《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》56 同胞

ミトラが箱の中に引きこもってしまった日の翌日。

俺はアマランシア達と共にキルケット西側の壁外を訪れていた。

向かった先は、以前『エルフの行商人』を始めるときに、アマランシア達との會談を行った場所だ。

いつかのような応接セットはない。

どうやら、出しっぱなしにしていたら黒い翼との戦闘で焼失してしまったらしい。

こちらでもかなり激しい戦闘があったようで、魔による破壊の痕跡や、痕などがあちこちに殘されていた。

そんな中で、俺とロロイはエルフ達と向き合っていた。

「ミトラの瞳の件……。黙っていて悪かったな」

「いえ……。この街での元々のエルフ族の扱いを思えば、ミトラがそれを人に知られたくないのはよくわかります。ですが……」

そこで、アマランシアはし言い淀んだ。

「ですが?」

「ミトラからは『事故で視力を失った』と聞いておりましたので……、エルフの特徴のあった瞳を潰したのだとばかり思っておりました。母親がそのような判斷をするはずがないので、おそらくそれは父親の判斷かと思っておりました」

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「そうか……」

そのアマランシアの言葉を聞いて、俺の中には様々な思いが湧き上がってきた。

「つまりはアマランシアも……知っていたのだな」

「……はい」

「ミトラとクラリスは『サリーシャ』の娘だ」

アマランシアは以前、人間とに落ちて人間の街に行った『サリーシャ』というエルフの話をしていた。

その、エルフの『サリーシャ』と、以前カルロが言っていたミトラとクラリスの母親である『サリーシャ』とは、間違いなく同一人だろう。

「ええ、知っています。彼がこの街で『ウォーレン』という名の貴族の妻になったというところまでが、我々が聞いている話でしたので……」

「そうか」

「はい」

丘の上の林には、ゆったりとした風が吹いていた。

「ただ、アルバス様が、それをどこまで知った上で、ミトラを妻としているのかというところが、我々にはわかりませんでした」

「というと?」

「エルフのを引いていると知った上で、ミトラを妻として子をしたのか。もしくは、それを知らないままなのか。我々にとって、そこには大きな違いがありました」

「……そうだな」

俺が、アマランシアたちにとって都合の良い『奴隷止法』なんてものを推し進めようとしている本的な機について。

それが『俺の商売のため』であるのかと、『妻としたや生まれてくる子供のため』であるのかとでは、俺の思いれを推し量る上でも大きな違いがあるのだろう。

いや、違う。

一月(ひとつき)あまりのそう長くはない時間だが、俺はエルフ達のものの考え方をそれなりに理解しようとして努めてきた。

その時に學んだ、エルフ達のものの考え方によるとこれは……

「すべてを知った上で、ミトラさんとともに歩まれる決斷をされたアルバス様は、すでに我々の同胞ともいえる存在でございます」

そこで、アマランシアの隣にいたシンリィが聲を上げた。

やはり、エルフ達にとってはそういう話になるのだろう。

おそらくはアマランシアとの事前の打ち合わせなどもあったのだろうが、シンリィは張した面持ちで言葉をつづけた。

「今は人間に迫害をける立場のエルフ族ですが……。この大陸の歴史を辿れば、むしろ征服者側の立場にいることの方が多かったといえます。かつて、我々エルフ族は南の沿岸部から魚人族を海へと追い込み、地下に住むドワーフ族を滅ぼした過去を持っています。そして時は流れ、次は我々が追われる側の立場となった。今度は我々の番が來たのだと。そういうことなのだと、私は思っていました」

俯き加減のまま、シンリィはそんな話を始めた。

その辺の語りは、アマランシアの得意とするとことのはずだが……

西の隠れ里の里長の縁であるシンリィの口からそれを語ることに、今は大きな意味があるという事だろう。

「悪いな、シンリィ。俺は……過去の歴史の流れだとか、そういうのはあまりきちんとわかっていないと思う。今の俺は、ただ俺がやりたいと思っている子供じみた理想論を語っているだけだ」

俺は俺の周りに人たちを幸せにしたい。

そして、俺自が俺の子供の頃に見た夢を葉えたいという、ただそれだけだった。

俺は強な商人だ。

腕力での戦う力を持たない、ちっぽけな一人の商人だ。

それでも、し遂げたいことがいくつもある。

たとえ子供じみた理想論や、子供の頃に見た夢であろうと、それを実現するのが『マナ』と『権力』の力だ。

そして、その俺の理想の一部にでも共し、俺に協力してくれている仲間達からの『信頼』だ。

「混とか、同化とか、俺はそんな小難しいことはちゃんと考えられていないかもしれない。俺はただ、共に幸せになりたいと願った相手と、子をして、命が続く限り共に生きていきたい。俺が思っているのは……ただただ、それだけなんだ」

「はい。ただ、アルバス様にとってのその相手の一人が我々の同胞の子であることは、我々にとって非常に大きな意味を持っているのです」

それはやはり、族や家系に重い価値観を置いているエルフ族ならではの考え方だろう。

ミトラをエルフの子と知った上で、ミトラと子をすこと。

エルフ達にとってのそれはつまり……

「真の意味で我々の同胞となり、そして我々を同胞と認めてくださるアルバス様のため……、今後とも我々は死力を盡くします。今日、私共がお伝えしたかったのは、そのことでございます」

そう言ってシンリィは話を終えた。

おそらくは、ミトラの一件で白い牙のエルフ達からの俺への見方は多なりとも変化しているということだろう。

もちろん。

良い方向に……

「ああ。こちらこそ、引き続きよろしく頼む。そして、早速だがそれについて一つ頼みがある」

「ミトラのことですね……」

「……ああ」

「何なりと……」

そこから、俺はアマランシア達との長い長い打ち合わせにったのだった。

→→→→→

そしてその帰り道。

シュメリアの様子を見ていこうかと思い、門外地區のリルコット治療院を訪れた。

俺が治療院の扉をくぐると、どうも中が騒がしいようだった。

「何かあったのか?」

その辺の白魔師を捕まえて話を聞いてみると……

「あ、アルバス様! シュメリアさんが……」

シュメリアは……

「シュメリアさんが、どこにもいないんです!」

シュメリアは白魔師達が目を離した一瞬の隙に、リルコット治療院から姿を消してしまっていたのだった。

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