップは出し惜しみはなしでぶっ放してしい。絶対に無駄にはさせん」
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「了解っす!」
「はい!」
これで下準備は整った。後は『』を使うだけ。私は大鎌をインベントリに収納し、四本の腕で杖を握るとそれを高く掲げて切り札たる『』を使った。
「行くぞ!【逃れ得ぬ災霧】!」
『』を発した途端、私の全から滲み出るようにして黒い霧が立ち上っていく。この霧は空気よりも重いのか下へ下へと落ちていき、じきに戦場全を広く薄く包み込んだ。
これだけでは敵と味方の視界がし悪くなっただけでしかない。だが、この『』は別の能力(スキル)と組み合わせた時に兇悪過ぎる効果を発揮する。私は間髪れずにコンボとなる能力(スキル)を発した。
「続けて、【混沌の王威】発!急激なステータスの変に対応してみるが良い!」
『』である【逃れ得ぬ災霧】の効果は、発生した黒い霧の範囲にいる敵があらゆる狀態異常への耐を失うというもの。格上の相手であろうと狀態異常が通用しない相手だろうと、問答無用で狀態異常にさせられるのだ。
そして【混沌の王威】は敵のステータスを平均化させる能力(スキル)。筋力任せに大型の武を振るう者からは筋力を、仲間を守る者からは力と防力を、強力な魔師からは知力を奪い取るのだ。
この二つを組み合わせた場合、何が起きるのか。それは格上を含めるあらゆる敵の長所を奪い取ることが出來るのだ。ステータスが急激に、そして強制的に変化してもこれまで通りに戦えるものだろうか?
「いきなり弱くなったぞ!?」
「良いことでしょ!手を止めないで!」
それは斷じて否である。ジゴロウや源十郎など、リアルチートと稱されるほどの手練であればそれなりに戦えるかもしれない。だが、私を含めて普通のプレイヤーには最悪の能力(スキル)と言えよう。
特に効果が覿面なのは何か一點に特化した相手である。そして王(クイーン)塩獣(ソルティア)の軍勢は、上位種であればあるほど何かに特化している。そんな者達のステータスが平均化されたなら…急激に弱くなるのだ。
ジゴロウ達が戦っていた攻勢に特化した塩獣(ソルティア)達は攻撃力や敏捷が下がっているので、攻撃の威力とキレが落ちている。軽モドキを泳ぐ鮫型塩獣(ソルティア)だけは変化はあまり見られないので、元々バランス型のステータスだったようだ。攻撃特化ではないことはし意外であった。
このバランス型のステータス相手には意味がないのはこのコンボの欠點である。特に魔法剣士のような理も魔も使える相手には何の効果もない可能まであった。使用にも厳しい制限があるので、どんな相手にも使えるコンボではなかった。
「崩れたっ!」
「今っすね!」
ただ、【逃れ得ぬ災霧】と【混沌の王威】のコンボが致命的なまでに効果的だったのが眼下の大盾兵型塩獣(ソルティア)である。王(クイーン)塩獣(ソルティア)を守るための防力が他のステータスに分散された形になるからだ。
そこへシオとポップコーンの容赦ない攻撃が殺到する。シオはインベントリから自分の長ほどもある巨大な銃を取り出した。これは『マキシマ重工』製の軽機関銃であり、空中で使うことを想定した金が付いた特注品だ。
これに使っている弾頭は中和剤弾という、中和剤を使った特注品である。シオが『侵塩の結晶窟』攻略の切り札として用意していた、ボス戦用の決戦裝備であった。これを武技によって強化してぶっ放したのである。
ポップコーンもまた、ここぞという時にのみ使う武を取り出している。それは『マキシマ重工』製の機械式の拡聲であった。彼の絶を増幅させると、ポルターガイスト現象の威力を増幅させることが出來るらしいのだ。
しかし、滅多にポップコーンが拡聲を使うことはない。何故なら拡聲を使って絶すると、どれだけ頑丈に作ろうと一回で拡聲が壊れてしまうからだ。つまり、この拡聲はポップコーンにとって使い切りの消耗品なのである。
どれだけ頑丈に作ろうと一回で壊れてしまうので、ポップコーンが発注している拡聲はとにかく音が大きくなるように調整してある。彼の絶意外の音が聞こえなくなるほどの大音聲が地下空間に響き渡り、空気だけでなく『侵塩の結晶窟』全が震えるほどだった。
「ははっ!メチャクチャ効いてる!」
シオの軽機関銃から放たれる中和剤弾が融合した大盾兵型塩獣(ソルティア)の大盾ごと全を穿ち、ポップコーンの増幅された念力が全を捻り潰していく。つい先ほど私達に見せ付けた鉄壁の防力を無効化している以上、防ぐはないからだ。
大盾兵型塩獣(ソルティア)の融合は我がを犠牲にしてでも王(クイーン)塩獣(ソルティア)を守ろうとするものの、防力を下げられているので焼け石に水である。嫌気が差すほどの防力と膨大な力を有していたであろう融合は、たったの十數秒でその積のほぼ全てを失いつつあった。
「ボス、あと何(・)秒(・)保つんや!?」
「二十秒を切った…!急いでくれ…!」
シオとポップコーンの戦果にサーラは快哉を挙げる一方、七甲は焦りも顕わに私に尋ねる。これだけ強力なコンボを無條件に使えるはずもない。大前提として【逃れ得ぬ災霧】と【混沌の王威】は再使用にリアルタイムで一日以上必要な上に、魔力の消費量が膨大なのだ。
しかも【逃れ得ぬ災霧】に関しては強力過ぎるが故にさらなる使用條件が存在する。それは使用時には私の力も減っていくことだ。ただでさえ低い防力まで下がってしまい、しかも使い始めたらその場からけなくなる。その上私の力が『1』になるまで解除することも出來ないのだ。
好きなタイミングでキャンセル不可かつ効果終了後の私は何も出來ない雑魚にり下る。効果時間中に何らかの大戦果を挙げられなければ、私という一つの戦力を失うだけなのだ。
ただし、今回の場合は大盾兵型塩獣(ソルティア)の融合を倒せた時點で目的は果たしている。後はこのまま勝負を決め切れれば…!
「ギギギギギ!」
「まさか…いかん!王(クイーン)は新たに塩獣(ソルティア)を作るつもりだ!」
だが、そんな私は王(クイーン)塩獣(ソルティア)を見て焦らずにはいられなかった。何故なら奴の全に生える棘から大量の侵塩が発生したかと思えば、塩獣(ソルティア)の姿を象り始めたからだ。
どうやら新しい塩獣(ソルティア)を作ろうとしているらしい。だが、そのスピードは想定外だ。十の大盾兵型塩獣(ソルティア)が同時に作られているのだから。私は心が折られそうになりながらも、勝つためにはどうすれば良いのか必死に頭を回転させるのだった。
次回は6月15日に投稿予定です。
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