《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》98 彼のためにできること 1
フェリクス様が部屋を去った後、私は一人で考え込んだ。
『代わりの魔』の能力は、お相手を救うためにある。
だからこそ、魔は不幸な男を好きになり、その相手を己の能力で救おうとするのだけれど……。
フェリクス様から、彼自はもはやひとかけらの不幸も背負っておらず、私の救いは必要ないと言われたことに衝撃をける。
それにもかかわらず、彼には私が必要で、フェリクス様が私を幸福にするのだと言ってくれたことにも。
「私がお相手を幸せにするのではなく、私が幸せにしてもらう……」
それは浮かんだこともない考えで、私には馴染みのない発想だった。
そのためなのか、申し訳ない気持ちが湧いてくる。
私は困った気持ちでフェリクス様のことを考えた。
この國のため、彼のためにと思ったからこそ、私はこの國を去ろうと思ったのだけれど、彼は私のことが好きで、ずっと側にいてほしいと言ってくれた。
これまでにも同じような言葉を何度か贈られていたけれど、それらの言葉はフェリクス様の代わりになったことへの謝と謝罪の気持ちから発せられたものだと思い込んでいた。
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けれど、なぜだか今日ばかりは、彼の言葉が真実の響きをもって聞こえたのだ。
もしもフェリクス様が本心から私をんでくれているとしたら……私はこの國に殘るべきだろうか。
妊娠が分かった頃からの癖で、私は片手をお腹に當てる。
フェリクス様は勇敢で、思いやりがあるとても優しい方だ。
きっといい父親になるし、子どもにとっても素晴らしい手本になるだろう。
……でも、そうだとしたら、私はもらってばっかりだ。
優しさも、幸福も、何だって彼が集めてきてくれるのだとしたら、私は一何を返すことができるのだろう。
フェリクス様は私が暮らしやすいようにこの國を造り変えた、と言っていたけれど、國民の心までは及んでいないだろう。
私が10年間眠り続けた……ということは伏せてあるから、國民からしたら、私は10年間公務をしない、子どもを産まない、虹の髪を持たない、役に立たない妃でしかないはずだから。
そんな私を、フェリクス様の唯一の妃として、國民がんでくれるだろうか。
フェリクス様のみと國民のみが一致していないとしたら、それはとても不幸なことだ。
私が彼の隣にいるだけで、フェリクス様は苦労をすることになるのだから。
「というよりも、フェリクス様は私のために、既に苦労をしているのではないかしら」
先日、クリスタが教えてくれた、この10年間におけるフェリクス様の行を思い出す。
『晩餐會を開かない、夜會には出ない、宰相が頼み込んだ必要最低限の謁見のさらに半分しか対応しない、とそれは酷いものだったのよ』
謁見については、政治的な要素が絡むから一概には判斷できないけれど、晩餐會と夜會に參加しないのは問題だと思われる。
そのため、フェリクス様が晩餐會に出席しない理由を尋ねたところ、クリスタは思ってもみないことを言い出したのだ。
『ある日、晩餐會の名の下に、お見合いの席がセッティングされたの。出席者が全員で協力して、1人のご令嬢を褒めそやし、はっきりとお兄様に薦めたのよ。肝心のご令嬢も、まつをぱちぱちと瞬かせて、お兄様にびる始末でね。そうしたら、お兄様はそのまま席を立って、晩餐室を後にされたの。それ以降は二度と、晩餐會を開催されなくなったというわけよ』
それはフェリクス様らしくない高圧的な態度だったため、私は驚きを覚えたのだった。
いくら意に染まなかったとはいえ、晩餐會を臺無しにするような行を取るフェリクス様の姿が、想像できなかったからだ。
さらに、フェリクス様が夜會を開催しない理由について尋ねてみたところ、クリスタは珍しく歯切れの悪い様子を見せた。
『ええと……、要するに、お兄様のお気に召さないような會だったということね。そのため、お兄様は二度と夜會を開かないと宣言して、それ以降は実際に、二度と開かなかったというわけよ』
