《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》×2-4

「ごめんね。変な人を連れてきてしまって」

「べつに……」

いながらも答えるエインズ。

「こんにちはエインズくん。僕はイオネルだよ、覚えてくれると嬉しいなぁ」

「は、はい」

ぎこちなく會釈をするエインズ。

仮面のせいでイオネルに対し警戒心を持っているが、それ以上のことはない。

エインズがいるベッドの傍のテーブルに、ジデンがスープを置くと「食べられますか?」と木のスプーンをエインズへ渡すが利き腕ではない左ではスープをすくう手もどこかぎこちない。

「おいしい」

「それはよかったです。このスープを作った料理人にも伝えておきますよ、エインズ君の言葉を聞いてきっと喜ぶでしょう」

時間をかけながらしずつ口に運んでいくエインズ。

それを近くに腰かけながら見つめるジデンと、彼よりもし離れたところから見守るイオネル。

「エインズくん、の調子はどうかなぁ?」

「まだいたいけど大丈夫」

「そうかい、それはよかった。まだ完治していないところ悪いんだけどねぇ、きみを連れて行きたいところがあるんだよぉ」

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一口サイズに切られた野菜もエインズの小さな口では頬張るように食べるしかない。

野菜を一口で口に運んでしまったエインズは、その熱さに涙を浮かべ咀嚼しながらイオネルの言葉に耳を傾ける。

「魔、って言ったら怖がるだろうしねぇ……。うーん、なんて伝えようか」

顔を見た直後激しくエインズから拒絶されたイオネルは、しエインズに対して伝える言葉も遠慮しているようにみえる。

「気難しい婆さんのところ、だよ、うん」

「考えてそれですか。あんまり変わらないですよ」

考えた末の言葉だったが、イオネルのその言葉もまたエインズの警戒心を高めてしまうだろうとジデンはため息をついた。

それでも骨に怖がる様子を見せないエインズに安堵しでおろすジデン。腰かけている革製の椅子の背もたれにゆっくりと重をあずけた。

時間をかけて野菜のったスープを食し終えたエインズを車いすに乗せて押すジデン。二人の前を先導するかたちでイオネルが歩く。

魔法士寮の外を出ると、はすっかり沈みまばらに星々が見える。月明りに照らされながらエインズは片目しか映らない瞳で夜空に浮かぶ星を見上げた。

ジデンが押す車いすだが、舗裝されていない地面を進むとどうしても車がつかまってしまう。わずかな窪みでエインズのが左右に揺られながら進む。

辺境の村で育ったエインズは外の人の多さに驚いた。夜になっても街は賑わいをみせている。建や家屋もシルベ村では見たこともないほどに頑丈な造りがされており、その大きさもエインズが頭をかして見上げるほどのもの。

ポカンと口を広げて見上げるエインズの目を輝かせている表は好奇心が高く年相応のもの。

村を襲われ彼の両親を含めた多くの村民が死んだというのにわずか數日でこれほどに神が回復するものなのだろうか。

(イオネル様のお顔はさすがに耐えられないみたいですが)

だがエインズはイオネルが強い関心を示すほどの人

あの変わり者の魔師(本人は魔師ではないと言っているが)が田舎の村の年一人に関心を持ったのだ。ただの年なはずがない。

何かある、ジデンは「口が開いていますよ」とエインズの肩を優しく叩いて知らせる。

「ついた、ついた。ここだよぉ」

魔法士寮からも宮殿からも離れたところにぽつんと平屋の質素な家屋が一つ建っていた。平屋に備わる窓から部屋のが外にこぼれている。街から離れたこんなところに本當にあの魔が住んでいるのだろうか。

「ここに本當にあの方が住んでいらっしゃるんですか?」

「ん? そうだよ。気難しい婆さんはこだわりも強くてねぇ。うるさいのが嫌なんだってさ。そんなにうるさいのが嫌なら棺桶で寢てればいいのにねぇ」

本人が目の前にいないとはいえよくそんな口がたたけるものだとジデンが思ったその時、おもむろに平屋のドアが開いた。

「まったく……。隨分な言いようだねイオネル。……って、なんだいその珍妙な仮面は?」

「これには……、れないでくれるかい?」

平屋の中から現れたのは年の

腰も曲がり、顔には深いしわが刻まれていた。

「それにしても歳を取っても地獄耳は健在だねぇ、シギュン」

「耳は遠くなってもお前の口だけはどうしてもあたいの耳には屆いてしまうんだよ、まったく不便な耳さね」

鼻を鳴らす老婆——、シギュンはイオネルの軽口に自嘲めいて返した。

「……箱庭の魔

車いすを摑むジデンの手にわずかに力がる。

もまたイオネルと同じくガイリーン帝國の魔法士とは別領域の実力を持つ魔師である(イオネルは自を魔師ではないと否定しているが)。

シギュンの魔がどのような力なのかジデンは知らない。

しかしイオネルをはじめとした魔師も皇帝陛下ですら魔に対する扱いは他の者と比べ別格であることはたしか。

それだけで彼の魔がどれほどの価値を持っているのか知れるというものである。

「お前がここに來たということは現れたのかえ?」

「うん、まあね」

イオネルに続くようにして、ジデンは車いすを押してシギュンのもとへ寄った。

近くで見れば見る程、ジデンはシギュンの醸し出す獨特な雰囲気に圧倒された。目の前の老婆はあまり筋力のないジデンでも理的力で勝る、押せば簡単に倒せる相手に見えるが有無を言わせぬ圧力がそれをさせない。

「お初にお目にかかりますシギュン様。私は帝國魔法士のジデンと申します」

「うん。お前もイオネルの馬鹿に振り回されて、若いのに大変だねえ」

「いや、まあ、はい」

苦笑いを浮かべながら頷くジデンに笑みをらすシギュン。

近づきがたい存在である魔だが、挨拶をわしたジデンはいうほど取っつきにくさを覚えなかった。とはいえ、シギュンとの距離の取り方がいまだ分からないジデンは、彼の言葉が冗談なのか判別できなかったためぎこちなく頷くことしかできない。

そんなジデンの様子に不満そうに地団駄を踏むイオネル。

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