今思えば、クリスタは私に遠慮して、はっきりと答えなかったのじゃないだろうか。
そうだとしたら、原因は私なのだろう。
先ほど、フェリクス様に晩餐會や夜會に參加しない理由を聞き損ねたわ、と失敗した気持ちになっていたけれど……もしも原因が私なのだとしたら、尋ねてもはっきりとは答えてくれなかっただろう。私に気を使って。
フェリクス様が私のために歪めてしまったものがあるのならば、私はそれらを探し出し、元に戻さなければならない。
私はそう決意すると、その日の晩餐の席でフェリクス様に質問した。
「フェリクス様、そろそろ社シーズンだと思うのだけれど、王宮舞踏會はいつ行われるのかしら?」
「……なぜそんな質問をするんだ?」
フェリクス様が心配そうに私のお腹を見つめてきたので、分かっているわと両手をお腹の上に置く。
「今の私は無茶をしてはいけない時期だから、ダンスができないことは分かっているわ。けれど、座っていることくらいはできるから、舞踏會に參加して皆様にご挨拶したいと思ったの」
私がこの國に殘るにせよ、去るにせよ、1度は貴族たちの前に顔を出すべきだろう。
もしも私が何も言わずにこの國を去ったならば、々と噂を立てられるだろうし、その中にはフェリクス様の私への対応を悪く言うものがあるかもしれない。
だから、フェリクス様と私が仲睦まじい姿を見せて、私が彼に何の不満も持っていないと示すことは大事だろう。
「ルピアが私の妃として皆の前に出るのか。それは……一大事だな」
しかつめらしい表で、重々しく呟いたフェリクス様を見て、思ったよりも大変なことなのかしらと慌てた気持ちになる。
「えっ、あの、もしも私が人前に出ない方がいいのならば……」
もしかしたら私の知らない事があって、貴族の方々と顔を合わせない方がいいのかもしれないと思い至り、前言を撤回しようとしたけれど、フェリクス様は首を橫に振った。
「もちろん君が姿を見せたら、誰だって喜ぶに決まっている。君の調さえよければ、すぐにでも王宮舞踏會を開催しよう」
フェリクス様の言葉を聞いたクリスタが、もったいぶった様子で口を開く。
「まあ、王宮舞踏會ならば、いつも通り私の名前で開くのかしら?」
そんな姉に対して、ハーラルトは肩をすくめると、にやりと笑いながら口を差し挾む。
「いやいや、僕と姉上の連名じゃないの?」
けれど、フェリクス様はそんな2人をギロリと睨み付けた。
「王妃が出席する夜會なのだから、私の名前で開くに決まっている!」
當然のことのように言い放ったフェリクス様を見て、クリスタとハーラルトの2人は驚いた様子で椅子からのけ反った。
それから、ハーラルトが目を丸くして兄を見上げる。
「えっ、本當に兄上の名前で舞踏會を開くの? 最終的にはそうなるだろうと思っていたけど、即斷するとは夢にも思わなかったよ。あれだけ大臣と大貴族たちが懇願しても、泣き落としても、絶対に首を縦に振らなかったのに、手のひらを返し過ぎじゃないかな。兄上はお義姉様に対してチョロ過ぎない?」
クリスタも信じられないといった表で首を橫に振った。
「もはやそんな言葉では表現できないわよ! いいこと? 今の會話は絶対に外に出してはいけないわ。頑なに6年以上も夜會の開催を拒否しておいて、お義姉様のたった一言で実施するなんて、贔屓が過ぎるわ! ええ、これは高度に政治的な理由があることにして、その理由をギルベルトに造してもらう必要があるわね」
いつも読んでいただきありがとうございます!
また、ノベル2巻の購報告をありがとうございます。楽しんでいただけたようで嬉しいです。
今後の流れをゆっくり考えたいと思いますので、WEB更新をしばらくお休みします。
お楽しみいただいている方には申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
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